音盤ながし -34ページ目

THE TEDDY CHARLES TENTET / 髙田郁『花散らしの雨』

 髙田郁『花散らしの雨~みをつくし料理帖』読了。シリーズ1作目の『八朔の雪』がとても胸に沁みたので、2作目も読んでみました。そしてまたじ~んときましたねえ。「...その刹那。障子の隙間から、そっと白い腕が差し出された。夜目にも真っ白な細い女の左腕。その手の先が狐の形に結ばれる。... 涙は来ん、来ん 」幼なじみの野江ちゃんは吉原の花魁、顔を見せない代わりに、幼い頃ふたりでよくやったサインの交換をするシーンです。涙は来ん、来んは狐のコンコンにかけてあるんですね。このシリーズは料理帖とあるように、主人公澪による季節の素材を生かした料理が作中で振る舞われ、それはまた読んでいる読者にも振る舞われているのです。美味しいですよ、想像の御馳走。
●THE TEDDY CHARLES NONET & TENTET『COMPLETE RECORDINGS』
 これも1956年のジャズ。俺の生まれた年のジャズの名盤ですね。もとのLP盤は『THE TEDDY CHARLES TENTET』という56年アルバムだったのがCD化でコンプリートとなった時に、エリック・ドルフィーやズート・シムズ等が参加した63年録音が加えられたようです。20代の生意気盛りの頃、フリー・ジャズやロフト・ジャズをよく聴いていた頃、ギル・エヴァンスやジョージ・ラッセルとかのアレンジされたアカデミックな感じのジャズが嫌いで(よく聴いてもいないくせに)、だからこのテディ・チャールズも食指が伸びなかったんだよね。いやあ食わず嫌いはいけないな。
 CD化されてから初めて聴いたんだけど、かっこいいんだよ。クールでね。ギラギラしてはいないけどエモーショナルだし。J・R・モンテローズ、アート・ファーマー、ジジ・グライス、ジョージ・バーロウ、ドン・バターフィールドのホーン陣にマル・ウォルドロン、ジミー・レイニー、テディ・コチック、ジョー・ハリスのリズム陣、そしてリーダーのテディ・チャールズというテンテット。ゼブラのようなジャケットといい、とにかくスタイリッシュ。63年録音の方は
リムスキー・コルサコフ、チャイコフスキー、プロコフィエフ、ハチャトゥリアンなどロシアの作曲家の曲をやってるんだけど、まったくクラシック臭がありません。おしゃれなスウィング・ジャズって感じかな。残念ながらドルフィーの活躍は聴かれません。
花散らしの雨 みをつくし料理帖/高田 郁
¥600
Amazon.co.jp
COMPLETE RECORDINGS/TEDDY CHARLES NONET&TENTET
¥1,851
Amazon.co.jp


奥田英朗『家日和』そして耳鼻咽喉科『偉大なる復活LIVE』

 奥田英朗『家日和』読了。夫婦と住処に纏わる六つの短編。別居、倒産、ネットオークション、ロハス、恋心、、、家庭に訪れる大波小波を名手奥田がささっと捌き読後感良し。中でも「家においでよ」。主人公は別居で一人暮らしになったのを機に、押し入れにしまってあった『レコードコレクターズ』のバックナンバー10年分を本棚に並べるんだよね。親近感が一気に湧いたよ(笑)。「妻と玄米御飯」では、妻がロハスに目覚め、夫と息子達は「たまには豚カツが食べたい」と抗議する、ってのも可笑しかった。
●耳鼻咽喉科『偉大(はずかしく)なる復活Live at新宿LOFT2010.3.5』
 大好きなバンド、カーネーションの中心人物直江政広がカーネーションの前にやっていたバンドが耳鼻咽喉科で、これはその復活ライブの音源を収録したもの。直江へのご祝儀のつもりで買って聴いてるんだけど、まあ'80年代のニュー・ウェイヴそのものですね。ヒネクレ・ポップな感じありで、懸命に70年代のロックから脱出しようともがいている様子がなんだか懐かしい。ただ直江のフランク・ザッパ好きがサウンドの所々に顔を覗かせ、そのへんは楽しめた。
家日和 (集英社文庫)/奥田 英朗
¥500
Amazon.co.jp
偉大(はずかしく)なる復活 Live at 新宿LOFT 2010.3.5/耳鼻咽喉科
¥2,100
Amazon.co.jp


ジェフ&エイモス・LIVE 渋谷CLUB QUATTRO (2010.10.8)


