久々の完全オフ。これまた久々にマカロニウエスタンコレクション夕陽の血斗BOXから未視聴だったこれを取り出した。
黄金の棺 (1966年)
I CRUDELI / THE HELLBENDERS /THE CRUEL ONES
監督 : セルジオ・コルブッチ 製作・原案 : アルバート・バンド 原案 : ヴァージル・C・ガーラック 脚本・原案 : ウーゴ・リベラトーレ 脚本 : ホセ・グティエレス・マエッソ 撮影 : エンツォ・バルボーニ 音楽 : エンニオ・モリコーネ
出演 : ジョセフ・コットン、ノーマ・ベンゲル、ジュリアン・マテオス、ジーノ・ペルニーチェ、エンジェル・アランダ、マリア・マーティン、アル・ムロック、アルド・サンブレル、フリオ・ペーニャ、クラウディオ・ゴラ、エンニオ・ジロラーミ、ホセ・ニエト
俺のフェイバリット、ジャンゴの名をいただいている「続・荒野の用心棒」の前にセルジオ・コルブッチが撮った日本未公開、テレビ放映のみのマカロニウエスタンだ。
原案と製作のアルバート・バンドは、80年代B級SFやホラー映画のメーカーとしてあのトロマ映画と双璧をなしていたエンバイア・ピクチャーズで有名だったチャールズ・バンドの親だ。
アルバートは息子のチャールズと組んで、藤岡弘の「SFソードキル」の製作総指揮、「ロボジョックス」や「トロル」、「テラービジョン」の製作をしていたのが、日本公開されたイタリア製ウエスタンの第一号の「赤い砂の決闘」の脚本も執筆していたりするのだ。
で、本作が後の映画のようにハチャメチャかというと、それが全然で。
賞金稼ぎや正体不明の流れ者が跋扈するマカロニには珍しく家族が主人公で、先の読めないドラマが展開する。
南北戦争直後が舞台。元南軍のジョナスは、北軍による新政府に対抗するため新たな南軍の再興と新政府樹立をもくろみ、ジェフ、ナットそして彼らとは腹違いのベンの3人の息子と、未亡人に扮した女と共に北軍の現金輸送隊を狙っている。
一行は助っ人2名も加えて
ダイナマイトやライフルで襲撃、護衛30人を皆殺しにして金を強奪する。
彼らはアランという名の戦死した人物の亡骸を故郷で埋葬する名目で、棺に強奪した紙幣を隠し、未亡人を帯同させることで怪しまれないように郷里に向かおうという算段なのだ。
マカロニでは主人公でさえ何をするという夢や目的が提示されることもないまま「金の争奪戦」が起こるのが多いのだが、本作では目的は明確だ。
そもそも負けた南軍の再復興なんて、ある意味狂った目的を使命と定めた頑迷な父親ジョナスを、「第三の男」や我ら世代だと東宝の「緯度0大作戦」にも出演していたジョセフ・コットンが演じている。
英語題名の「hellbender」は「何があっても考えを変えない」という意味の「hell-bent」に由来するそうだ。
「向こう見ずな人」「強情な人」という意味と「アメリカオオサンショウウオ」をの意味もあるそうな。
なるほど南軍再興、新政府樹立というかなり狂っているものの、この目的を決して諦めないジョナスは、自分たちのことを「ヘルベンダース」と名乗り、サンショウウオをシンボルマークとして、そのバッジをカーボーイハットに付けていたのも納得だった。
因みに彼の息子たちはもう少し現実的。ナットはわかりやすく、とにかく「金」のため。ジェフは女に飢えていてトラブルメイカー。演じるジーノ・ペルニーチェは「続荒野の用心棒」で耳を切られてそれを口に押し込められる神父役の人だ!
