無人のモグハウスで発見された手記 -28ページ目

ユダヤの秘儀 ― ゴーレム

今回のテーマは、ファンタジーRPGのエネミーとしては常連中の常連、これが登場しないタイトルを探す方が難しいほどの重鎮モンスター、ゴーレムです。


ゴーレムは元々ユダヤの民に伝わる伝承に登場する、製造者の意のままに動く土人形で、その名はヘブライ語で“胎児”を意味します。
ラビ(ユダヤ教における、師とかそんな感じの意味。宗教的指導者とでもいいますか)が秘術を用いて土塊に仮初の命を吹き込んだものです。


ゴーレムの製造にあたっては、当然ながらまず土を水でよく練って、人型を作るところから始まります。
これに際してラビは、断食をして身を清めたりするなどの、何らかの儀式を行う必要があった、という説もあります。


形が出来上がったら、定められた通りの呪文を唱え、額に“emeth(真理)”と書かれた羊皮紙を貼り付ける事で儀式は完了です。これによって、ゴーレムは動き出し、主人の命に従って働くようになります(例によってこれには異説てんこ盛り、羊皮紙の代わりに金属板が使われたり、直接刻み込むんだったり。額じゃなくて口の中や胸の内だったり。刻む言葉も“Schem-hamphorasch”だったりします)。


基本的にゴーレムは製造者に忠実なのですが、いくつかのやってはいけないタブー(日中起動させてはいけないとか、屋外に出してはいけないとか)が存在し、それを犯してしまうと制御下を離れ、凶暴化してしまいます。


そうしてゴーレムが凶暴化した場合、あるいは単に用済みになって処分する場合は、記した文字が“emeth”の場合は“e”を削って“meth(彼の死)”にする事で施された術は完全に解けて瓦解し、ただの土塊に戻るとされています。(書かれた文字が“Schem-hamphorasch”の場合は“Schem”を消すのだそうです)。


このように、元々はゴーレムは粘土で出来た人形を指すのであり、いわゆるクレイ・ゴーレムが本来の姿という事になります。

ストーン・ゴーレムだのフレッシュ・ゴーレムだのというのは、RPG用に作り出されたものでしょう(まぁ、かく言う私もゴーレムというと石造りを真っ先に連想してしまうのですが)。


ヴァナ・ディールにおけるゴーレムは、アルカナ属の一種、Golem族として登場します。
言うなれば金属製の巨人とでも呼ぶべきその風貌から、“巨大ロボ”等の通称で呼ばれる事が多いのではないでしょうか。


その外見通りの高い防御力を誇り、スタンやバインドの追加効果を持つものも含めた豊富な範囲攻撃と、強烈な単体攻撃“重い一撃”を有している手強いモンスターです。

黒の剣

稀代の暗黒騎士として名高いザイドから授けられた古びた剣“カオスブリンガー”。


この剣で100(108とも言われてますが)体の敵を斬るクエスト“暗黒剣”が、暗黒騎士へのジョブチェンジ条件です。
カオスブリンガーを貰った時、あの魔剣を思い出した人も多いのではないでしょうか。
即ち、創作の魔剣としては、アラゴルンのアンドゥリル(指輪物語)と並び称される程に高名な、“ストームブリンガー”を。


今回は、マイケル・ムアコックの記した“永遠の戦士(エターナル・チャンピオン)シリーズ”や、それに登場する、“黒の剣”について少し触れてみましょう。


エターナル・チャンピオン シリーズは、イギリスの作家、マイケル・ムアコックが執筆した、一連の作品群につけられた名称です。
エルリック、エレコーゼ、コルム、ホークムーンといった数多の英雄たちと、彼らが手にする、混沌から造り出された忌まわしくも強大な“黒の剣”と呼ばれる魔剣の物語です。


