日本文化講座⑥ 【茶道】

【茶道はここから始まった】
 ある人が 「仏教の真髄はなんですか?」 と、趙州禅師に訊ねました。禅師は 「喫茶去 (お茶を飲むことだよ) 」 と答えたそうです。 
 この中国の禅話を元にして、日本の一休禅師は 「無心にお茶を飲む時は、どう言う境地か」 と、弟子の村田珠光(1422~1502)に訊ねたところ、村田珠光は 「柳は緑、花は紅です」 と答えました。これを聞いた一休禅師は 「よし!」 と言い彼に印可を与えたそうです。
 “当たり前のことの中に、真髄がある” ということを悟るのが茶道の目的であり起こりでした。 日本の茶道は、この村田珠光から、武野紹鴎、それから千利休へと継承され確立してゆきました。


【 茶道の本質 】
 茶道は元来、禅宗を背景として成立し、作法や道具よりもその精神世界が重んじられてきた芸事で、逆にいえば、禅宗の核心を、儀式にも似た作法や掛け物、茶碗などの道具で表現することが、その本質とも言えるのです。「茶禅一味」という言葉がこれらのことを表しています。


【 茶道の精神 】
 茶道の精神とは、反骨と寛容、自由と束縛、清と濁、そして陰と陽が一体となった、まさにきらびやかな前衛芸術的な精神であり、別な表現で言うならば、宇宙の生成発展する有り様を内包した精神とも言えるのです。


【 茶道の美の核心 】
 ひとことで 「侘びさび」 と言われていますが、これは、無限のメタファー(隠喩)によって生じる、はてしない広がりと、底無しの深淵さに満ちた世界であると言えます。


【 対比の中にある茶道美 】
 質素を旨とする「侘びさび」の茶道に、「黄金」の茶室を持ちこんだのは他ならぬ安土桃山時代の前衛芸術家、千利休その人でした。 これは決して矛盾ではありません。仏教の無常観を背景に、朽ちる様の両極ともいえる「黄金」と「侘びさび」を互いの中に観るのです。


【 茶道の参加者 】
「亭主」:お茶を立て客をもてなす人です。
「正客」:もてなされる中心 人物です。
「末客」:客の最後です。(客の側から亭主を補佐する役目があります)


【 茶室の掛け物(掛軸) 】
 茶室内の床の間には、たいてい禅語の書かれた掛軸が掛けてあります。これを墨蹟といいます。墨蹟はそれを書いた僧侶そのものであると考え、誰もが茶室に入った時には、墨蹟に対して一礼します。


【 茶道の三音 】
 釜のたぎる音、茶杓で茶碗を打つ音、水指から釜や茶碗に水を注ぐ音、この3つの音を言います。 茶会席の進行と共に聞くことのできるすべての「音」が「静寂」を表現しています。音による瞑想空間の演出ですが、これも【対比の中にある茶道美】といえるでしょう。 
(日本文化<日本神霊界>は、「動」ではなく「静」を基本にしています)


【 茶道は「男の世界」のものだった! 】
 いまでこそ「茶道」はお金と時間に余裕のあるご婦人や嫁入り前のお嬢さんのお稽古ごとのように思われていますが、茶道の発祥当時(安土桃山・戦国時代)の歴史を眺めてみると、むしろ女たちを拒否する「男の世界」の芸事であったことがわかります。明日、死ぬかもしれない戦国時代の武将たちにとって、茶室こそが唯一、気を緩めることのできる「癒しの空間」であったのです。


【 茶道といえばこの人物 : 千 利休( 1522~1591) 】
 この人がいなければ、茶道文化の流れはできなかったと言えるほど重要な人物です。利休の茶道の心(美意識)を、最も端的に表したものに、藤原家隆(『新古今和歌集選者(1158~1237)』)の短歌(5・7・5・7・7)があります。
 「花をのみ 待つらん人に 山里の 雪間の草の 春を見せばや」
 春爛漫が待ち遠しいという人たちに、山里の雪の間から少しだけ顔を見せている草が感じさせる、楚々とした、ささやかな春の気配というものを見せてあげたいものだ、という内容です。


○茶道用語 『 一期一会 』
 「一生(一期)に一回しか会えない」という心づもりで、もてなしの『唯今』を大切にするという意味です。茶道成立の時代背景(戦国時代)を知れば、その研ぎ澄まされた『唯今』の瞬間を感じることができるでしょう。


○茶道用語 『 雪月花 』
「雪」:茶道では「雪」を「花」と見ます(隠喩)。
    ですから雪の日には、決して床の間に花は活けません。
「月」:くっきり見える満月ではなく、満ち欠けする過程や、
    雲間に見え隠れする月を美しいものと見ます。
「花」:花は満開だけが素晴らしいのではなく、

    それぞれに最も美しい段階があることを日本人は知っています。

    人も花も咲き乱れる状態よりも「命のありよう」に
    重点が置かれているのです。


○茶道用語 『 残心 』
 弓道では、「弓を放った直後、そのままの姿勢で静寂を保つ構え」を「残心」と言います。茶道の場合も同様に、「所作の一つ一つに心を込め、余韻をもって所作に当る」ことを意味します。「残心」の心得は、日本人の日常生活の中でも随所に活かされています。


○茶道用語 『 和敬静寂 』
 茶道に必須の四文字です。 
「和」:人の和、道具の取り合せ、空間と時間(季節)の調和を意味します。 
「敬」:人を敬い、道具、空間、時間(一期一会・季節)を大切にすることです。 
「清」:人は茶室に向う露地という空間を通りつつ心を清め、棗や茶杓
     などの道具は袱紗をさばいて清めます。(神道 関連用語「禊ぎ」)
「寂」:単なる「静か」ではありません。「侘びさび」の「さび」を表します。


□□□ 道について □□□
 日本には、茶道の他に、華道、書道、香道、武道(柔道・剣道・弓道・合気道)など、「~道」の付く芸事がいくつもあります。上記では作法や用語を持つ仏教 (禅)の関わりで説明していますが、本来の「~道」の本質は、日本に仏教が伝わる以前からあった神道の中にあります。

 

 

 <了>

 

 

 【日本文化講座】
 ① 七福神    ② 松竹梅    ③ 宗教文化

 ④ 日本と古代キリスト教の関係   ⑤ 言霊・天皇

 ⑥ 茶道     ⑦ 易経     ⑧ 武士道
 ⑨ 日本神道と剣 <前・後> 

 ⑩ 日本語の特性 <前・編>