音盤ながし-geoff&amos


 ジェフ・マルダーとエイモス・ギャレットによる" Having a Wonderful Time Tour 2010 " へ行ってきた。渋谷クラブ・クアトロは超満員で、主催の麻田さんも興奮ぎみ。そして待ちに待ったロック・レジェンド、ジェフとエイモスが登場。ついにこの目で彼等を見た、生の歌と演奏が聴ける、登場してきたご両人を見ただけで感慨深くすでに感動してしまった。ジェフはダンディーでかっこいい!エイモスはでっかいアメリカンな爺さん(笑)てな感じで、どこか愛嬌がある。ジェフは古そうなマーチン(かな?)のアコギ、そしてエイモスは赤い3ピックアップのテレキャスターを抱える。バックのベースとドラムとエレピを演奏するのは若い日本人プレイヤー。

 ジェフが歌い出す。ハリと艶のある歌声、まったく衰えていない。ブルース・ナンバーを洒脱にしかも品格を持って歌う。そしてエイモスの絶妙なオブリガートとソロ。なんでこの人は、いつも「絶妙」に弾けるんだろう! 名人なのは間違いないのだが。
「Gee Baby Ain't I Good To You」「Small Town Talk」「Tennessee Blues」「Lazy Bones」「Sleepwalk」「Please Send Me Someone To Love」「Midnight At The Oasis」など、ファンには涙ちょちょぎれそうなお馴染みのナンバーも披露されおじさん達大興奮(笑)おじさん度の高い会場でした。第二部の始めには日本の若手ニューオリンズ系ブラス・バンド、ブラック・ボトム・ブラス・バンドが会場後方から演奏しながら登場、自分たちのレパートリーを2曲披露し、そしてジェフ&エイモスのバックを担当、ベター・デイズな感じの重厚なサウンドが演奏され、これまたファンは胸を熱くしてたはず。

 このライヴでヘエ~!?とナルホドしてしまったコト、それはエイモスのギタリストとしての人気が非常に高かったこと。集まった多くのファンが彼のギター・プレイを待ち望んでいたこと。確かに彼がレコードに残した名演は数多く、がしかしクラプトンやベックのようなメジャーなギタリストでもないのに、この人気ぶりは凄い。「Sleepwalk」ではウィ~~ンと特徴的なベンディングの都度大拍手が起こり、マリア・マルダーとの大有名曲「Midnight At The Oasis」では、中村マリがハンド・マイクになったとたん、会場がいよいよとざわめき、彼女が歌い出すと、おそらく多くの観客はエイモスのソロを待ちわび、そしてそのソロに酔いしれたはず。こんな幸せな予定調和はないよなあ、とジ~ンとした。この夜に集まった多くのファンが聴きたかった2曲、それは「Please Send Me Someone To Love」と「Midnight At The Oasis」だったと思えるのは拍手の大きさで判ったし、俺だってそうだったから。この2曲のレコードで、エイモスはロック史上に残る名演ソロを披露しているのだ。

 エイモス・ギャレットはもう70歳だという。ジェフ・マルダーはそれより少し若いそうだ。共に高齢だけど、歌にもギターにも衰えはまったく感じさせず、その現役感たっぷりで充実したライヴを目の当たりにして、あらためて彼等ジェフ&エイモスはアメリカン・ミュージックの宝、まさに人間国宝なんだと実感した。

(上に掲載の八木康夫さんによるジェフ&エイモスのイラストは'80年前後に楽器会社の広告として雑誌に掲載されていたものです。)


