昨日は上の娘の仕事終わりを待って、夕方より積み忘れの荷物をもって下の娘のアパートを訪問。久々外食をして戻ってきた。帰宅後の深夜、酒を飲みながらこれまた久しぶりにマカロニウエスタンを鑑賞!
砂塵に血を吐け (1966年)
1000 DOLLARI SUL NERO
BLOOD AT SUNDOWN / SARTANA
監督 : アルバート・カーディフ 製作 : マリオ・シシリアーノ 製作総指揮 : アントニオ・モレリ 脚本 : エルネスト・ガスタルディ、ヴィットリオ・サレルノ 撮影 : ジーノ・サンティーニ 音楽 : ミケーレ・ラチェレンツァ
出演 : アンソニー・ステファン、ジョン・ガルコ、エリカ・ブラン、カルロ・ダンジェロ、ジェリー・ウィルソン、キャロル・ブラウン、アンジェリカ・オットー
これは自分の中の「声に出して読みたいカッコイイ邦題」の横綱級のタイトルだが、もうひとつの横綱級の「野獣暁に死す」同様、悪役の魅力はあるものの、全体的にはもう一声何かが欲しかった一作であった(笑)
無実の罪で12年間投獄されていたジョニー(A・ステファン)が、故郷の町へと帰って来ると、そこは弟サルタナ(J・ガルコ)が彼を「将軍」と呼ぶゴロツキどもを引き連れやりたい放題の無法を行っていた。サルタナは町の用心棒を口実に金を集め、保安官も口を出せない。かつての恋人はサルタナの妻となり、ジョニーに父を殺されたと信じるホセリータ(E・ブラン)という娘と知り合うが彼女も町の連中もまだ彼の冤罪を信じず、傍若無人のサルタナの兄としてジョニーを歓迎しない。
ホセリータの弟のジェリーへの仕打ちを含めサルタナの暴力は次第にエスカレートするが、彼の無法をことごとく邪魔する兄ジョニーが目障りになるサルタナ。彼こそ12年前の殺しの真犯人で、その際に取引した判事と共謀しホセリータを誘拐・監禁し、ジョニーを始末すべくおびき寄せようとするのだが・・・。
親子・兄弟の因縁や骨肉の争いの物語はマカロニ・ウエスタンでは数あるが、本作はそのお手本のような、血で血を洗う兄弟の因縁物語だ。
ただ、主演はアンソニー・ステファン(笑)。ここで「(笑)」と記されても知らない人には「?」だろうが、彼はその数27本と、フランコ・ネロやジュリアーノ・ジェンマをはるかに超えるマカロニ・ウエスタン最多出演本数を誇る「マカロニ第4の男」なのだ。
しかし彼の映画は「地獄から来たプロガンマン」「荒野の棺桶」「復讐のガンマン・ジャンゴ」など観ているんだが、正直微妙な出来なのが多くて、おお!面白かった!書くぞ!という気がすぐに起こらず1本もレビューしていないんだよね~(笑)
アンソニー・ステファンは、ドイツのプロイセン王国に端を発する伯爵家(フォン・ホーンホルツ家)の家柄で、曽祖父は大富豪、父親もブラジル大使だった良家の出だ。第二次世界大戦中、10代だった彼もパルチザンに参加し、ナチス・ドイツと戦っているそうな。
そんなアンソニー・ステファンは長身で甘いマスク、イーストウッドにも少しだけ面影が似ているルックスだけ見れば主役に据えたい気持ちはわからないでもない。
ただ、正直演技は今一つ印象に残らないんだよねえ。良い監督に恵まれなかった不幸もあるだろうが、大体どの作品も身内を殺されたりした「復讐譚」が多く、笑顔のない深刻な顔をしているのだ。それが、フランコ・ネロのように暗さと飄々としたキャラを作品ごとに演じ分ける演技の幅も狭く大体「同じようなキャラ」だったり、前述の通りバッタモンの「ジャンゴ」を演じることも多く、主役の数は多いものの「マカロニ第4の男」という言い方さえ褒めすぎと思えてしまうのだ(笑)。
