輪郭
自分が思う自分とほんとうの自分のあいだにはこんなにもおおきな隔たりがあるのか…と感じることばかり。
からだが思うように動かないこともそうだし、そこからつきつめてゆくいろいろなことがもうとことん。
もっと自由で、もっと頑強で、もっと寛容で、しなやかだと思ってたのに。
なんじゃぁーこのぺらぺらで脆い様子は。
情けなや。
いつから、なにから、この私ってこう。みたいな膜を張っていたんだろうな。
わたしのまわりにではなくて、私の知覚のまわりにそれをはってたみたい。
こうありたい。
こうあれば言い訳できる。
こうあればみないでもらえる。
それはそれでそんなに悪いことじゃないかもしれないけど、自分の目をふさぐほどの誤魔化しをしてはいけなかったのだなぁ。
積み重ねたものよりも、剥がれ落ちたもののほうがうんと多いような気がするこのごろ。
***
父がトトロの樹と呼んでいる樹をくぐった。
その樹でのんきに声をためしていた鳩(これはふくろうじゃないよ、と今でもひとりごちてしまう)がひたと鳴き止んだ。
見上げた高さをヒヨドリが口をつぐんだまままっすぐに飛び去った。
来た方向から早い夕日が真っすぐに目に差し込む。
瞳が薄く透かされて、すべてのものは輪郭をはじかれている。
なにも聞こえない。
椿の赤と緑がうんと透明なほかは。
memo/矛盾をはらんだ
まだ自分の時間に慣れることができない。
自分のじかんとは、自分のからだのことかもしれない。
運ばれてゆくかかとをとめることはできないのにまだ恐がって連れ戻そうとする。
しかし同時にほどけたい。深呼吸をしてしまいたい。重力に任せたい。
ぎざぎざと指先にひっかかる錆、塊から徐々ににじむ夕空の雲、眠れない夜行列車、はばたく直前の翼、高架下の囲み、浸した指が川に残すゆるやかな曲線。
矛盾が弾けてばらまかれる。
破けたところからなめらかに膨らむ。
たぶんもうとどめられない。
新しい芽があおを増すように。
時が球だとしたらその内側をあますところなくつれてゆく。
素直になったからだはまだときどき後戻りをしようともする。
ぎちぎちの殻ではないわたし、をいつくしむ。
けれどまた思い出す。圧縮される。
そうだ、羽根。
飛び立つ瞬間に風切り羽根が一枚いちまいひらいて、その視線の先へからだを押し出す。
どうしてあんなに無駄がないのだろう。
どうしてあんなに完璧な軌跡を描くの?
ぎゅうぎゅうに押しこめられたからだ。
からだがビジョンを膨らまさなければならないはずが、この狭い視界はからだを萎縮させる。
歪ませる。
memo/とき
まずそこに存在しているところからはじまる。
暗闇が割れて隙間から差し込むような次の時間にひたとまなざしを注ぐ。
意志には揺るぎがないが、水平を指し示すもののない闇へさしだす足先はかたつむりの触角みたいに敏感で、おどおどしている。
そして、その水平を確信することには貪欲である。
向かうものこそが時のように思われるけれど、実際には滝のように逆行している。
見えない時間の手はわたしの腰をつかまえ、少しの隙を見せた爪先を、もってゆこうとする。
夢をふりかえる。
そして気に留める間もなく、さかのぼる。
さかのぼることが順行しているなんて、矛盾だと思う。
ひかりのなかにからだを晒したとたん影のことを思い出す。思い出したのは影だったのか、ついさっき脳をよぎった夢だったのか、わからない。
押し寄せる景色はすぐに夢の記憶を消し去ろうとする。
重くおもく、けれどからだはそのおもい闇のなかに頼りなげに浮いている。
そして、今ーわたしーを見つける。
素描
どんなに頑張ってもわたしが生めるのはわたしの通り過ぎてきたもの、わたしがため込んできたもの、この手に重みを感じたものだけであって、それ以外のなにかを簡単に口にすればそれは輝きをもたない。
表面的なものももちろんアリだけれど、なにもかもにひかりを与えることは難しいしおもしろいものになるとも限らない、んだけど。
それを持ち寄ることで膨らみ、知る、部分にもっと敏感でありたい。
おしよせる内と外と。
風船がまだふくらみきっていないから浸透できるほどには薄くない。のかもしれない。
あたまの内側をまるで指紋の凹凸だけで探るような作業をこのからだにもできるといいのに。
いつもいなばのしろうさぎみたいにひりひり痛くてもいい。
破けても流れるのは血じゃないから。
骨のならびも呼吸のみちすじもひとみにひかりを通す深さも、すなおでいたい。
表面的なものももちろんアリだけれど、なにもかもにひかりを与えることは難しいしおもしろいものになるとも限らない、んだけど。
それを持ち寄ることで膨らみ、知る、部分にもっと敏感でありたい。
おしよせる内と外と。
風船がまだふくらみきっていないから浸透できるほどには薄くない。のかもしれない。
あたまの内側をまるで指紋の凹凸だけで探るような作業をこのからだにもできるといいのに。
いつもいなばのしろうさぎみたいにひりひり痛くてもいい。
破けても流れるのは血じゃないから。
骨のならびも呼吸のみちすじもひとみにひかりを通す深さも、すなおでいたい。
個体距離
たぶん、すごく疲れているんだと思う。
触れるものが多くてそこから引き出される糸もたくさん。とっかかりもちいさな手のひらをいっぱいに広げてそよいでいる。
今つかまえたいその子たちを目の前にして、はやる気持ちやエネルギーをうまく逃がすことができない。
熱は籠もるばかり。
風穴をあけたつもりがたぶん、見当違いな場所だったんだと思う。
ぎゅうぎゅうと犇めき合って、
眠りたいと思ってしまう。
いまは、この身ひとつで真っ白なシーツにもぐり込んで、とけてベッドにくっついちゃうほどに。
ほかの誰のかおりも感じたくない。
耳をふさがないでほしい。
わたしのやりかたで、呼吸がしたい。
夢をみるほどたっぷり。
…と、わがままをいいたくなる、
満員電車のなかみたいに。
けれど、これが幸せなことだともわかっている。
ちゃんとご飯を食べて(また今日もなにも食べていない)、ねむって、箱にしまって、棚を拭いてお花を差して、そして向かい合えばいいんだ。
きちっと、
窓もあけて。