ストームブリンガーは、シリーズ中最も有名な、ヒロイックファンタジーの金字塔、“エルリック・サーガ”に登場する“黒の剣”です。
刀身にびっしりと禍々しいルーンの刻まれた、長大な黒い剣として描かれたこの剣は、自らの意思を持ち(PRG用語で言うところの“インテリジェンス・ソード”ですな)、斬った相手の魂を啜り取って持ち主に活力を与える性質を持っています。


この担い手となる“永遠の戦士”は、メルニボネの皇子エルリックです。
「野に晒された頭蓋骨の如き肌の色」と描写されるエルリックは生来の白子で、魔法の薬の力を借りなければ、自力では立ち上がる事すら困難なほどに虚弱な体質に生まれついていました。


そんな彼が、数奇な運命の下に手にする事になるのが、魔剣ストームブリンガーです。
ストームブリンガーがもたらしてくれる力が、メルニボネを離れた後のエルリックの生命線となるのですが、その為は剣に生命を吸わせなければなりません。
更にはストームブリンガーには邪悪な意思が宿っており、ついにはエルリックは、最愛の女性をも殺害する事になってしまいます。


剣を持てば人を殺めずにはいられず、剣を手放せば生きていく事もままならない。
その致命的ななジレンマに煩悶し続けたエルリック。そして最後には、ストームブリンガーはエルリック自身をも刺し貫く事になるのです。


相手の生命を食らい、持ち主を殺戮と破滅へと駆り立てる。ストームブリンガーは、まさしく、悪しき魔剣の代名詞とも言えるでしょう。


ところで、この手の魔剣にやたらと“~ブリンガー”と命名したがる人が時折見られますが、“ブリンガー”を“ソード”とか“セイバー”の一種と勘違いしているのでしょうか。
“ブリンガー”は単純にbring(持ってくる)+erであり、ストームブリンガーは“嵐をもたらすもの”という意味の名でしかないんですがね。
それからいくと、ザイドの兄貴に貰った剣は、“混沌をもたらすもの”“死を運ぶもの”といったところでしょうか。



両手剣:カオスブリンガー/D3/隔666/Lv1~/戦暗/Rare Ex
両手剣:デスブリンガー/D20/隔466/攻+8 防-6/Lv5~/暗/Rare



この先はまったくの余談ですが、少し前の事、私は突然にこのエルリック・サーガを読み返したくなって、現在では絶版のハヤカワ文庫を捜し求めました。

その結果何冊かは手に入ったのですが、現時点で二巻と四巻が欠けた状態になっています。

まぁ、ネットで探せば一発なのですが、何と言いますかこの、知らない古本屋を見つける度に見回ってみるというのが、宝探しじみてて少し楽しいわけです。

果たして、全巻手元に揃う日は来るのでしょうか……としたところで、本日はここまでにしましょう。

聖女マルタの奇蹟 ― タラスク

今回は、フランス地方のドラゴン退治の物語、聖女マルタの奇蹟について。お題は“タラスク(またはタラスクス)”です。


タラスクは、フランス中部を流れるローヌ河湖畔のネルルクの森に生息していたとされる獰猛なドラゴンで、旅人を襲っては食らうなどの非道の限りを尽くしていました。
リヴァイアサン とロバのあいのこ(サイズ的な問題はどうやってクリアしたんだろうか…)と言われるその姿は、六本の脚の鰐に似ており、人間を丸飲みに出来るほどの巨躯で、全身は甲羅の如き頑健な鱗に覆われ、長い爪と牙、自在に動く蛇のように長い尾を有していたとされています。
吐く息は猛毒であり、更には燃え盛る糞を投げつけてくるという、かなり嫌な攻撃手段を持っていました。


12世紀だか13世紀だかにイタリアで出版された、キリスト教の説話集には、こう記されています。
ある時、このタラスクの猛威に晒されている村を、聖女マルタがキリスト教の布教に訪れます。
村人から話を聞いたマルタは、村人たちを救うため(と言うか布教するため、でしょうけど)、そのタラスクの元へと向かいます。


