国営企業と国有企業 | 秋山のブログ

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少し前に中国共産党が、自国の多くの企業の経営に介入したというニュースがあった。これは一般的な経済学者の常識に照らしあわせてみれば、とんでもないことだ。その常識とは「国有企業は極めて非効率だ」から介入すれば著しく効率を下げるということである。今回の件に関連して、キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之氏は、『自分たちが介入すれば経営に悪影響を及ぼすことを』『「国有企業」という悪い見本を間近に見て』知っているので、実際は介入しないだろうと予想している。高橋洋一氏は、『長い目で見れば、国有企業の非効率性は、どの国でも見られる話』としている。

しかしこの「国有企業は極めて非効率」という話は、必ずしも正しくない。多くの場合、非効率だと考える人間は、国営企業と国有企業を勘違いしているだろう。国が関与すると、何でも非効率になるというのは、フリードマンがその著書で強調している話だが、明確なエビデンスがあるわけではない。単なるプロパガンダの域を超えてはいない(フリードマンを信用しすぎているのが、高橋洋一氏の弱点である)。

 

国営企業が不効率な理由は、構造的なものだ。公立の組織は他に対して公正でなくてはならないだけでなく、公正であることを示す必要もある。例えば、何か大きなものを買うときには競争入札となるが、単純に考えれば効率的になると考えられる競争入札は、実際のところそうはならず(不正をおこなわなくても)逆に高いコストを支払うことになる。そして手続きにかかる時間も馬鹿にはならない。だから当然効率的でないという話になろう。もちろん報酬が一定であることによるモチベーションの低下も存在するだろう。一応、念の為につけくわえておくが、提供価格という面では国営企業の方が効率的である場合もある。私企業は市場の不完全さを利用して、高い価格をつけることがしばしばだからである。

一方、国有企業(国が最大株主であることを想定)ではそのような縛りはない。天下りに利用するようなことがなければ、構造的な問題はほとんど起きないだろう。安定した株価は、短期的な利益の追求によって長期的な成長が妨げられることを防ぐだろう。無意味に内部留保を貯めたり、独占を利用して暴利を貪ったりする、個々の企業としては間違っていない行為も、全体で見れば経済に悪影響を与えているが、これを直接訂正させることもできる。日本のこの長きにわたる不況に対応するために、国は企業に賃金アップをしばしばお願いしている。それが容易に可能になるのである。

 

中国が企業に介入して、何をするかによって中国経済は良くも悪くもなるだろう。配当や役員の報酬を減らして、従業員の賃金を上げる方向で介入すれば、当然景気はよくなり、成長する。有効需要が増えるからである。日本の高度成長期の成長が著しかったのは、適正な配分がおこなわれたからである。(共産党首脳部は、一般国民の支持を得たいので、おこなうと思う)

ここで注意すべきことは、このような正しい政策を取らせないために、間違った理論を唱えている経済学者が存在するということだ。投資が減るとか、株価が下がるから、成長が抑制されるという主張をするだろう。しかしそれは投資家が使う単なる脅しにすぎない。例えば利益率が下がるので間接投資は下がるが、有効需要が増えるので設備投資は増える。すなわち投資という言葉の多義性を利用した詭弁なのである。株価と景気は、時に相関が観察されるが、株価から景気への因果関係ではない。

 

金利の上昇がマクロ経済に悪影響を与えることは否定しがたい事実だ。しかしこの事実を強調する経済学者は少ないし、研究もあまり見かけない。それと同様に高い配当もマクロ経済に悪影響を与える。構造的に配当は金利と同じだからだ。しかし配当にいたっては、そのような主張を見たことはない。これは結局、現在の主流派経済学が、資本家の資産を増大させる政策を取らせるための詭弁を作るための学問になりさがっているということだ。

企業に対する国の介入は資本家の最も嫌うところだ。貨幣を操る力を持っている近代国家に対しては、条約等何らかの方法で縛らない限りは、いかなる資本家であっても勝ち目はない。アジア通貨危機の際のマレーシアを思い出せば分かるだろう。一方、国もまことしやかに語られる詭弁に騙されないようにしなくてはならない。新自由主義の詭弁に関しては、日本より中国の方が騙されていないように見えるのである(中国は自由貿易を推進すると口では言いながら、守るべきところは守っている)。

 

多くの人が暴論だと思うようなことをあえて言おう。政府は日銀に引き受けさせた金で、企業の株式を購入すべきである(現在別の意図ではおこなわれている)。外国資本にはお引き取り願うべきである。