無人のモグハウスで発見された手記 -26ページ目

フレイの恋煩い ― スキールニルワンド

さて、今回もちょいと数を揃えるために、もう一丁北欧で攻めてみますか。
何か手頃なネタはないものか……。あ、こんなアイテムあったんだ。じゃこれにしよう。

では、本日のテーマは“スキールニルワンド”…と言うかむしろ“スキールニル”についてです。


スキールニルは、豊穣を司る神 フレイの召使として、神話に登場します。
彼に関するエピソードの一つをご紹介しましょう。


ある日の事です。フレイは戯れに、オーディンの玉座、フリズスキャルヴに腰を下ろし、下界を眺めていました。
フリズスキャルヴは、本来ならオーディンとその妻フリッグしか座る事を許されない高見の座で、ここからは全世界が見渡せるのです。


巨人族の世界であるヨトゥンヘイムに視線を移した時です。フレイは一人の巨人族の美女 ゲルドを見初めます。
フレイは、一目でゲルドに心を奪われてしまいました。

自身は神族、相手は巨人族、本来ならば相容れない存在です。
しかし、フレイはすっかりゲルドの虜になっており、恋煩いに日に日に精気を失っていきます。


フレイの様子がおかしい事に気付いたフレイの父神 ニヨルドは、フレイの側近たるスキールニルを様子伺いに派遣します。
問われたフレイは、スキールニルに苦しい胸の内を打ち明け、ゲルドへの求婚の使者となってくるよう要請しました。


しかし、行き先は巨人の国ヨトゥンヘイムです。どんな危険が待っているとも知れません。
スキールニルは、任を受ける条件として、巨人と戦える武器と、ヨトゥンヘルムを取り囲む炎の壁を乗り越えられだけの馬を要求しました。


恋は盲目と申しましょうか。フレイは二つ返事でこれらを与えます。しかも何と、武器としてスキールニルに渡したのは、名剣として名高い自身の愛剣でした(特に固有名詞はなく、“勝利の剣”と呼ばれる名剣です。抜き放てば、勝手に敵を斬ってくれるという、素晴らしい至宝の剣です)。
更にこれらの他にも、ゲルドへの贈り物としていくつもの素晴らしい宝を携え、スキールニルはゲルドの元へと赴きます。


しかし、元々神族とは敵対関係にある巨人族。ゲルドはスキールニルが伝えるフレイの求婚に難色を示します。
スキールニルは、若さをもたらす11個の林檎や、黄金を生み出す腕輪 ドラウプニル を呈示しますが、ゲルドは首を横に振るばかり(そもそもゲルダは、巨人族の資産家ギュミルの娘なのです。ぶっちゃけ金はあるのです)。


次に、賜ったばかりのフレイの剣を抜いて脅しにかかりますが、彼女はこれにも動じません。


ついに万策尽きたスキールニルは、最後の手段に訴えます。
応じなければ呪いをかけ、全ての「喜び」を剥奪する、と宣言したのです。

とても神のする事とは思えませんが、さすがにこの強力な呪いの言葉はゲルドの心胆を寒からしめました。ついには渋々ながらも、首を縦に振らせる事に成功したのです。


こうして、スキールニルは無事遣いを果たし、フレイはゲルドを娶る事が出来たのですが、実はこの一件はフレイの致命的なミスとして、後に彼の首を締める事となるのです。
フレイは、ゲルドを手に入れた代わりに、彼に勝利をもたらしてくれる剣を手放してしまったのですから……。



片手棍:スキールニルワンド/D17/隔216/INT+7 MND+7 CHR+7 耐光+15 神聖魔法スキル+3/Lv68~/白黒赤召/Rare Ex



ゲルドに呪いをかける際に、杖を振り上げたとしている資料もあるので、そこから出てきたものでしょうか。
その割には、神聖スキルとか、耐光とかそっち系の効能でまとめられていますが。


スキールニルワンドは、怨念洞のTonberry族NM、Bistre-hearted Malberryのドロップです。

ニヴルヘイムの魔犬 ― ガルム

左の欄にある、ブログテーマ一覧を見つつ考える。


まぁ、“中世ヨーロッパ”や“その他”が頭抜けているのは当初の予測通りです。何しろ、カバーする範囲が広いですから。
“和物”は両手刀一覧だけでほとんどを網羅できるので、お題を探しやすいのが強みです。セーブしつつ書いているのでこんなものでしょう。あんまり趣味全開でも見苦しいですし。
意外と“ギリシャ神話”が頑張っています。寓話の形態になっているエピソードが多いので、書き易いんですよね。
“アジア圏”はもう少し凹むかと思っていたのですが、近東辺りのネタが思ったより出てきたため、割と数稼げました。