タラスクは、やってくるマルタの姿を見つけると、一飲みに食らわんと襲い掛かってきました。
しかし彼女は慌てず騒がず、聖水と十字を以ってこのドラゴンを弱らせ、自分の腰布で捕縛すると、そのまま引きずって村まで連れて帰ってきます。


恨み骨髄の村人たちは、弱りきったタラスクに石を投げつけ、これを殺すと、凶悪なドラゴンをいともたやすく捕らえたキリスト教の聖者の威光に感服し、村ごとキリスト教に改宗したのでした。


……ってまたこの展開か。まぁ、脅迫しなかっただけジョージくん よりは幾分マシなのかも知れませんが。


ヴァナにおけるタラスクは、イフリートの釜のLizard族NM、Tarasqueです。
エリア内に出現する???に、がらがら卵をトレードする事で出現する、トリガーPOPタイプです。
また トカゲにされてますな。凶悪なドラゴンの面影は、どこにも見られません。
人間の丸飲みなど、逆立ちしても出来そうにありません。サイズ的にタルタルなら何とか…というレベルです。


ドロップアイテムは、両手鎌アセンションと、タラスクの皮
タラスクの皮は、オステア系の胴と腕、そして存在意義が見当たらないタラスクミトンの合成素材です。
どうにもパっとしないドロップのためか、影が薄いNMの一つに数えられています。



両手鎌:アセンション/D79/隔480/耐火+8 耐光+8 対アンデッド追加効果:火ダメージ/Lv67~/戦暗獣/Rare Ex


胴:オステアローブ/防29/CHR-2 召喚獣維持費-1 契約の履行使用間隔-3/Lv50~/召
胴:ペナンスローブ/防30/CHR-3 召喚獣維持費-2 契約の履行使用間隔-4/Lv50~/召
両手:オステアカフス/防8/MP+15 CHR-1 召喚魔法スキル+2 契約の履行使用間隔-1/Lv50~/召
両手:ペナンスカフス/防9/MP+17 CHR-2 召喚魔法スキル+3 契約の履行使用間隔-2/Lv50~/召


両手:タラスクミトン/防7/CHR-5 耐火+5 攻+10/Lv70~/戦赤シナ暗獣吟狩侍忍竜
両手:タラスクミトン+1/防8/CHR-6 耐火+6 攻+12/Lv70~/戦赤シナ暗獣吟狩侍忍竜

一念岩をも通す ― 李広の弩

本日は、弓の名手として名高い中国前漢時代の武将、李広から、その名を冠された“李広の弩 ”を取り上げてみましょう。


李広は、文帝、景帝、武帝の三代に仕えた武将で、文帝をして、「高祖の時代に生まれていれば1万戸の侯にもなれたであろう」と言わしめた名将でした。
匈奴(モンゴルの遊牧民の事です)討伐に数多くの武功を立て、匈奴たちからは“飛将軍”と呼ばれ恐れられていました。


また李広は、行軍中に泉を見つければ部下たちに先に飲ませ、食事をすれば部下たちが食べ始めるまで自分は手をつけない程に臣下を大切にする徳の篤い人物でもあり、非常に慕われていました。
後世、司馬遷は李広を評して、「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す(モモやスモモの木は何も語らないが、自然とその下には人が集う、という意味。李広の“李”が、“スモモ”にかけてあるわけですね)」と賞賛したと言います。


しかし、それ程の英傑であろうとも、老いに勝つ事は出来ません。
晩年の李広は、匈奴との戦いにも勝利を収める事が出来なくなっていきました。
年齢を理由に前線から外された李広は、猛嘆願によってようやく出陣を許可されます。


しかし彼が配置されたのは本陣ではなく、迂回路を往く別働隊でした。この時大将として参陣していた衛青は、武帝から密かに、老いた李広を直接敵に当てないように命じられていたのです。
不承不承に命に従った李広でしたが、不案内な土地に道に迷ってしまい、決戦に出遅れるという失態を演じてしまいます。