異母兄弟のベンが一番まともではある。彼を演じるジュリアン・マテオスは「続荒野の七人」で前作のホルスト・ブッフホルツに代わりチコ役を演じている。
冒頭の皆殺しなど、アメリカの正統西部劇ではまずお目にかからない設定ではあるのだが、南北戦争が大きく関わったり、少ないながらインディアン部族がでてきたり、何より家族が主人公なんてのも、実はマカロニウエスタンではかなり異色だったりするのだ。
未亡人に扮していた売春婦のアル中女が金の持ち逃げを図ったためジェフに殺され、未亡人役がいないと道中不都合があるため、ベンが町の女クレアを半ば騙して連れてくる。
一行は金の強奪犯を追う北軍パトロールや自警団をやりすごすが、都度、未亡人一行が偽物だとばれるかとサスペンスもあり飽きさせない。
前任の女より演技派で頭も良いクレアは、正義感も強く、騙して連れてきたベンは彼女を守り二人は惹かれあっていく。
彼らが運んでいることになっている偽の遺体アランの名前は墓石にあったのを適当につけたのだが、実はアランは有名な軍人だったため、訪れた町では牧師の申し出で町を挙げて追悼式を開いたり、彼の部下だという男も現れる。
部下の男は盲目だったのだが、その場は何とか凌いだものの、彼が持っていたアランとその妻の写真からバレることを避けるため、ナットは町に戻り盲目の部下を射殺し写真も手に入れるなど、まさに目的のためには手段を選ばずの悪辣さで、クレアもそのやり方に怒るなどは、マカロニ的な容赦なしの描写だ。
一行はメキシコ山賊(あのアルド・サンブレルだ!)たちに襲われるも北軍に助けられる。
またもアランの弔いということで歓迎されるが、この旅に巻き込まれ嫌気がさしているクレアが、未亡人の立場を利用して申し出たため、金の詰まった棺は北軍の砦に埋葬されることになる。
息子達に責められたジョナスは3人の息子に砦の墓場から棺を取り戻して来るように命じる。
3人は雨の中、夜に紛れて棺を取り戻し、一行は旅を再開するが、一晩限りという約束で泊めた乞食に馬を奪われ先に進めない状態に陥ってしまう・・・。
以下は急展開ラストだがネタバレなんで御覚悟を(笑)。
ジョナスはジェフにインディアンから馬を買って来るように命じるが、ジェフはクレアも襲おうとした女好き。馬を買うどころか目を付けていたインディアン娘を犯して殺したため、インディアンに追われながら戻ってくる。
ジェフの身柄をインディアンに引き渡すかどうかで揉めた兄弟は、結局撃ち合ってジェフとナットは死亡、インディアンは去るもベンも負傷する。
旅を終えることなく一行から去ろうとしていたベンとクレアを残し、ジョナスは目前の故郷を目指し、旅を続けようとするが、一人運ぼうとした棺を倒し壊してしまう。
しかし、中から飛び出したのは、なんと砦で処刑されたメキシコ山賊の死体!(アルド・サンブレルだ!(笑))
息子達が棺を取り戻した時に誤って別の棺を持ち帰ってしまっていたのだ。
ベンとクレアが見守る中、金を手にすることができなかった傷心のジョナスは、故郷を目指し流れる川に身を投げるようにして息絶えるのだった。
いかん、最後まで書いてしまったが、まあ皆さんでこれを観ようという奇特な方はいないだろうからいいだろう(笑)。
通常マカロニとはかなり毛色は違うし、大アクションがあるわけでもない。
冒頭の北軍輸送車襲撃は過剰なほどの殺戮で、マカロニウエスタンらしいが、ジョセフ・コットンという名優による、狂った「大いなる志」による犯行と、それに伴う一行のドラマは、様々な困難のつるべ打ちもあり、書いた通りのラストのどんでん返しまでかなり見ごたえがあるのは確かだ。
「棺桶に死体じゃないものが入っている」というアイデアが次の「続・荒野の用心棒」に繋がったのかもしれないが、コルブッチの演出も手堅く、ラストの無常感など特筆ものであるのは間違いない。
というわけで、思っていた方向とは違うものの(笑)、マカロニウエスタンの隠れた佳品というべき本作を堪能。
先日亡くなったモリコーネの音楽も画面を盛り上げる素晴らしいスコアだ。
機会があったら是非!とお勧めしたいのである。
ではイタリア版予告編と、カッコいいモリコーネのスコアをどーぞ!