武侠小説について | 文学どうでしょう

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みなさんは、武侠小説(ぶきょうしょうせつ)というのをご存知ですか?

この記事は、ブームが起こりそうで全然起こらない武侠小説を猛烈にプッシュして、武侠小説ファンをじゃんじゃん増やしちゃおうという、そういう目論見の元に書かれたものです。

武侠小説を簡単に言えば、カンフー+時代小説です。歴史的な出来事を背景に、武術の達人たちが、伝説の奥義書を奪い合うなど、様々な戦いをくり広げるというジャンルのことを指します。

少林寺や武当派、華山派など、様々な技を持つ派閥に分かれ、何らかの原因で争うことになってしまうというのが、基本的なストーリーラインとなります。

この記事は2つのトピックからなっています。

◆ 古装片――武侠映画について

◆ 三大家――金庸、梁羽生、古龍

古装片――武侠映画について


ぼくが武侠小説と出会ったきっかけを書くと、初めはやはり映画でした。

カンフー映画と聞くと、コミカルで楽しいジャッキー・チェンか、或いはシリアスで本格的なブルース・リーが真っ先に思い浮かぶだろうと思いますが、古装片(こそうへん)と呼ばれるジャンルがあるんです。

簡単に言えば、時代劇のことです。ただ、単なる時代劇ではなくて、武術の達人が多く登場することにその大きな特徴があります。

中でも一番印象的なのは、軽功(けいこう)と言って、人間が空を飛ぶこと。スーパーマンのようにではなく、気の流れで身を軽くして、空を駆けていく感じです。

一番知名度の高い映画で例をあげるなら、アカデミー外国語映画賞を受賞した、アン・リー監督の『グリーン・ディスティニー』(2000年に公開)でしょうか。

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ワイヤーアクションを見事に使った斬新な映画でした。何でもあり感満載の香港映画とは少し違い、娯楽作ではなく、芸術性の高い作品になっています。

ちなみに、ぼくが武侠映画に興味を持つきっかけになったのは、ツイ・ハーク監督の『天空の剣』(1983年公開、日本での公開は1987年)です。

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ユン・ピョウ演じる主人公が剣の達人に弟子入りし、魔王と戦うという物語で、映像こそチープなものの、コミカルとシリアスのバランスが絶妙で、壮大なスケールの映画です。

これはもう目茶苦茶面白いので、全力でおすすめします。

『グリーン・ディスティニー』の原作の王度廬の『臥虎蔵龍』も『天空の剣』の原作の還珠楼主の『蜀山剣侠伝』も日本ではまだ翻訳がありません。その内出るといいですね。

でもまあ分量が多いこともあって多分出ないので、中国語を勉強して原書で読んでやろうと思ったり思わなかったりです。

大学生の時に、ぼくは古装片にハマって手当り次第に観ていたんですが、ある時初めて知るわけです。

「えっ、なになに、原作あるの?」と。ちょうど武侠小説で最も有名な金庸の全作品の翻訳が徳間書店から始まり出した頃のこと。

そうしてぼくは金庸作品に出会い、武侠小説を読み始めることになったのでした。

ちなみに、武侠映画に興味を持った方におすすめなのが、『武侠映画の快楽』という本です。新しい時代の武侠映画を知るのには一番いいだろうと思います。

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他にも何冊かおすすめしようと思ったんですが、絶版でした。香港映画について書かれた本は、今ではほとんど絶版になっているのが、なんだか切ないですね。

武侠映画からは少し離れますが、折角なので、おすすめのカンフー映画の記事も書いておきました。興味があればそちらもぜひ。→5作品で分かる! カンフー映画特集

三大家――金庸、梁羽生、古龍


中国と言えば、個性豊かな武将がそれぞれの国のために戦いをくり広げる『三国志演義』や、梁山泊の108人の豪傑たちの活躍を描いた『水滸伝』がある国。

武芸の達人を描く物語は脈々と受け継がれて来たわけで、武侠小説自体は元々あったようです。

しかし、武侠小説に近代的な新しい要素を次々と取り入れて、革新的なジャンルにしたのが、三大家と呼ばれる金庸、梁羽生、古龍です。

金庸と梁羽生は香港、古龍は台湾の作家です。

【金庸】

金庸は映画化された作品も多く、『秘曲 笑傲江湖』を原作にした『スウォーズマン』シリーズが有名です。

サミュエル・ホイが主演の『スウォーズマン/剣士列伝』よりも、その続編で、ジェット・リー主演の『スウォーズマン/女神伝説の章』の方がよく知られているかと思います。

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この映画には、「東方不敗」という恐るべき敵役が出て来るんですね。

