日々感じたこと・読んだ本 -2ページ目

『ナイロビの蜂』(ジョン・ル・カレ)を読んで

ジョン・ル・カレの著作で読むのは三冊目となった本書。

今回のこの『ナイロビの蜂』は正直、大変な思いをして読み終えました。

その理由が、先に読んでいたのが『シルバービュー荘にて』と『誰よりも狙われた男』だったから。

2冊とも主人公が「わけあり」の人生を歩んでいて、正体不明の不気味さを読む者に感じさせていたため、

この『ナイロビの蜂』も、主人公には絶対「裏」があると最後まで、

疑いながら読んでしまったんです(涙)。

 

結果、これは大失敗。

主人公のジャスティンは、前述の2作の主人公同様、人として陰影はありますが、それが直接、作品の筋書きには関係なく、

いわば、本人のパーソナリティなだけでした。

 

ここが痛恨の先入観となりました。

 

文庫分で上下2巻の大作ですが、中盤以降、ジャスティンの行動がフォーカスされるあたりから、ずっと「いや何かある、いや何かある」といぶかしながら、読んでしまったため、多分、作品の魅力を知るには至りませんでした。

正直にいえば、ジャスティンはスパイなのでは?と思いながら読んでたのです。(少しにおわせる表現まであるので猶更です)

 

残念です。

 

あらためて思いますが、ジョン・ル・カレの小説の進行って、現実と心理世界(妄想?)、過去と現在が区別もなく、短い文章が連続して進むので、状況を正確に判断することが難しいと思いました。

そもそも、この作品のラストシーンなんて、本当に起こったことなのか、そうでないのか、がわからないのです。

多少、事前に伏線らしき「後日談」があるのですが、その「後日談」でさえ、「本当か?」って疑ってしまわせるなにかを感じさせます。

 

少なくとも今回は読み方を失敗したので、次回は、虚心に向き合いたいと思います。

『ボタニストの殺人』(上・下) (MW・クレイヴン作 ハヤカワ文庫)を読んで

待望の一作が和訳され発売されました。

 

ハヤカワ文庫で和訳して発売してくれている作者の全7作のうち最新作です。(2024年8月20日発行)

英国の国家犯罪対策庁重大犯罪分析課(NCASCAS)の部長刑事、ワシントン・ポーのシリーズ第6作目ですね。

 

毎作、なにか、人間の執念や、その執念が可能にするミラクルな行為をわくわくしながら読んでいるこのシリーズ、

今回も、ポーらがかきまわされる相手として実に執念深く、知能指数が極めて高そうな相手が現れます。

これが「ボタニスト」です。

そして、文庫本の表紙の帯に書かれているように「容疑者は、エステル・ドイル」なのです。

 

なにか、おとながもつ「初心(うぶ)な心」があちこちで展開されており、

そのういういしいシーンと、犯人に迫る緊張感が次々に訪れる贅沢な展開かなと思いました。

 

脇役クラスでは『ブラックサマーの殺人』で登場した元落下傘部隊やシェフを経て今は暗黒街の顔役となったジェファーソン・ブラックや、ポーの地元カンブリア警察のイアン・ヤングなどが作戦に加わってきたので、懐かしい友人に会ったようでうれしくなりました(下巻P76~)。

 

ネタバレはしたくないので、このへんに留めておきます。

 

へニング・シュタールは味わい深い男なのですが・・・・。

 

 

 

 

 

 

『誰よりも狙われた男』 (ジョン・ル・カレ作 早川書房)を読んで

前回読んだ『シルバービュー荘にて』がなかなか良かったので、再びジョン・ル・カレの作品です。

 

前回の作品にて、陰影がありながら健気で、人として味わい深く哀愁と運命を感じさせた、作者の人物設定が胸を打ったので、

再びその世界に浸ろうと手にとりました。

また、物語の展開のスピードもちょうどよかったので、それも魅力として感じていました。

 

今回の『誰よりも狙われた男』は、設定が少し複雑過ぎたかな。

たぶん、ヨーロッパ人なら、イギリスの諜報機関やドイツの国防系の組織について、なんとなく身近に感じているでしょうから、すっと入れたのかもしれませんが、私は極東の島国の住民で、しかも人一倍平和ボケしている庶民でさらに無信教と自負しているので、難しかったです。

 

一番魅力的だったのは、バッハマン。

善人か悪人かが最後までわかりませんでした。

 

さらに、バッハマンと同じく物語のサブ主人公ともいえる銀行家ブルーの描写、なかでも心理的描写が、物語に陰影を深めています。離婚歴あり、再婚した相手とも破綻している夫婦生活という背景を読者が共有しているからこそ、主人公の一人、アナベルとのやりとりを見守り、多分応援したくなるのでしょう。

 

表題の「誰よりも狙われた男」イッサは、最後まで得体が知れず少し不気味な存在として私には映りました。

これは、彼がムスリムだからということよりもむしろ、彼のここまでの過酷な半生のその過酷ぶりが明確にはイメージできなかったからです。

今、あわせてノンフィクションの大作で、移民、アイデンティティ、イスラムについて、現代の西欧が直面している問題を記している『西洋の自死』(ダグラス・マレー著)を読んでいるので、イスラムにさらに詳しくなれたらと期待しています。

 

名作かどうかは・・・どうなんだろう?

しかし、味わい深い作品であることは間違いないかなと思います。

バッハマンにはもう一度別の作品であいたいな、と感じました。

 

ふと、ロスマクドナルドや村上春樹が記す世界観に似たものも感じました。

主人公のアナベル、バッハマン、ブルー、イッサら、

全員がそれぞれの喪失感を抱えて生きているからだと思いました。