日本文化講座 ②  【松竹梅 】

 日本語辞書の代名詞とも言える広辞苑で、「松竹梅」を引いて見ましょう。

  松と竹と梅。 三つとも寒に堪えるので、中国では歳寒(冬季)の三友と呼んで、
  画の題材とされた。 わが国では、めでたいものとして慶事(祝い事)に用いる。


 さて、何故に日本人は松竹梅を、めでたいものと考えるのか、辞書に書いてない側面から考えてみたいと思います。

 先に結論の俳句 (5・7・5) を書きましょう。

       「松で植え 竹で育てて 梅で咲く」

 となります。

 何故そうなのか、個々の説明を読みながら、日本人の精神性を感じ取ってください。
 立派な人間への成長を願ってのことです。


【松】
 松は、波に洗われた海辺の岩場に生えている樹木というイメージがあるように、松の根は岩を割って成長しつづけることが知られています。つまり、過酷な環境をものともせずに成長する常緑の松は、厳しい境遇にある人々にとって、心の支えとなる樹木です。
 昭和天皇(在位:1926~1989) は、苦しい戦後の状況を 「降り積もる雪」 に例えて、寒くても 「色を変えない松」 のように、苦難に負けず力強く国民に生きて欲しいという切なる願いを込めて、以下の歌を詠みました。

  「降り積もる み雪に耐えて 色変えぬ 松ぞ雄々しき 人もかくあれ」

 日本の文学芸術である俳句や和歌では 「松」 と 「待つ」 は互いに掛詞となっているように、 「松」 には “忍耐力・根気・持久力” 等の神霊的な意味があるそうです。


【竹】
 竹の特徴は、何と言っても成長が速く真直ぐであることでしょう。若山牧水という歌人がこんな歌を詠んでいます。


 「若竹の 伸びるが如く 子供らよ 真直ぐに伸ばせ 身を魂を」  

 竹は1本で聳えることはなく、常に竹林を形成しています。互いに地下の根で結び合い、どんなに強い嵐にも耐え忍びます。真直ぐ(素直な性格)で、柔軟で他と余り異なることなく、和をもって困難に立ち向かいます。さながら日本人の集団的性格そのもののように思われます。
 竹には、 “行動力・集中力” などの若者に相応しい神霊的な意味があるそうです。


【梅】
 梅については、樹木というより花によってそのイメージは保たれています。同じく日本人に愛でられる「桜」の花と比較すると、桜が暖かな春に満開で咲くのに対し、梅は冬が終わらんとする頃、漸く一輪また一輪と咲く、そんなイメージですね。日本人の中には人知れづ孤高に咲かんとする、そんな情景を好む人も多勢います。
 服部嵐雪にこんな俳句(5・7・5) があります。 

 「梅一輪 一輪ほどの 暖かさ」 

 そしてもう一首、歴史上の人物でありながら、神になったとされる、天神・菅原道真が生前、讒言によって九州の大宰府に左遷された折、京都の自宅にあった梅の花を思って詠んだ有名な歌です。

 「東風吹かば 匂おこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」

 梅の花は一般的に仄かな色合いをしています。古風な日本人の多くは、色彩においても、香りにおいても、味わいにおいても、仄かなものを好みます。きつい色、強い香り、濃厚な味わい、これらはいずれも日本人の感性には合わないようです。仄かなもの、繊細なものを感じとることのできる日本人の感覚、感性、あるいは霊性は、天界(神霊界)の映しを、この梅の花に感じ取っていたようです。
 そう正に梅の花は “智慧の花、悟りの花、神の叡智を呼ぶ花” なのだそうです。真の道を貫いた道真は、天神となりました。菅原道真を祭る大宰府天満宮の紋章には 「星」 と 「梅」 がデザインされています。

 

<了>

 

 

 【日本文化講座】
 ① 七福神    ② 松竹梅    ③ 宗教文化

 ④ 日本と古代キリスト教の関係   ⑤ 言霊・天皇

 ⑥ 茶道     ⑦ 易経     ⑧ 武士道
 ⑨ 日本神道と剣 <前・後> 

 ⑩ 日本語の特性 <前・編>