……おや、北欧系のネタが伸びてないな。
振り返ってみると、実に丸一ヶ月北欧ネタを書いていないようです。

そろそろこっちでいきたいところですが……はて、何か手頃なのはあったでしょうか。最近、執筆そのものよりも、テーマを探すほうが遥かに時間を食うんですよね。
さすがにファーヴニル関連やラグナロクは、おいそれとは使えない切り札ですし……(と言うか、長くなりすぎるので、平日に書くのはちと厳しいです)。


と、探す事しばし。よし、本日はこれでいこう。お題は“ガルム”です。


ガルムは、ロキの娘であるヘル が投げ落とされた凍える霧の世界、ニヴルヘイムに繋がれた、凶悪な魔犬です。


ヘルは、ニヴルヘイムへ追放された後、彼の地の主として居を構え、ニヴルヘイムに君臨するのですが、ガルムはそのヘルの館に通じるグニパヘリルという切り立った洞窟の入り口に、番犬として繋がれています。
ガルムは、不用意にニヴルヘイムに立ち入ろうとする者、逆に許可なくニヴルヘイムから出ようとする者を吠え立て、襲い掛かってくるとされています。


非常に獰猛な巨犬として知られていますが、例えば良く似た存在であるギリシャ神話のケルベロスなどと違い、頭が2~3つあるとかそういった変わった姿はしておらず、普通の犬の形をしています。強いて特徴を挙げれば、胸元の毛が、その牙で引き裂き食い殺した犠牲者の血で染まっていることくらいでしょうか。


北欧神話の原典の中でも最も有名な“エッダ”の中の、“グリームニルの歌”にはこう記されています。
木々の中ではユグドラシル、船の中ではスキーズラズニル、神々の中ではオーディン、馬の中ではスレイプニル、橋の中ではビフロスト、詩人の中ではブラキ、鷹の中ではハーブローク、猟犬の中ではガルムが最高のものである、と。


太陽と月が天を巡る二頭の狼に飲み込まれ、ラグナロクの時が近づくとガルムは、赤い雄鶏フィアラル、金色の雄鶏グリンカム、ヘルの館の赤茶けた雄鶏の時を告げる鳴き声に呼応して雄叫びを上げ、その戒めから解き放たれてロキらと共にアースガルドへ攻め入るとされています。


そしてラグナロクの終盤には、隻腕の神トゥールと壮絶な死闘の後、相打ちとなって共に果てる運命にあります。


ヴァナ・ディールにおけるガルムは、Hound族モンスター、Garmとして、ボストーニュ監獄の奥地に配置されています。

嫉妬の視線 ― ナザル・ボンジュウ

今更ながらに思うのですが、どうもウチのblogで語られるアイテムやモンスターは、マイナーなものが多いような気がします。
いわゆる定番アイテムや、知名度の高いNMなんかは、元ネタのないFFXIオリジナルなものが優勢なんですよね……。


まぁ、嘆いても始まらないので、開き直って今回もマイナーなアイテムをご紹介しましょう。本日のお題は“ナザル・ボンジュウ”です。


ナザル・ボンジュウは、トルコの伝統的な御守りで、そのデザインは、白目にあたる部分に白、瞳にあたる部分が青のガラスで作られた目玉の意匠をしています。


壁掛けなどに使われる大きなものは数十cm、キーホルダー(今だと、携帯のストラップとかにも使われていそうですね)などとして持ち歩く小さなものは1~2cmと、大きさはものによってまちまちです。


元々この“ナザル”というのは、トルコの言葉で「嫉妬の視線」や「激しい羨望」を意味しています。
ナザルが家に憑くと、仕事に失敗したり、夫婦仲が険悪になったり、子供が病気をしたりと、様々な災いに見舞われるとされています。


ナザル・ボンジュウは、このナザルのもたらす災禍を肩代わりしてくれる御守りとして用いられています。
ナザルの災いを受け止めたナザル・ボンジュウは、ヒビが入っていき、やがては砕け散ってしまうと言われています。
我が国で言うところの“身代わり一休さん”みたいなものでしょうか(……“身代わり一休さん”が全国区で知られる類の名産品かは知りませんけど)。


また、余談ですが、ナザルは牛の骨や亀の甲羅を嫌うので、ナザル・ボンジュウの代わりにこれらを壁にかけて、ナザルを忌避するお呪いもあるようです。



投擲:ナザル・ボンジュウ/D21/隔276/INT+1 MND+1 CHR+2/Lv50~/白黒吟召/Rare



FFXIにおけるナザル・ボンジュウは投擲武器です。
モリオンタスラム や、ファントムタスラムのように、遠隔武器スロットが生かされていない後衛ジョブが、ステータスupを図るために装備する代物です。


