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 元ロシア外交官の著者。当時の情報収集に関する腕前は、関係者を唸らせていたらしい。
 著者は現在、外務省の意向に合わぬ輩として国策捜査の対象にされ、外務省を辞めているから、外務省の腐敗状況を幾つもの著作に著して国民に知らせてくれている。

 

 

【飯倉別館】
 飯倉別館は、外務省幹部が外国人要人を接待するために用いているというのが、外務省の表向きの説明だ。確かに外国要人に対する接待も行われている。ただし、実際には鈴宗男氏に対するような政界工作、さらにマスコミ工作の場としても用いられているのだ。外務官僚は新聞記者やテレビ記者を外務省にとって都合がよい「与党」とそうではない「野党」に分ける。与党記者には政局情報に関する報告書を作らせ、それにカネを払う。 ・・・(中略)・・・ 。
 記者が公権力の要請に応じて、取材で得た情報を元に文章を作り、それを官僚に渡してカネをもらったことが会社に露見すれば、まず確実に馘首になるだろう。そこが外務省のねらいなのだ。このようにして「黒い友情」を育んだ記者は飯倉別館で接待されることになるのである。(p.39)
 飯倉別館は、東京都港区飯倉片町にある。本来の国家業務から外れたところで、欲心に満ちた者たちが出入りしている所であるということらしい。

 

 

【組織に抗う者は・・・】
 筆者は飯村氏の工作を具体的に知っている。実は、鈴木宗男氏を訪れ、「このままでは外交ができなくなってしまいます。国会質問で田中大臣を追求してください」とお願いしたのも飯村氏だ。飯村氏は私にも「ババア(田中氏のこと)を何とかしないと。君からも鈴木先生によくいっておいてくれ」という依頼を何度か受けた。
 この飯村氏が、風向きが変わると今度は鈴木宗男バッシングの中心人物となる。(p.59-69)
 著者は、飯村氏から鈴木宗男おろしに協力しろと要請された。
 要するに、「外務省で君が生き残りたいと思うなら鈴木攻撃に参加しろ」ということだ。筆者は「私は外務省員としても、佐藤優という一人の人間としても鈴木宗男先生を尊敬しています」と言って、協力を断った。そうすると、それから暫くして、査問に呼び出された。今度の担当者は飯村氏ではなく、外務省に出向してきた現職の検札官だった。そして逮捕への道筋ができる。組織に抗うものは潰される。(p.60-61)
 当時の親中派の田中真紀子外務大臣が下されたのは、日米の軍事情報を漏らしたからとか言われていたけれど、その時何故、鈴木氏は外務省に協力したのだろう。外務省に貸しをつくるつもりだったのだろうか? ロシア側との有力なパイプを持つ鈴木氏は、アメリカ支配下にある日本であっても外務省を手なずけることがで、活躍できると思っていたのだろう。
 アメリカの属国である日本において、アメリカの意向を無視して行動する政治家や外務省職員は、かりにそれがどんなに国益をもたらす優れたアイデアであっても直ちに潰されるてしまうのだろう。

 

 

【諜報業界用語】
 嘘物語をインテリジェンス業界用語でカバー・ストーリー(偽装した物語)とかレジェンド(伝説)とかいう。ちなみにカバー・ストーリーという用語は、CIA(米中央情報局)、SIS(英秘密情報部)が好み、SVR(露対外情報庁)はレジェンドというのが普通だ。こういうちょっとした言葉遣いでその人物がどこでインテリジェンス教育を受けたのかがわかる。(p.70)
 一昔前まで、圧倒的な筆力で若者読者をその世界に導いてくれた落合信彦(ノビー)は、もちろんカバー・ストーリー派。

 

 

【スーパーマン】
 佐藤氏の睡眠時間は若い頃から3時間ほどだというが、ウオトカを5本飲んだ日でもそれだけ寝れば翌朝爽快に目覚められるという。よく言えばスーパーマン、悪く言えば、まことに失礼ながら異常体質の持ち主ということか。この酒の強さが、佐藤氏の無類の酒好きで知られるロシア人たちに食い込む時に大きな武器になったのは言うまでもないだろう、さらに驚くべきは、それだけ飲んでも翌日、一緒に飲んだ相手が何を言ったかすべて記憶して言うというのだ。(p.184)
 佐藤さんのように、「能力」というより「脳力」が通常のレベルを超えている人は確かに実在するらしい。
 空海や熊楠などは、そのような特殊脳力ゆえに秀でた能力をもっていたのである。
 現在は、そのような特殊脳力をもつ子どもたちが大勢生まれているはずである。
 並みの能力の人間だと、平気で邪悪に染まって保身を専らとする集団になってしまうけれど、通常のレベルを越えた能力を持つ人間は、徳性においても優れているものである。そのような才能は、諜報の世界より、世界の平和と繁栄をもたらすために使われるべきだろう。

 

 

<了>

 

 

  佐藤優・著の読書記録

     『日本人のための新「幸福論」』

     『小沢革命政権で日本を救え』

     『野蛮人のテーブルマナー』

     『大和ごころ入門』

     『暴走する国家 恐慌化する世界』