敵将を取り逃がした後、衛青は李広に状況の説明を求めます(別に咎める意図があったのではなく、単に報告書を作成する為だったようですが)。
しかし李広はそれに応じず、遅れた全ての責任は自分にあり、部下に罪はないとして、己が剣で自らの首を刎ね、自害して果てます。


李広の死が伝えられると、彼を知る者も知らない者も皆涙を流し、その死を悼んだと言われています。


さて、では彼の弓術の腕前に関するエピソードにいってみましょう。
李広の父は、虎に襲われてその命を散らしていました。
父の死に様を母から伝え聞いた李広は、仇の虎を探しに出ます。
とある草むらに虎の影を見た李広は、おのれ父の仇とばかりに矢を放ちます。
矢は見事虎に突き立ったのですが、喜び勇んで駆け寄ってみると、何とそれは虎ではなく、ただのそれらしい形をした岩でした。


矢が刺さるとは、この岩は柔らかいのかと首を傾げつつ、試しにもう一射してみたものの、当然の如く矢は跳ね返されます。
仇憎しの一念が、本来なら突き通るはずのない堅岩に矢を突き立てたのです。
ここから生まれた言葉が、「一念岩をも通す」というわけです。

(また、この故事から李広は“石虎将軍”の異名も持ちます)



射撃:李広の弩/D24/隔288/飛命+3 飛攻+3/Lv37~/戦シ暗狩



李広の弩は、ソ・ジヤのLV40制限エリアに出現するDiremite族NM、Gyre-Carlinからのドロップアイテムです。
当該LV、あるいはLV制限時には、かなりいい感じの武器なのですが、いかんせん「用がなきゃ行かない、用が済んだら二度と行かない」のLV制限エリアの事ですので、ほとんど市場に出てきません。
さすがにわざわざ装備を用意してまで取りに行くほどの物ではありませんしね。

雷神降伏 ― 雷切

本日は、先頃の2005/07/19 Ver.upで追加された両手刀の一つ、“雷切”についてです。


この雷切は、安土桃山の頃の大友家に仕えた武将、立花道雪こと戸次鑑連(べっきあきつら)の愛刀としてしられています。


戸次鑑連は、西暦で言うところの1515年の永正十二年(永正十年の説もあります)豊後の生まれです。
幼名を八幡丸といい、十四歳の元服に際して戸次家の家督を継ぎ、名を鑑連に改めています。


立花道雪の号名は、主君の大友家から袂を別って、立花家を興した大友(立花)貞載を、居城である立花城で討った後、その立花城の城主を任された事と、後に入道した際に道雪の号を名乗った事ら呼ばれようになったものです。


その人となりは、「頴敏驍勇類を絶し、士を育み民を恵み、その恩恵は細かな所まで行き届く」と称され、家臣や領民を愛する、武将としての勇名もさることながら、優れた君主として知られていました。


さて、この道雪、実は半身不随というハンデを背負った武将で、何と輿に乗って戦場を駆けていたといいます。
その生涯における出陣回数は三十七といわれていますが、その不利をもって尚、一度の負け戦もなく、“鬼道雪”の異名をもって鳴らしていたとされています。


では、道雪が愛刀として肌身離さなかったという雷切のエピソードにいってみましょう。これは、その半身不随という特徴とも密接な関わりのあるお話です。

雷切は、元の号を千鳥といいます。
道雪がまだ若かりし頃(多分まだ鑑連を名乗っていた頃の話でしょうが)、不意の豪雨に降り込められ、彼はとある大木の下で雨宿りをしていました。
と、するとその時、道雪を目掛けて襲い来るように一条の稲妻が走りました。
道雪は咄嗟に千鳥を抜き放ち、何とえいやとばかりにその雷(一説にはその雷をまとって襲ってきた雷神)を斬り落とし、一命をとりとめたという事です。


