日々感じたこと・読んだ本
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「悔恨」アン・クリーヴス作 高山真由美訳 ハヤカワ文庫 2026.9

今年読んだ本として28番目になりましたが、これほど「読書」という行為そのものに哀しみを覚えた作品はありませんでした。

 

以下、酷評になります。

 

物語の筋、登場人物の魅力、舞台設定、ドラマの内容、文体と描写 どの項目でも5段階評価なら「1」だと思いました。

 

最近読んだ本でいうと、アイスランドのアーナルデュル・インドリダソンの一連の小説の登場人物(警察側)の設定がかなり似ていると感じました。

「仕事」と「プライベート」を、主人公、その部下の女性警官、そして若く自信家のイケメンの3人の様子を描いている点がそっくり。また、陰鬱で天候のすぐれない港町(英国南西部デヴォン州の北部)を舞台にしている点も、悪天候のレイキャビックを描くインドリダソン作品によく似ています。

しかし、人物描写も風景描写も圧倒的に「薄く」「軽く」。奥行きも深みもなく、ただ単にストーリーが機械的に進むだけというか。捜査側も最後に明かされる犯人側も、犠牲者側にも共感をもてることがない作品は珍しいとさえ感じました。も、もしかして、生成型AIが書いた!?

哀しくなりました。

『閻魔の王宮』脚本:フランシス・ヤ-チュー・カウィグ作 小田島恒志訳(『悲劇喜劇』2024年5月

第11回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞の受賞作で、作者はアメリカ・フィラデルフィア生まれの女性脚本家。

 

物語は前半分が1982年。後半分が1998年。

舞台は中国・河南省の田舎がほとんど。

2つの別の親族がそれぞれ別に話が展開され、やがて交差するというよく見る筋の流れ。

それぞれの兄弟およびその配偶者や子供、従妹、両親、祖父母などが出て来て、大家族、親族の関係が深いかの国の農村の暮らしを思わせてくれます。

 

ざっくりとしたあらすじは、

中国政府役人の弟をもつ野心家の兄が、売血ビジネスを思い立ち、親族を巻き込み、事業を拡げようとします。その過程で、牡丹栽培で命をつないでいた別の大家族が売血がもうかることを知ります。彼らは一族あげて躍起となって売血にいそしみ、結果、採血時の不手際で、そのうちのひとりの少年が命の危機に瀕します。さらに採血センターの杜撰な業務態度により、血漿を取った後の余分の血液を体内に再度注入することを繰り返し行ったために、血液を通して伝染する病気、そう、HIV感染が蔓延し、やがてエイズとなり一族のほとんどが亡くなるというお話です。貧しい農家の民はばたばたと倒れ、それを国家機密として、公にしない政府に、以前より危険の警鐘を鳴らしてきた親族の一人の学者が、実験データをもって米国に亡命。そして、国がらみの秘密が明らかになったことをにおわせ、話は幕を閉じます。

 

 

感想

 

実は私ははじめて売血の話が出たあたりで、これは「コロナ」のことなんだなと察しました。そして、やがてHIV感染とエイズを扱っているのだとわかった段階では、「ああ、時節柄、コロナのことを書くとリアリティありすぎて、中国政府から罰せられるから、エイズに変えて話を作ったんだな」と思いましたが、やがて、「いや、まさにエイズの話だ」と悟り、作者の紹介文で、実際にアメリカに亡命してきた医師の体験談を基に作った脚本だと知り、事態の深刻ぶりに戦慄が走りました。

 

話としては実に読みやすく、大家族の個々のやりとりがいきいきとしていて、とても興味がもてました。同年代の日本とは家族・親族をベースにした人生観が全く違うなと刺激的でした。そして、かの国のかの民族の心性が、より理解できたように思います。

 

なお、俳優座による上演では、重要人物をわざと一人二役で演じたそうです。脚本としても最初に「〇〇は一人二役が可能」と明示しており、そのあたりが新しいなと思いました。

 

上演期間が終えた後に、こうして脚本を読んだり、上演の様子を知るのはとても楽しいのですが、できれば、読んだ後にでもまだ上演していて、見に行けたらいいなと思いました。

 

 

『命取りのエピソード』(アンソニー・ホロヴィッツ作 山田蘭訳)創元推理文庫2026.9

今回も面白かったです。構成が斬新で、最初の6割くらいのボリュームで第一部。そして、話ががらっと変わって第二部と続きます。

第一部は、ある俳優がロケ滞在中に殺され、その犯人捜しの推理をホーソンとホロヴィッツが行います。その映画というのが、なんと、2人の活躍を描いた「メインテーマは殺人」であるため、彼らは、映画作りにも参加しています。そういう複雑な前提条件がこの推理小説をややこしく、そして面白くしています。

 

そして、驚くのが第二部。

第一部の終盤ではほぼ犯人が特定され、その確証を得ようと、2人は、第一部で犯人と目した人物が過去に住んでいた場所で、ホーソンにもなじみのあるイングランド北部のあるお屋敷に訪れます。それは、過去にそこで起きたある殺人事件が冤罪だったのではという疑念を晴らす目的でした。ところが、そこで意外なことがわかり・・・。

 

ストーリー構成が相変わらず巧みなので、没入感たっぷりの読書タイムを満喫しました。

特に今回は、親子の愛、夫婦の愛などがテーマで、とても人間的な内容だったと思います。

だからこそ、犯人には同情を禁じ得ません。

そして、ホーソンはいつもながらのなかなか感情が捉えられませんが、ホロヴィッツの一人称で書かれているため、彼の感情の細かい機微がしっかり描かれていて、共感せずにはいられません。ホロヴィッツは倫理的な市民の代表だと感じます。彼の自省、悔恨などが、親近感を高めてくれますね。

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