日々感じたこと・読んだ本 -4ページ目

『ミッション・ソング (ハヤカワ文庫NV)』ジョン・ル・カレ作 加賀山卓郎訳 2025.8

ル・カレの作品としては読んだのは5冊目

(既読はシルバービュー、ナイロビの蜂、スパイたちの遺産、誰よりも狙われた男)ですが、

最も読みやすく、ピュアな物語だと思いました。

主人公とそのパートナー、ハンナの、

故郷であるコンゴへの純粋な想いがとても尊くて、読んでいて、心が洗われました。

物語としても、抜群に面白く、ある秘密会議の「盗聴」役としてミッションを受けた主人公の

息詰まるような盗聴シーンが物語の半分くらいのボリュームがあり、それがドキドキ、ワクワク。

ある意味、私はこういう、「主人公が完全に透明人間の立場でありながら、事の様子に心を動かされる」ような

物語りを望んでいたような気持ちになりました。

 

それにつけ、ハンナの行動の線が美し過ぎます。

最初の、主人公と知り合ったシーンは、まさに人間愛の象徴、天使です。

 

ル・カレ、って作者は、人としてもいい人なんだな、と思いました。

また別の作品を読みたいです。

 

『ワインズバーグ・オハイオ』(Sアンダソン)橋本 福夫 1959 新潮文庫

実に面白い。

深みのある短編集です。

それぞれの短編がひとつの小さなまち「ワインズバーグ」での出来事を描写してますから

同じ登場人物が複数の物語に登場したりします。

ですから、短編をひとつづつ独立した物語としても読めますし、

一人の人物を追いかけて、その人物の成長(心境の変化とか、年齢による変化)を楽しみのも趣深いです。

 

これと同じような小説ってあったな~と思ったのが

ヘミングウェイの初期作品で主人公ニックアダムスが出て来る作品群。

それと、「まち」としてとらえると、Wフォークナーの「八月の光」だったり、「アブサロム・アブサロム」などに似てます。

それと、中上健次の一連の紀州を舞台にした物語にも通じていくのかもしれません。

 

出版されたのが1919年とのことなので、時代は1900年代初頭だと思います。

ワインズバーグは、オハイオ州の多分東部の寒村で、そこにいても「なにもいいことがない」雰囲気が伝わってきます。

若者は、いずれ出ていくのだと、心に秘めて、肩をいからせて外を歩くし、年老いたものは都会での暮らしをあきらめて、帰ってきているものが多いのです。

登場人物はみなが、この小さな町でそれぞれの「報われない」人生に向き合っています。

そして、令和の今だと間違いなく「コミュニティ障害(コミュ障)」と人から呼ばれそうな人たちです。

そこが面白いのです。人に言えないから、つぶやきが多く、そのつぶやく内容に共感を感じるのです。

その点、少し、ドストエフスキーの小説の香りもします(ぐっとテーマはシンブルで馴染み深いものですが)。

このひとりごと。

そこには、本人にしかわからない、今にいたるプライベートヒストリーが、よそ目を気にせず滔々と語られます。

独り言ですから、それができる。そこが面白い☆彡

この独り言、繰り言、世迷言などを描く、アンダソンの描写は実に冴えきっていて、

その人物が身を置いている周辺の描写が効果を高めているなと思います。

なんでこのシーンにこの対象物を描写しているのだろう、って箇所が多く存在していて、それが「味わい」を生んでいます。

 

解説によると、ヘミングウェイもフォークナーも彼のこの小説スタイルに多大な影響を受けたとのことですが、

言われてみれば、とても納得します。

 

またいずれ読み直したくなる名作だと思いました。

『炎の色』ピエール・ルメートル作 平岡敦訳 2018.11 ハヤカワ文庫

前回読みきった下記が面白かったため手にとりましたが、これまた良いです☆彡

『欲望の大地、果てなき罪 』(上下) ピエール・ルメートル2025.5(ハヤカワ・ミステリ文庫) | 日々感じたこと・読んだ本

 

 

作者の癖か、人物描写が一筋縄ではいかず、キャラが読めず、善悪がわかりずらいまま話が進みます。

そのうち全ての登場人物へ親しみが生まれ、そして、彼らの罪さえ、許したくなることが面白いですよね。

不思議な魅力が充満しています。

これがルメートル最大の魅力かも、と思いました。

訳もいい(ミスは1か所あったが)。

 

今回、私の心をとらえたのは、オペラ歌手ソランジュ。崇高だと思いました。

筋書きでは最後まで誰が主役かわからないまま進んでいくことが、まさに人生のようで面白いです。

そして、登場人物が心の奥底で温めていた憎悪が一気に噴き出す場面は、カタルシスさえ感じさせてくれます。

フランス文学らしい、重厚で複雑な味わいもあって、独特の印象と読む楽しさを与えてくれます。