高校生から大学生のころ、山田太一は最も好きな脚本家だった。その山田太一が89才で亡くなられた。

 

<ネットより>


山田太一の脚本で最も好きなのはNHK土曜ドラマで放送された「男たちの旅路」シリーズ(全13話)だ。大学生の頃に川崎で1~2回くらい山田太一さんにお会いしたのが遠い記憶になっているが、その場でこのドラマのエピソードを聴けたのは嬉しかった。山田太一が鶴田浩二の元に取材に出掛けて、ガードマンの役が合いそうだと考えたとか。もしかしたら同席していたプロデューサー氏のトークとごっちゃになってしまった部分が混じっているかも知れない。

 

「車輪の一歩」で自宅に押し掛けてきた斉藤洋介(車椅子の青年)に対して、鶴田浩二(吉岡司令補)が伝えた言葉「君達は迷惑を掛けてもいいんじゃないか」は意表を突いた科白だった。ラストに斉藤とも子がか細い声で助けを求めた、助けてもらえたシーンも焼き付いている。「人に迷惑を掛けてはいけない」が常識でありいかにも逆説的な主張だった。けど、あれから40年が経って「家に引っ込んでいろ」なんて発想はなくなっただろうし、老人や障碍者など社会的弱者に対する理解は進んできた筈だ。一人で大変なことを手伝ってもらうのは決して非難されるものではない。現在から振り返って考えると、先見性があったんだと思う。

 

ただ、笠智衆らが立て籠もった「シルバーシート」に描かれたの寂しさは変わっていない。令和の世の中で建物こそ清潔で綺麗になったものの虐待問題が繰り返し報道されており、むしろ人と人との接点は細くなっている。

 

「廃車置場」で「仕事(警備する職場)を自分で選びたい」と言い出すナマイキな新人警備員の鮫島(柴敏夫)の話を聞き、社内で揉めそうなのを承知で許した鶴田浩二の勇気も立派だった。規律と協調性ばかりが強調されてきた社会が活力を失うのも当然で、ISO取得もそれが目的化した社会だとなかなかに窮屈だ。30年の停滞を経て、あの主張が一部の社会人には有効なんだと認識されてきたんじゃないか。

 

このドラマに関連したブログをこれまでに何本か書いている。

※参考ブログ

・NHK「男たちの旅路」第2部、第3部

 

 

・第2部から登場した鮫島壮十郎(柴俊夫)

 

・「車輪の一歩」の斉藤洋介

 

このシリーズの後で緒形拳をタクシー運転手に仕立てた「タクシーサンバ」(全3話)も放送された。子供の頃だったのでほぼ覚えていない。どうしてももう一度見たくなって10年くらい前にまとめてDVDを買った。だいたい私が買ったドラマDVDはここに載せた以外だと、綾瀬はるかの「ホタルノヒカリ」だけだ。

 

<山田太一作品のDVD(2)>



こんな科白を云わないだろう、そんな尖った言葉を俳優に喋らせるのも山田太一だった。タイトルを思い出せないが岸恵子と米倉斉加年が出演していたドラマにそんなシーンがあった。TBS「岸辺のアルバム」は見ていないが、尖ったシナリオだけは読んでいる。

 

※参考ブログ

・八千草薫と言えば山田太一作品

 

・代表作はTBS「岸辺のアルバム」

 

・NHK「シャツの店」も山田太一の脚本

 

TBS「想い出づくり」も先にシナリオで読んでおり、大学5年生の頃に10:30から再放送していたのをシッカリ全部見た。結婚式場に花嫁が立て籠もってドタキャンするなんてあり得ないシーンも山田太一ならブッ込んでくるのだ。タイトルを覚えていないけど東北に逃避行する笠智衆が、藤原釜足と囲炉裏を囲んで優しい眼差しで沈黙の演技をするシーンも記憶に残っている。

 

フジ「早春スケッチブック」は山崎努の暑苦しい男の存在だけでドラマが成立していた。自分の子供に「ありきたりの生き方をするんじゃない!」と扇動されたら親としては迷惑この上ない。それでも役者に語気強くそう喋らせるのが山田太一だった。ちなみにこのドラマで鶴見慎吾が高校生の役を演じていた。

 

※参考ブログ

 

勿論、全ての作品が好きだったわけでもない。大学生の頃に「山田太一ドラマサークル」に入っていて、笠智衆が主役をしていたNHK「冬構え」についてはあまり好意的な感想を書けなかった。倉本聰の「ライスカレー」の時任三郎と中井貴一は良かったけど、TBS「ふぞろいの林檎たち」は入り込めなかった。アンチをあまり強調するのは好きでない。大河ドラマ「獅子の時代」の脚本執筆はかなりキツかったと伺ったが、あれは視聴者としても単調で辛くてリタイアした。

 

近年だと、東日本大震災をテーマにしたNHK「キルトの家」は重苦しいトーンだった。震災を描くにはNHK「あまちゃん」の宮藤官九郎みたいに底抜けの明るさが同居していないと視聴者としても心のバランスが取れなかった。

 

2017年に早稲田大学演劇博物館で開かれていた「TVドラマ博覧会2017」と併設されていた「山田太一展」で撮った写真は上記いくつかのブログに埋め込んでいる。そこには山田太一に光を吹き込まれた役者の姿が並んでいた。鶴田浩二、八千草薫、杉浦直樹、笠智衆、山崎努などなど。水谷豊と桃井かおりだってあの頃は若造だった。

 

倉本總や向田邦子などと一緒に活躍していた時代が終わり、90年代には北川悦吏子や西荻弓枝、大石静、井上由美子の脚本が好きだった。21世紀になると岡田恵和(NHK「ちゅらさん」)、森下佳子(綾瀬はるかのTBS作品いろいろ)、宮藤官九郎(長瀬智也のTBS作品とNHK「あまちゃん」)、木皿泉(日テレ「すいか」や日テレ「野ブタ。をプロデュース」)か。三谷幸喜は大コケ作品もあるのでちょっと苦手かも。

 

ともかく脚本家のクセが如実にTV画面に現れた(伝わってきた)重厚なドラマはやっぱり山田太一の作品が良かった。