日々感じたこと・読んだ本 -2ページ目

藤原緋沙子『青葉雨:秘め事おたつ三』(幻冬舎時代小説文庫2021)

表題の「青葉雨」と「泣き虫清吉」の2つの作品が収められています。

江戸の人情話としては頂点を極める作品なのではないかなと思いました。

どちらも読んで一度は落涙しました。

 

「青葉雨」は、足の不自由な初老の50代に見える男と、彼を甲斐甲斐しく補佐しながら歩く娘に、朝の散歩途中で毎朝すれ違うようになった主人公のおときが、ある日、男が転倒したところを助けた縁で、始まる物語です。

そもそも、その物語のきっかけからいい感じですよね~。

 

「泣き虫清吉」は、祭礼でにぎわう富岡八幡宮で、おたつが、ものを買った露天商の男と、後日偶然出くわし、縁が深まるお話で、この清吉が自らの不始末で、江戸を騒がす怪盗に間違えられ逮捕され拷問され、と。清吉のどん臭さが、ほほえましく、おたつら町人がそれを助け出し、真人間に戻らすというお話。

 

主人公おたつの「ほっておけない」たちが、さまざまなご縁を生み出します。

おたつ本人がそんな自分の気性を知りながらも、結局はそれらに関与してしまいますから、これはもうどうしようもない義侠心ですね。

 

ちなみに、このおたつ、テレビドラマにしてほしいなと思っていて、

演じてほしいのは、天海祐希さんです。

ぴったりだなと思っています。(老け役メイクが必要ですが)(笑)

「遠火」 今野敏 幻冬舎文庫 2025.11 

警視庁刑事一課(殺人案件の強行班)の樋口係長が主人公。

面白いな~と思うのは、彼の自問自答。

タフで時には反社顔負けの警察内の現場の猛者とは肌合いが違う主人公ですが、

彼とその同僚、部下、上司の関係が物語が進むうちに進化していくのが、見てて爽快です。

 

結局、人を動かすのは、最後はその人の人間性。

そして、それは本人が糊塗しても顕れてしまう、その人間の生き方だったりするのだと思います。

 

事件は、女子高生の全裸扼殺死体が奥多摩の雑木林で無造作に遺棄されていたところからはじまり、

地道な聞き込み、刑事の勘、Nデータなど最新技術、そして容疑者への尋問などから解決にいたるのですが、

犯人もなかなかのもので、それも意外性のある犯人であることが読者の好奇心を刺激し続けます。

 

やはりこういう面白味を作るのが今野さんはうまい。

そして、樋口さんのキャラが何度も繰り広げられる自問自答から、

読者にはしっかりイメージできるので、安定して読み進められます。

この、推理小説の面白味である「意外性」「物語の進行に沿った変化」と、

「主人公の性格」「主人公の置かれた社会的位置」という不動かつ定番化されたものの対比があるからこそ、

読者は夢中になるのでしょう。

 

実際、私は電車の中で没頭して読んでいて、車内に忘れ物をしてしまいました(見つかったですが(笑))。

『ここから世界が始まる―トルーマン・カポーティ初期短篇集』(小川高義訳 新潮文庫 2022.9)

全部で14の短編が収録されており、総論的な印象でいうと、カポーティが世界を感じ、それを自分の感性で表現されているところが読みどころで、彼が「恐るべき子供」と言われていることがよくわかる、独自の感性が味わえます。

 

以下作品タイトルと短い感想 

★(1つ~5つ)は個人的な好みです。

 

『わかれる道』★★★★★

すごいいい。2人の間柄に強い側と弱い側がはっきりしている中での緊張感。

まるで猛獣が獲物を狙っているような状況をハラハラしながら見続けることになる、不思議な没入感。

『水車場の店』★★★★★

場末で生きる店員の女のおとこまえな行動。人の「善」を感じさせる佳作だと思う。

『ヒルダ』★★★★

純朴そうな女子学生が、読者皆を味方につけつつも、ラストにはとんでもない彼女の悲しい性癖が露呈され、没入していた分だけ、打ちのめされた。

『ミス・ベル・ランキン』★★★

ちょっと既視感。フォークナーの『エミリーに薔薇を』に似ていたからか。しかし少年からの目線が新鮮だからこそ味わい深い。

『もし忘れたら』★★

まちを出る男と残る女の物語。多くの人が経験したであろう切ない物語。アメリカの「木綿のハンカチーフ」(笑)

『火中の蛾』★★★★★

怖さでいればこの短編集の中で一番。主人公の人には言えない罪悪感を読者は共有することにある。つらい。

『沼地の恐怖』★★★★★

これもつらい。まさに沼地の恐怖。少年はこうして、秘密をひとつまた抱える。

『知っていて知らない人』★★★★

話の内容はよくある(つい最近大河ドラマ『べらぼう』のシーンでもあった)が、その男のたたずまいが、物静かな不気味さを感じさせ、物語が進むにつれ不気味さが増す!

『ルイ―ズ』★★★★

女子校の寮の日常の中で、嫉妬と告げ口をする側が主人公。さもありなん。

『これはジェイミーに』★★★★★

一番好き。切なすぎるし、最後まで書ききらないので余韻が残る。ほんと、想いではいつも薄桃色。おとなの世界と子供の心。

『ルーシー』★★★★

物語の展開に無駄がなく、テンポがよく、まるでルーシーとともに大都会にきた気分になるし、主人公の目線から見ているのがいい。このあたりサリンジャーが設定する「子供からの目線」に共通している。

『西行車線』★★★★★

これは傑作だと思う。最初は意味がわからなかったのだが、段々と。しかし最後まで私は気が付きませんでした。トルーマンはまだ若いはずなのに、よくこんなに違った情景が描けるな、と天才ぶりを感じました。

『似たもの同士』★★★★

ノワール(腹黒)な感じがよくて、ああ、こういう女性、いそうだなと(笑)

『ここから世界がはじまる』★★★

『ヒルダ』に似ているかな、と。ミステリアスで孤独で夢想家の女子学生はトルーマンの分身なのかもと思います。

 

以上です。