事故を防ぐのは、心の安全から。
心の安全設計室
心の安全コンサルタント
安田伸也です。

事故が起きそうになったとき、私たちはつい「危ないことをするな」「もっと気をつけろ」と注意したくなります。
もちろん、それも必要です。
でも、本当に事故を防ぐために必要なのは、叱ることだけなのでしょうか。
今回は、わたしが海上保安部の係長をしていた頃に経験した、水上オートバイの漂流事故のお話です。
幸い無事に救助された事例ですが、
そこには
・焦りによる判断ミス
・「今まで大丈夫だった」という油断
・そして部下を指導するときの大切な視点
が隠れているように思います。
この記事の目次
台風接近中に起きた水上オートバイ漂流事故
とある海上保安部の係長をしていた時のお話。
台風が接近しているある日、港の沖合に水上オートバイと人が流されて、助けを求めていると警察から通報がありました。
その海域は、港を出てすぐの所で何千トン何万トンの船が行き交う大型船の航路筋です。
中には巨大船と言われる長さが200メートル以上ある船もいます。
長さ200メートルの船というと、高層ビルを横倒しにしたくらいの大きさです。
いくら船が厳重に見張りをしていても、大きな船の上から泳いでいる人を見つけるのは至難の業。
また見つけたとしても、大型船はすぐに避航動作を取る(避ける)ことができません。
非常に危険な状況です。
わたしは、すぐに潜水士を乗せた救助艇を向かわせると共に、その海域近くの漁協へ連絡。
救助へ向かって貰いました。
ほどなく、漁協から要救助者は水上オートバイと共に無事救助され、事務所にいるとの報告がありました。
わたしは部下と一緒に車で事情聴取をするため、漁協事務所へ向かいました。
事務所で彼らから話を聴くと、仲間数名で海岸で水上オートバイで遊んだ後、水上オートバイを砂浜の沖に錨を静めて停泊させ、浜辺でバーベキューをしていたそうです。
ふと気がつくと、折からの台風の強風で水上オートバイが沖合に流されていくのに気がつき、1人が慌てて泳いで取りに行ったとか。
しかし、沖合の潮に流されて水上オートバイにたどり着くこともできず漂流。
それを見ていた仲間が、警察へ通報したとのことでした。
台風が接近して風も強いのに、海辺で遊ぶのは非常識だと、わたしは、彼らに少々厳しくお灸を据えました。
事情聴取が終わり、彼らを帰した後で、彼らがあまりにシュンとしていたので、少々不思議に思いました。
そこで、漁協の人に訊いたところ、彼らがこの事務所に着いてから、お灸を据えられるのはわたし達で3度目だとのこと。
1回目は、通報した地元の警察官。
2回目は、救助艇で救助に向かった潜水士達。
3回目が、わたし達とのことでした。
思わず笑ってしまいました。
しかし、彼らも自然の怖さが身に染みたと思います。
ホント助かって良かったな。
と思いました。
この事故事例から何が学べるでしょうか?
考察してみましょう。
1,焦ると、人は目の前のことしか見えなくなる
水上オートバイが流されていくのを見た瞬間、その人の頭の中は、
「早く取りに行かなければ」
という思いでいっぱいになったのでしょう。
台風が接近していること。
風が強いこと。
沖合へ向かう潮があること。
大型船の航路が近いこと。
泳いで追いつけない可能性。
そんな危険性が、全く見えなくなっていたのだと思います。
強い焦りや怒り、不安が生まれると、人の視野は狭くなります。
だからこそ、緊急時には、すぐ行動する前に一度立ち止まり、
今、自分がしようとしている行動で、危険がさらに大きくならないか。
と考えることが大切なんじゃ無いでしょうか?