無論投げる事もできるのですが、それが無意味である事もまた、言うまでもない事です。

しかし、これは性能的にどうなんでしようね……。
わずかながらMPも上がる、モリオンタスラムホーリーアムプラの方がいいような気がするのですが。


ナザル・ボンジュウは、獣人印象50枚のク・ビアの闘技場のBCNM、“四界の神像”の報酬として入手が可能です。

八雲立つ ― 天の村雲

さて、では前回 の続きといきましょう。予告通り、お題は“天の村雲”です。


表記としては、“天叢雲剣(あめのむらむものつるぎ)”と書くのが一般的でしょうか。
ご存知、スサノオが八岐大蛇を退治した折に、その尾の中から出現した神剣です。
では、まずその辺りから解説していきましょう。


高天原を追放されたスサノオが降り立ったのは、出雲国の肥河の上流の鳥髪という地です。
河の上流から箸が流れてきたのを見た彼は、人が住んでいるのかとそちらへ足を向けます。


遡って上流へ行ってみると、そこでは二人の老夫婦、アシナヅチ(足名椎)とテナヅチ(手名椎)が悲嘆の涙に暮れています。
これはどうした事かとスサノオが尋ねれば、老夫婦は涙ながらに語ります。
それによれば、かつて二人には八人の娘(これを八稚女といいます)がいたのですが、毎年一人ずつ八岐大蛇という八つ首の蛇の化け物に人身御供として差し出さねばならないのだ、との事。
既に七人の娘は大蛇に飲まれ、残すところはクシナダヒメ(櫛名田比売あるいは奇稲田姫)ただ一人。老夫婦は、最後の娘との別れを嘆いていたところだったのです。


これを哀れと思ったか、それとも単に姫を見初めただけかは知りませんが、ここでスサノオはクシナダヒメを妻として貰い受けることを条件に、大蛇退治を申し出ます。
同じいなくなるにしても、蛇に食われるのと嫁いでいくのでは、断然後者のほうがいいに決まっています。老夫婦は一も二もなく賛成しました。
こうして、高天原きっての荒くれのスサノオと、大蛇神の戦いの幕が切って落とされたのです。


八岐大蛇とは、八つの首と八本の尾を持つ山のように巨大な大蛇で、目はホオズキのように紅く、背中には苔や松が生え、腹は常に血でただれているという怪物です。その巨体は八つの谷と八つの峰にまたがるほど。八岐大蛇現れるところには、常に雨雲が立ち込めていたと言われています。


この大蛇は、氾濫した河の奔流に形を与えたものとも、製鉄用のたたらの神格化とも言われています。後者は腹の血を溶鉄に見立てているわけですね。


さて、こうして大蛇と一戦構える事となったスサノオですが、何しろ相手が相手です、一筋縄でいきはすまい。そう考えた彼はまず、垣を立てて八つの門を作り(これを八重垣といいます)、その先に一つずつ、八度醸造を繰り返した極めて強い酒(八塩折の酒)を大樽に入れて設置します。
そして、万一に備えてクシナダヒメを櫛に変えて(クシナダヒメは元々櫛の神格化と言われています)己が髪に挿すと、身を潜め、大蛇を待ち受けます。


やがて雨雲を伴い、八岐大蛇が姿を現しました。
スサノオの目論見通り、大蛇は八重垣に一本ずつ首を突っ込み、そこにある酒を呑み始めます。
元々酔い潰す為に仕込んだような強い酒です、ほどなくして大蛇は泥酔し、次々に眠りに落ちていきました。


そこを待ち構えていたスサノオは、前出の“天羽々斬”を振るい、首と尾を一つずつ斬り落としてこれを退治したのですが、尾の一つを斬りつけた際、天羽々斬の刀身は欠けてしまいます。
これを切り開いて見たところ、内からは見事な神剣が一振り出現しました。
最早説明するまでもありません。それこそが“天叢雲剣”だったのです。

ちなみにこの名は、八岐大蛇在るところ、常に雨雲が立ち込めていたところから付けられたものと言われています。


FFXIで使われているのは、あくまでもこの“天叢雲剣(天の村雲)”なので、この先は蛇足になるかも知れませんが、一応軽くこの剣についての続きも書いておきましょう。


この後、天叢雲剣はスサノオからアマテラスへ和解の証として献上される事になります。
アマテラスは、この剣を伊勢のヤマトヒメノミコト(倭姫命)へ遣わし、その神宮に奉納させます。
ヤマトヒメは、甥のヤマトタケルノミコト(倭建命もしくは日本武尊)が東征の途中立ち寄った際に、彼に火打ち石と天叢雲剣を授けました。


相模国(駿河の説もある)で焼き討ちに遭ったヤマトタケルは、この天叢雲剣で草を薙ぎそこに火を点けて、火で火を迎え撃って難を逃れます。
この時、ヤマトタケルによって天叢雲剣は草薙剣(くさなぎのつるぎ)の名を与えられたのです。


