45年ぶりにスタインベックを読んだ。こんなにすごかったのか。 「スタインベック短編集」
「スタインベック短編集」(スタインベック 訳:大久保康夫 新潮文庫昭和29年8月)
この本。
なじみの古本屋で見つけて、「昔読んだけど、ほぼ内容を覚えてないので、読み直してみようか」と手にとって、暇な時に読んだのですが、あれ、こんなに面白かったっけ?と驚きました。そして、作品を読み進めるうちに、その驚きは、戦慄に変わりました。
スタインベックはすごいわ。
私が彼の作品を最初に読んだのは、小学校の高学年の時の「怒りの葡萄」でした。たしかに「感動」はしましたが、そのあと、ヘミングウェイにはまってしまい、スタインベックは二の次になってしまいました。その大きな理由は「怒りの葡萄」を読んだすぐあとに手にとったのが「赤い子馬」だったからだと思います。少し軽い感じがしたのですね。同じ時期に、コールドウエルの「タバコ・ロード」やTウイリアムズなどを読んでたので、そちらに関心が高まったのですね。その後「二十日鼠と人間」を読んで、やっぱりスタインベックはいい、と思いましたが、なにぶん「意味が深そうな」ポーズにあこがれる年ごろ。スタインベックの明快さ、人間愛などは、あまりにも癖がなさ過ぎて、物足りなかったのかもしれません。それよりフォークナーや、フィツジェラルド、ドスパソス、カポーティらに興味は移っていました。そして決定打は、サリンジャー。彼を見つけてしまい、完全にはまり、スタインベックとは約45年も関係を断絶してしまったことになります。
前置き長くなりました。掲載作品に対しての感想をすべて記したいと思います。
ちなみに、私が今回魅せられたのは、大久保さんの訳のおかげもあると思います。今、この感想文を書いている時分にいくつかの作品は原書(英語)も確認しています☆彡
「菊」
これはいけません。捨てるんだったら、見えないとこに捨てろよ。彼女が可哀そうでなりませんでした。素朴な男はいいけど、配慮や深遠な考えがまったくない怒。
「白いウズラ」
スタインベックがすごいなと刮目したのが、この作品の自然描写です。主人公の心理を描写する自然でじわっと感じさせる。そんな意図が明確で、ほんと傑作だと思いました。
「逃走」
涙無くては語れません(少し大げさですが)。これね~、絶句です。ペペの人生っていったいなんだったんだろう、と考えざるをえません。母がいいのです。母のひとつひとつの言葉が、野卑ですが、真心を感じ、愛情の深さと単純な行動のコントラストが泣かせます。
ラストシーン、考えましたね。これまた、自然と人間の共同作業です。この短編集の中で私のベスト1です。
「蛇」
おもしろいです。いわば怪談ですよね。なんだか、ディープサウスな雰囲気です。そして、スタインベックの他の小説とは違い、舞台は主人公の居住宅兼研究室です。自然が出てない分、著者は人間に焦点をあてていますが、スケールが小さくなった感は否めません。
「朝めし」
ヘミングウェイにも朝めしを扱った短編がありますので、読み比べると絶対面白いと思います。それぞれの作者が何を大切にしていたのかが、偶然同じ行為を描いているのでわかって面白いです。私はヘミングウェイの朝めしのほうが好きです。スタインベックはちょっと理性が先立ち押しが弱いかな・・・。
「襲撃」
こちらもヘミングウェイと読み比べると面白い。「暴力」を扱っていますよね。構成や細かい場面描写はめちゃ面白いのですが、ヘミングウェイをずっと読んでいた私としてはちょっと既視感があってしまいました。
「肩当て」
こちらも面白いんだけど、なんだかフォークナーの大作「八月の光」や「野生の棕櫚」やカポーティの一連のディープサウスを描いた作品を思い出してしまうのです。なんなんだろ。でも単体の作品としてはかなり秀逸なんじゃないかなと思います。
「自警団員」
いいですね~。男の強がり、女房の待つ家に帰ったあたりの心情描写。こんなショッキングな経験じゃなくても、多くの男はのっぴきならない仕事をした後に家に帰った時に同じように感じることもあるのでは?スタインベックってそのあたりの共感を見つけ出して提示するのがとても上手で、そのたびに、私はなんだか人生が豊かになったような気がするのです。上質のワインのような飲み心地ですよね~(上質なワイン、知らんけど)
