久しぶりに会った友達に言われると、

少し考え込んでしまう言葉がある。

「あんた、あんまり変わらないね」


そんな事をよく言われた記憶がある。


今はどうだろうか?


たまに、高校生の集団を目にしたとき、

タバコをふかして、自転車を乗り回してる彼らを見ると

とてもなつかしくなる。


あの頃と今?


あの頃も特に心が満たされているわけでは無かったが、

今も特に心が満たされている訳じゃない。

ほんの少しだけ、昔より物知りになった分臆病者になったような気がする。


夢見がちな高校生の自分が今の自分を見たら

やっぱこういうんだろうか。


「なにも変わってないじゃない。」


自分としては色々と変わったつもりなんだが。。

とある街中にあるなんの変哲もない会社のオフィス。

特に何事もなく続いていく日常も、時には変化によってその静けさを破られる事がある。


ある日の事、いつものようにパソコンの画面に向かって一人黙々とエクセルで集計作業をしていた。

隣の部署が何やら少し騒がしくなっていたが、それも気にせず作業を続けていた。

「○○サービスさんから、電話が。。」

「お前のところの会社の名前はなんや?社長を出せとか言ってるみたいなんですけど。」

近くで女性社員のそんな声が聞こえる。

「ああ、また会社へのいたずら電話か。。」

そう、会社へのいやがらせの電話が前にあったので、良くあることだと気にせず作業に集中していた。


小一時間程経ち、また回りが騒がしくなってきた。

「また、○○サービスって会社からです。うちに何回もおたくの番号から電話あってな、いやがらせされとるんじゃ。。社長の名前はなんていうんだ??電話代請求したるわ。って言ってきてるんですよ。」

近くでまた女性社員のそんな声が聞こえる。

「辞めさせられた社員のいやがらせだろうか?それとも、どこかのその筋の人が脅迫して金を請求する気なんだろうか?」

相変わらず、パソコンの画面に向かいながらそんな妄想が僕の頭の中をよぎった。

少し気になったので、その名前をネットで検索したが出てこなかった。

偽名か?

いかにも、裏の世界と関わりのありそうな名前だ。。


30分後、またあたりが騒がしくなった。

「女性社員の××さんが、さっきの電話で自分の名前教えてしまっていて、○○サービスからさっきの女を出せっていわれてるんです。」

そう近くで女性社員が話していた。

「随分、しつこいな。よほどうちの会社にうらみがある人なんだろうか?それとも、その筋の人はここまでやるものなんだろうか?」

隣の女性社員の人に、

「なんだか、訳分からないですねえ」と話かけると

「ほんとだよ。うちの社員でそんなことする人なんかいないだろうし。。あれかな?今、よく名簿とか情報が流出していてそこからうちの会社知ったのかな」

うちの会社にうらみがあるやつか、それとも。。

「ああ、そういえば。この前不動産屋で家探したとき、会社の名前と電話番号書いて、次の日めっさ電話かかってきたけど無視してたなあ。。まさか、、ね。」

少し、不安になってきた。


そんなときまた、電話がかかってきたのか周りがまた騒がしくなった。

今度は、職場の責任社らしい人が電話をとっていた。

「いや、そんなこといわれてもね。。おたくの電話番号教えてくださいよ。教えない?なんで?いや、そんなこといわれても。。おたくに誰が電話かけたかなんてこっちが知る訳ないじゃないですか。。え、△△?ああ、うちにいますけど。。」

実際、職場にいる社員の名前が出てきた。

一体どういう事だろうか?さっきの女性社員がいってたように卒業アルバムか何かから情報が漏れたのだろうか?それとも、実際にあの人がその○○サービスとなんらかの関係があって、職場まで電話してきたのだろうか?

段々、仕事が手につかなくなってきた。


数分後全てが解決した。

その、△△さんはたしかに、○○サービスと関係があった。

その日の朝、△△さんは○○サービスに電話をかけた。

たしかに、数回にわたって電話をかけている。

会社の電話で。

これで、どうして○○サービスがうちの会社の電話番号を知っていたかの謎は解けた。

彼は電話をかけたものの、よく音が聞こえず途中で電話を切ってしまっていた。

彼は何のために電話をしたのだろうか?

近くまで来た彼は青い顔をしてこう言った。

その驚くべき理由を聞いて、皆驚愕した。


「いや、うちの水道の調子が悪いんで、直してもらおうと思って。」


そう、○○サービスは配管屋さんだったのだった。


彼の何気なくとった行動が、僕の退屈な日常を打ち破ってくれた。

しかし、配管屋さんとはとても恐ろしいところだと、トイレを使いながら改めて考えさせられる話であった。

古い町並み。

聞こえてくるのは自分の足音だけ。

そんな場所で、一件のらーめん屋があった。

中に入るとあまり客はいなくどこか場末の漁村かなんかにきたような錯覚を覚えた。


新しいらーめん屋を開拓するときに、一応決まり事がある。

それは、らーめんとチャーハンか餃子を頼むこと。

それで、その店の味が分かる。

僕が座ったカウンター席の斜め前に、かわいい女の子が座っていた。

高校生かな?その店の娘か、バイトだろうか?


