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 諸外国の状況を語りながら、相対的に日本人の意識を考察している。著者は建築学の専門家だけれど、教会が中心となっている西欧の都市研究から必然的に比較宗教についても造詣が深くなったのだろう。受け入れがたい記述も何箇所かあるけれど、すらっと読めて参考になる点が多い。

 

 

【宗教国家アメリカの内訳】
 最初にできたヴァージニア州はエリザベス処女王の名をとったイギリス国教会だし、マサチューセッツはカルヴァニズム、その極端な神政政治を嫌ってロードアイランドとコネチカットは分離して別のプロテスタントの州をつくった。またメリーランドはメアリ女王の名をとったといわれるカトリックだし、ペンシルヴェニアはウイリアム・ペンによるクエーカー王国。ジョージア州はジョージ二世の名をとった保守的なイギリス国教会、ユタはジョセフ・スミスの率いたモルモン教王国、オクラホマは当初は全州ネイティブ・アメリカンの居留地、ハワイはいろいろだが、その最大住民は日本からの移民だから仏教が盛んといったぐあいです。(p.35-36)
   《参照》   『アメリカの不運、日本の不幸』 中西輝政 (幻冬舎) 《後編》
              【4つのアメリカ】~【第2のアメリカ】

 

 

【宗教国家イギリス】
 ロンドン市は、ロンドンの周辺にある丘や橋や公園などのいくつかのパブリックな場所から、セントポール寺院と、いま一つビックベンでおなじみの国会議事堂が良く見えるように、市街地の各箇所の建物の高さを法律で規制していたのです。 ・・・(中略)・・・ 。
 これは資本主義的諸活動より公共施設や宗教施設を優先している、ということです。 ・・・(中略)・・・ しかし、よく考えてみたら、イギリス国教会は国家の機関なのです。イギリスこそ、じつは完全な「宗教国家」なのでした。(p.50)
 かのロスチャイルドでさえ、イギリス上院選挙に立候補して当選しても議会には入れなかった。議員には 「キリスト者としての誠意」 を誓う義務があるのである。国政に関与したいなら、信教の自由などないのがイギリスである。
   《参照》   『富の王国』 池内紀 (東洋経済新報社) 《前編》
              【貴族院議員】

 

 

【イギリス人が家に執着する訳】
 イギリス人の友人が教えてくれました。「人生の90%を過ごすところだから」と。そのパーセンテージには驚きましたが、かんがえてみるとイギリス人はアメリカ人のようによく働かないし、フランス人のようにバカンスにもいかない。また日本人のように休日にせかせかと出歩かない。かれらはいつも家で家族といっしょに静かな時間を過ごすのを好みます。
 家の窓から見る風景、読書と音楽、趣味の交歓、友人との談笑、アフタヌーン・ティー、地域のボランティア活動。そういう平和な生活、精神の充足がかれらの夢なのです。それがイギリス個人主義の究極の理想です。(p.57)
 家に執着する理由の説明になっているけれど、「じゃあ何故、太陽の沈まない帝国なんか作ったの?」 と次の質問をしたくなる。多分、人口増加で住む家のない二男三男たちが、産業革命のパワーに乗じて海外へ出ていったのだろう。
 一方、女性は、男性ほど先頭に立って海外へ勇躍するという訳にもいかなかったから、退屈な家の中で、せめてドキドキできる007のような、あるいは知的で怪しげなミステリーを好むようになったのかもしれない。
   《参照》   『世界古本探しの旅』 荻野アンナ他 (朝日新聞社)
              【イギリス人のミステリー好き】

 

 

【戦国時代が1500年も続いたドイツ】
 ドイツは、西暦375年のゲルマン民族の大移動にはじまって、19世紀の近代国家ができあがるまでの1500年間、この地に定着したシュヴァーベン、フランケン、フリーゼン、バイエルン、チューリンゲン、ザクセンといったゲルマンの6大種族を始めとする王様や豪族、司祭、騎士らによるいわば「戦国時代」がずっと続いた、ということです。日本の戦国時代は100年ほどでしたが、ドイツのばあいそれが1500年も続いた、というのが一番理解しやすい。(p.62)
 受験の世界史で習うドイツの歴史って、せいぜい近代のプロイセン以降だけだから、それ以前のことは全然知らなかった。最近は日本人のサッカー選手がドイツのクラブチームで活躍していることだし、戦争好きなドイツの昔のヤバイおじちゃんたちの歴史を書いた本があるんなら、読んでみたい気がする。

