2年に1度開催される洋菓子の世界大会『クープ・デュ・モン・ドゥ・ラ・パティスリー』
'14年度優勝フランスチームの天才パティシエ・ヤジッド・イシェムラエン(Yazid Ichemrahen)の半生を描くドキュメンタリー。
こちらヤジット本人。
お菓子教室…らしい。
世界選手権のチャンピオンに輝いたヤジッド・イシュムラエン。現在は世界各地の最高級ホテルのコンサルタントや高級ブランドとのコラボレーションを務め、南仏アヴィニョンやパリに自身の店舗を持つ人気パティシエ
その道の天才は、不遇の生い立ちから這い上がる勇気と努力、才能と引きよせが作る+劇中のスタントは『モデルになった本人が担当』するという点では
『グランツーリスモ』のヤン・マーデンボローとガチ同じ。
『グラン~』は、劇中の走りはマーデンボロー本人がカースタントを担当し、今回の映画ではモデルになったヤシッドが全てのスウィーツの監修、製作だけでなく、企画も担当。
この辺りは 『42~世界を変えた男~』のチャドウィグ・ボーズマンに通じるものがあります。
邦題になった『パリ・ブレスト』は、後にヤシッドの十八番となるスウィーツ。
パリと西北西部ブルターニュ地方の港町ブレストまで往復1200kmを自転車で走るレースにちなんで作られたお菓子なんだそうで。
シネ・リーブル梅田最後の映画。
シネ・リーブル梅田は、'24年4月17日にテアトル梅田に名称変更。
大阪にあったテアトル系映画館。
旧テアトル梅田(ロフトB1)、梅田ガーデンシネマ(スカイビル4F) シネ・リーブル梅田(スカイビル3F)がなくなり、新テアトル梅田(スカイビル3F)だけかあ~
シネコン乱立して、どこに行っても同じ映画ばっかり上映してるのと違い、面白い映画を取り上げてくれるミニシアター。
潰れないで欲しいです。
そんなワケで予告編こちら。あらすじいってみる。
仏北部。
シャンパンの都と呼ばれる街・エペルネ。
パリから電車で1時間以上かかるこの街で幼いヤシッド(マルワン・アメスケ)が楽しみにしているのは、里親シモーヌ(クリスティーヌ・シティ)が家に迎えに来る時。
里親パスカル(パトリック・ダスマサオ)と義理の兄・マシュー(フェニックス・ブロサール)は、大手スーパーで売られているケーキを作るパティシエ。
里親の家にいけば御馳走と一緒に、美味しいお菓子、暖かいベットが用意してあった。
何もかもが実母のいる世界と違った。
ヤシッドの母サミナ(ルブナ・アビタル)は、外面のよいアル中。
家の中では飲んだくれで、乳飲み子であるヤシッドの妹の育児もしない。
季節労働者のヤシッドの父は、ヤシッドが2歳半の時に里親を探し消えた。
サミナは酒代欲しさに市の担当に養育費の前借りをするのも当たり前。
その時にヤシッドがシモーヌから貰った新品の靴を履いていれば、わざとカッターナイフでズタズタにし、職員の前では『この子に靴も買ってやれない』とウソ泣きし、 ヤシッドの前では、里親にものをねだるなと怒鳴る親の資格もない女だった。
実母サミナの育児放棄が原因で妹が死んでしまい、実母か心が離れていく一方でヤシッドの心のよりどころは里親一家になっていく。
パスカルとマシューからお菓子作りを教えてもらい腕を上げていった。
思春期になったヤシッド(リマド・ベティシュ)は養護施設にひきとられ、その後学校に通い、学校の寮に入り、学びながら就労支援という道を選ぶことになった。
最初のバイトは学食だったが、相部屋の白人学生からバイト代をカツアゲされる日々が続いていた。
ヤシッドはめげずに学校の近くのレストランやスウィーツ店の厨房でアルバイトし、パリまで片道1時間以上往復しながら見習いとして働き、腕をあげる。
時に終電を逃し、エペルネ行きのホームで寝ていることもあったヤシッド、当然ながら授業も無断欠勤が度々。
寮長のヴィクトリア(サンドリーン・ティマス)は、ヤジットを呼び出し、カツアゲしている白人学生の名前を言わない彼に対し、バイト代は預かると厳しい通達をします。
…判ってない寮長。
そんなので口割るわけないだろうがと。
この時もそうだけど、後々もヤジッドは、なまちょろい白人(というだけ)特権で偉そうにしている奴らに目をつけられ、イビられます。
寮友サミー(サイード・ベンチナファ)は、ヤシッドが学食でクレーム・ブリュレを上手く作ったのを褒める。
マズいと悪評祟っていた学食でしたが、ヤシッドが作ったものに関しては美味い。
この時ヤジットはパリの星付きレストランパティシエ・シャルル(ジョージ・コラフェス)の元で修業する事になっていました。
ここを脱走してでも修行にいかないといけない日は目の前に来ている。
が、バイト代を学長室からネコババするのに手を貸してくれた悪友にヤシッドは『頭数必要だからついてきてくれ』と泣きつかれます。
悪友は、持たないほうがよいのです。
大麻取引だったのです。
ワキが甘く、案の定、警察の手入れがあり、全員捕まります。
明日シャルルのレストランにいかなくては、クビになってしまうかもしれない…。
天才パティシエ運命の分かれ道とは…。
以下ネタバレです。
保釈でヤジットの面会に来たのは実母サミナなのです。
警察もサミナが育児放棄して里親制度を使った事や、施設に入所した後は絶縁も同然で全く合ってないってことは知らなかったんでしょうねぇ。
正直いって法律というか警察のムカつく汎ミス。
里親のシモーヌ相手ならヤジットも自身の行いを恥じて嘆き、シモーヌにこれからの生き方を聞いたでしょう。
が、現れたが、産んだだけ母親のろくでなしなので。
○年ぶりに現れたかと思いきや、心配してた、じゃーなくて、恥かかせるんじゃーねーよ!バカ息子?
