一人の青年がいました。
一人でいる事が好きな青年。
彼は、その理由に気が付いていたのですが
その理由に気が付かないように今まで過ごしていました。
とある小さな中小企業で働いている彼の職場に隠者のような同僚がいます。
その、世捨て人なかれを”ファウスト博士”と青年は密かにあだ名をつけていました。
いつも一人で鬱々としているファウスト博士に、青年はどこか自分と近いものを感じていました。
ある日、仕事が終わった後青年は暇だったのでファウスト博士に話かけてみました。
「暇だったら飲みにいかない?」と
すると、ファウスト博士は言いました。
「いいよ。」
近所のチェーン店の居酒屋で二人は話しこみました。
鬱々としたファウスト博士は少し酒が入っているのかいつもより饒舌になっていてこんな事を言い始めました。
「知ってるかい?個人に人格があるようにね、集団にも人格があるんだよ」と
さらに続けて、
「まあ、なんていうのかな。。例えば、テレビのバラエティ番組でさタレントとか芸人が集まってるじゃない?あれで一つの集団として考えてさ、あの集団には目的があるわけだよ。なんだろうねえ、場を盛り上げるって事かな?恐らくさ。それで、その目的の為にあの中の構成員は一つの部品になるんだよね。その場を盛り上げるという目的のために役を演じるわけだよ。裸で踊りまくって踊る芸人とかさあ、仕事以外では根暗な青年で政治の話とかにも的確な意見を述べちゃったりするかもしれないしねえ」
さらに酒を進めながら続ける
「まあ、なんだ。関係あるかは知らないけど、人は集まりたがる生き物なんだよね。僕が思うに。例えば、アメリカに移住したばっかのアジア人とかさ、何故か知らないけど集まるわけですよ。中国人とか、ベトナム人とか、カンボジア人とか国籍関係なく。それで、料理が得意なやつはレストランを、手先が器用なやつは貴金属の店をやったり、それで商工会議所とか自前で作って、一つのコミュニティを作る訳さ。ネットでもミクシイだっけ?人が集まっているでしょ、意味も無く。」
ファウスト博士の周りには中ジョッキが4つ程並んでいる。
「まあ、あれだぁ。不安なんだろう、寂しいんだろう。一人でいる事で生きていけない事を本能的に知っている訳で、生身だろうとバーチャルなせ界だろうと自分を確認するためにどこかのコミュニティに入ろうとする。まあ、そこまではいいと思う。でもさ、ある時期からいやもしかしたら最初から自分がどうしてそのコミュニティにいるのか分からなくなってしまうのではないかな?人が集まりだすとそのコミュニティの秩序を守るためにルールのようなものができて、コミュニティから追い出されないために寂しくならないようにそのルールをがむしゃらに守る毎日になってしまうのではないのかな?目立つことはしない。みんなと同じように行動する。愛想よく振舞う。そういう意味ではそういう事はとても自然な行為だと思う。」
いつの間にか、日本酒の2合瓶が机に並んでいる。
「それでさ、いつの間にか自分が消えてしまうんだよ、個人としてのさ。集団の人格に沿うような形の自分ができあがってくるんだよ。ルールから逸脱しないね。企業だって、宗教だって、国だって、村だって、部活だって、学校だって、基本は同じなんだろうねえ。中にいる一人一人のエネルギーをさ、集団は吸い取ってどんどん大きくなって広がって行こうとするんだよ。集団の中にいる個人は良い事をしている。世のため人のために最高の事をしていると思っていても、集団という単位で見たら被害を拡大させているかもしれないとも思う。環境汚染とか、宗教の勧誘とか、国が起こす戦争とかさあ極端な話。」
日本酒がいつの間にか空になっている。
「なんだ、結論として僕が出した答えはさ。”人は集まるとろくな事しない”
これに尽きると思うよ。それぞれ個人で自分の世界の中で生きていくのが平和やね。
僕が何か宗教始めるならそれを教義にするし。多分、信者は集まらんだろうけど」
この日は、ファウスト博士の独演を聞いて終わった。
ただ、最後に一言彼は僕に対して
「まあ、教えて欲しかったんだろう?自分の中の違和感をさ。
多分、誰でも良かったんだろう?」
次の日またいつものように一日が始まった。