まずは、こちらの映像から...。

 

1985年のアメリカ映画、「ホワイトナイツ/白夜」(テイラー・ハックフォード監督)の一場面です。

 

当時はまだ、「東西冷戦下」にあり、「よくこんな映画が撮れたなあ」と思いますが(ようやく、「ゴルバチョフ政権」が誕生した年です)、主演のバレエ・ダンサー、ミハイル・バリシニコフ(1948-)の「自伝」かとも思えるような作品です。

 

バリシニコフ演じるニコライは、かつての恋人ガリーナと再会しますが、その彼女の前で踊る、有名なシーンです。

 

ニコライは、ヴィソーツキイの曲をかけ、「彼のように叫びたい!」と言って、踊り始めます。

(このセリフからも、「旧ソ連出身者」にとって、ヴィソーツキイが、いかに「大きな」、「心の拠りどころ」となっていたか、ということがよく分かります)

ガリーナを演じているのは、後に、この作品のハックフォード監督と結婚した、「デイム(Dame)」ヘレン・ミレン(1945-, ロンドン出身)です。

 

このシーンで使われていたのが、「Capricious Horses」。

「気まぐれな馬」ということですが、日本では、単に「ホーセス」と紹介されていました。

この動画には、「英語字幕」が付いています。

こちらは、「アカデミー賞歌曲賞」を受賞した有名な曲ですね。

ライオネル・リッチー(1949-)の名曲、「Say You Say Me」(1985)を、映画の名場面とともにどうぞ。

https://ameblo.jp/daniel-b/theme-10105521061.html(「ロシア・東欧諸国」がテーマの記事一覧)

 

さて、ずっと「書こう」と思っていて、いまだに書けていなかった記事です。

 

テーマが「ロシア・東欧諸国」の記事では、これが、やっと「4つ目」の記事ということになりますが、今回は、いよいよ、「この方」について書いてみたいと思います。

 

(*テーマを、「洋楽」に変更いたしました。2023年1月16日)

 

旧「ソビエト連邦(ソ連)」時代に、民衆から、かつてなく「絶大」な支持を得ていた、詩人、俳優でもある「国民的大歌手」、ウラジーミル(愛称「ワロージャ」)・ヴィソーツキイ(1938-80)...。

 

「ビソツキー」と、「分かりやすく」表記されることもあるウラジーミル・ヴィソーツキイは、1938年1月25日、モスクワに生まれています。以下、日本で発売されたCDの解説を参考に、書いてみましょう。

 

モスクワ芸術座付属演劇学校を卒業後、1964年、「26歳」にして、舞台演出の鬼才ユーリ・リュビーモフ(1917-2014)に請われて、また、ヴィソーツキイ自身も、リュビーモフの「革新性」に惚れ込んで、「タガンカ劇場」創立の「中心的人物」となりました。

 

歌手としては、当時すでに、ブラート・オクジャワ(1924-97)といった「偉大な先達」がいましたが、ヴィソーツキイは、その「声」や「歌」など、「強烈な個性」によって、独特の輝きを放っていました。

 

ギターを片手に、「想い」を歌にぶつけるその姿勢に、リュビーモフも、その「個性」を、「最大限」に生かした演出作品を次々と生み出したと言います。

 

観客も、ヴィソーツキイが歌い出す瞬間を、「今か今か」と待ち受けるようになったと言いますが、1971年の「ハムレット」でさえ、ギターを手にした彼の歌から始まって、観客を「唖然」とさせたということです。

 

ヴィソーツキイの詞は、例えば、「泥棒」のことを歌えば、彼自身が、まるで、過去に「泥棒」としての「暗い過去」があるのではないかと思わせ、「トラック運転手」のことを歌えば、本当に「トラック運転手」だったのではないかと思わせてしまうほどの「リアリティ」があります(そのため、当初は、彼の「過去についての噂」が絶えなかったということです...)。

 

また、「戦争」を知らないはずのヴィソーツキイでしたが、「戦争」について書かれた歌も多数あります。CDの解説者によれば、「圧政に苦しんで来た民衆の心を、一身に追体験することこそが詩人の義務」だと感じていたのではないかということです。

 

ある夜、彼が、「知識人」である知人の家で歌ったところ、「テープに録音しよう」ということになって、その「肉声」が吹きこまれました。

 

これが、「伝説の始まり」で、そのテープは、次々にコピーされて、「ソ連全土」に広まったということですが、当時のヴィソーツキイは、「俳優」としての活動は認められていても、「歌手活動」は「認められていなかった」ということで、「公式」には、レコードを出すことが「出来なかった」というのが、「背景」としてあったようです(「ウィキペディア」フランス語版より)。

 