この時の後遺症で道雪は半身不随の身体となってしまうのですが、雷を斬ったその刀号を道雪は雷切と改め、生涯大切に持っていたとされています。


おそらくこのエピソードには、実際にそれに即した事実があったのではないでしょうか。勿論、雷を斬ったとかではなく、単に刀身に落雷して感電しただけではあるでしょうか。



両手刀:雷切/D69/隔437/命中+3 移動速度ダウン 雷:攻+10/Lv56~/侍/Rare



ヴァナ・ディールの雷切は、クフィム島に天候が雷の時のみ出現するTreant族NM、Dosetsu Treeがドロップします。
天候:雷といい、大木(型のモンスター)が落とすところといい、NMの名前といい、移動速度ダウンという特性といい、珍しくかなり原典に忠実にデザインされていますね(正確には、Thunder Elemental型NMがドロップしたり、特効が対Thunder Elementalとかの方が、より近いようには思いますが)。


最後に、道雪の辞世の句を記して、本日はここまでとしましょうか。


異方に 心ひくなよ 豊国の 鉄の弓末に 世はなりぬとも

水辺に潜み棲むモノ ― ヴォジャノーイ

本日のお題は、スラヴに伝わる邪悪な水の妖精、“ヴォジャノーイ(ちなみにロシア語で書くとВодянои)”です。

スラヴ圏なので“中世ヨーロッパ”に入れようかとも思いましたが、ロシアはロシアで一括りにして、“その他”にまとめる事にしました。

(追記:結局、新たにロシア系のカテゴリを作る事にしました)


ヴォジャノーイは河川に棲む妖精で、我が国の河童のような存在です。
その姿は蛙に似た髭面、海豹のような苔の生えた胴、水かきのついた腕と描写されるものが一般的ですが、この他にも緑の髭の老人や美しい女性といった人間と全く変わらない姿や大魚や巨人、果てはただの丸太など様々な姿を以って描かれます。

(ロシアにはこの他にも、“ルサールカ”という女性の姿をもって描かれる水怪がいるのですが、一説ではヴォジャノーイはこのルサールカの夫とされています)


日中は湖底にある、金銀財宝で飾られた住処に眠っていますが、日暮れと共に動き出し、水音を立てて遊ぶと言われています。
この時、水辺に近寄る人間を水中に引きずり込んで食らったり、奴隷として働かせるとされています。

また、水の流れに人工的な手が加わる事をひどく嫌い、水車や水門を見ると、洪水を引き起こしてこれらを破壊しようとします。


ヴォジャノーイはまた、月の満ち欠けと深い関わりをもつ妖精です。基本的にヴォジャノーイは不死の存在なのですが、月齢に合わせて老いたり若返ったりします。
月が満ちていくに従ってその力は増していき、満月時のヴォジャノーイは、極めて非常に強力な力を持った危険な存在となります。逆に月が痩せていくとその力も減退します。


ヴァナにおけるヴォジャノーイは、ファノエ運河のDoomed族NM、Vodyanoiとして登場します。
NMの粗製濫造が進んだ後に追加されたNMのため、NMハンターとして活動している人であっても、「そんなのいたっけ?」という知名度だと思います(そもそも運河自体、用がない限り行かない死にエリアですし…)。


Vodyanoiは、共にLV50用装備の軒猿忍袴と、ウォーホーズをドロップします。



両脚:軒猿忍袴 防26 AGI+3 敵対心+1 Lv50~ 忍
両脚:ウォーホーズ 防20 命中+1 攻+2 回避+2 Lv50~ 赤

幻の鋼 ― ダマスクインゴット/ウーツインゴット

本日は、高級素材の代表格、“ダマスクインゴット”についてご説明しましょう。

このダマスクインゴット、おそらくその元ネタとなっているのは、長きに渡り神秘のベールに包まれていた幻の鋼材、ダマスカス鋼と思われます。


ダマスカス鋼は、その昔インドで生み出された特殊な製法を用いて精製する鋼材で、別名をウーツ鋼と言います(これについては後述)。
(当時の冶金術レベルからすれば)極めて優秀な鋼材として広く知られており、堅く、しなやかで、しかも決して錆びないという特徴を備えていたと言われています。


