黒装束
午後3時40分からは小学生のクラス。Jrクラスは表向き90分のと
ころ、110分行うことが慣例となっている。夏場の日の長いシーズン
は140分くらいになってしまうと、さすがに親御さん方に申し訳なく思
い反省し、その翌週は120分で終わるなど、終わりの時間が読みに
いと評判である。その点冬場は読みやすい。(きちんとしましょう!コ
ーチ!) なぜなら日の短い冬は、例えば今日などは4時50分でボ
ールを見失うほどの暗さで、5時半の時点で辺りは真っ暗、治安の面
でも心配となり、帰宅を促がす外はないのである。
そんな暗闇スクールのシーズン到来!5時からの30分は、みんな
が心待ちにしている鬼ごっこの時間なのだ。もともとこの季節はいろい
ろと嗜好をこらして、ボールを使わない遊びを行ってきた。中でも人気
はラケット探しで、宝探しの要領で、コーチが隠した各自のラケットを
制限時間内に見つけてくるもので、クラブの敷地全部を使って行って
きた。ところがある時、あろうことか隠した僕自身がその場所を忘れて
しまい、1時間近く探しても見つからなかったという、あってはいけない
事件がおきてしまった。
「ごめん!」 「確かにこの木の近くだったと思うんだけど・・・」
「最低ー」 「コーチ弁償!」 一応その後出てきたのだが・・・
てなわけで最近は”ラケット探し”が下火となって、代わって古典的な鬼
ごっこが主役に。二人のコーチが鬼となり、まずはかくれんぼの要領で
身を隠す。見つかってからは全力で逃走、木の枝などの障害物を避け
て暗闇をダッシュ。サバイバルゲームの臨場感を味わう。
そして、この一ヶ月は専ら鬼ごっこが定着すると、みんなのウエアの色
が週を追うごとに黒くなっていった。レッスン前半の、ボールを打っている
時には生徒の半数が黒。それがいよいよ鬼ごっこタイムとなると、黒いジ
ャージを羽織りだす者、逆にジャケットを脱いで黒のトレーナー姿になる
者など、ほとんど全員が黒装束に身をまとうのだ。真っ黒い男女が真っ
暗な裏山(ちょっとした)を駆け抜けていく。
いつの間にか当テニススクールは、忍者養成スクールへと変容した。
無論、コーチのウエアの色までも、黒がメインとなったことは言うまでも
ない・・・!
洗う
二人の息子と一緒に風呂に入る。よくある月曜日の午後
八時半。しかし風呂に入るなり、二人の行動がいつものそ
れとはまったく違っていた。長男がプラスティック製の洗濯
板を膝に乗せ、下着や靴下をごしごし擦り始めた。次男も
続いてごしごししていく。プリンの容器に入った粉石鹸を片
手に乗せて、お湯で溶きながら洗面器に流す。じゃぶじゃ
ぶ泡立てて上手に洗っているではないか。なんだお前たち、
素晴らしいではないか・・・。しかししかし、すぐさま気になっ
てくるのは観察不用の枝葉末節たち。じゃぶじゃぶが風呂
窯に入ってくるぞ!そ、そんなに擦ったら生地が破れちゃう
よ!濯ぎをしっかりしろよ、まだまだ石鹸が残っているぞ!
観察不用ではないし、必要な教育ともいえる大切なことだ
けど、思いつくままに口走ってしまうのはどうなんだい。そ
このコーチ君!そうそう、心に迷いがある時ほど語気が荒
くなって極論に走るのではないか。深呼吸を一つ。お釈迦
様の説く中道を行くしか術はなし。聞けば三日前から妻の
提案で始まった素晴らしき習慣。初めてボールを打つ人に、
初めてヨガのポーズを体験する人に接するがごとき心持で、
二人の挑戦を見守ろうではないか。・・・・
「おい、こら、そのお湯を風呂窯にながすなー!」 ・・・・!
