日々感じたこと・読んだ本
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>

『ここから世界が始まる―トルーマン・カポーティ初期短篇集』(小川高義訳 新潮文庫 2022.9)

全部で14の短編が収録されており、総論的な印象でいうと、カポーティが世界を感じ、それを自分の感性で表現されているところが読みどころで、彼が「恐るべき子供」と言われていることがよくわかる、独自の感性が味わえます。

 

以下作品タイトルと短い感想 

★(1つ~5つ)は個人的な好みです。

 

『わかれる道』★★★★★

すごいいい。2人の間柄に強い側と弱い側がはっきりしている中での緊張感。

まるで猛獣が獲物を狙っているような状況をハラハラしながら見続けることになる、不思議な没入感。

『水車場の店』★★★★★

場末で生きる店員の女のおとこまえな行動。人の「善」を感じさせる佳作だと思う。

『ヒルダ』★★★★

純朴そうな女子学生が、読者皆を味方につけつつも、ラストにはとんでもない彼女の悲しい性癖が露呈され、没入していた分だけ、打ちのめされた。

『ミス・ベル・ランキン』★★★

ちょっと既視感。フォークナーの『エミリーに薔薇を』に似ていたからか。しかし少年からの目線が新鮮だからこそ味わい深い。

『もし忘れたら』★★

まちを出る男と残る女の物語。多くの人が経験したであろう切ない物語。アメリカの「木綿のハンカチーフ」(笑)

『火中の蛾』★★★★★

怖さでいればこの短編集の中で一番。主人公の人には言えない罪悪感を読者は共有することにある。つらい。

『沼地の恐怖』★★★★★

これもつらい。まさに沼地の恐怖。少年はこうして、秘密をひとつまた抱える。

『知っていて知らない人』★★★★

話の内容はよくある(つい最近大河ドラマ『べらぼう』のシーンでもあった)が、その男のたたずまいが、物静かな不気味さを感じさせ、物語が進むにつれ不気味さが増す!

『ルイ―ズ』★★★★

女子校の寮の日常の中で、嫉妬と告げ口をする側が主人公。さもありなん。

『これはジェイミーに』★★★★★

一番好き。切なすぎるし、最後まで書ききらないので余韻が残る。ほんと、想いではいつも薄桃色。おとなの世界と子供の心。

『ルーシー』★★★★

物語の展開に無駄がなく、テンポがよく、まるでルーシーとともに大都会にきた気分になるし、主人公の目線から見ているのがいい。このあたりサリンジャーが設定する「子供からの目線」に共通している。

『西行車線』★★★★★

これは傑作だと思う。最初は意味がわからなかったのだが、段々と。しかし最後まで私は気が付きませんでした。トルーマンはまだ若いはずなのに、よくこんなに違った情景が描けるな、と天才ぶりを感じました。

『似たもの同士』★★★★

ノワール(腹黒)な感じがよくて、ああ、こういう女性、いそうだなと(笑)

『ここから世界がはじまる』★★★

『ヒルダ』に似ているかな、と。ミステリアスで孤独で夢想家の女子学生はトルーマンの分身なのかもと思います。

 

以上です。

 

 

『成瀬は都を駆け抜ける』(宮島未奈作 新潮社2025.12)

前作2作の合計で180万部を突破し、本屋大賞2024他多くの賞を総なめした、あの成瀬シリーズの「堂々完結!」作ということで、期待はマックス。

 

私は、成瀬のような若者を心から応援したいと思っています。それは「自分を大切にすること」が「周囲、地域を大切にすること」と同じ、という彼女の考えがとても尊いと思っているからです。そして、だからこそ「自分の道」を信じて「天下を取る=自己実現してそれによって社会を幸せにする」ことを成瀬がやってくれたらいいな、と考えています。

 

この第三作は6つの独立したストーリーで構成されていて、いずれも彼女が京都の大学生になってから1年間での話です。

前半の3作は小説新潮への掲載作だったようでが、後半3作はこの単行本のための書下ろし。

そしてこの後半3本がいいです。

私が前2作で求めていたのはこの後半3作品が扱ったテーマです。

「そういう子なので」は、成瀬の母がクローズアップされていて、母娘の淡い関係が心に染みます。

「親愛なるあなたへ」は、前作で登場した広島から大津にカルタ大会に来て、

成瀬と出会った男の子(彼も京都の大学に入学したのだ)の成瀬への慕情と成瀬の応対が切なく、うれしく。

そして、最後の作品「琵琶湖の水は絶えずして」では、我らが島崎が再登場し、地域への愛着が個人をどれだけ勇気づけているかがよくわかる作品です。

 

キンドルでは最初に掲載された「やすらぎハムエッグ」が無料で全部読めるようですが、

ぜひ、実際に本を購入などして、後半3作品を読んでいただけたらうれしいな~と思います。

そして、宮島先生には、完結編じゃなくて、成瀬の次の作品も、

そして、社会人になった後もずっと書いてほしいです。

次回作を書いてくださることを、切に願っております。

 

『その女アレックス』(ルメートル作 橘明美 文春文庫2014.9)

ルメートルの作品に魅せられて、最も有名な作品に手を出した。

ここ3冊読んでて、彼の作品の魅力の本質をうっすら感じていたのだが、

この作品で、それが確信に変わりました。

それは

人の二面性、です。

どんな悪人でも、善き魂はもっており、

どんな善人でも、悪事に傾く性質がある。

だから彼の作品の登場人物は、その「善悪」が物語の進行につれ浮き彫りになることがあって、

それがドラマの展開に意外性を富ましています。

 

今回の主人公アレックスがまさにそれ。

フランス、イギリスなどで多くの賞を受賞した作品であることも、その面白さが一因だったのでは想像します。

 

前半分はものすごく面白かったのですが、

物語の後半が、「さもありなん」って感じで、そこに行きついたか、ちょっと安易だな、と思いました。

同様のテーマの小説をここのところ数多く読んでいるのでそのテーマは食傷気味。

したがって厳しい感想です。お許しください。

 

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>