そしてご存知の通り、この後草薙剣は三種の神器として天皇家に奉られますが、そのオリジナルは源平の壇ノ浦の戦いにおいて、幼い安徳天皇と共に水中に没して失われてしまいます。


現在名古屋の熱田神宮に奉られている草薙剣は、平家が都を落ち延びる際に持ち出してしまったために、源氏が後から神器の分体という名目で設えたものなのです(一応、平家が持ち出したものこそレプリカという説もあるのですが、普通に考えて神器が失われていては都合の悪い人々の方便でしょうね)。



天の村雲/D88/隔437/命中+20 零之太刀・回天 追加効果:攻撃力ダウン/Lv75~/侍/Rare Ex



前回の十握剣を、更にもう一段階強化した両手刀レリック最終段階が、この“天の村雲”です。
ここまでくると、グラフィックが和剣風のものになります。
しかし、この天の村雲のデザイン、どうやら現存している草薙剣のものとは大きくかけ離れているようなのです。


現存しているものとの比較に「ようなのです」という表現を使う事に違和感を覚える方もいるかも知れませんが、何しろものが国宝すら超越する神器です。拝観は天皇陛下や熱田神宮の宮司ですら自由にはならないため、正確なデザインは伝わっていないのです。
とは言え、中には好奇心を抑えられない人もいたのでしょう。江戸時代に草薙剣を盗み見た神職の証言によると、切っ先は菖蒲の葉型で刀身の中頃に厚みがあり、全体で大体二尺七寸(80cmくらいかな?)。手元の方の八寸(24cm)ぐらいの柄と思われる部分は節くれ立って中抜きされている。ちなみに刀身と柄が一体成型らしく、色は白味がかっているとの事です。
江戸時代に錆びがなかったという事は、おそらく青銅製なのでしょうね。


今回は随分と長くなってしまいましたが、最後にスサノオがクシナダヒメを娶った際に詠んだ、日本最古の和歌と呼ばれている一首を掲載して、〆と致しましょう。



「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」

神代の剣 ― 十握剣

今回は、両手刀レリックとして実装されている“十握剣”と“天の村雲”を、二本立てでご説明します。
まず本日は、“十握剣”からです。


十握剣は、日本神話中に頻出する剣の名で、読みは“とつかのつるぎ”あるいは“とつかみのつるぎ”。表記の方は“十拳剣”“十掬剣”“十束剣”など、数多くの説があります。
その名は剣の形状を示しているのですが、如何せん諸説紛々ありすぎて、結局のところどんな形状をしていたのかはよく判っていません。


とりあえずのところ、その“十握(一握で握り拳一つ分、あるいは指四本分の長さ)”が、剣の長さを示しているとする説が一般的なのですが、それすらも刀身の長さを指しているという説と、柄の長さという二つの説があり、一層正体が不明瞭になっています。


また、この“十握剣”の名は、一振りの剣につけられた固有名詞(例えばエクスカリバーとかデュランダルのような)とも、剣の種類を意味する名称(ロングソードとかグレートソードのような)とも言われています。
個人的には後者の説を推したいところです。一つしかないとするには、登場する場面が多いし(その都度所有者が変わっています)、幾度となく欠損していますから。


さて、この剣が初めて神話に登場するのは、イザナギ(伊弊諾または伊邪那岐)とイザナミ(伊弉冉または伊邪那美)の神産みの場面です。


天地開闢の後、国産みを終えたこの二神は、次に数多の神々を産み出していきます。
しかし、この神産みにおいて、火を司る神であるカグツチ(加具土あるいは軻遇突智)を出産したイザナミは、カグツチの炎で女陰を焼かれ、その傷が元で死んでしまいます。


妻の死に怒ったイザナギは、腰の剣でカグツチを斬り殺すのですが、この時に振るわれたのが十握剣と言われています。このイザナギの十握剣には、“天之尾羽張(あめのおはばり)”という別名があります。


また、イザナギの十握剣は、黄泉国へ死せる妻を迎えに行った(ご存知の通り、死に穢れた妻の姿に恐れをなし、イザナギは一散に逃げ戻ってくるのですが…)帰りの脱出の場面でも振るわれています。


イザナギの他にこの十握剣を所有していた者に、かのスサノオ(須佐之男または素盞嗚)が挙げられます。
スサノオの、この剣に関するエピソードは二つあります。


まず、スサノオが高天原(たかまがはら)を去るに際して、姉神であるアマテラス(天照)に暇乞いを告げに行く場面です。
この時アマテラスが、弟が高天原へ攻め入ってきた、と勘違いしてしまったため、身の証を立てるためにスサノオは、自分の十握剣を姉に差し出しています。ちなみにこの剣はアマテラスによって三つに折られた上に噛み砕かれ、三柱の神を産み出すのに使われました。