捨てる 2
好きな食べ物 そば
好きな香り ジャスミン
好きな色 黄色
好きなミュージシャン くるり
好きな絵本 たいようオルガン
好きなアーサナ(ヨガのポーズ) ハラーサナ(鋤のポーズ)
好きなショット(テニス) バックハンドスライス(ストレート)
たった今、思いついた自分の嗜好の断片。試しに全部、捨ててみたらどうだろう。
好きな食べ物 納豆
好きな香り ローズ
好きな色 紫
好きなミュージシャン ヨーヨー マ
好きな絵本 ミッフィーのむしめがね
好きなアーサナ チャクラーサナ(車輪)
好きなショット フラットサーブ
どれも自分ではない誰かの感じ。結構好きなものであっても、愛しているとはい
えない一つ一つについて、書いてみただけでほんの少し愛着が生まれた気がす
る。そしてこのような言葉遊びが脳のどこかに定着したら、それまでの自分では
なくなっているのかな。楽しいことだよなぁ。様々なものを言葉に定着させて、脳
内に付着させて、様々な偶然の連続が経験となって、僕の嗜好を形作ってきた。
うん、簡単に手放すことは出来ると思うよ。でも、やっぱり帰ってくるのかな、もと
の自分の近くに。螺旋階段は上り?下り?こだわりや捉われ。こだわっているこ
とをも、こだわらずに受け入れる。今の自分を手放すことは、今の自分を受け入
れることなのかな。なんだかなー・・・。こんなゴニョゴニョをこそ、捨ててしまえば
いいのだな・・・!
今日という日
大雨が叩きつけたかと思えば、一転眩い太陽が立ち上がる。
いつもより大きな青空には、南西からの風に追いやられた雲の
残骸が僅かに残るだけ。気温はぐいぐい上がっていって、12月
の日本ではなくなってしまった。2月にタイのプーケット島に降り
立った時、11月に西アフリカのコトヌー(ベナン)空港の時も、一
遍に季節を飛び越える快感を味わった。12月の25度の快晴も、
充分に旅行気分を想起できる状況だ。ランチにパンとピーナツを
頬張りみかんを剥いた。風に舞う埃や塵が、太陽光にあたってキ
ラキラ輝いている。もみじの真紅の葉がしゃらしゃらと揺れている。
そんな黄金の時間が経過してゆく。
帰宅して夜の9時でも、ぶるーぶるぶると木枯らしが吹いている。
今夜は子供達に、「おばけのブルブル」~荒井良二 でも読んで
みるかな。足裏マッサージも忘れずに・・・・!
捨てる
拾う神あれば捨てる紙あり ん?
「よーし、それもこれも捨ててしまおう」 本日は我が家の大掃除。
思い切って不用のものを整理してしまおう!が、しかし・・・なかなか
どうして捨てられないもの達がいる。ここ10年ページを開かれてい
ない本の行列。試しに何ページかめくってみると、まざまざとその当
時の空気感が立ち昇ってきて、痛々しい心の動揺や、瑞々しい喜び
の声が、ざらざらとしたリアルな記憶として甦ってくる。試しにここ20
年触ったことのないカセットテープを、ラジカセにセットしてみる。本の
時と同様、輝ける過去の栄光や悲哀の断片が、ゆったりとしたテンポ
のリズムを刻み始める。これらは最早捨てる対象とはならない。
結局そうか。大掃除されたのは現在の僕がとらわれている事象達。
過去の空気に触れることで、自身のルーツや思考の癖を再確認して、
今問題になっている事象の原因が、少しでも明らかになったりして・・。
本来の(仮にそんなものがあれば!)大掃除の目的や、「思い切って
物を捨てること」などからは遠く離れて・・・。捨てきれないこだわりや
捉われのある自分を、まずは受け入れる準備をしよう。明日への一歩
をどうにか繰り出せるように、今の自分の立ち方を見つめる。こんな時
はそう、山のポーズ(真っ直ぐに立って目を閉じ、自己観察、自己観想)
がいい。いろいろなことは一遍に出来ない。他のポーズのことはさてお
き、山のポーズで自分の真ん中に語りかけよう。これこそが「捨てる」な
のかな・・・!