この特性はとりわけ剣の素材として用いたとき遺憾なく発揮され、ダマスカス鋼で造られた剣は特にダマスカスソードと呼ばれ、輸出された先の西洋でも高い評価を得ていました。


しかしこのダマスカス鋼、その製法や原理が解明されたのは比較的近代になってからで、門外不出として伝えられるうちに失われてしまったその製法は、長らくの間謎とされていました。


ダマスカス鋼の実体を一言で言い表すならば、強度の異なる二種類の金属が、完全に混ざり合うことなく一体となった金属です。
硬度の高い部分と、弾性に富んだ部分が互いを補い合う形で作用する為、従来の炭素鋼に比べて、優れた鋼材足り得たのです(ちなみに、この原理は日本刀のそれとよく似ています。日本刀も同様に複数の金属を張り合わせて鍛造して折れず、曲がらずを実現しています)。


さて、ではこのダマスカス鋼、どうやって精製していたのでしょう。
ダマスカス鋼は、一旦溶解させた鋳鋼を坩堝に入れ、そこでゆっくりと時間をかけて凝固させるというやり方で作り出されていました。


こうすると、まず融点の高い硬質な鋼が冷えて固まっていきますが、この時枝葉のように隙間が空いた状態で凝固が進みます。
器の中に入っている為、この隙間はまだ溶鉱の状態の融点の低い鋼が埋める形になります。
更に温度が下がり、全てが固体に戻った時には、二種類の金属が混ざり合うことなく融合している状態になるというわけです。
この為、ダマスカス鋼の表面には、美しいマーブル模様が浮かびます。
(ちなみに現代のダマスカス鋼は、こうした方法を使わずに、延ばした二種類の金属を重ねた状態で何度も折り返して鍛造して造ります)


最後に、“ウーツ鉱”“ウーツインゴット”としてFFXIに登場するウーツ鋼について説明しましょう。
ウーツ鋼はダマスク鋼の別名として一般的に言われていますが、その関係にも諸説あり、正確なところは判っていません(曰く、ただの別名。曰く、ダマスカスで生産されたウーツ鋼が特にダマスカス鋼と呼ばれた。曰く、ウーツ鋼はダマスカス鋼を不完全な技術で再現した模造品である。etc...)。
ただ、少なくとも“ウーツ鉱”というものから精製するような類の物でない事は、確かだと思われます。



ダマスクインゴット/波紋の浮き出た鋼の塊。南方の国から伝来したもの。
ウーツ鉱/天然のウーツ合金を含有する鉱石。
ウーツインゴット/ウーツ鉱を交えつつ加炭した鋼の塊。



ダマスクインゴットは、元々はSimurgh Rocがドロップする、いわゆるHNM素材でした。
現在では、獣神印章BCや、空NMからのドロップなど、その入手経路が拡大されています。
前衛系ジョブからの需要の高いホーバージョン の素材となるため、取引価格は常に高額を維持し続けています。
また最近では、両手斧レリックの第二段階への強化にも用いられています。


ウーツインゴットは、ウーツ鉱を素材として完成する合成品で、ウーツ鉱はデュナミスでのドロップアイテムです。
ウーツインゴットもまた、両手斧レリック第二段階の強化に必要となる品ですが、こちらはそれ以外の使い道が現在のところない(強いて言うなら、鍛冶スキル上げに使われますが)ため、ダマスクインゴットに比べると、遥かに低い値段で取引されています。

