進化する経済学の実証分析 | 秋山のブログ

秋山のブログ

ブログの説明を入力します。

今回はこの本。

 

実証が重要であるというのが、このブログの主張の一つである。現時点で経済学において実証がどれだけ重要視されているか知るというのが、この本を手にとった理由だ。読んだ結果は、なかなか面白い内容があった。それらを取り上げて考察してみようと思う。

 

経済学においても現在実証が尊重される傾向にあるのは確かなようだ。アメリカ経済学会の学会長が2016年の基調講演でP13『エビデンス(科学的証拠)に基づいた経済学を構築すべきだとしている』。これはまさに正しい方向性であり、医学においてはその十年以上前に提唱され、常識化した内容を、経済学もやっと認め取り入れようとしているということだ。

 

最も面白かったのが、P52『「誘導型推定」v.s.「構造推定」』である。どちらがより信頼性のある手法か2010年に大論争になったという。構造推定といえば、安田洋祐氏が2007年に実証研究の手法として猛威を振るっていると書いている。やり方は、まずP53『一般性のある経済理論に依拠して、経済主体の行動を仮説から演繹的にモデル化する』。その後、「経済主体の最適化問題を解いてモデル内のパラメータを推定する」といった方法だ。別のページだが、『パラメターの値が推定できれば、理論モデルで現実を描写するのに必要なすべてを得たことに』なると考えられているようだ。これはおかしい。ここで一般性があると言われている経済理論の多くが、エビデンスによる裏付けのないものである(しばしば誤りである証拠すらある)。定式化にしても、その構造が適切なのかも分からないものだろう。私の考えた異論は、論争の火付け役であるアングリストとピスケ(誘導型推定派)も同じことを考えたようで、P54『理論仮説が検証されることはきわめてまれである』『パラメトリックな定式化も、理論的な裏付けを欠いたその場しのぎ(ad hoc)である』と主張している。これに対して、構造推定派も反論している。しかしながら構造推定が正しいことを示すのではなくて、誘導型推定(自然実験などで因果関係を証明するもの)の問題点をあげることに注力している。構造推定をおこなう人間も、その指摘がなくてもP32『多くの限界』があることは理解しつつ使用しているので、そんなものかもしれない。

この論争後に関しても記述がある。当然のことながら、誘導型推定が優勢になっているようである。しかし筆者は、あくまでも両方とも正しいツールであるという前提に立って、その後の発展などについて記述している。その内容は私には情緒的な主張にしかみえない。構造推定が大きな改善を得て、実用的になる日が来る可能性もある。しかし、そのためには依拠する経済理論が一つ一つエビデンスで証明される必要があるだろう。そして構造推定で出した答えが、ある程度現実と一致することが確認されてのみ、この手法は市民権を得られる(ざっと調べた限りでは、そのような痕跡はない)。それまでは決して肯定しなのが、科学的には当然のことである。

 

話は変わって、ルーカス批判の話題もあった。ルーカス批判をうけて、DSGEモデルやVARモデルでの分析がおこなわれたことを説明している。ルーカス批判も、DSGEモデルも、VARモデルも以前考察したことがある。しかし経済学におけるエビデンス重視の傾向を示すこの本を読んで、また別の視点のルーカス批判の批判を思いついた。

政策の変更を受けて国民が行動を変えると考えるのは当然である。しかしその影響が取るに足らないものである可能性も十分にある。ルーカスはケインズ経済学の手法の確実に存在する弱点を説明しただけで、それがどの程度のものなのか証明していない。現実で影響があったというエビデンスを示したわけではない。逆に言えば、国民の意識や行動の変容がどの程度の影響があるのかは、たいへんな作業になりそうだが調べることができるだろう。

 

まとめ。

経済学がエビデンスを重視しだしたのは、たいへんよい傾向である。

今後、様々な理論の現実での検証がおこなわれ、誤りであることが分かった理論は廃棄され、証明された正しい理論が安心して使えるようになることを望む。

残念ながら現在も、証明されていないモデルで、政策を評価するなどのことがおこなわれている。