 

 

【アブラハムの系譜】
 かんがえてみると、たとえば日本人の女性は、イスラム教に改宗しないかぎりアラブの男性と結婚できない。それにたいして、ユダヤ教やキリスト教の女性はそのままアラブ人男性と結婚できるのです。なぜなら、かれらはいわば兄弟どうしであり、かれらの争いはいわば兄弟喧嘩だからです。(p.92-93)
   《参照》   『クリスマス・ラブ - 七つの物語 - 』 レオ・ブスカーリア JIG
              【サラという名前】

 アブラハムやサラやハガルが、どこに鎮まっているか分かっていないし、日本文化の深層も分かっていないから、こんなアホな宗教意識がまかり通っている。
   《参照》   『ガイアの法則』 千賀一生 (徳間書店) 《前編》
              【シュメールの叡智と16花弁の菊家紋】

 

 

【聖職者はいないイスラム教】
 キリスト教には司祭や牧師、仏教にはお坊さんがいる。ところがイスラム教には、神さまと人民の間をとりしきる聖職者というものがない。ウマラーといわれるイスラム法学者がいるが、コーランの解釈者にすぎず、モスクにはイマームという管理者がいるが集団礼拝の音頭取りでしかない。かれらは聖職者ではない。
 とすると、信者のあいだにはいっさい「階級性」がない、人々はコーランを通じて直接神様と向き合っている。非常に平等で、わかりやすい宗教です。(p.95-96)
 イスラム教徒の内に「階層性」はなくとも、異教徒に対してはあるのである。だからドンパチが絶えない。
 ユダヤ人も利子を取ることを禁じていたけれど、それは同族の範囲内と割り切っていたからこそ、ロスチャイルドのような人々が海外で国をも動かすほどの支配者となっていった。

 

 

【ザ・コモンウェルス】
 現在、イギリスは4年に1回、ザ・コモンウェルス、つまりかつての植民地国52カ国を集めて「オリンピック」をやっている。ロンドンにいたとき、毎日テレビを見ていたのですが、エリザベス女王出席のもと「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」を歌いながら仲よく競技をしていた。そのときかつてイギリスに支配されていたのに参加しなかったのはエジプトとアイルランドだけでした。(p.99)
 アメリカがベースボールを通じて、東アジアと南米を戦略的に取り込んでいるように、イングランドは戦略的に拡張的な連邦内のオリンピックを開催しているのだろう。
   《参照》   『世界を知る力』 寺島実郎 (PHP新書) 《前編》
              【ユニオンジャックの矢】

 

 

【「抑制のルール」なき「青天マージャン資本主義」】
 マージャンに「満貫」という勝金額を抑えるルールがありますが、現実の世界はそれもない儲け放題の「青天マージャン」になっている。金儲けに抑制のない「青天マージャン資本主義」が横行しはじめているのです。これは極端な勝者と極端な敗者という階層をつくりだし、その結果、中国社会内部に大きな爆弾を抱えることになる。
 ―― 華僑がそれに似ていませんか?
 そうです。昔からその「青天マージャン資本主義」をとってきたものに華僑があります。(p.123-124)
 国の保護のないところで生き抜こうとする集団は、ユダヤ人であれ華僑であれ 「青天マージャン資本主義」 という原理の上で動いてゆく。中国発のサブ・プライムやリーマンが起こるのは何時のことだろうと思ってしまうけれど、ユダヤ人は亡国の民であっても、華僑はそうではない。その違いがどう出るかである。
 欧米や中国のことばかり言っていられない。日本も、日産のゴーンやソニーのストリンガーように外国人が最高経営責任者になることによって、恥知らずな「青天マージャン資本主義」になってゆくのである。
   《参照》   『ぼくたちは、銀行を作った』 十時裕樹 (集英社インターナショナル)
              【ゴーン似の著者】 【追記】

 因みに、麻雀の満貫は24000点であり、最初の持ち点が25000点だから、ほぼ同額である。これを生涯生活必要金額と考えれば、一人で二人分以上取るな、それ以上貪るなということである。

 

 

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