これが新自由主義のやり方か | 秋山のブログ

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英国のEU離脱では、ものすごい経済的な損失を英国は被ると主張するエコノミストがたくさんいるし、事前にそのような話が垂れ流されていたにも関わらず、離脱派が勝利をおさめた。エコノミストがどのような根拠で述べているか、そしてその理屈のどこが間違っているか、新自由主義経済学の問題を追及している人間には分かるが、経済学に全く興味を持たず生活している人間には分からないだろう。しかしそれでも多くの英国人が離脱に投票したのは、流されている情報が嘘であることに気付いたからだ。面白いのは、経済状況が悪い時しか経験していない若者よりも、今よりはよかった時代を知っている老人の方が離脱に賛成しているということである。理屈は分からなくても、胡散臭ささを感じ取っていても不思議はないだろう。スティグリッツ教授やクルーグマン教授が異論を述べているのも一助になったかもしれない。

 

本当は新自由主義の経済学者の言うことのどこが間違っているか全ての人が理解すべきであるし、もちろんそれを望むが、なかなか難しいところだ。某所で経済素人の医師が、デフレは日々モノが安く買えるようになることだからいいことだと言うのを聞いて脱力したことがある。彼にどうやって説明すればいいのだろうか。

彼ほど素養がないわけでない場合も問題がある。例えば、ある医師は成長関数を鵜呑みにし、資本を投入することが成長への唯一の道と主張していた。自由貿易は必ずWin-Winの関係になるなどと言っているものもいた。分かっているつもりである分、彼らの説得はまた厄介である。

医学などでも間違った知識をどこからか仕入れてきている患者は厄介であるが、医学の場合、正しい知識にもアクセスしやすい。間違った情報に対する批判も強い。従って、少なくとも私は、患者の勉強を否定しない。しかし経済の場合は、権威を纏って間違った知識を垂れ流す経済学者、エコノミストが多数いて、学会等を牛耳っているのである。スティグリッツ教授の言うように、1%の人間に都合がよい政策がおこなわれるように、学問が歪められているように思われる。

 

二十世紀初頭は共産主義と資本主義の優劣が議論の焦点だった。共産主義はとんでもない思想ではあったが、資本主義にも問題はあり、その問題を修正するためには役に立った。その修正のポイントが、ケインズの有効需要の原理であり、独占禁止と財政政策である。修正された資本主義は、経済を好況に導き、末端の労働者までその恩恵に預かった。

そのうちの財政政策は、失業率を低下させ、労働者の賃金を増大させ、物価を上昇させるという効果があったが、資産家にとっては好ましくないものである。彼らの持っている金融資産は目減りしていく上に、労働者を買い叩けず利益も縮小されるからだ。

ケインズの業績はケインズ革命と称され経済学を席巻したが、間もなく反革命が起き失墜することとなる。ケインズの理論も誤りはそれなりにあったので、修正は当然必要であったが、現在の主流派経済学はケインズのもっとも重要な貢献、経済を理解する上で最も重要な概念であるはずの有効需要を闇に葬った。そして資産家にとって都合のいい間違った理論をばら撒き始めたのである。

 

そのような間違った理論はたくさんあるが、一番よく分かる例がインフレに関するものである。以前紹介した「世界を破綻させた経済学者たち第四章に詳しい。インフレを一定の低い率で安定させることが重要で、それが実現されれば自由な市場と無制約の企業が経済の効率をもっとも高くするという考えが示され、実行に移された。日本でもいつのまにか(平成9年である)、日銀の役割は物価の安定だなどと日銀法がこの思想に合わせられている。しかしこの思想にエビデンスはない。見えざる手という信仰、それに基づく均衡を根拠にした考えである。提唱者も発表当初、それを裏付ける実証を見つけることは困難と臆面もなく言っていた。しかし、これが実行されてからの経済の停滞は明らかであり、そうでない実証は積み上がっているのである。インフレのWikiをみれば、竹中氏はそれがコンセンサスであると主張している。つまりは揃いも揃って経済学では権威に従い、闇雲に信じるといった愚かなことが蔓延っているということに他ならない。

インフレを抑えるための方法というのも全くイカれている。金利を上げてインフレを抑えるべきだと言うのだ。国債などの基準となる金利をあげることは、配当や利子を上げることにつながるので資産家にとっては大歓迎だろう。さすがに金利を上げることで経済に悪影響が出る(金利が高い→その分賃金への分配低下→有効需要減少、物価が上がらない)ことは容易に観察できることであり、その悪影響は否定出来ないので、おかしな理屈を垂れ流している。景気が上向き始めたのでインフレにならないように上げなくてはいけないという主張である。米国の利上げの話で度々出てくるので、聞いた方も多いと思う。もちろん景気が上向いて金利を上げなければおこるという不経済にエビデンスは全くない。

国民がこの馬鹿げた政策に反対しないように、様々な宣伝がなされた。貯蓄を崩しながら生活している老人や、老後のために貯蓄している人たちには、貯蓄がインフレだと目減りすること、金利が高ければ足しになることを指摘した。これは確かにその通りだが、これは老人たちの無知を利用している。金銭的にも、自立した老後を送れる人間は極めて僅かしかいないだろう。誰かが借り入れをおこなわなければ貨幣は増えない。誰かが消費を減らせば必ず誰かの収入が減るということを理解していないということだ。さらには、支出する貨幣量が予想困難であろう。つまり老人世代は、現役世代に養ってもらうのは必然なのだ。一方、労働者に対しては、誤解させるような詭弁が流布された。物価が上がってから賃金が上がるとか、物価が上がっても賃金が上がるとは限らないというものだ。確かに物価と賃金が乖離することもありうるが、観察すれば物価の前に賃金は上昇し、且つ物価上昇率以上に上昇するのが通常である。収入が上昇しなければ高くなったモノを買うことなどできないという当然の事実を考えれば自明のことであるはずだ(経済学では人はその意思で好きなモノを好きなだけ買えるかのような仮定になっている。収入の減少はそれを買いにくくするだけと仮定されている)。

 

初期の自由放任主義の資本主義は、搾取がおこなわれ上手くいかなかった。その反省で資本主義は修正されたはずだったのだが、新自由主義が蔓延ってその修正は蔑ろにされている。独占に対する政府の取り組みも、組合活動による労働者の権利確保もどこかにいってしまった。新自由主義は意図的に資産家に有利にした上で企業活動を放置するというもので、自由放任主義よりさらに後退したものである。物価を政策で抑えてとにかく規制は排除するという方針は、世界中を不況にし、格差を拡大し、成長を抑制している。もちろんグローバリズムに関しても嘘だらけである。

エコノミストや経済学者の発言を聞く上で重要な事は、疑いを持って聞き、分からないのならば、相手がどのような肩書を持っていようが、信じてはいけない(判断は保留すべき)ということだ。理解させる義務は相手方にある。分かりづらい数式は、多くの場合権威を高めるための誤魔化しで、きちんと検討すればしばしば間違っている。また、発言者の背景も知って、それを知って考慮に入れよう。自然科学では利益相反に関して厳しく調査される。その点、経済学は実に甘い。例をあげれば、証券会社に就職した途端に意見を180度変えたエコノミストもいる。そして特に注意しなければいけないのは、彼らが垂れ流すキャッチコピーだ。例を上げれば、小泉首相の「官から民へ」とか、フリードマンの「インフレはいつ、いかなる場合も貨幣的現象である」とか、完全に間違っているが、ひたすら連呼されるうちに騙されてそれを事実として前提にして考えてしまう人も少なく無いだろう。