次に、最も有名と思われるのがこちら。高天原を追放されたスサノオが、八岐大蛇(または八俣遠呂智)を退治する場面です。
この時スサノオがその手にしていた剣もまた、十握剣だったと言われています。
このケースでは、何故か大蛇の尾の中に入っていた“天の村雲”に撃ち付けた際に、刀身が欠けています。
ちなみにこちらの剣には、“天羽々斬(あめのはばきり)”“天蠅斫(あめのははきり)”“蛇麁正(おろちのあらまさ)”“韓鋤剣(からさびのつるぎ)”等々、山のように別名があります。


更に十握剣は、山幸彦と海幸彦の兄弟のエピソードで、山幸彦が海幸彦の釣り針を失した際に、釣り針を弁償するためにも使われており、山幸彦は、自分の十握剣を鋳潰して500もの釣り針をこさえています。


他にも、この間FFXIにも実装された(まだデータ上にしか存在しない可能性もありますが…)“布都御魂”も十握剣であるという説もあったりしますが、ざっと挙げてみるとこんなところですか。



十握剣/D88/隔450/デュナミス:零之太刀・回天/Lv75~/侍/Rare Ex



デュナミス-バストゥークで手に入る遺刀を、 三段階強化することでこの十握剣になります。


解析データによれば、グラフィックは鬼切りと同一の直刀タイプのものが使われているようです。
十握剣天の村雲は、厳密には刀が開発される以前の代物で、和剣と呼ばれる日本刀とは全く別の剣だったんですがねぇ……。
まぁそれを言い出したら、そもそもこれらが両手刀のカテゴリに入っている事自体がおかしいのですが。
両手刀レリックは、正宗とかの方が適切だったような気がします。


さて、本日はこの辺にしておきましょう。
次回は両手刀レリック最終段階、天の村雲についてです。

真の銀 ― ミスリル

今回は、ファンタジー系金属材としての知名度はオリハルコンにすら匹敵すると思われる、“ミスリル”についてご説明しましょう。


さて、このミスリルですが、実は神話だの伝承だのに語られるような類の物ではありません。
では何だと言えば、これはファンタジー作家としてはおそらく世界一高名と思われる、ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンが、自作“指輪物語(今はロード・オブ・ザ・リングといった方が通りがいいのでしょうか)”や“シルマリルの物語”に登場させた架空の金属で、トールキンの創作物なのです(まぁ、それ言い出したらオリハルコンだってプラトンの創作物でしょうけど…)。


ミスリルは、“指輪物語”などの舞台となる“中つ国(ミドルアース)”の一地方、モリアで採掘される銀灰色の鉱石です。
その名は、“中つ国”のエルフたち言語の一つ、シンダール語で“灰色の輝き”を意味し(ちなみに、灰色=mith、輝き=rilです)、“真の銀”またはその産地の名を取って“モリア銀”の別名でも呼ばれます。
銀の名を冠される事が多いのですが、外見上銀色をしているというだけで、実際には銀とは全く異なる金属です。


鋼よりも強固にして軽量、技術さえあれば如何様にも加工する事ができ、銀のように美しい。しかも、銀と違って酸化して変色する事もないという、極めて優秀な金属材です。


かつてミスリルは前述のようにモリアで、そこに住まうドワーフたちの手によって採掘されてたのですが、ミスリル坑道を掘り進めていくうちに地中に棲息する怪物、バルログと出くわしてしまい、それによってドワーフたちの王国は滅ぼされてしまいました。
以来ミスリルの産出は止まってしまい、そのために作中ではミスリル製品は非常に希少な品として扱われていました。


このようにミスリルはJ・R・R・トールキンが作り出した、彼のオリジナルの金属なのですが、D&Dを始めとしてかなりの…と言うかほとんどのRPGに取り入れられています。FFにおいてもXIに限らずシリーズ通して使われていたはずです。
著作権とかその辺りはどうなっているんでしょうか……?


もっとも、FFXIのミスリルは上記のミスリルとはスペルが違うの(FFXIのミスリルはMythril)で、別物だと言い張る事もでき……できるかなぁ?