そのためには、普段から現場の危険を洗い出し、
「もしこうなったらこうする」
と対策を決めておくことです。
もちろん、想定外の事も起きることもあるでしょう。
しかし、思い付く限りの想定はしておくべきです。
2,「今まで大丈夫だった」は、安全の根拠にならない
おそらく彼らは、台風が接近する日に初めて海で遊んだわけではないと思います。
これまでも水上オートバイを沖に停め、浜辺でバーベキューをして、何事もなく帰っていたのかもしれません。
その経験が、
「今回も大丈夫だろう」
という油断につながった可能性があります。
しかし、海は、その日によって風も潮も波も変わります。
ましてや、当日は台風が接近しているという状況。
前回まで事故が起きなかったことは、今回も安全だという証明にはなりません。
これは仕事の現場でも同じです。
「いつもやっているから大丈夫」ではなく、「いつもと違う所はないか」を確認する。
その姿勢が必要です。
3,何度も叱るより、何を学んだかを確認する
彼らは、警察官、潜水士、そしてわたしから、合計3回お灸を据えられました。
シュンとしていたのも当然ですね。
少し笑える話ではありますが、ここからは指導のあり方も考えられます。
同じことを何度も叱られると、本人の意識は、
「次から気をつけよう」
ではなく、
「早く説教が終わらないかな」
に変わってしまうことがあります。
大切なのは、叱った回数ではありません。
本人が、
- ・何が危険だったのか
- ・どこで判断を間違えたのか
- ・次はどう行動するのか
を理解したかどうかです。
ですから、部下の方を指導する際は、
「今回、一番危険だったのは何だと思う?」
「同じことが起きたら、次はどうする?」
と質問し、本人の言葉で振り返ってもらうのが大切です。
叱って終わるより、自分で教訓を言葉にした方が、次の行動につながりやすいでしょう。
事故防止で大切なのは「次はどうするか」を考えること
この事故から学べることをまとめてみましょう。
・焦ったときほど、立ち止まって冷静に考える。
・過去の安全は、未来の安全ではない。
・叱るだけでなく、本人に考えてもらい、次の行動を具体化する
一言でまとめるなら、
事故防止で大切なのは、ヒヤリハットの報告上がったときには「危ないことをするな」と叱ることだけではありません。
なぜ危険な状況になってしまったのかを振り返り、次に同じ状況になったときの行動を具体的に決めておくことなのです。
ミスをした部下を指導する際に本当に必要なのは、叱ることより、「次はどうするか」を本人と一緒に考えることではないでしょうか。
まとめ
事故やヒヤリハットが起きたとき、原因となった人を叱るだけでは、同じような事故を防げないことがあります。
「なぜ、その行動を取ったのか」
「どこで判断を間違えたのか」
「同じ状況になったら、次はどうするのか」
そこまで本人と一緒に振り返り、次の行動につなげる。
ヒヤリハットを単なる失敗で終わらせず、次の事故を防ぐための学びに変えていくことが大切なのではないでしょうか。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事が、ヒヤリハットやミスが起きたとき、ただ叱って終わるのではなく、「次はどうするか」を一緒に考える切っ掛けになれば嬉しく思います。
筆者プロフィール|安田伸也
心の安全設計室代表・心の安全コンサルタント。元海上保安官・潜水士。
海上保安庁に約35年間勤務し、潜水士、巡視船航海士、巡視艇船長などを経験。海難救助、転覆船や沈没船の捜索、領海警備、密漁船や密輸船への対応など、3,000件以上の事件・事故に関わってきました。
一方で、在職中には職場の人間関係やコミュニケーションに悩み、約20年間、うつやパニック障害などのメンタル不調を繰り返しました。退職後に心理学やコーチングを学び、現在は心の安全コンサルタントとして、安全大会や企業研修で、ヒューマンエラーと事故防止、心理的安全性、職場のコミュニケーション、メンタルヘルス、傾聴などをお伝えしています。
「自死ゼロ・事故ゼロの世界を創り、笑顔で働く人を増やす」ことを使命に活動しています。