本作も同様で凶悪な弟サルタナ役を演じたジョン・ガルコの方が強烈な印象を残している。
彼は、本作で一躍マカロニ・ウエスタン俳優として注目されたようだ。イタリア語題名こそ「黒い1000ドル」だが別タイトルでは主役を差し置いて「SARTANA」となっているし、上のDVDのジャケットでも一番上に大きく、下にもギラギラした目つきでと主役を差し置いて2つも配置されているように、よほど悪役サルタナの方が印象が強いのだ。下の公開時のポスターなど、惹句も完全にサルタナの台詞だもんね(笑)。
もともとカトリーヌ・スパークと共演した、『太陽の下の18才』『狂ったバカンス』などで青春スターとして人気のあったハンサムなジャン・ガルコが、このサルタナ役を気に入り、前にレビューしたとおり“サバタ"シリーズの元ネタとなった洒落者のワル“サルタナ"が主人公のシリーズは、ジョン・ガルコ=ジャンニ・ガルコの看板映画となり、、同名異人ながら、主人公サルタナの名前は本作を元に名付けられたのだ。
ただし本作のサルタナはマカロニの諸作で悪役を演じたクラウス・キンスキーのように、頭は切れるが情緒不安定、兄を想っても罠に嵌め、かといって自分では手をくだして殺すことは避ける愛情も捨てきれないという複雑な「悪」をガルコが好演している。
特にクライマックス前の街への襲撃、「ジョニーはどこだ!ジョニー!ジョニー!ジョニー!」と兄への憎しみ、嫉妬などないまぜになってその名を呼ぶ狂気の表情はなかなかなものだった。
町では奴隷の立場からのし上がって大きな屋敷に住む二人の母親がいる。サルタナもこの母親だけには頭が上がらないのだが、兄弟の母親として町でも疎んじられているこの母がサルタナの無法に町の女たちの願いを聞いて立ち上がるところもなかなかなのだ。
他にもジョニーの元恋人でサルタナの女になったマニエル、ジョニーを父殺しの犯人として恨むものの次第に心を開くホセリータ、彼女の弟でサルタナに虐げられるも反旗を翻しジョニーに協力するジェリー、サルタナの無法に目をつぶるしかない保安官、12年前の冤罪のもとになった悪徳判事、サルタナの片腕でホセリータに色目を使う部下など、主人公以外のキャラは立っている(笑)
ただ、主役のジョニー=アンソニー・ステファンだけは相変わらず華がない(笑)。颯爽と現れるかと思えば、とにかくよく助けられる(笑)。
腹にダイナマイトを巻きつけ、刺し違え覚悟で弟一味が待ち構えるアジトへ向かうがあっさりつかまってリンチに合うわ、サルタナ一味が逆上して町を襲撃するクライマックスなど肝心な時にいない(笑)
同じ監督の&主演の「地獄から来たプロガンマン」もそうだったのだが、演出がもたもたしているのだ。
本作でもやたら殴り合いが多いし銃撃のシーンに緊迫感がない。主役のステファンのライフルは結構上の方向いているのに敵はバタバタ倒れる(笑)。さっきまで下にいたのにいきなり屋根の上にいたりとか。嫌がらせのようにステファンが全然輝かないのだよねえ(笑)。
このショットはカッコいいが、あらかた街は襲われた後なのだ!(笑)
というわけで本作はジョン・ガルコの別人「サルタナ」のもがきぬく悪の魅力を堪能する一作だと思えわなければならないのであった(笑)。
しょぼしょぼの演出を盛り上げてくれる音楽はミケーレ・ラチェレンツァ。なかなかかっこいいスコアなのだがこれ一作しかマカロニやってないようですな。
では主題曲も、楽しめる予告編をどーぞ!