「11月24日」は、偉大な女性歌手バルバラ(1930-97, 本名モニック・セール)の「命日」となります。それも、今年は、「没後20周年」の「記念の年」に当たります。ですので、今月は、可能な限り、このバルバラの名作を紹介していきたいと思っています。

 

テーマが「バルバラ」となっている記事の一覧を貼っておきます(実際には、他のテーマでも紹介している曲が何曲かあります)。

https://ameblo.jp/daniel-b/themeentrylist-10097047678.html

 

 

今回ご紹介する曲は、バルバラのライヴでも、プログラムの「本割りのラスト」、すなわち、「クライマックス」で歌われ続けた、「名曲中の名曲」です。

 

最初に発表されたのは、フィリップス社に移籍して2年目の、1965年9月のことです。この時発売されたアルバムにはタイトルがなく、単に、「BARBARA No.2」という表記でしかありませんでした。しかし、現在では、この曲名、「le mal de vivre」が、事実上の「通り名」となっています。

1日付けで紹介した「le soleil noir "黒い太陽"」(1968)同様、「重い」曲ではありますが、「バルバラ」を語る上では、どうしても「外せない」曲でもありますので、ここで紹介しておきたいと思います。

 

この曲名、「le mal de vivre」は、日本では、「孤独のスケッチ」と訳され、すでに「定着」していますが、原題の本当の意味は、「生きる(ことの)苦しみ」ということになります。私たちが生きていく上で感じる、「苦しみ」「悲しみ」を歌った、とても「重い」曲です。

 

何ごとも、それは「予告なく」、私たちのもとを訪れます。気付けばもう、すぐ「そこ」にいて、私たちを「悩ませる」のです。

 

長い「第3節」の後半では、まさに、現代の欧州社会が抱える「移民問題」が、そのまま歌われているようにも思います。「ひとり」になった時、ふと、思い浮かぶのは、「救い」を求めながらも去っていった「彼ら」のことでした。

 

ところが、その「生きる苦しみ」も、最終節では「大逆転」します。「苦しみ」が「予告なく」やって来るのなら、「それ」もまた、「予告なしに」やって来るのです。

 

そう、それこそが、「生きる喜び」なのです。

 

このように、この曲は、聴く側にも、「精神的エネルギーを要求してくる」、と言えるものなのですが、それだけに、「感情移入」出来た時の「一体感」は、「ハンパない」ものがあります。これを、最も「実感」出来るのが、最初に挙げた、「1978年オランピア劇場公演」の録音なのです。

 

このオランピア劇場での公演は、発売当初から、ごく最近まで、この曲が、レコードの「最後の曲」でした。昨年になってようやく「完全版」が発売されましたが、オリジナル盤の「初CD化」も「2004年」と、本当に、「遅かった」と思ったものです。

 

日本では、実際、このライヴアルバムの後、3年後に、「8年ぶり」のオリジナルアルバム「seule "孤独と夜の中で"」(1981)が発売されましたが(ここまではフランスと同じです)、続く、パンタン公演(1981)のライヴアルバムや、1986年の音楽劇「Lily Passion "リリー・パシオン"」のレコードは、ついに発売されませんでした。

 

1987年のシャトレ劇場公演が、アナログ盤とCDで、ようやく発売となり、翌年1月に、「12年ぶり」という「来日公演」も行なわれました。

 

つまり、1978年のオランピア劇場公演以降、日本のファンたちは、ほとんどバルバラから「隔絶」されていたも「同然」だったのです。その歌唱スタイルの「変化」から、「日本ではもう売れない」、と判断されていたこともあったようです。

 

当時、それらのことを知らされることのなかった、日本の一般のファンは、「シャンソン時代の終焉」とばかりに、その、音楽シーンの「現状」から遠ざかり、「過去のものは過去のもの」と、そこで「一線」を引いてしまったところがあったのです。

 

ですから、この「オランピア劇場公演」のレコードが、あるいは、「seule "孤独と夜の中で"」(1981)のレコードが、バルバラの「最後の録音」のように思い込み、そのような認識で当時聴いていたところは、やはり「ある」と思います。しかし、それを差し引いても、この「オランピア劇場公演」のレコード、ことに、「最終曲」であった、この「le mal de vivre "孤独のスケッチ"」から感じた「衝撃」は、いくら語っても、「語り尽くせないもの」があるのです。

 

2番目の動画は、DVDにも収録された、この「オランピア劇場公演」のルポ映像となります。当時の観客にも、「若い世代」が多かったことが分かります。

 

3番目、4番目はともに、発売から間もない1966年の映像となります。

5番目に挙げた動画が、1987年、シャトレ劇場公演の映像です。

 

この曲は、「カバー」でも、「素晴らしい」パフォーマンスに出合うことが出来ます。

マテュー・ロザス(1975-)は、バルバラの「精神」を現代に伝える、「稀有」な男性歌手です。この「le mal de vivre "孤独のスケッチ"」は、「イチ押し」です。

 

続いて、アンジェリナ・ヴィームですが、個人的には、上の「2015年」のものが素晴らしいと思います。下は、その翌年、つまり、「昨年」のものです。

 

続いて、この曲も挙げておきます。この曲「Valse Franz "ヴァルス・フランツ"」は、「le mal de vivre "孤独のスケッチ"」に引き続いて、バルバラの「退場曲」となったものです。すぐに確認出来るところでは、1987年のシャトレ劇場公演が最初のもので、「アナログ」「CD」のみの収録となっていますが、そこでは、ジャック・ブレル(1929-78)ゆかりの大家、マルセル・アゾーラ(1927-)のアコーディオンによって演奏されていました。

