DSGEモデル | 秋山のブログ

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マクロ経済モデルの現状という面白い文章を見つけた。一読の価値があると思うので、是非読んでもらいたいと思うが、この文章は最近隆盛のDSGEモデルと計量経済学に関して書かれている。以前読んだ論文(法人税の帰結)でもDSGEモデルが用いられていたし、隆盛というからには、調べる価値ありと考えいろいろ読んでみた。
(一応、DSGE批判へのリンク

マクロ経済の現状の記述をもとに考察する。

1970年代半ばまで隆盛をほこったケインズ型のマクロ経済学はルーカス批判によって失墜することになる。ケインズにも問題はあり、ルーカスのいうことにも一理あるが、私にはその後の経済学者が、リーマンショックが起こるまでは、ルーカスを怖れるかのように、極端にルーカス批判を気にしているようにみえる。コチャラコタによるルーカス批判の説明は『あるマクロ経済政策レジームのデータを用いて推計された需要と供給の関係は、政策レジームが変われば必ず変わる』ということであるらしい。よく引用されるルーカス批判の指摘である、人々が政策を知って行動を変えることもあるだろうし、消費税のように心理的な問題だけでなく需給関係に変化を起こすこともあるだろう。
ルーカス批判を回避するためにおこなわれたことを引用する。
『どうすればマクロ経済学者はルーカス批判を回避できるのであろうか? その答えは、政策変更の影響を受けない要因に基づいてモデルを組み立てることにある。例えば、中央銀行 が金利決定ルールを変更した場合、投資と金利の関係は変わるだろう。しかし、投資と金利の 関係は、究極的にはもっと根本的な要因に基づいているはずである。その要因とは、一つには 生産要素である資本の蓄積を決定する技術であり、もう一つは人々が今日の消費と将来の消費 のどちらを優先するかという選好である。そうした技術や選好は、中央銀行が金利決定ルール を変えたとしても変わらない。従って、それらの根本的な要因、ないし構造的要因に基づいて 組み立てられたモデルは、中央銀行の政策変更の影響をより適切に評価できるはずである。』
この答えには全く賛同できない。
ちょっと喩えを出して説明してみよう。血圧と塩分摂取量の話である。変えることのできる政策は塩分摂取量で、目的は血圧の低下ということだ。塩分摂取量を減らすことを指示した場合、もたらす変化は塩分摂取量に限定されるとは限らない。薄味にしたことで食事量に影響するかもしれないし、薄味にする代わりに食事量を減らして塩分摂取量を調整するかもしれない。要するに他の重要な要因を変化させる可能性がある。そこでより根本的な血圧の要因を持ちだしてくればどうなるか。血圧は心臓から供給される血液の流量と血管の抵抗によって規定される。塩分は血液の量に影響するので、それと血液の流量と血管の抵抗で式を作れば、塩分量と血圧を直接的にモデル化した場合に起きてくる問題を回避できる?馬鹿馬鹿しい。塩分を制限して出てきた問題は、より根本的な要因にも必ず影響を与えるのだ。同じ政策をおこなって片方のモデルでは影響があって、片方のモデルで影響がないのであれば、それは単に片方が影響が出る要素を無視しているということに過ぎない。
さらには、資本の蓄積を決定する技術や、消費の選好が根本的要因であるかどうかもかなり疑わしい。資本の蓄積はソローの成長モデルから来ているようだが、ソローのモデルの現実との大きな乖離を指摘する意見も多く、私も以前それがいかに間違っているかの考察をおこなっている。実証での検討ももちろん芳しくない。消費の選好に関しては、貨幣量と消費と労働からなる効用関数なるものを作ってそれを最大化するように人が行動するとして計算している。効用をあらわす式自体その正しさの根拠が極めて主観的なもんであるだけでなく、最大化が世の中でおこっているということも疑わしい(参考;世界最小のマクロモデル)。要するに、この二つともがガラクタとしか思えないのである。

DSGEモデルの実証に関しては、モデルの改良でより一致するようになっているものもある(どの程度かは記載されていない)という指摘もあるが、消費税増税に関する分析でも、まるで芳しくない。モデルの式次第で全く異なる結果がでることも指摘されており、論文で見かけるモデルの式の選択の理由も、標準的であるとかの皆が使うから程度の根拠であって、現実とどれだけ符合するからとかではないのは大問題である(実際の論文ではすべからく、モデルの式の選択はさらっと流され、その後の計算に力が注がれている)。モデル自体の実証もおろそかで、おこなった予測の一致率も芳しくないときて、それが正しいと主張するのはいかがなものであろうか。ノーベル賞学者が認めたとか、教科書に書いてあるとか、皆が認めているとかでそれを正しいとすることは、最も科学的でない態度だ。

私見だが、このDSGEモデルを改良していっても、有力なツールにはなりそうもないと思われる。モデルを改良していけば、DSGEモデルが有用になるという主張は、それが成功するまではするべきではない。クルーグマンは、ケインズ的要素をDSGEに取り入れることを提案しているという記述があるが、不均衡を取り入れることは既にDSGEとは別物であるとも思えるし、無駄に複雑なものをさらに複雑にし不確定因子を増やして解が出せるかどうかも疑問だ。