「「熊」のジョニー」
これは、私はノーベル文学賞に値すると思う大傑作だと思います。人の心情のみならず、コミュニティの怖さ、暖かさなども描き切っているからです。私は、彼の情景描写をもとに、自分で地図を描きながら、このまちの地形を想像しながら読み楽しみました。そんなことをしたのは初めてだと思います。スタインベックの自然情景の描写はそんな衝動に駆り立てるくらい見事だと思います。大久保さんの訳もですね☆彡
「殺人」
「男」のひとつのタイプを描いています。
「聖処女ケティ」
他の作品とは全く毛色が違う作品。これは、寓話だったのでしょうか?あまり面白味を感じることができませんでした。
「敗北」
すごくいいです。夫婦としての男と女のたたずまいがすごくいい!高倉健と倍賞智恵子の世界かな~。特に後半、妻の気持ちの変化がいいんですよね~。なさそうでありそうな気がします。
「怠惰」
一番おもしろくて笑えたのがこの作品です。笑ったあとにちょっぴりうるっと来ます。まさに人間喜劇なのでは?スタインベックってやはり子供を描くのも上手だな~と心から思います。それと、女性教師の存在もキラッと光っている。妙にリアリティがありますよね。主人公と気難しい手伝いの爺さんの幸せな日々を永遠に続かせたかったなぁ、おふたりの至上の幸せのために。これって文明批判、大衆批判にもほんとは通じますが、私も彼と同様、そんな野暮なことは表立って言いたくありません。あくまで、物語の面白さだけを言及して、感想文を終えます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
「地方創生×大学まちづくり 担い手不在を覆す」矢作尚久他 日本ビジネスプレス ワニブックス
タイトルが今興味があることにドンピシャだったので、買い求めて読んでみました。
作者3人(矢作尚久氏、田中克徳氏、ジョン・メツラー氏)がそれぞれ専門の章を担当し、テーマのもと記してくれています。
私的には、「はじめに」と矢作尚久さんが記した「序章」が納得できることが多く書かれていて、そのあとの第一章からは、なんだか、言っていることはわかるのだが、ちょっと現場とずれがありそうだな、と。または、現場でしっかりやられているのだけれど、全然伝わってきてないな、という感じで、少し「言い古された」ことばかりかなと思いました。
また、大学であれば、重要なのは、その大学の「学生」の存在をもっと前面に出して、教えてほしかったのですが、あまりその表記がありませんでした。
「人手がない」「人材枯渇」っていうのが、一番の課題であることは、私が地域の現場でやっていて実感していることと同じでした。
「灰の王」S・A・コスビー作 加賀山卓朗訳 ハーパーBOOKS 2026.6
力のこもった犯罪小説です。作者、S・A・コスビーはありったけの力を振り絞ったのではないでしょうか?本に巻き付いている広告文(通称腰巻)の裏面にM・W・クレイブンが「今年、これ以上の傑作を読むことなないだろう」と賛辞を送っているのを見て、「おいおい、クレイブン、あんたは書かんのかい?」と突っ込みを入れたくなりました。この「灰の王」に触発されて、クレイブンが自らの創作ワールドにさらに暴力性を加えるかもしれないのが、懸念です。
物語は、コスビーの他の作品にも似ている、黒人家族の家族愛と荒涼としてスラム化一歩手前のバージニア州の小さなまちでの「麻薬・暴力・殺人」三拍子そろったバイオレンスな内容です。
2025年に本国では発表されたようで、現代のかの国の病巣がリアルに出し切られています。
際立つのは、主人公の人には言えぬティーンネイジャー時代の贖罪意識が、その後の一家の運命を大きく左右していること。そこには母への追慕、父への複雑な想いが、三人兄弟それぞれで違う気持ちがあることが示さ れており、それが悲劇性を高めます。
介護、脆弱な医療保険制度、不倫、後継者問題、麻薬、ストリートギャング、警察の汚職、銃社会、都市のスラム化など、私たち極東の島国に住む者には刺激が強すぎ、とても現実世界とは思えない内容になっています。