1977年に初回放送されたNHK「男たちの旅路」第三部は何度も喰らいついて見ている。それでも5/26の再放送を新鮮な気持ちで見られた。

 

註:ドラマの科白を正確にトレースできていないが、そこはご容赦下さい。

 

<鶴田浩二> ※DVDボックス裏面より

 

●第1話「シルバーシート」

物わかりのいい老人4名が都電ジャックをしでかす。日頃からフツフツとやり切れない思いは溜まっていたのだろう。自分達が雑に扱われているんじゃないか、それはオカシイんじゃないかと。

 

「私らは捨てられた人間です。

 同情してもらえても敬意を表してくれる事はない。

 何かを為してきた人だ。

 それで尊敬されてはいけないのか。

 使い捨てられていくだけじゃないのか。

 いずれあんたも同じだ」

 

笠智衆ら老年期の俳優4名が淡々と科白を重ねていく。加藤嘉が「私らの要求が何か分かるかね」と迫る表情も凄みは消えているのでそれが逆に後を引くものになっている。

 

事の発端は陽平(水谷豊)と悦子(桃井かおり)の対応にある。2人が空港で冷たくあしらってしまった老人(志村喬)が亡くなり、後ろめたい気分のあった2人は笠智衆や藤原釜足が住む施設にお悔やみに行く。そこで2人は軽率にもお金を渡してしまう。年寄り4人が水で酔った振りをするのは切なすぎるけど、カネで昇華するのはマズかった。

 

陽平からその話を聞いた吉岡司令補(鶴田浩二)はストレートな違和感を口にしなかった。彼はその行為が失礼なものだとすぐに察していたはずなのにだ。

 

第一部のように突発的に殴らなかっただけ冷静に振舞うようになれたのか。まさかそんな事はないだろう。内心では呆れかえりつつも、シナリオ上は黙って保留するしかなかったのだろう。都電ジャック騒動に駆け付けた夜「老人たちの真意が分からない」と言っていた場面は第二部までの吉岡より鈍く感じた。まあ朝まで待つのは興奮を鎮めるので正しいだろう。

 

それは目上の人への敬意とか忖度だったのか。それでも誠意ある説得の末、最期にはキッパリと言い切る。

 

吉岡「私は間違っていると思う。みなさんは甘えている。押入に閉じ籠った子供と同じだ」

老人たち「あんたの云うのは理屈だ。これは老人の要領を得ない悪あがきだ」

吉岡「それでもヤルべきじゃなかった」

 

正論は正論だ。それでも視聴しているこちらも年齢を重ねてきた事で笠智衆の言葉がどんよりした波のように重くのしかかってくる。


「年寄だから、じゃなくて1人前に扱ってもらえない。自分を必要としてくれる人がいない。年寄の無念は分からん。あんたの20年後だ」

 

事件が解決して4人で都電に乗っているラストシーンでも、重苦しい空気に包まれていた。吉岡だって「私は覚悟ができている」とは言ってみても未だそこにリアリティはないはず。視聴者だってみんな他人事なのだ。でも誰もいつかは老いる。

 

山田太一はこのドラマの後で、NHK「冬構え」、「ながらえば」など笠智衆を主役に据えた脚本を何本か書いていた。当時はどうしてこういう作品を書くのか理解できなかった。


でも気が付くと40年後のいま、日本は超高齢化社会になっており、こうした思いに苛まれている人は多いはずだ。そうした共感力ってどこから出てきたのだろうか。

 

<各話の名シーン> ※DVDボックス裏面より

 

●第2話「墓場の島」

吉岡司令補はハードネゴだ。クビを告げられた陽平に「落ち度がなかったのならなぜ抗議しなかったんだ!」と焚きつけて2度も高松英郎夫の元に突き戻す。

 

また、マンションを訪ねて根津甚八に「フェアじゃない」と言い、でも番組収録の直前には「引退したまえ」と迫る。「あそこまで言った以上は引退すべきだった」は尤もだけど、武士に二言なしを実践してくるところが厳しくもあり、これが正しく吉岡司令補。

 

根津甚八も水谷豊と同様に精悍な顔つきをしている。40年前と現在で俳優の顔つきがあまりにも変貌した事に改めて驚かされた。

 

●水谷豊のテンション

第三部の1話、2話では陽平がとにかく賑やかい。これは第二部のテイストよりも際立っている。第二部では柴俊夫の登場でピエロのような役回りに下がっていたが、第三部ではまた吉岡との対立軸として重心が戻ってきた。

 

それとテンションが高いからこそ次の「別離」が切なくなった。

 

●第3話「別離」

子供の頃に初めて見た時は、あまりに衝撃的な「別離」の回だった。

 

でも今改めて見ると、「ゆえあって独り」だった吉岡司令補が恋に堕ちたのは本当だけど、悦子の気持ちはどこまでホントだったのか分からない。やっぱり陽平に負担を掛けたくなかったのが先ではないか。

 

「私を雇ってくれない……。帰りたくないの、一人の部屋に」

 

そうすがる悦子の心境はどう変っていったのか。この回はカチカチに堅い吉岡司令補が看病と献血で献身的になった姿もあるけど、やっぱり蕩けた話なんだろう。

 

いつもの吉岡司令補なら親族と葬儀屋の軽率な会話に正論をぶってもおかしくない。そのシーンでも沈黙を貫いていたのだ。

 

●このシリーズは全13話

今回の再放送はこれで終わりみたい。残念ながら第四部とスペシャルはなさそう。今回見逃した第一部も含めて、2023年現在でもう一度DVDを見直しておきたい。

 

※参考:第二部の感想