格差と経済成長 | 秋山のブログ

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格差と経済成長はトレードオフにあるという主張がある。クズネッツによる理論であり、正しいのだと盲信している人間も少なからずいる。最近、むしろ逆の相関にあるのではないかという、実証研究に基づく主張が増えており、それは正しいが、調べてみればトレードオフはクズネッツの主張ではない。クズネッツの逆U字仮説を検証する上で、そのような相関が(途上国において)出たという話がひとり歩きしているのである。

 

クズネッツの観察によって導かれた逆U字仮説であるが、所得格差とは何なのかという視点が弱すぎる。農村から都市に人が移動して、農業より工業の方が多少賃金が高くても、労働者間の賃金の差はたかが知れているのである。所得格差とは雇用者と被雇用者の差だ。技術が進歩し、生産能力が上昇すれば、雇用者は取り分を多くするチャンスである。上昇分が適切に被雇用者に分け与えられることは稀であろう。特に技術の流入という形での生産性の向上なら、この傾向はより強くなる。ようするに途上国において観察されたのは、技術の流入という交絡因子によっておこったことである。

本来格差は生産を抑制するものである。供給面から見れば、下層の労働者の家庭の教育レベルを下げるという問題がじわじわ効いてくるだろう。それよりも需要面、有効需要の問題が大きい。高所得層は大部分を消費に当てたりせずに、貯蓄に励むため、需要が足りなくなり、生産は縮小され、当然生産のための設備投資もおこなわれなくなる。すなわち経済成長はおこらなくなる。途上国がそれでも成長したのは、とにかく増産部分を輸出して海外に買ってもらったため、国民の収入増はあまり関係がなかったからだろう。

 

経済成長は、技術の進歩、技術の流入によっておこるものである。格差の増大は、生産能力の増大によっておこることがある。格差の増大は、経済成長を抑制する。これがこの件に関するそれぞれの関係である。(格差の拡大によって経済成長がおこることはない)

 

ちょっと蛇足。

トレードオフという話がさらに暴走して、トリクルダウンという話に繋がったらしいが、これはさらに暴論である。成功例が探されたようだが、どれもトリクルダウンによって成功したわけではない。

中国は先富政策をうたっていたが、成功の理由は外国からの技術流入で全て説明がつくだろう。

高度成長期の日本の成長が著しかった理由は、労働者への十分な配分と、強力な再分配がおこなわれたからである。一部の経済学者が言っているような、経済成長が格差を是正したわけでも、ましてやトリクルダウンが上手くいったわけでもない。