ヴァナ・ディールにおけるミスリルは、グスタベルグ地方で産出される金属材として登場します。
バストゥーク共和国の初期の発展は、このミスリルによって得られたものとされています。
鍛冶と彫金の合成に用いられ、様々な武具や、装飾品の素材として用いられます。
また、意外な事に高い冶金術を持つクゥダフが、このミスリルを鋳造して作った獣人ミスリル貨が、獣人社会で流通しています。

自殺の女神 ― イシュタム

本日のテーマは、リアル、ヴァナともに極めてマイナーな存在を取り上げます。
お題は、マヤ神話に登場する女神“イシュタム”です。


世に神様が一体どれだけいるのは知りませんが、世界中から掻き集めて一覧にしたら、おそらくとんでもない数字になるでしょう(数の上だけなら、日本神話だけで八百万いますしね)。
それだけの中には当然、妙なものを司る神様だっているわけです。


このイシュタムも、そんな変り種の神格の一柱と言えるでしょう。彼女が象徴しているのは、何と“自殺”です。それも、おそらくは“首吊り自殺”限定の。
他の神話でも良く見られるような“死”とかではなく(ちなみにマヤで死を司る神は“アフ・プチ”と言います)、“自殺”です。


どうも古代マヤ文明においては、自殺は尊い行いと考えられていたようで、キリスト教とは正反対に、自殺者の魂は天国へ直行することが約束されていたようなのです。記録によれば、神に仕える者、神に捧げられた生贄、勇敢に戦い散った戦士、出産事故で死んだ母、そして首を吊って死んだ者、これらの死者は天国へ行く資格を有している、とされていました。

イシュタムは上記の死者の中の、首吊り自殺者を天国へと導く女神です。随分とまた守備範囲の狭い神様ですが。


彼女に連れられて浄土入りした魂は、そこで全ての苦悩と束縛から解放され、ヤシュチェという神聖な大木の木陰にて永遠の安らぎに満たされると言われています。


イシュタムが変わっているのは、役割だけではありません。その姿も、かなり突拍子もないものです。
何と彼女は、首を吊った屍の姿で描かれる神なのです。
そりゃあまぁ、確かに解かり易いと言うか、まんまと言うかな姿ですが。
首にロープをかけて吊り下がっており(……どこにロープをかけているのか激しく気になりますが)、両目は閉じられ、顔面には腐乱の兆候が出始めたその姿は、およそ神には見えません。


さて、ヴァナにおけるイシュタムは、デルクフの塔上層に配置されたGhost族NM、Ixtabです。
……誰かこのNM知ってました? 正直言って私は今日お題を探してデータベース系サイト漁るまで、その存在自体を知りませんでした。


おそらく、Ixtabの知名度の低さは他の追随を許さないのではないでしょうか。
それもそのはず、どうやらこのNM、何も落とさないらしいのです(何かの布材とか、Ghost族が普通に落とす物のみ)。
ロランのBlack Triple Starsもですが、これらは一体何の為に配置されているのでしょう。単なる設定忘れなんでしょうか(Black Triple Starsの放置期間は既に半端じゃありませんが…)?

アテナの怒りpart2 ― アラクネ

本日は、有名なギリシャ神話の寓話から、お題は“アラクネ”です。

このお話は、改めてここで紹介するまでもないほどに有名な話だとは思うのですが、どうも今日は冴えません。他に手頃なネタを思いつきませんでした。


さてこのアラクネは、コロポンという町に住んでいた機織りの名手としてその名を知られた女性でした。
その手腕はまさに人のそれを超えるレベルのもので、人々はアテナに手ほどきを受けたのではないか(アテナは工芸を司る女神でもあるので、当然織工にも通じていたのです)と、彼女を賞賛していました。


しかし、己の技術に絶大の自信を持つアラクネは、その評価を善しとしません。
むしろ、自分の腕前はアテナすらも凌駕する、と公言して憚らなかったのです。


この、文字通り神をも畏れぬ思い上がった発言は、やがてアテナの耳にも届きました。
アテナは老婆に姿を変え、アラクネを諌めるために彼女の下を訪れ、彼女に神を侮るような物言いは止めるように忠言します。
……瞬間湯沸し器並みの癇癪持ちのアテナにしては、今回は随分と寛大ですな。メドーサなんかはあの通り だったのに。


しかし、まさかそのみすぼらしい老婆がアテナ当人とは思わないアラクネはその忠告を一笑に付し、更には、もしアテナが自分よりも上だと言うのなら、ここに来て自分と勝負すればいい、とまで言ってのけます。

さすがにそこまで虚仮にされて(知らずに言ったとは言え、面罵されたわけですしね)、アテナが看過しようはずもありません。
すかさずアテナは変装を解き、その正体を現し、アラクネの思い上がりを詰ると共に、その挑戦に応じると宣言します。


さしものアラクネも、神に直接喧嘩を売ってしまったことに怯みはしたものの、そこは腕に覚えありのこと、いっそアテナを負かしてやろうと開き直ります。

こうして、神と人の機織り勝負が始まりました。


さすがにその腕で鳴らしているだけあって、織り上がったものは、双方とも素晴らしい出来のものでした。

アテナの織った布には、神々の威光が表されていました。
アラクネへの皮肉でしょうか、神に逆らった者が、その神罰に打たれている様も描かれています。
一方のアラクネが織り上げたのは、女の尻を追い掛け回すゼウスなどを意匠した、神々の醜聞についてでした。この期に及んで更に喧嘩を売るとは、とことん根性の座った女です。