はぁ??
貴方の存在が恥ですが、どうかして?
このバカ親は
息子の存在利用して自分自身の機嫌とって、存在を世の中にアピールしている哀れな人
…としか思えん。
育ててるどころか息子の人生ジャマばっかりしてるのに、ことあるごとに息子の人生を自分の為に利用するかぁ?
実親から奪されてばかり、里親には申し訳ないけど、毎日何かが足りないというヤシッドの心境は映画の冒頭でヤジットがスーパーで万引きをするシーンに現れています。
ヤシッドが万引きするのはケーキやクッキーを作る材料ばかり。
里親も判ってて後から代金は支払っていたのだろうし、ヤジット自身一番向き合うのがつらかった過去のうちのひとつだと言います。
このあたり
『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』を思い出しますね。
一方寮友のサミーは、旅立つヤジットにこう言う
『今の所にとどまらず、高い所にとべ』
寮長のサミーは、ヤジットを自由にするため、自分は就労支援が受けられなくなってしまう。
実際のヤジットは、13歳ぐらいからパリの御菓子店に修行に行き、パスカル・カフェ、フィリップ・コンティチニの下で働き、ジョエル・ロブションのレストラン『ル・メトロポール』でスーシェフを務めたのだそうです。
映画の中のシャルルのモデルがロブションなので『途中の見習い過程』が、すっ飛ばされている感…もあります。
ヤジッドはムショに入っていたので、見習い期間に1日出遅れて入ってきて、シャルルどころか、周りに全く持ち場を割り当てられない所から場面がはじまります。
ヤジットは、このままでは星付きシェフの下で何も学べないまま過ぎてしまうと、イチやバチかの賭けに出ます。
他の人の担当(と言うかしくじった)ケーキを作りなおして、成功させたついでに、シェフの十八番である『フォレ・ノワール』を披露。
大きなサクランボをカカオニブに浸しただけというシンプルなお菓子。普通のフォレノワールは『ボンボンチェリーのキルシュトルテ』とか『黒い森のケーキ』と呼ばれるものなんすが、それとは別。
陰で努力をしてるのか判るんすが、その為に手段を選ばざるを得ない。
そうせざるを得ない過去があったというヤシッドの過去が映画の中に所々、観ているものに判るように挿入されています。
あんだけイヤミにカツアゲしていた白人のルームメイトは、ヤジットが寮を脱走したことで問題が解決(?)するんですが、問題は母親。
ヤジットが警察に捕まったので、住所どこにいてもバレてしまう。
ヤジットは、パティシエとして腕は認められるようになってきたものの、それ一本で食べられるのではないので、マネキン作りの仕事をしに故郷に、ちょこちょこ戻ってきます。
上手くできたなぁ~って作品を里親に頼んで運んで貰おうとした時
頼んでもいねーのに、その場に来てるんですよ、実母が!
昼間から酒のんでフラフラしてるから、マネキンの腕ベキって折って、謝りもしない。
来てやったんだって態度。
オレの人生の邪魔ばかりするな!お前なんかオレの母親でもなんでもない!
