『成瀬は都を駆け抜ける』(宮島未奈作 新潮社2025.12)
前作2作の合計で180万部を突破し、本屋大賞2024他多くの賞を総なめした、あの成瀬シリーズの「堂々完結!」作ということで、期待はマックス。
私は、成瀬のような若者を心から応援したいと思っています。それは「自分を大切にすること」が「周囲、地域を大切にすること」と同じ、という彼女の考えがとても尊いと思っているからです。そして、だからこそ「自分の道」を信じて「天下を取る=自己実現してそれによって社会を幸せにする」ことを成瀬がやってくれたらいいな、と考えています。
この第三作は6つの独立したストーリーで構成されていて、いずれも彼女が京都の大学生になってから1年間での話です。
前半の3作は小説新潮への掲載作だったようでが、後半3作はこの単行本のための書下ろし。
そしてこの後半3本がいいです。
私が前2作で求めていたのはこの後半3作品が扱ったテーマです。
「そういう子なので」は、成瀬の母がクローズアップされていて、母娘の淡い関係が心に染みます。
「親愛なるあなたへ」は、前作で登場した広島から大津にカルタ大会に来て、
成瀬と出会った男の子(彼も京都の大学に入学したのだ)の成瀬への慕情と成瀬の応対が切なく、うれしく。
そして、最後の作品「琵琶湖の水は絶えずして」では、我らが島崎が再登場し、地域への愛着が個人をどれだけ勇気づけているかがよくわかる作品です。
キンドルでは最初に掲載された「やすらぎハムエッグ」が無料で全部読めるようですが、
ぜひ、実際に本を購入などして、後半3作品を読んでいただけたらうれしいな~と思います。
そして、宮島先生には、完結編じゃなくて、成瀬の次の作品も、
そして、社会人になった後もずっと書いてほしいです。
次回作を書いてくださることを、切に願っております。
『その女アレックス』(ルメートル作 橘明美 文春文庫2014.9)
ルメートルの作品に魅せられて、最も有名な作品に手を出した。
ここ3冊読んでて、彼の作品の魅力の本質をうっすら感じていたのだが、
この作品で、それが確信に変わりました。
それは
人の二面性、です。
どんな悪人でも、善き魂はもっており、
どんな善人でも、悪事に傾く性質がある。
だから彼の作品の登場人物は、その「善悪」が物語の進行につれ浮き彫りになることがあって、
それがドラマの展開に意外性を富ましています。
今回の主人公アレックスがまさにそれ。
フランス、イギリスなどで多くの賞を受賞した作品であることも、その面白さが一因だったのでは想像します。
前半分はものすごく面白かったのですが、
物語の後半が、「さもありなん」って感じで、そこに行きついたか、ちょっと安易だな、と思いました。
同様のテーマの小説をここのところ数多く読んでいるのでそのテーマは食傷気味。
したがって厳しい感想です。お許しください。
『われらが痛みの鏡』ルメートル作平岡敦訳 ハヤカワミステリ文庫2021.6
人生としっかり向き合うこと、あきらめないこと、自分を信じることなど、
大切なことがたくさん感じさせてくれました。
そして、根底には「人間愛」を感じさせてくれる物語でした。
物語りは、1940年4月6日のパリから登場人物たちの南への避難の途上での出来事が綴られ、6月13日に終わりを迎えます。
主要な登場人物は5人。
ルイーズ、
ラウール・ランドラードとガブリエル、
デジレ・ミゴー、
フェルナン
それぞれの物語が、独立した章として展開されるが、苦しい逃避行の中で、時に交差し、感動を生みます。
「この小説の真の主人公を1人挙げよ」と問われたら、読者によって答えが違いそうです。
ルイーズかな、ラウールかな、デジレ?意外にガブリエル?
とにかく、愛おしくなるような人間たちが、精一杯人生を生きる姿が見れて、すごくうれしかったです。
また、ラウールの様子はガブリエルの目から描写されている箇所が多く、
この2人については、アメリカに多い「ロードムービー型」の成長物語の戦時下のフランス版とも言えます。
感動するシーンが随所に散りばめられていて、人の生と死、
そして困難な状況の中ではじめてわかる人の(意外な)真価に心を打たれました。
ラストシーンに彼らのその後が描かれていて余韻を感じさせます。
これはまるで、アメリカングラフィティのラストシーンぽかったです。
また、ルイーズの逃避行中のある偉業は、スタインベックの「怒りの蒲萄」のラストを彷彿させました。