その出来自体は、実に甲乙つけがたいものだったのですが、アラクネの作品に描かれた内容はアテナを激昂させるに値するものでした。
アテナは怒りに任せてアラクネの作を引き裂くと、更に彼女を激しく打ち据えます。

作品は引き裂かれるわ、公衆の面前で打擲されるわでショックを受けたアラクネは、悲嘆に暮れて自ら首を吊って死んでしまいます。


それを見たアテナは、アラクネを蜘蛛の姿に変えるのですが、ここには二通りの解釈があります。
アラクネを許し、糸を紡ぐ術を残してくれた、という説と、死後も許さず、当て擦りのように蜘蛛の姿に貶めたのだ、とする説です。
個人的には、後者のほうがアテナらしいように思うのですが、どんなもんでしょうね?


ヴァナ・ディールにおけるアラクネは、クフタルの洞門のSpider族NM、Arachneとして登場します。
まぁ、まんまですね。もうコメントのしようもないくらいです。
ドロップアイテムは、裁縫合成素材のアラクネの網
これからアラクネの糸が作られ、更にその糸を使ってアラクネの帯という腰装備が作れますが、事実上裁縫スキル上げ以外の意味のないアイテムですね。



腰:アラクネの帯/防4/INT+2 レジストスロウ効果アップ/Lv66~/モ白黒赤ナ吟狩召
腰:アラクネの帯+1/防5/INT+3 詠唱中断率8%ダウン レジストスロウ効果アップ/Lv66~/モ白黒赤ナ吟狩召



……あれ?

そう言えば、結局勝敗の方はどうなったんだろ?


「障害」という名の悪龍 ― ヴリトラ

本日は、現時点のヴァナ・ディールにおいて、最も討伐が困難と思われるHNM、“ヴリトラ”についてです。


ヴリトラは、インドの叙事詩“リグ・ヴェーダ”に登場する、邪悪にして強大な龍神で、その名は「障害」を意味しています。


邪悪な先住民族として神々に追われる存在だったダイティア族(言わば、インド神話におけるフォモール とも呼ぶべき存在です。ちなみに、ナラシンハ の項に登場したヒラニヤカシプやヒラニヤークシャも、このダイティア族です)。

このダイティア族のデティは、悪魔と呼ばれる一族と言うだけの理由で神々に息子らを殺され続け、悲嘆に暮れていました。


その様を目にした聖仙カシュヤパは、デティを哀れむと同時に無慈悲な神々、特に闘いの神インドラに怒り、それを討ち倒せる存在の出現を天に祈ります。
その祈りが天に届き、炎の中から出現したのが、魔龍ヴリトラです(ここには異説があり、ヴリトラを生み出したのはかねてからインドラと敵対関係にあった工芸を司る神、トヴァシュトリとも言われています)。


生み出されたヴリトラは、天から雨雲を司る牝牛を盗み出し、いずことも知れぬ場所へと幽閉してしまいます。
これによって雨が降らなくなり、たちまちのうちに河は干上がってしまいました。


更にヴリトラは、未曾有の旱魃に見舞われた地上で暴虐の限りを尽くし、飢えと乾きに苦しむ人々に追い討ちをかけるのです。
大旱魃に加えて、龍神に暴れ回られたのでは堪ったものではありません。人々は、ヴリトラの討伐を神に祈りました。

その救いを求める声は神々に届き、インドラがヴリトラ討伐に乗り出します。


……何と言うか、憎しみの連鎖が出来上がっていて、しかもそれを辿ると原因は他ならぬインドラたち神々の方にあるように見えるのですが、まぁ触れずにおきましょう。


インドラは、百頭の雄牛に匹敵する量のソーマ(神酒とでも言いますか。神の力の源となる霊妙なる飲み物です)を飲み干し、敢然とこの魔龍に立ち向かいます。


しかし、もともと相手は「インドラを打倒できる者」として生み出された存在です。その力は余りに強大で、闘いを司るインドラと言えども、易々と勝てる敵ではありません。
最高神ブラフマーの助言に従い、インドラは聖仙ダディーチャを訪ねます。
事情を聞いたダディーチャは、自ら命を絶つと己が骨をインドラに差し出しました。その骨をもって作り出されたのが、インドラの最大の武器とされるヴァジュラです。


ヴリトラを滅ぼせる武器を手にしたインドラは、その唯一の弱点が口中にある事を見抜き、ヴリトラの口にヴァジュラを突き立てて、見事この魔龍を打ち倒します。

こうして無事地上には雨が取り戻されたのですが、ヴリトラは基本的に不死身なので毎年蘇り、その都度インドラと死闘を繰り広げると言われています。


これは、ヴリトラは定期的に訪れる嵐に形を与えたものだからです。
また、インドラの方も雷を神格化した存在なので、毎年のインドラとブリトラの闘いとは、雷雨と大風を指しているのでしょう。


