インフレのモデル | 秋山のブログ

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先日書いた記事で、ハイパーインフレがおこるというコラムのその理屈がおかしいという指摘をおこなった。掘り下げてみよう。

引用する。
『名目成長率が高まり、金利上昇圧力が高まっても、発行された長期国債のほとんどを日銀が 購入する現状の金融政策を継続すれば何が生じるか。理論上、長期金利の安定とインフレ率の安定の二律背反問題に直面する。インフレ率が上昇しても、長期金利を低位で安定させると(正確には釘付けということになると思うが)、実質金利のマイナス幅が拡大し、円安が進展、それがさらなるインフレ上昇をもたらす。 』

こんな馬鹿なことを言い出すのは、どのような機序でインフレがおこるのか考えずに、金利とインフレをあたかも物理のボイルシャルルの法則における気体と気圧の関係のように、単純な数式であらわすことができるような関係があると思い込んでいるからだ。金利を上昇させれば、景気にブレーキをかけることになって、多くの場合インフレは抑制されるだろう。しかし実質金利が低ければどんどんインフレが進むわけではない。ブレーキはあくまでブレーキなのである。そして不況や格差をさらに拡大するものであるから、このブレーキは全く好ましくない。インフレを抑える方法は、金利を上げる以外にも山程あるのだ。二律背反などと間違った主張をしているのは、他の方法ではなくて、投資家や証券会社等にとって最も得な方法しかないと騙そうとしているのに他ならない。
河野氏は円安を間に挟んで、ちょっと話を複雑にして、ハイパーインフレがおこると説得しようとしているようだが、これも比較的簡単に論破できる。実質金利の低い国の通貨が売られて安くなりやすいというのは確かなことである。しかしそれが通貨の価格を決める決定的な要因であるわけでもない。実質金利に着目して売り買いしていたらあっという間に破産するだろう。為替市場は多数決ゲームをしているだけなので、何らかの事情で損を確定してくれる参加者の数までしか儲ける、すなわち下げることはできない。しかしここはある程度下がるものと仮定しよう。輸入品価格の上昇で、コストプッシュインフレがおこる。しかしここでおこるインフレは、上昇分をかぶったり、国内生産にシフトしたりすることで、通貨が安くなった割合に匹敵するほどの上昇はないだろう。そして貿易を強力に有利にするので、大きい拡大であればいずれかの時点で貿易黒字が拡大するだろう。そうなってくれば周辺国も、自国の金利を下げたり介入したり、自国通貨を下げるべくさまざまな方策をとってくるはずである(為替市場に参加する投資家も当然そんなことは想定している)。つまり、この機序でのハイパーインフレはおこりようがないのである。

価格が上がる機序を考えてみよう。例えばバブルの時に土地が上がったのは、土地を買うためのお金を銀行がどんどん融資したからである。より高くなっても買えるための金銭的な余裕がなくては、価格はあがりようがない。また一方、お金の余裕があっても、より多く出すだけの必要性がなければ、価格は上がらない。供給が需要を超過していれば、または市場が競争的であればなかなか上がらないだろう。
もちろん個人であっても、人は借金したりそれを返したりしてくらしているので、その時点でいっぱいいっぱいの消費をしていた人間でも、多少価格の上がった商品を買うことはできる。より高く買ったことは、それを売った人間の収入を上げるわけで、まわりまわって今度は自分の収入を上げるかもしれない。好景気の時は、全体としてこれが上手くまわっているということだ。一般的な生活者が、日常的におこなう借金は限度が低いので、これによっておこるインフレは、たかがしれている。生活品の価格の上昇は、バブル時代の土地の価格の上昇とは全く違うのである。

次にコストプッシュインフレに関して考えてみよう。前述の為替によるコストプッシュインフレではなくて、例えば原油価格に関して考える。
原油だって本来は、個人が商品を買うのと似たメカニズムは持っているはずだ。生産物の価格に転嫁できない場合は原油価格が上がることで採算が合わなくなって商品自体が成り立たなくなってしまう確率がある。比較的価格に転嫁しやすいだろうが、それによって原油価格が抑えられるということもおこるだろう。ところが原油価格は、実際は原油自体を扱わない人間のゲームによって決められてしまう。レバレッジというのは、ゲームのために巨大な借金をしているということと等価だ。結局コストプッシュインフレをおこすいくつかの市場は、市場自体が問題の根源なのである。

まとめれば、インフレの影に借金ありだ。後で使うより今使う方が得だから程度の理由では、インフレはほとんどおこらない。景気がよくて需要が見込めるところで、事業のために企業が借金するからインフレになる。もしくはおかしな市場で、原料費が釣り上げられるからインフレになるのである。国が借金して使ってもインフレの原因にはなるだろう。しかし、通貨の信認がどうこうしたからとかでインフレになることはない。国が使ったお金を受け取った人間が収入を増やし、その人間がより多く使うという連鎖のもとに、インフレは起こるのである。国が投入したお金から、途中で溜め込まれるお金を引いた量が、インフレ率の目処になるだろう。