拾う
ゴミを拾う ゴミ箱に捨てる またゴミを拾う
ゴミをこしらえる ゴミを収集する またゴミを撒き散らす
今日 レストランの駐車場で 空き缶を拾って 少し考えた
車止めの近くの自販機のゴミ箱に捨てた 駐車場の真ん中に
どっかり腰をすえていた 存在感たっぷりのコーヒーのショート缶
あなたの存在はまるで必然だった そして缶専用のゴミ箱の包容力
に甘えて癒されていく コンビニエンスストアのゴミ箱にも すぐさま
身の周りのゴミを吸い込んでくれそうな魅力的な表情がある ポケットを
弄るなり何枚かの紙切れがカシャリ 今日は思いつきの勇気で颯爽と
カシャカシャのゴミと共に帰宅しようか ガソリンスタンドの店員は言った
「ゴミなどございませんか?」 「あ、・・・・大丈夫です」 大丈夫です
とりあえず今日のところは 大丈夫なのだった
もしかしたら僕の毎日とは そんなゴミとの対話と戯れと 他者との
繋がりの連続なのかな カシャカシャっと爽快にきめるぞ ベッド横の
ゴミ箱へのレイアップシュート! ・・・・!
1990春
橋本駅からのバスを降りると、かなりの勾配の坂が出迎えてくれる。
愛すべき大学の校舎へのアプローチ。高校までの体育会系から一転、
カウチポテト生活が板についていた僕の体重は、入学当初の60キロ
から15ポイントUPの75キロに跳ね上がり、日に日に増してゆくその
重さを支える膝や腰が悲鳴をあげていた。
そんな折、高校の親友Hからの電話で毎日の生活は一変した。
「ちょっと事情があってさー。テニス上達したいんだけど、相手してくれ
ないか?」
「事情って何さ」
「事情は事情だよ。まあ近いうちに話すことになるから」
「めずらしいな、そんなに慎重になるの」
「そっかなぁ。でさぁ、明日とか明後日って時間ある?」
「授業はあるけど、別にいいよ」
実は自分にも事情はあったのだ。昨日の大学からの帰りに、学部一の
お洒落さんMから辛い指摘を受けていたのだ。
「シンちゃんやばくない?なんか輪郭変わっちゃったね。人相悪いよ・・」
ってめちゃくちゃ言うねあんたも。自分だってどちらかと言えばポワンと
緩んだ体系に、いっつもモノトーンのモード系だから周りも何も言えない
だけやんか。いやいや、ここは真摯に彼の思いやりに感謝して、ちょっと
見直すべきなのかなぁ、生活・・・。とそこへ渡りに船のスポーツの誘い。
「分かった。9時に本牧公園ね」
「そうそう、ラケットあるの?」
「一応木のやつがあるけど、とりあえずいいでしょ」
「ま、いいか。ボールは何球かあるから持ってくよ」
「頼む。じゃーね」
「明日」
記念すべきテニス歴のスタート。実はダイエットが目的だった。今となっ
ては笑えるエピソードか。まさかそれから20年以上も続いてくれるとは、
不思議と言うほかありますまい・・・!