ヴァナにおけるヴリトラは、俗に三龍と呼ばれている、フィールドに配置された三体の真龍タイプHNMのうち一体で、Wyrm族のVrtraとして龍王ランペールの墓最深部に配置されています。


ただでさえ徘徊するタイプのNMの中では頭抜けて手強い三龍であることに加え、Vrtraがいる場所はLV75でレベリングが可能な敵がうようよ(しかも生命感知タイプ)しており、更にそれらと同レベルのAiriIruciPeyといったモンスターを次々に召喚してきます。


実は私も数度このVrtraに挑んだ事があるのですが、はっきり言って勝算が毛ほども見えないうちに全滅させられました。
文句なしに、現在のヴァナの最強のモンスター(環境によるところもおおきいのですが)と言っていいでしょう。

古備前包平 ― 大包平

本日は、久しぶりに刀を一振りご紹介しようと思います。
お題は“大包平”です。ちなみに、読みは“おおかねひら”です。


さて、この大包平は、古備前の刀工 包平の作刀で、天下五名剣として名高い“童子斬り安綱”と並び称されるほどに高い評価をされていた名刀中の名刀です(その割に天下五名剣の選に漏れてるのは何故でしょう)。

ちなみに、古備前ものの刀工で知られた名には、他に助平と高平があり、包平を合わせて“古備前三平”と呼ばれていました。


この刀には他の銘刀と異なり、刀工の名に“大”の一字が付いています。
これは、吉宗公が享保四年(西暦で言うと1719年です)に、刀の鑑定人として知られる本阿弥光忠に命じて編纂させた刀の目録、「享保名物帳」に記されたところによれば、「寸長き故名付」要するに大きいから“大”の字がついた、となっていますが、単にそれのみならず、出来の素晴らしさを示す意、即ち“大傑作”の“大”の意味もあったのでは、というのが通説となっています。


その様相は、「鎬造、庵棟、鎬高く重ね薄く、身幅広く、猪首鋒となり、腰反り高く踏張のある豪壮な太刀姿。茎は生ぶ、反りつき、栗尻、鑢目勝手下り、目釘孔二つ。鍛は小板目肌よくつみ、地沸がつき地景細かく入り、淡く映り立つ。刃文は小丁字刃小乱れまじり足・葉よく入って、匂深く小沸ついて冴える。帽子乱れ込んで浅く返る。彫り物は、表裏棒樋掻き流す」とされ、長尺の刀身(約90cm)ながらひどく軽く、居合用に寸を詰められた刀とほとんど変わらない重さしかなかったと言います。


しかもそれが、樋が掻かれていない(刀身に溝が彫られていない、という事です。この溝は軽量化の意味も持っているのです)状態での話なので、備前包平の技術の高さがうかがえます。


大包平には、切れ味を示した逸話はないものの、その価値が高く評価されたエピソードがいくつかあります。
例えば、備前岡山の藩主 池田光政は無類の刀好きとして知られていましたが、藩の財政の引き締めの折、臣下から「名刀一振り求める金で、名臣を一人求められよ」と、その趣味をたしなめられてしまいます。
一旦はその進言に応じた光政ですが、そこに大包平を目にしてしまい、「この一振りだけ許せ」と反対を押し切って買い求めてしまった、という話とか。


他にも、進駐軍のマッカーサー司令が、この大包平を欲しがったそうですが、「自由の女神と引き換えなら」と切り替えされたというエピソードも残っています。



両手刀:大包平/D38/隔450/Lv23~/侍



ヴァナにおける大包平は、特に何の変哲もない両手刀で、ジュノとノーグの天晶堂で販売されています。
しかし、私のように実装直後から侍をやっている古参組の侍にとって、この名は一種のトラウマとなっています。


ジラート発売直後の刀騒動を覚えておいでの方もおられるでしょう。
当時、この大包平菊一文字兼定虎徹の四振りは、サーバリセットがかからない限り入荷されないという、狂った仕様をしていたのです。


小学生並みの知性でもあれば、どんな結果になるかは容易に予想がつくはずなのですが、■eにはそれすら高望みでした。
当然、心無い転売屋によって競売価格は暴騰しました。私のサーバでは最大20倍以上の値がついたと記憶しています。
しかも、まだ手に入るならマシな方で、サーバリセットまでは決して総数自体が増えない為、買おうにも市場にない、という状態でした。
さすがに程なくして修正され、普通に店買いできるようにはなったものの、そもそもその仕様で問題ない、と判断した開発スタッフのオツムの出来に愕然としたことは、今も忘れられません。