陸海の大魔獣 ― ベヒーモス/リヴァイアサン

本日は過去数作に渡ってFFシリーズに登場する常連モンスター、ベヒーモスと、同じく召喚獣としての常連リヴァイアサンについてです。


ベヒーモスは複雑な経緯を持つモンスターで、キリスト教(ユダヤ教)に取り込まれて悪魔にされてしまった異国の神の一つです。

そのルーツはエジプトのスフィンスとも、インドの象頭神ガネーシャとも言われています。


はっきりとその姿が描写されているのは聖書においてですが、それも旧約と新約で異なる形で登場します。

ベヒーモスとリヴァイアサン(またはレヴィアタン)は対の存在として、神が天地創造際に生み出した生物とされています。ベヒーモスが雄、リヴァイアサンが雌です。
しかし、この二匹は極めて巨大な生物で、二匹共を海に住まわせると海が溢れてしまう為、片方のベヒーモスは陸に上げ、そこに住まわせることになりました(ただし、この箇所も諸説紛々で数多くの異説があります)。


ベヒーモスは、「その胸で茫漠とした砂漠を占領する」と描写されたり、水を飲むと川が干上がるとされるほどの巨体で、多くの獣たちを従える獣の王です。

旧約聖書のヨブ記には、「見よ、腰の力と腹筋の力を。尾は杉の枝の様に撓み、腿の筋は固く絡み合っている。骨は青銅の管。骨組みは鋼鉄を組み合わせた様だ。これこそ神の傑作。」と記されています。
その姿は、象、河馬、犀、等々と描写されています。


ベヒーモスとリヴァイアサンは、最後の審判が訪れた後、生き残った敬虔な人々の為の食料であり、その時が来たならば神がこれらを打ち倒し、その肉が人々に振舞われる事になっています(ここも異説が多く、ベヒーモスがリヴァイアサンを突き殺し、リヴァイアサンだけが食物となる、という説もあります)。


新約聖書に記されたこの二頭は、共に単純に悪魔として描写されています。
リゥァイアサンが“嫉妬”、ベヒーモスが“強欲”という、俗に言う“七つの大罪”を司る悪魔に数えられる説もあります。


FFXIにおけるベヒーモスは、そのものずばりな“ベヒーモスの縄張り”というエリアにHNM Behemothとして配置されています。
HNMの中では最古参であり、当時に比べてレベルキャップの上がった現在では、既に歩く素材(もっとも、歩き回る暇もなく狩られる運命ですが…)も同然の扱いをされています。
このBehemothがドロップするベヒーモスの毛皮をなめしたベヒーモスのなめし皮は、用途が多岐に渡る為、まだまだ当分の間は値が下がる事はないでしょう。
現在では、このBehemothとの抽選で更に上位のKing BehemothというHNMも実装されており、こちらは今尚(それなりに)手強い相手です。


リブァイアサンは今作でも召喚獣Leviathanとして登場しており、ノーグのクエスト“水の試練”で、怨念洞を抜けた先にある海流の回廊での戦闘に勝利する事で召喚が可能になります。
水の属性を持つ召喚獣で、HPと状態異常を同時に回復する湧水や、単発攻撃の為余り殴ってTPを貯めたくない相手と戦う際に重宝するスピニングダイブ等の技を持っています。


最後に余談を一つ。
これは割と良く知られている事ですが、ベヒーモスをアラビア語で読んだのが他ならぬ“バハムート”です。
また、本来のバハムートは大地を支える魚であり、その鼻腔は七つの海すら砂粒のよう、と描写されるほどに巨大な姿をしていたそうです。

宝箱に潜む罠 ― ミミック

本日は当blogの趣旨から行くと、少々異端に属するモンスターを取り上げてみましょう。
お題は“ミミック”です。


何故これが異端かと言うと、少なくとも伝承や神話の中から出てきたものではないからなんです。
ミミックは、純粋にファンタジーRPGのエネミーとして近代創造されたモンスターです。


ミミックといって即座に連想するのは、某有名国産コンピュータRPGにも登場した、宝箱に擬態した怪物の姿でしょうか。
宝箱と思い、喜び勇んで駆け寄ってみればそれが実は…という風に、トラップの一種として配置されるのが一般的ですね。