親に限らず、執念深い勘違い元カノも同じようなモノですかね…(汗)
自分が存在することで、お役にたってます症候群。
男からみれば熱気立つ熱心さが寒気するし、病ひきおこしそうなんですが。
シャルルに腕を認められるようになったヤジッドは、洋菓子の世界選手権フランス代表として出場してみないかと背中を推されるのです。
代表を目指すパティシエが集まるのはモナコ・コートダジュールのホテル。
が、この職場も何だかザワついていて(汗)
ホテルの支配人の孫でコネだけで就職した白人凡人パティシエ・ジュリアン(エステヴァン)が、差別主義で威張り散らして折るのです。
アフリカ系パティシエ・マヌー(ティコシュ)には『落ちたモノを拾え』 といい、ヤジットをアラブ人呼ばわり。
周りのパティシエも支配人親族という面倒くさい奴なので、持ち場の仕事を淡々とこなすことに集中している。
ヤジットは、大会の目玉としてパリ・ブレストを毎晩練習していました。
ヤジットの熱心さに目をつけたのがマヌー。
『お前はパティシエ界のロッキーになれ!アポロを打ち破れ!』そんな2人を厨房の裏から見守っていたのはスーシェフのサトミ(リカ・ミナモト)
チョコレートに金の輪がついているお菓子が、パリ・ブレスト。
街中で売ってるのは、もっとカジュアルで、ミスドのフレンチクルーラーみたいなモノだと思う、うん。
ヤジットが夜中にパリ・ブレスト作りに励んでいる時、事件が起こります。
パリ・ブレストがお気に入りというホテルお得意様・ブシャード(パスカル・レジィズム)が、まさかの作り直しを命じるのです。
果物担当のヤジットはサトミに命じられ、彼女を助手に大急ぎでパリ・ブレストを作ります。
ブシャード氏は満足して帰られ、マヌーの計らいで、ヤジットはその日からホテルの1室を貰えます。
映画の原題名の意味は『美しい星の下で』
ホテル勤めなのに、原材料費は自腹購入でお菓子作りの研鑽に励んでいた為に家賃がなくなったヤシッド。
毎晩星空を眺めて野宿をし、漁師と共にシャワーをして出勤したといいます。
仕事に融通きかせて貰えるようになったというに、ヤジット。
里親と、もうくたばりゃーえーのにーな、実母の為にチョコケーキ焼いてあげるのです。
里親なら判りますよ、里親なら。
いくら里親経由で連絡貰ったからって、○にそうだって、そんな時まで息子の人生足ひっぱるつもりか、息子の将来考えるなら誰にもなきつかずさっさとくたばれ…とゲロると、怖いとか言われるんすが
そういう生き方してきた+人に金無心したり散々迷惑をかける親族振り払って生きてきたので、そういう考えしか出てこないqqqq
ヤジットの方は仕事としては絶好調。
厨房長から『パリブレスト君』なんてオホメに近いあだ名頂いて、他のパティシエ、十把一絡げ。
支配人の孫ジュリアンも容赦なし。
ジュリアンはムカつくので、ヤジットが持ち場を少し離れたスキに、彼の担当のフルーツを冷蔵庫から出し、わざとカビさせてダメにします。
ひとつのミスが命取り、ヤジットはサトミから叱責をうけクビにされてしまいます。
七転び八起きのヤジット、そうじゃなきゃ毒親から逃れられなかったのか。
ホテル近くのプールバーで慣れないバーデンダーとして働き始めます。
紙にカクテルレシピ書いてるんですが、時々間違えるので『もーえーわ、ホールいって来て~』
と言われる始末。
そこで彼はブシャード氏に巡り合うのです『もうパリ・ブレストは作れません。あのホテルをクビになってしまいました。ですが貴方が資本を出して下されば、作ることは可能です。』と。
ヤジットは、貴方が私に出資してくだされば、世界大会の優勝を約束する
貴方のお店に世界チャンプのパティシエのスウィーツが来る。
…と猛アピールします。
ブシャード氏がこの時展開していたのは、パン屋だけ。そこを狙ってのことだったのでしょう。
可能性にかけたブシャード氏はヤジットに出資。
当日はスタッフとしてマヌーがついていきます。
予選でチョコをテンパリングする際、全てのブースで電子レンジを使い回線がショートするアクシデントがあったりと、出だしがつまずきますが、ヤジットは予選通過。
ジュリアン落っこちます(コネを使ってでも予選に行きたかったあたり酷すぎる)
洋菓子の選手権なんすが、最後は何故か氷彫刻なのです。
まぁそれが日本が優勝狙える強みといえます。
クライマックスで、ヤジットの氷の彫刻、どんどん形がかわっていくシーンは
『シャンプー台の向こうに』のクライマックスを思い出します。
そんなハズじゃなかっただろ!が優勝するという。
結局、ヤジットの実母、毒親はあの後どうなったかは判らないように描かれています。
彼がつくったケーキは口にしたのでしょうが、これで、息子からは離れていったか、どちらかでしょう。
エンディングテロップは、実際のヤジットと里親たちのその後が描かれています。
成功した天才パティシエという話でなく、複雑な環境で、親の依存を振りほどきながら自立して友、師匠を見つけていく様がよかったですね、