なんと、あの名作ドラマ「男たちの旅路」を再放送しているじゃないか! 鶴田浩二と山田太一がタッグを組んだこのドラマはNHK+民放の全ドラマの中で個人的にはベスト1。

 

<DVDボックス(2)>



このシリーズ全13話には桃井かおりの「非常階段」、笠智衆や藤原釜足が都電に立て籠もる「シルバーシート」、斉藤洋介の「車輪の一歩」など名作がいくらでもある。

 

※参考ブログ

 

私は大学生の頃にそうしたサークルに入っていたし、その縁で1~2度ほど川崎で山田太一氏とお会いした事がある。個人的にはDVDボックスを買っているのでいつでも見られるんだけど、やっぱり緊張感ある環境で見たい。

 

と言う事で5/19は1970年代末にタイムスリップした。とにかく橋爪功も長塚京三も若い。何と言ってもコレ1977年の映像なんだから。

 

●第1話「廃車置場」

この回で鮫島壮十郎(柴俊夫)が初登場。代々木のオリンピックスタジアム前で陽平(水谷豊)を軽く挑発する場面から始まる。「仕事(警備する職場)を自分で選びたい」と大胆な要求を呑ませようとする中途入社組だった。この設定自体がいかにもあり得ないけど、これこそ山田太一がやりそうでもある。

 

その想いを聞き入れる吉岡司令補(鶴田浩二)と社長(池辺良)も大した大物。ただ、無茶な要求を通して、雨の中で歩哨するのを「馬鹿げている」と職場放棄しても寛大に接する。

 

その先が吉岡司令補の真骨頂。警備エリアの外で起きた痴漢騒ぎに踏み込まなかった事で、鮫島に川原でビンタを喰らわせる。

鶴田:「何故はみ出さなかったのか! (カバン屋が近くにない場合)靴屋だからカバンを直せんと断るのか!」

 

これらの科白は強烈だ。正しい。正論は正しいんだけど、あまりに尤も過ぎて相手に全く響かない場合もある。今のようなSLAとかISOでがんじがらめになった時代には余計に響く。困った時に新宿西口の量販店に出掛けても「ウチではこうした業務はやっておりません」と言うのみ。販売する事だけが仕事だと無表情に能書きを垂れてくるのは困ったものだ。でも、鮫島がしっかり響く男で良かった。チャラチャラした陽平を隣りに置いておくので余計に対照的に映るのがいい。

 

子供のころに初めて見たこの回は、大人になってもずっと記憶に残っていた。なので、Amebaブログを書き始めるようになった頃にも、「鮫島壮十郎」ってタイトルを付けて記事を書いた事がある。

 

※参考:2018年秋ブログを始めたばかりの文章

 

●第2話「冬の樹」

この回はストーリーこそ忘れていたけど、鶴田浩二と若い女性が深夜のタクシーに乗っているシーンだけポワンと記憶の片隅に残っていた。

 

事情が分かるにせよ、やっぱり女子高生が警備会社の中年男の家に押し掛ける場面設定が現代だと異常だ。山田太一の脚本だからこそ許される。「車輪の一歩」でも斉藤洋介が車いす姿で押しかけている。

 

でも、若者の心をキチッと捉えていると分かるからこそ、彼女は和室一部屋だけの吉岡司令補の家に来るのだった。その彼女にこう問いかける。

鶴田:「倒れてもいいから歩いてみようとは思わなかったのか」

 

吉岡の行動力は凄い。クレーマーである彼女の親に対しても直線的な言葉をぶっこんでいく。

鶴田:「態度が決まらんとは生き方が決まっとらんと言う事。娘が帰ってきた時に抱きしめてやるのか、それとも叩くのか」

 

自分の戦友達は無為のうちに死んでいったのに特攻隊の生き残り、戦中派として生きながらえている。だからこそこうした科白をストレートに告げられるのか。この戦中派としての熱い思いと虚無的な匂いが同居した姿は吉岡司令補と鶴田浩二に重なるものだ。そんな話を山田太一氏から聞いた事がある。ドラマの主役が先に決まり、彼にどんな役柄を嵌めると相応しいのか事前に鶴田浩二にインタビューしたと聞いた記憶がある。

 

●第3話「釧路まで」

これも池辺良が登場した回。クメールの秘宝を積んだフェリーの航行を33時間に亘って警備する話。あの頃って東京~釧路航路ってこんなに遠かったのか。私が初めて航路を使って北海道旅に出た10年くらい前の大洗~苫小牧が17時間くらいだった。その船上でやっぱりこの「釧路まで」を思い出していた。

 

ただ、ここの見どころはフェリー船長役の田崎潤との同時代性で共感を得ながら警備に当たっていた姿じゃないか。

鶴田:「あんな若者とは違います」「思う所あって独り」

 

2人が遠い目をしながら昔を思い返している映像が記憶に残った。この2人は若者に対する苛立ち、物足りなさを同じように感じていた。それは「非常階段」(第1部第1話)で吉岡が桃井かおりに「ギリギリまで生きているのか!」と喝を入れていた場面ほど露骨で激しいものではない。それでも抱えている想いはずっと変わっていない事が伝わってくる。

 

●哀しそうな眼差し

この「第2部」3作品を何度も見ている。これまでは気が付かなかったけど、どの作品でもラストシーンの鶴田浩二はいつも哀しそう、淋しそうな眼をしていた。戦争の話題にリアルに向き合っていくのは最終作「戦場は遥かになりて」だけど、ずっとそうした設定だったのか。

 

いつも陽平のアホで賑やかな言動で紛らわせていたけど、あの木造アパートに一人でいる時にはいつもそうした想いに苛まれていたのか。そんな映像の外側に初めて意識が及んだ、そんな40年後の再放送だった。

 

●第3部第3話「別離」への伏線なのか

「冬の樹」では、腕の怪我をして休業中の桃井かおりが吉岡司令補の部屋に遊びに来るシーンもあった。

例のナメた口調で喋りかけると、吉岡司令補が「礼儀は理屈じゃない。守ればいいんだ」と彼女をパシッとたしなめる。昼間の顔そのままで、オフの場面でも態度が変わらないのだ。でも上司の部屋に遊びに来る時点で「別離」(第3部第3話)に至るムードが漏れ出していたって事なのかも。

 

●次の再放送は5/26夜

今週末5/26は第3部の再放送。笠智衆の「シルバーシート」、根津甚八の「墓場の島」、そして鶴田浩二が蕩ける「別離」の3作品だ。また吉岡司令補の言葉に浸ろう。

 

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「男たちの旅路」第1部から第3部までBSプレミアム・BS4Kにて一挙放送

昨夏放送し好評を博した、脚本・山田太一×主演・鶴田浩二の名作が、かえってくる。世代間の対立を描いた重厚なストーリーと心の機微に触れる名台詞を、どうぞお楽しみに。

「男たちの旅路 第3部」

2023年5月26日(金)

午後8時15分から午後11時55分 3話連続放送

第1話75分 第2話70分 第3話75分

BSプレミアム BS4K 同時放送

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https://www.nhk.jp/g/blog/0nod7hrdc4za/