レコード会社「メロディア」は、当時は「国営企業」でしたから、それは、「致し方のない」ことだったと思います(生前に「メロディア」から発売されたのは、アナログ「LP」が1枚、「EP」が4枚。それも、「ごくわずかの枚数」に過ぎませんでした。*注:「諸説」あります)。

 

このような状況にありながらも、いろいろな職業、階層の人たちが、ヴィソーツキイの「歌」を求めて集まって来たといいます。また、どのような「小さな村」であっても、彼の歌は「聴かれていた」ということです。それゆえ、「国民的大歌手」と言えるのです。

 

1970年代に入ると、ヴィソーツキイは、ライヴ活動にも精を出すことになりましたが、タガンカ劇場での「公演後」に行なわれたことも多かったということです。

 

当局との「葛藤」もあって、心身ともに「疲労」していたヴィソーツキイでしたが、がんばり抜いてステージに立ったということで、このあたりは、ジャック・ブレル(1929-78)とも似ています。しかし、「心臓発作」で倒れ、1980年7月25日、「モスクワ・オリンピック」開催のさなかに、「帰らぬ人」となったということです。「42歳」でした...。

 

それでは、ヴィソーツキイの曲を、何曲か聴いていくことにしましょう(「日本語訳詞付き」です)。

 

ヴィソーツキイは、1969年に、ロシア系フランス人の女優、マリナ・ブラディ(1938-)と結婚したこともあってか、ほとんどの曲は、フランスの「シャン・デュ・モンド社」に録音された音源で聴くことが出来ます。日本で発売されたCD(新星堂/オーマガトキ)も、この録音(1977年)が使用されています。

 

1.「奴は戦闘から戻らなかった」

5.「ハイ・ジャンプ選手の歌」

「戯曲的」な歌だと言えます。

6.「ボクサー」

同じく、「戯曲的」な歌です。まさに、彼「お得意」のジャンルだと言えます。

15.「どこへ行くのも五百キロ」

「トラック運転手」の心情が歌われています。

16.「俺はマガダンに行ったぜ」

マガダンは、「極東の地」であり、モスクワよりも、むしろ「日本」の方が「近い」くらいです。

過去には、「強制労働の地」ともなり、「暗い」イメージもありますが、現在は、「造船」や「漁業」が盛んな、「風光明媚」な都市です。

ここでは、「ただなんとなく行ける所じゃない」と歌われています。

19.「大地の歌」

かつて、宮崎駿監督(1941-)が、映画「風の谷のナウシカ」(1984年)の「エンディング主題歌」に使用を試みましたが、「版権の問題」がクリア出来ずに「断念」したということです。

20.「オオカミ狩り」

25.「マイクを前にした歌手」

 

葬儀の日、劇場のあるタガンカ広場は、近くの建物の屋根の上まで、「20万人」もの人々が埋め尽くし、不気味なまでに静まり返る中を、劇場からワガニコヴォ墓地へと、遺体が運び出されたということです。

 

来年、「東京オリンピック」開催「2日目」に当たる「7月25日」は、まさに、このウラジーミル・ヴィソーツキイの「没後40周年」の「命日」となります(今年の「命日」ももうすぐです)。また、昨年は、「生誕80周年」でもありました。

 

その「記念の年」を迎えるにあたり、この、「ロシアの国民的大歌手」の存在を知っていただきたくて、この記事を書いてみました。

 

何でも、ロシア国内で実施された、「ロシアの英雄」を選ぶ投票でも、「ニコライ二世」(1868-1918)、「スターリン」(1878-1953)、「レーニン」(1870-1924)に次いで「第4位」となっているそうです。

 

また、映画「ホワイトナイツ/白夜」(1985)の主演、ミハイル・バリシニコフ(1948-)は、バルバラ(1930-97)の「熱心なファン」だったと言います。1986年、自身のニューヨーク公演の際に、バルバラを招待し、彼女の前で、「Pierre "ピエール"」(1964)と、「le mal de vivre "孤独のスケッチ"」(1965)を踊ってみせたということです(このことがきっかけで、両曲は、バリシニコフに「献呈」されています)。

 

映画「バルバラ~セーヌの黒いバラ」のDVD発売も「間もなく」(7月2日)ですから、この話題にも触れてみました。

https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12329659327.html?frm=theme(参考:バルバラ「ピエール」についての記事)

https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12330560785.html?frm=theme(参考:バルバラ「孤独のスケッチ」の記事)

https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12450146772.html?frm=theme(参考:映画「バルバラ~セーヌの黒いバラ」の記事)

 

それではまた...。

 

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(こちらは、3曲少ない「フランス盤」ですが、「現在の商品」として「購入可能」です)

 

 

(daniel-b=フランス専門)