そんなことを考えているうちにチャーハンがきた。

量はすくなくて、肉がはいっていなかったけど、とてもなつかしくて香ばしい味がした。

それを半分ほど食べ終わるとラーメンがきた。

これもどこかで食べたことがある?

どこだったか。。

ああ、そうか。

スガキヤ。

落ち着く。


食べ終わって、お会計をしにいくと

さっきまでラーメンを食べていた子がカウンターにいた。


ありがとうございます。

といわれたので、どーもといった。


お腹が一杯になった帰り道はやはり自分の足音しかしなかった。

「サーフィンをやりたいな」

喫煙所でそう言ったら

「波には乗れたとしても、お前人生の波に乗れてないやろ」

そういわれた。


「なんかいい事ねえかなあ」

その人が喫煙所でそういっていたので

「幸せの青い鳥ですよ」

といってあげた。


「あの人すごいですよねえ、若いのに家建てて結婚して、必死に生きてますねえ」

喫煙所でそういってたら

「おお、俺らみたいに死なないから生きてるのとは違うわな」

そういわれた。


「あの人のだめなところわな、知識はたくさんあるが、その引き出しの開け方が下手やねん。

夏に暑い暑い言ってるやつに、毛皮のコート渡してるようなもんや。

相手の要求に対して一番上等なもの(知識)で返してるつもりやねんけど、相手としたら「はあ?」って感じやろ。」

その人は喫煙所でそういってたので。

「ああ、たしかに」

少しなるほどなと思った。


喫煙所は煙とともに、とんだお宝を人が吐き出す憩いの場。

喫煙所にいる時間。仕事はその合間、合間にやるだけ。

そんなスローライフ。







沈黙は金だ。


男はいつも黙っている。

自分から人に話しかけるような事はしない。

なぜなら、男には抱えている悩みがあるからだった。


男は小さい頃から抑圧された環境で育ってきた。

教育ママ、習い事、転勤、進学校。

優秀であることを求められすぎた男は、ある日を堺に自分を変えた。

抑圧、強制、期待と言ったものから自分を切り離すために、

人とは接しないように勤めた。

また、自分ができるという事を悟られないために、わざと不器用に振舞った。

そして、人がそれでも強制、抑圧を強いてきたときには無言を貫き通した。

余計な抑圧を増やさないよう勤めた。

元々に優秀な彼は金をそこそこ稼ぐようになっていた。


そんな中で、彼は会社の中で好きな人ができた。

彼女はおとなしい人だった。

会社の中でも、あまり話しているのを見たことがなく、

沈黙を愛する男は、次第に親近感を覚え始めていた。

しかし、口下手な男は自分から話かける事ができなかった。

「ああ、彼女と会話がしたい。彼女ならこの沈黙を破ってくれるのではないだろうか?」

そう思っていたある日、偶然彼女から声をかけてきた。

「ねえ、今度一緒にご飯を食べにいかない?」

作り話のようだった。


そして、後日男は一緒に食事に出かけた。

男は幸せだった。

「ああ、俺にもようやく人並みの幸せが訪れたのだ。。人を少しだけ信じてみよう。。そうしよう。。」

食事も終わって、彼女は切り出した。

「実はね、今日私はあなたに重要な話があるの。。」

男の胸の中はバクバクだった。

ハンドバッグの中から女が出したものを見るまでは。。

「ねえ、あなたって神様って信じる?」

パンフレットだった。

そう、昔から男は新興宗教やマルチの勧誘を良く受けるオーラを発してたのだった。


「信じない。。」

「もう、誰も。。」


帰り道、金で女を買った。

男は思った。

「金は嘘つかない。なぜならいつも黙っているからね。。」

沈黙は金なり、金は沈黙なり。










一人、寂しく映画館で映画を見る。

ラブストーリーを見た。


別に、役者の演技がいいからとかじゃなく

話が素晴らしいからとかじゃなく

分かっていた事、

心の奥底に無理矢理しまいこんでいた事、

それが、びっくり箱を開けたかのように

自分の外に出てきた。

ただ、それだけの事。


自分の内側がスクリーンの中でカラカラと音を立てて動いているよう。

いつの間にか自分が本当に欲しいものが分からなくなっていて

どこかに置いてきた自分の事

それに気がついただけ。


妄想の中のあの子は、いつも誰かに姿を変えて

自分はそれをいつも見る事しかできない。

追っては逃げて、逃げては追ってくる影法師。

いつになったら、影を踏む事ができるのかな。


自分はいつも紙粘土のように形を変えているけれど、

いつの間にか、本当の形を忘れてしまっていたのかな。


ちょっとだけ寂しい

ただ、それだけの事

それだけの事なのに、涙が止まらないだけ。



不思議なほど、不思議なほど。


空から落ちてくる雨粒が、再現なく振ってくる夜に。


