・生まれいずる吾子(わがこ)に対する心構え 野口晴哉
“君がお父さんになりかけているとか、お目出とう。しかし子どもを自分より良くしようとすると中々大変だ。第一、産まれてから育てるつもりでいては遅い。
育児は産まれてからでは遅い。
両親のコンディションから問題にしなければならないが、これは無理だろうから胎内から出発す可きだ。母体及び胎児が快を保つ為の環境を作り、母体の要求を尊重することが第一であるが、その母体が自分の体の要求を感じないようでは困る。君が余り自分の要求を押しつけ過ぎなければ、彼女だって自分の体の要求は感ずるに相違ない。しかし知識が一杯に詰め込まれた頭では難しい。要求を感ずるには天心でなければならぬ。
彼女の天心を保つ為には次の心構えが必要。
一、 知識の詰め込みを避け、他の要求を押しつけず、言いたいことを言わせること。それが苦情であっても途中で遮らず、終り迄聴くこと。
二、 彼女の要求に従って行動すること。これは辛いよ、彼女の欲する食物ばかり並べられても文句は言わぬことだからね。
三、 定期定時の散歩。買物のついでの散歩は彼女の散歩で胎児の散歩ではない。胎内の裡から胎児の為に費やす時間を作っておかねばならぬ。君自身がこのことを納得しただけでは実行出来ない。彼女の周囲に対してこのことを君が説かねばならぬ。
第一歩はこれ位で良い。気づいたら知らせるが、育児は協力して行なわねば難しい。しかし君は已に実行しているらしいからいう迄もあるまい。
お目出とう。御妊娠とか。
始めは自分の体の要求に従って食べ動きしておれば宜しいが、定時の散歩を二十分前後行なうこと。
それより大切なことは、最初の妊娠時は亭主の訓練の最も大切な機で、これを逸して、将来子供のことは貴女任せ、PTAにも出掛けないという父親にしてしまっても、それは貴女の為したことと思わねばならぬ。亭主訓練の好機はこの時で、この時機を逸して他に機はないと言っても良い。”
(「月刊全生」平成16年10月号 野口晴哉『親になるお二人に』)
*「整体出産」の心得として、野口晴哉先生は、活元運動と散歩、胎児への語りかけ、そして愉気を挙げておられます。愉気をした方が胎児によく語りかけが通じるのだそうです。それから出産の一カ月前(最低二週間前)からは二度寝をしない、腹帯はしない方がよい(害というわけではありません)、悪阻は腸骨を調整すれば治る、産気づいてからなかなか産まれないときは肛門を押さえるとよい、臍の緒を切るのは遅い方がよい(臍の緒の適切な切り方というのもあります)、などの注意もあります。
*妊娠時の散歩についてですが、これは胎児の為に行なうことなので、買い物や犬の散歩のついでに散歩するというのは駄目で、夫が同行する場合は必ず妻の歩き方に合わせるようにせねばなりません。散歩の時は母と子だけの時間なので、歩きながら胎児に語りかけると特によいということです。
*平成以降、日本でも離婚が急増していますが、その理由の一つとして『夫が育児に協力してくれない』ということがあります。しかし、野口晴哉先生によれば、これは第一子の妊娠時にちゃんと夫を教育しておけば、それで解決する問題です。二度目の妊娠のときに夫を教育しようとしても手遅れなので、初めての妊娠のときは、夫の注意を引く為にも妻は少々大袈裟に振る舞って世話をやかせるのが良く、特に夫に愉気をしてもらうのはよい方法です。妊娠している妻がストレスを感じることなく快適に過ごせるよう尽くそうとしない夫には、育児とは夫婦が共に協力し合うものであることが理解できておりませんので、よって出産後も夫の協力は当てには出来ません。育児は妻がするものと思い込んでいる夫に、もっと赤ん坊の世話をするよう求めたところで、反対に腹を立てられるだけです。
*「夫唱婦随」は天の法則ですが、野口晴哉先生によれば、産まれてから13ヵ月迄は子供を可愛がりすぎるぐらい可愛がるのがよく、子供にストレスを与えないためにも、夫は妻の心の状態には特に気を配らねばなりません(母と子の意識は繋がっています)。せめてその期間だけは、夫は妻の機嫌をとるために少々のことは我慢せねばなりませんし、野口先生もそのようにされたそうです。