『恐怖を失った男』 (M・W・クレイブン作/ハヤカワ文庫)を読んで | 日々感じたこと・読んだ本

『恐怖を失った男』 (M・W・クレイブン作/ハヤカワ文庫)を読んで

数か月前まで夢中で読んでいたワシントン・ポーシリーズの作者が別の男を主人公にして書いていたシリーズの作品のひとつが翻訳され出版されたのですぐに飛びつきました。

 

驚くことに、舞台はアメリカ。ポーシリーズはイギリスの地方の景観描写の美しさが持ち味のひとつとなっていたので、このイギリス生まれイギリス育ちの作家がアメリカを描くなんて、と思っていましたが、またもやアメリカの広大な地帯が物語の後半からの舞台となり、それが、ただの景観以上に物語の筋に関係していること、軽い驚きを覚えました。

 

ネタバレはしたくありませんので、以下簡潔に。

作者のクレイブンさん、なんだかリラックスして、書きたいことを書いている。そして、それがいい味わいとなって読者の興味とリアリティを醸し出しているなと思いました。

その時その時の銃など武器についての夥しい説明、それを使った者でしかわからないであろうそれら銃の使い勝手、そして、格闘シーンはプロセス顔負け(?)のリアリティ。これぞ、クレイブンさんが作家になる前に過ごしてきた世界なのだな、と感じました。

 

主人公はケーニグ。文字通り「恐怖を失ってしまった」男。他に彼の元上司、黄色いスーツの男、ロシアマフィアの幹部など、いずれも陰影がある男たち、そして、ケーニグの元部下、元上司の娘など、勇敢で知的な女たち。

彼らが繰り広げる、アメリカならではの圧倒的な景観の中で繰り広げられるラストシーンは映画を見ているようなスピード感が爽快で圧巻です。