駒田信二訳『水滸伝』(ちくま文庫、全8巻) | 文学どうでしょう

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駒田信二訳『水滸伝』(ちくま文庫、全8巻)を読みました。Amazonのリンクは1巻だけを貼っておきます。

今回も長くなりそうだったので、記事を3つに分けました。このページでは、『水滸伝』そのものについて、小説やマンガ、翻訳について触れながら紹介していきます。

あらすじで1ページ、それから、みなさんに好きな登場人物についてコメントしてもらおうと思って、また別に1ページ作ったので、じゃんじゃんコメントを残していってくださいな。

◆ 『水滸伝』のあらすじ

◆ 『水滸伝』で好きな登場人物は?

『水滸伝』とは?


『水滸伝』を全く知らない方でも、108人の豪傑たちが、梁山泊(りょうざんぱく)に集まり、様々な戦いをくり広げていく物語ということはご存知なのではないでしょうか。

『水滸伝』の成立史に関しては、8巻にある訳者解説に詳しいですが、北宋の末(1120年前後)に、『水滸伝』の元になった「宋江三十六人」という盗賊たちの反乱があったんですね。

その盗賊団の伝説の話が膨らんでいき、様々な豪傑の話が組み合わさっていきます。明の初頭(1370年前後)になって、一つのまとまった物語の形式になりました。

36人の盗賊たちは、その数なんと3倍の108人の豪傑になり、白話小説(はくわしょうせつ。話し言葉で書かれたもの)『水滸伝』が生まれたのです。

作者は施耐庵(したいあん)とも羅貫中(らかんちゅう)とも言われますが、詳しくはよく分かっていません。

元々は100回本(大体全100話のようなこと)だったようですが、梁山泊の戦いをさらに描いた120回本が作られ、また、梁山泊に108人が集まる所で物語の幕が降ろされる70回本が作られました。

『水滸伝』の翻訳と小説、マンガについて


『水滸伝』の100回本を翻訳したものには、吉川幸次郎、清水茂訳の『完訳 水滸伝』(岩波文庫、全10巻)があります。

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120回本を翻訳したものが、今回紹介するちくま文庫の駒田信二訳、全8巻です。注も解説もとても丁寧なので、おすすめですよ。

翻訳だと、ちょっと長すぎるという方は、日本人好みにアレンジした作品がよいだろうと思います。

小説では、今なおおすすめなのが、吉川英治の小説『新・水滸伝』(全4巻)です。

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作者の死によって未完に終わっていますが、大体70回本までは描かれているので、十分楽しめます。

”黒旋風”李逵(こうせんぷうりき)という豪傑がお茶目でいきいきしていて、いいですよ。これを読んで、ぼくは李逵が好きになりました。

最近では、北方謙三の『水滸伝』(全19巻)も非常に評判がいいみたいですね。続編にあたる作品(『楊令伝』『岳飛伝』)もあるようですが、そこまではぼくもまだ読めてません。

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北方謙三版『水滸伝』は、それぞればらばらの豪傑たちの物語が組み合わさって形成されている『水滸伝』を解体して、長編小説に再構成するという、面白い試みがされている作品。

小説として面白い作品ですが、北方謙三独自のアレンジがかなりされているので、ある程度『水滸伝』の内容をおさえてから読むと、色々違いが分かって、より楽しめるのではないかと思います。

マンガで読みたい方は、『三国志』をマンガ化したことでも有名な、横山光輝の『水滸伝』(文庫版全6巻)があります。

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やはり豪傑たちが梁山泊に集まるのがメインに構成されており、70回本に近い感じです。『三国志』よりも前の作品なので、絵柄は若干古いですね。

日本で作られたマンガや小説も勿論面白いですが、残酷な場面をカットしたり、どうしても分量を圧縮しなければならない関係から、登場人物の役割が変わっていたりします。

機会があれば、ぜひ原典の翻訳も読んでみてください。

『水滸伝』が日本の物語に与えた影響について


『水滸伝』のすごさであり、何よりの魅力は、複数の豪傑の物語が組み合わさって出来ていること。主人公が次々と変わっていく物語なんです。

”九紋竜”史進(くもんりゅうししん)が、後の”花和尚”魯智深(かおしょうろちしん)に出会うと魯智深の物語になり、魯智深が”豹子頭”林冲(ひょうしとうりんちゅう)に出会うと、今度は林冲の物語になります。

そうして主人公のバトンを渡すように物語が展開していって、豪傑同士が色んな所で出会ったり別れたりしながら、少しずつ梁山泊に集まっていくんですね。

豪傑たち108人は、実は封印を解かれてしまった魔王の生まれ変わりなので、運命的な繋がりがあるのです。

登場人物たちがそれぞればらばらに動き、運命的な繋がりからやがて一堂に会する物語と言えば、江戸時代に書かれた曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』があります。

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『水滸伝』に大きな影響を受けて書かれた『南総里見八犬伝』もまた、講談など、豪傑たちが登場する物語に、大きな影響を与えました。

複数の登場人物の物語が組み合わさって一つの物語になるという形式は、やはり物語の統一性に欠ける部分がありますから、現在ではあまりとられません。

しかしながら、曲がったことを許さず、義のために戦う豪傑のキャラクター性というのは、今なお様々な物語に脈々と受け継がれているような気がします。

梁山泊の首領、宋江の謎


最後のトピックは、おまけ的な脱線ですが、ぼくは梁山泊の首領、”及時雨”宋江(きゅうじうそうこう)があまりにも魅力に乏しいのを、長年不思議に思っていたんです。

単なる小役人で、別にすごいことを何もしていないのに、どこに行っても「ええっ、あなたがあの宋江様!?」みたいな展開になり、豪傑たちから尊敬される宋江。

他の仲間たちに比べて、腕が立つわけでもなく、知恵が働くわけでもなく、何の能力もない宋江は、やがては梁山泊の首領にまで登り詰めてしまうのです。

別段すごいこともしていないのに、何故周りからすごいすごいと尊敬されるのか、その長年の疑問が、高島俊男『水滸伝の世界』を読んで氷解しました。

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要するに、他の豪傑たちは架空のキャラクターですが、実際にどんな人物だったかは分からないにせよ、宋江は実在していたわけですね。お話の元になった盗賊の頭なわけですから。

なので、物語にどんな豪傑が登場しようと、また、ストーリーがどう変化しようと、宋江がリーダーになるということは、もう初めから決まっているわけです。

そうなるとリーダーである宋江自身が、強かったり頭がよかったりするよりも、部下にそういった資質を持った豪傑がいた方が、物語としてはより面白くなりますよね。

そういうわけで宋江は、あんなにも魅力に乏しい人物になってしまったというわけなのだそうです。これは目から鱗でしたねえ。

高島俊男の『水滸伝の世界』は、成立史についても詳しいですし、『水滸伝』について色々と知りたい方におすすめの一冊ですよ。

ちなみにですが、同じくちくま文庫に収録されている高島俊男の『三国志 きらめく群像』も面白いですが、こちらは物語である『三国志演義』についてではなく、正史『三国志』について書かれたものになっています。

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