「東方不敗」は元々は男ですが、技の修業のために去勢して、女のようになったという人物で、原作に比べて映画では美しいキャラクターとして登場し、女優のブリジット・リンが堅固かつ妖艶に演じています。

ちなみにぼくが香港映画で一番好きな女優が、主人公の妹弟子役を演じたミシェル・リーです。かわいくて、ちょっとわがままで、でも一生懸命な感じがすごくいいです。

「ぼかぁ、ミシェル・リーが好きだなあ」という話をすると、「ああ、007に出てた人?」という反応がよく返って来るので、いつもちょっと困ってます。それはミシェル・ヨーだからね・・・。

個人的におすすめなのは、『倚天屠龍記』を原作にした、ジェット・リー主演の『カンフー・カルト・マスター/魔教教主』。

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完全に未完に終わってしまってますし、もうとにかく荒唐無稽感がものすごいんですが、とにかく抜群に面白い映画です。ぼくは武侠映画の中で一番好きですね。

他には異色作として、ウォン・カーウァイ監督の『楽園の瑕』があります。

射鵰英雄伝』の人物の設定を使った番外編的な映画なのですが、流石にウォン・カーウァイ監督なだけあって、極めて芸術性の高い作品になっています。

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今いい言い方をしましたけど、まあ武侠映画としてはつまらないということです。ウォン・カーウァイ監督は『欲望の翼』がおすすめですよ。武侠映画ではないですけどね。

金庸は徳間書店から全作品が翻訳されています。文庫にもなっているので、興味を持った方はぜひ読んでみてください。

金庸の作品をぼくは一応全作品読んでいるので、その魅力について、もうちょっと詳しく別の記事に書きました。→武侠小説作家、金庸の魅力

【梁羽生】

梁羽生は、映画化された作品で言えば、レスリー・チャンとブリジット・リンが出演している『キラーウルフ 白髪魔女伝』が有名ですね。

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梁羽生で翻訳があるのは、ツイ・ハーク監督の『セブンソード』が公開された2005年に出版された、その原作の『七剣下天山』(上下、徳間文庫)のみ。しかもそれすら絶版。むむむ。

当時映画を観て、原作も読みましたが、映画と原作はかなり違う話だったことぐらいしか、今はちょっと覚えてないですね。

なんでも壮大なシリーズの中の一巻らしく、やはり全部読みたいんですが、金庸すらハマらない日本では、翻訳の刊行はなかなか難しいかも知れません。

【古龍】

古龍は、映画化された作品では、アンディ・ラウとイーキン・チェンが出演している『決戦・紫禁城』がわりと有名です。

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古龍の作品もほとんど絶版状態ですが、小学館などからいくつか出版されてはいます。ただ、古龍側の著作権で何か色々あるらしく、日本では複数の出版社から出ているのがちょっと困りものです。

ぼくは古龍の小説はまだ読んだことないんですよ。ハードボイルド的な感じが特徴らしいんですが。読んだらまた何かしら加筆していこうと思います。乞うご期待です。

とまあ三大家に関しては、そんな感じでしょうか。金庸の作品は徳間文庫ですぐ手に入りますが、古龍と梁羽生は絶版だったり、そもそも翻訳がなかったりとなかなか大変です。

とりあえず金庸はすでに全作品の翻訳が出ているので、興味を持った方は、ぜひ金庸の作品から読んでみてください。

今回、わりと映画を中心に紹介して来たのは、「いきなり小説から入るのはちょっと・・・」という方でも、映画から入ると、世界観をつかみやすいかも知れないと思ったからです。

武侠小説はなにしろ何巻にも及ぶ長いものが多いので、映画は言わば一部分でしかないですし、特に香港映画はがんがん内容を変えてしまうので、映画を観てからでも小説をしっかり楽しむことができますよ。

こんなに面白いのに、なんで日本では武侠小説が流行らないんですかねえ。好きな人は好きなんですけどねえ。やっぱり時代背景に馴染みがなく、何巻にも及ぶ長い作品が多いからでしょうか。

もしかしたら、日本にはマンガ文化があるので、マンガの読者層と、武侠小説にハマりそうな読者層が、思いっきり丸かぶりしているのかも知れません。

それは逆に言えば、マンガが好きな人は、武侠小説を好きになる要素が多分にあるということだと思うので、ぜひ多くの方に武侠小説を手に取ってもらいたいものです。

そうそう、ドラマから入るという手もありますね。ドラマに一切触れなかったのは、単純にぼくがドラマは全然見てないからというだけの話です。