目をつぶって、ベッドに横になっていると雨粒の音が段々ざらついてきた。


ざらざら、ざらざら。


ベランダに出て、柵のスキマから手を伸ばしてざらざらと音のするその粒達に触れてみた。


手の中で、その粒達は集まって一つの大きな塊になった。


手を揺らして、その塊を揺らしていると渦に変わった。


いつの間にか自分は渦の中にいた。


上を見上げると、巨大な自分が自分を見下ろしていた。


「ああ、なんて大きな自分。。」


自分の手を触ると、ざらざらした。


気が付くと、トイレの中で座っていた。


「キャビア食べてみたいな」


便器の中には、排泄物を流した後の渦ができていた。



おなかが空いた。

何か食べ物を口にいれなければ。。


横になっている自分から、手に届く位置にしょう油があった。

「舐めよう」

指に一滴、二滴垂らし、その指をねぶり倒した。

まるで、ホームランバーをむさぼる小学生のように。


その行為を数回繰り返すうちに、指はふやけてふにゃふにゃになってしまった。

その指を見ているうちに、内から衝動が沸き起こってきた。

「食べてしまえ。。」


次の瞬間、口を大きく開けてそのふやけて魚肉ソーセージのようになった指をくちの中に入れた。


。。


気が付くとベッドの上だった。

見知らぬ部屋の中に、一人。

指には包帯がぐるぐる巻きに巻いてあった。


「ああ、そうか。。昨日トランクに指をはさんだんだったわ。そんで彼女の家に泊まったのか。。」


彼女がトイレから出てきた。


「お腹空いたー。。」

「あっ、そういえば、この前実家から魚肉ソーセージ送ってきたんだった。私の大好物の。。」


しかし、その魚肉ソーセージは自分が昨日彼女が寝ている隙に食べたのであった。


「私のソウルフードがないわ。。あなた、もしかして。。隠しているんじゃないの??」


自分の服の中をまさぐられ、口の中をこじ開けられ、最後にはぐるぐる巻きにしていた包帯がほどかれた。

すると、中から汗でふやけて魚肉ソーセージのようになった指がでてきた。


「いただきます。」

そう耳元で聞こえた瞬間、意識が途絶えた。


目が覚めると、自分の部屋で寝ていた。

指はなんともない。

夢を見ていたようだった。

安心したら、お腹が鳴った。。


「お腹が空いた。。何か口に入れなければ」


手の届く位置にしょう油のビンが置いてあった。



あるところに、一人の美しい女の子がいました。


年頃になる娘は恋人が欲しいと、日々やきもきしていました。


彼女が求める男性の理想像は、強く、たくましく、心優しく、金持ちで、男前でなければならないというところでした。


そんなある日、三人の男が現れました。


一人目の男は低い声の持ち主でした。顔は不細工でした。


「俺は、金を持っている。だから、君を経済的に困らせることなど絶対にしない」と言って口説きました。


二人目の男はとても高い声の持ち主でした。顔は平均的なしょうゆ顔で、,性格は最悪でした。


「俺は、格闘技でプロを目指している。俺は絶対に君を他のやつから守り通してやる。ついてきてくれ。」といって結婚しているのを隠して口説きました。


三人目の男は、しゃがれた声の持ち主でした。ダメ人間ですが、とても男前で心優しい男です。


「俺には、特技も、金も、力も何も無い。でも、君の側にずっといつづけるよ」といって口説きました。


女の子は、全員のバランスの悪さに困りました。


返事を保留している間に女の子は、出来心で虫眼鏡で太陽を見てしまい、その目は光を失ってしまいました。


「ああ、私には、この耳、そして手の感覚しか残されていないのだわ。。しくしく。。」

「しかし、恋人は欲しい。もう、、どうでもいい。あの中の誰かに返事をしなければ。。」


彼女は一人の男を選びました。


そう、一人目の不細工な金持ちです。

二人はいつしか結婚まで行き着きました。


「やはり、目が見えなくなったので。不細工なところは気にならなくなりました。お金持ちの方が将来安心だし、

あと、低い声って聞いてるとアルファ波がでるのかすごい落ち着いたのが、要因でした。」

と後日彼女は述べています。



帰り道。


僕は、とまどってしまう。


数歩先に、女の人が一人。


とても、好きだったあの子にそっくりな人。


でも、その人はあの子ではない。


あの子と初めて会ったとき、僕は彼女にとても好きだった、さらに前のあの子を重ねてしまっていた。


さらに前のあの子に初めて会ったとき、僕はさらに前のあの子の面影を見ていた。


一番最初に会ったあの子に僕は何を重ねていたのだったろうか?


その目の奥、身振り、雰囲気、その中に自分の中にいるあの子を重ねていたんじゃないかと、


自分の中にいるあの子はこうして今日も姿を変えて僕の目の前数歩先を歩いている気がする。