対話
「はーい、はい。じゃーさー。みんなは何したいのよ」
「今思いつく、何かしたい!って何?」
「クラリネットの掃除ー!すっごい綺麗にしちゃうんだ」
「クラリネット持ってるんだ」
「うん、習ってるもん」
「かっこいいじゃん」
「私はねぇコーチ。雲を眺めてあと何もしないの」
「ふーん。ぼーっと眺めてるだけがいいんだ」
「そ。ずっとずーっと見てるだけが好きなの」
「なかなか素敵じゃないか」
「僕はストロークしたーい!」
「おう、そうだな。そろそろ始めるか」
そうそう、テニススクールのジュニアクラスの時間だった。あぶないあぶない。
思わずみんなの「今これがしたい」にはまり込んでしまうところだ。少なくとも
「テニスとは」「レッスンとは」といった形に、思いっきり捉われている僕の心と
は裏腹に、のびのびとした素直な感性に出会える場所。感心ばかりしている
とまた・・・
「コーチ!早くテニスやろーよ」
「あっ、そうだな」
「えー、僕やーらなーい」・・・byパトリック(インターナショナルスクールの小1
男子)
「そっか。じゃーどうする」
「壁いーい?」「行ってきまーす」
「パ・・・!」
パトリックは行ってしまった。でもお前はほんと上達してるよ。壁。(レッスンコ
ートのすぐ裏が壁打ちコートなのだ)コーチの球出しボールを、多分この2ヶ
月は打ってないんじゃないか。壁との対話は少しずつ上手になってきたじゃな
いか。あとは、コーチがパトリックとの対話術を磨くだけやな・・・・!
「はい、ボールアーップ。集めるぞー、一人30球!」
座る
ヨガの勉強を始めてから、大きく変化したことの一つに「座る」がある。
それも長い時間、例えば30分とか1時間とか、そんなに長く座ることは
かつては苦痛でしかなかった。もちろん修行の浅い僕などは、安楽な
どと表現される座法であっても(いわゆるアグラ)まったくの安楽とはい
かず、様々な違和感を伴うこともしばしばではあるが、それもまた味わ
い深し、と客観的な見かたが生まれたのである。最近は食事の際も好
んで座敷や椅子の上でもアグラになり、腰の骨が地面から垂直に立っ
ていることに心地よさを感じるようになった。
思えば小学中学高校大学と、くにゃくにゃと姿勢の定まらない座り方
をしていた記憶しかない。本を読むことは嫌いではなかったが、机の上
に本を置き、椅子に座ってする読書スタイルほど、自分とかけ離れたも
のはないと思っていた。もっぱらベッドやソファーがその代替に使われ、
もっともっとと読み深まるにつれて、体のあちこち、首の後ろなどがどう
しようもなくこってしまい、次の日にまで後遺症を引きずったりしていた
のだ。
お受験などと言って勉強の成果を試す前に、是非座り方を学びたか
った。いや他人の責任にしてもいとをかし。過去を悔いている場合でも
なし。折角今、ちょっと座れるようになったのだから、静かな快感に身を
委ね続けるだけ。その先に何があるかといえば、きっとこの上のない安
心が、さらっと待ち構えているのだろう・・・!
つくる?
友人の家に行ったときのことです。
そこの幼稚園の女の子が家庭菜園に水をやっていました。
「お手入れ大変だね」
そう声をかけると、
「おじちゃん、なんで葉っぱは、水だけでできるの?」
と質問されました。なんと答えようかと思ったとき、
「あーっ、だめ!」
とその子の大声。葉に虫がついているのです。
「だめよ、みんなの野菜をたべちゃ!」
虫を殺すのかと思って見ていると、その子はそっと小枝に移してやったのです。
なんともほのぼのとした、心温まる光景でした。
こんな純真な子どもの心を大切にしたいと思ったものです。
~「食品の裏側」 安部 司 ~
「みんな大好きな食品添加物」ってのが副題。添加物を扱う商社に勤めていた
作者が、その実情を交えながら情報公開の先駆けたらんとする内容。ご自身
の家族団らんの食卓に、自社の食品が並べられたある日に、これを我が家族
に食べさせるわけには・・・と退社を決意したそうだ。食品添加物の功罪バランス
よく考察されていて、一気に読んでしまった。次男のアトピーのこともあって、我
が家の食に対する意識は決して低くないなどと思っていたが、日々の食事の内
容を熟視してみたなら、なんと添加物まみれの生活なのでしょう。ちょっと溜息ま
じりに農業かぁ・・・・なんてつぶやいたりして。そんな夢想がリアルを知る日が来
るのでしょうか、自分次第なり・・・・!