より本格的な、例えばテーブルトークRPG等に登場するミミックは、特に宝箱に限定された姿ではなく、無生物に擬態するモンスターとされる事が多いようです。
宝箱の姿をとるケースが多いのは確かですが、扉や床や椅子、はてはコインやドアノブに擬態するものなど、そのバリエーションは実に千差万別です。


これと決まった原典が存在しているものではないので、その扱いはまちまちですが、そのほとんどはゴーレムなんかと同じく魔法生物の一種とカテゴライズしているようです。


ところで、少なくとも私が知る限り、ミミックはウチが考案したものだ、と主張しているメーカーはないと思います。
このミミック、一体誰が最初に考えついたものなんでしょう。


FFXIにおけるMimicは、ダンジョンに出現する宝箱を、鍵を使わずにシーフがツールで開けようとして失敗した際に発動するトラップの一種として登場するモンスターです。


なにぶん私はシーフをサポレベルまでしか上げていないので、このモンスターに遭遇した事は数えるほどしかなく、詳しい事はよく知らないのですが、聞いた話では少なくともシーフがソロで倒すのは難しいという事です。


一部の心無い、特定ダンジョンの宝箱を独占して荒稼ぎしていた、俗に言う乱獲シーフへの抑制策の一環として導入されたモンスターと思われますが、面白い事にこのMimicを倒すと、100%ドロップでそのダンジョンの宝箱の鍵を落とします。
次はツールを使わずにこの鍵で開けろ、という意味でしょうか。

魅惑の歌声 ― セイレーンフルート

ギリシャ神話モノが続きますが、本日は、海の魔女セイレーンについてです。


セイレーン(ちなみに複数形だとセイレーネス)はギリシャ神話に登場する半人半獣の魔女(少数ながら男性もいたという説もあります)で、航路上の岩礁に住み、その聴く者の魂を捕らえるほどに美しい歌声で通りがかった船乗りたちを魅了する海の魔物です。


その姿は半人半鳥とも、半人半魚とも言われており、首から下が鳥というハルピュイア同然のものから、有翼で脚部だけが鳥のもの、はたまたアンデルセンの人魚姫さながらのものまでまちまちに描写されており、特にこれ、といった決定的な資料も存在しないようです。


このセイレーンが登場するエピソードとして有名なものは二つ、ホメロスの記した“オデュッセイア”と、ギリシャ神話の英雄たちがオールスター揃い踏みとなったアルゴー号の冒険です。


オデュッセイアでは、セイレーンの棲む航路を往かねばならないオデュッセウスは、魔女キルケから助言を受け、船員たちに耳に蝋を詰めさせてこの危険な海域を通り抜けています(ただ、オデュッセウス本人はセイレーンの歌声を聴いてみたかったらしく、惹き寄せられないように帆柱に身体を縛り付けて通ったのですが)。


アルゴー号の冒険でこの魔物に遭遇したときは、神話一の音楽家であるオルフェウスがその歌を以って彼女らに対抗しました。英雄の一人、ブテスだけはセイレーンの魔力に屈して彼女らの元へ下ってしまったものの、その他の面々は無事この場を乗り切る事に成功します。
この時人間に歌い負けたセイレーンたちは、プライドを打ち砕かれ、岩礁から身投げして果てたとされています(魔力を失い、岩と化してしまったという説もあります)。


また、よく知られる事ですが、このセイレーンは英語のサイレンの語源ですね。



楽器:セイレーンフルート/レクイエム+2/Lv23~/吟



セイレーンフルートは、クエスト“黄昏の恋人たち”の報酬として手に入ります。
効果はレクイエムの効果が上がる形になっていますね。


この楽器が導入された時点では、モンスターを魅了する“乙女のヴィルレー”がまだなかったはずです。もしこの歌が追加された後であれば、効果は“ヴィルレー+2”になっていたのでしょうか。


もっとも、そうなっていたらこの笛はただのゴミになっていたでしょうがね……。