 

この曲、「Valse Franz "ヴァルス・フランツ"」(「フランツのワルツ」)は、ジャック・ブレルが監督・脚本・主演を務めた1971年の映画「Franz "我が友フランツ~海辺のふたり"」のテーマ曲です。

ブレル自身が、初めて「作り手」となったこの映画では、「ヒロイン役」として、バルバラが選ばれ、ブレルが「レオン」、バルバラが「レオニ」と、互いに「影」を持った、「現実そのまま」とも言えるキャラクターを演じました。この物語は、結局、「苦い」終幕を迎えることになるのですが、

バルバラは、この役そのままに、ブレルに「恋心」を抱いていたと言います。

 

劇中で、バルバラが、ブレルとともに踊った「ワルツ」が、この「Valse Franz "ヴァルス・フランツ"」なのです。作曲は、ブレル自身と、彼の名アレンジャー、フランソワ・ローベール(1933-2003)の「共作」です。ここでは、1990年、モガドール劇場公演からの録音でどうぞ。

なお、この曲は、次々回、もう1度あらためて紹介することにしましょう。次回は、24日の「命日」に合わせて、ライヴの「このままの流れ」で、バルバラの一番の代表作とも言える「l'aigle noir "黒いワシ"」(1970)を紹介することにしますが、その次の回で、「ジャック・ブレルへの手紙」というサブタイトルも付けられた1990年の作品、「Gauguin "ゴーギャン"」を採り上げます。その時に、もう1度、この「Valse Franz "ヴァルス・フランツ"」も採り上げることにいたします。

 

以下に、「le mal de vivre "孤独のスケッチ"」の歌詞を載せておくことにしましょう。

 

それではまた...。

 

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ca ne previent pas, ca arrive

oh ca vient de loin

ca s'est traine de rive en rive

la gueule en coin

et puis un matin, au reveil

c'est presque rien

mais c'est la, ca vous ensommeille

au creux des reins

 

それは、「予告なし」に、突然やって来る

遠くから

岸から岸へと身を引きずるように

すねた表情で

そしてある朝、目覚めた時には

ほとんどその姿はなく

でも、ほら、そこにいて、まとわりついては

あなたを「眠り」に誘うの

 

le mal de vivre

le mal de vivre

qu'il faut bien vivre

vaille que vivre

 

生きる苦しみ

生きる苦しみ

それでも生きなくては

とにかく生きなくては

 

on peut le mettre en bandouliere

ou comme un bijou a la main

comme une fleur en boutonniere

ou juste a la pointe du sein

c'est pas forcement la misere

c'est pas Valmy, c'est pas Verdun

mais c'est les larmes aux paupieres

au jour qui meurt, au jour qui vient

 

人は、それを肩にかけたり

宝石のように手につけたり

花のようにボタン穴に飾ったり

胸の先につけたりも出来るわ

だからといってみじめなわけじゃないし、

「ヴァルミーの戦い」や、「ヴェルダンの戦い」でもない

でもそれは、目に浮かぶ「涙」のようなもの

1日が終わり、また1日が始まる時の...

 

ce mal de vivre

ce mal de vivre

qu'il faut bien vivre

vaille que vivre

 

この生きる苦しみ

この生きる苦しみ

それでも生きなくては

とにかく生きなくては

 

qu'on soit de Rome ou d'Amerique

qu'on soit de Londres ou de Pekin

qu'on soit d'Egypte(d'Asie) ou bien d'Afrique

ou de la porte Saint-Martin

on fait tous la meme priere

on fait tous le meme chemin,

qu'il est long lorsqu'il faut(quand on doit) le faire

avec son mal au creux des reins

ils ont beau vouloir nous comprendre

ceux qui nous viennent les mains nues

nous ne voulons plus les entendre

on ne peut pas, on n'en peut plus

et tout seul dans le silence

d'une nuit qui n'en finit plus

voila que soudain on y pense

a ceux qui n'en sont pas revenus

 

ローマでも、アメリカでも

ロンドンでも、北京でも

エジプト(アジア)でも、アフリカでも

あるいは(パリの)サン・マルタンでも

みんな同じ祈りを捧げ

みんな同じ道を歩んでいる

体に苦痛を覚えながら

やっていかなくてはならないのは、なんて長く感じるのものなの

何も持たずにやって来た人たちは

確かに、私たちを理解しようとしていたわ

でも私たちは、もう、耳を貸そうともしなかった

それは出来ない、もう出来ないの

だから、たった1人で

いつまでも終わらない夜の沈黙の中

人は突然思うの

もう戻って来なかった彼らのことを

 

du mal de vivre

leur mal de vivre

qu'ils devaient vivre

vaille que vivre

 

生きる苦しみ

彼らの生きる苦しみ

彼らも生きなくてはならなかった

とにかく生きなくては

 

et sans prevenir, ca arrive

ca vient de loin

ca s'est promene de rive en rive

le rire en coin

et puis un matin au reveil

c'est presque rien

mais c'est la, ca vous emerveille

au creux des reins

 

そしてそれは、「予告なし」に、突然やって来る

遠くから

岸から岸へと散歩して

顔に笑みを浮かべながら

そしてある朝、目覚めた時には

ほとんどその姿はなく

でも、ほら、そこにいて、まとわりついては

あなたを驚かせるの

 

la joie de vivre

la joie de vivre

viens, viens la vivre

la(ta) joie de vivre

 

tilala...

la joie de vivre!

 

生きる喜び

生きる喜び

そう、生きなくては

(あなたの)生きる喜び

 

ティララ...

生きる喜び!

 

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(daniel-b=フランス専門)