GEOFF MULDAUR & AMOS GARRETT...&『チャイルド44』

 T・R・スミス『チャイルド44』上下巻読了。読み進むのが辛くなるような部分もあったけど、終わってみるとその展開の巧さに舌を巻く。ソ連もの、警察監視国家の恐怖、「この国には犯罪は存在しない、理想の国ソ連」という建前、スターリン時代のソ連を背景(この背景が主役かな)に、元エリート捜査官とその妻が国家から犯罪者(反革命分子)として追われながら、連続殺人事件の犯人を追い詰める。登場人物のその端役にいたるまで丁寧な人物造形がなされ、その臨場感が胸に迫る。ミステリイ・スリラー・ホラー・スパイ・冒険小説として見事な一作だった。
●GEOFF MULDAUR & AMOS GARRETT
『PAUL BUTTERFIELD'S BETTER DAYS』
PAUL BUTTERFIELD'S BETTER DAYS/LIVE AT WINTERLAND BALLROOM』
GEOFF MULDAUR & AMOS GARRETT』
GEOFF MULDAUR & AMOS GARRETT/Live in Japan』
 ジェフ・マルダー&エイモス・ギャレットの渋谷クアトロ・ライヴ目前祭りです(笑)。お二人が参加していたバンド、ベター・デイズはもちろん大好きなバンドだったけど、凄いバンドと更に実感できたのは後年'99になって出たライヴ盤を聴いた時。ポールの吹くブルース・ハープのブッ太さに圧倒され、エイモスのギターは絶対的にいかしてるし、ジェフの歌の味わいもライヴでは雄々しさすら感じさせるし、ロニーのピアノはグルーヴィーで最高だし、クリスとビリーのリズム隊は柔軟でしかも逞しい。バンドとしては貫禄も漂ってるし、ほんと素晴らしいバンドだったね。
 そんなベター・デイズ解散後、ジェフとエイモスはソロとして活動したんだけど、'77年に日本からコンビとして呼ばれ、それが契機となり生まれたのが'78年作『GEOFF MULDAUR & AMOS GARRETT』。八木康夫さんのイラストが印象的な音盤ですね。そして'79年日本ツアーから生まれたのが『Live in Japan』。どちらも名盤だよね。ジャグ・バンドやミシシッピ・シークスなどストリング・バンドも含めたアーリー・ジャズの雰囲気をデュオで楽しんでるって感じかな。グッド・オールドタイム・ミュージック、ジェフとエイモスのアメリカ再発見。そして俺たちもその旅の同伴者となったのだね。
 エイモス・ギャレットのギターは、ジェフ&マリア~ハングリー・チャック~ベター・デイズそしてジェフ&エイモスと常に煌めき続け、独創的なソロと絶妙なオブリガートで多くのファンを夢見心地にさせてくれた。ポールもロニーも天国に召されちゃったけど、ジェフ・マルダーとエイモス・ギャレットは元気に活躍を続けている。21世紀のジェフ&エイモスを大切に楽しもうと思う。
ベター・デイズ+3(K2HD/紙ジャケット仕様)/ポール・バターフィールズ・ベター・デイズ
¥1,500
Amazon.co.jp

ベター・デイズ/ポール・バターフィールズ・ベター・デイズ
¥2,520
Amazon.co.jp

ライヴ・イン・ジャパン/ジェフ・マルダー & エイモス・ギャレット
¥2,500
Amazon.co.jp

GEOFF & MARIA『POTTERY PIE』『SWEET POTATOES』

 T・R・スミス『チャイルド44』ようやく下巻へ。ソ連モノは久しぶりだ。警察監視国家の恐怖がヒシヒシと伝わってくる。
●GEOFF & MARIA MULDAUR
『POTTERY PIE』
『SWEET POTATOES』

 ジェフ&マリア・マルダーの'70年と'72年のアルバム。'60年代から活躍のお二人さん、もちろん今でも現役で活躍中。凄いね。そして凄いのはこのアルバム。今だから判ることがある。ロックが最も沸騰していた頃に、このセンスはどうだ!参ったねえ(笑)。ヒルビリーにジャズにブルース。「ブラジル」はなんといったらいいか...。とにかく、アメリカの古い音楽の素晴らしさを、新しいセンスで甦らせ紹介した功績は大だよね。俺が彼等の音楽を聴いたのは二十歳の頃、先ずマリア・マルダーの『オールド・タイム・レイディ』が好きになり、それから遡ってジェフ&マリアだ。それと共にザ・バンド絡みでウッドストックのミュージシャンへも興味が広がった。長髪やロンドン・ブーツや銀ラメとは無縁のロックを知ったことでその後ビジネス的に肥大化してゆくロック・シーンそしてその反動のようなパンク・ムーヴメントを横目に、俺は淡々とベアズヴィルや南部のロックを楽しむことができた。
 ジェフ&マリアは'60年代ボストン/ケンブリッジ・シーンでジム・クウェスキン・ジャグ・バンド
の一員として頭角を現した所謂インテリ・ミュジシャンだ。でもただのインテリではなかったのは現在までの活動をみても判るとおり。オールドタイム・ミュージックへの造詣の深さとそれ故の選曲の良さ。加えてジェフ・マルダーとマリア・マルダーそれぞれの持ち味を生かしたヴォーカルの素晴らしさ(ジェフはギタリストとしても凄腕)で熱心なファンを得ている。
 20代の頃、彼等のようなオールドタイム・ミュージックをやる白人のブルースに対し、なんかディープさが足りないよな、とか偉そうに講釈していた自分がいて、それはじつに浅はかな見解だと知ったのはずっと後のこと。例えばチャーリー・パットン。ミシシッピ・デルタを代表する
ブルース・マンと呼ばれている。でも彼はブルース・マンじゃないんだよね。ブルースも歌ったソング・スターなわけだ。受ける歌は何でも歌ったはず。白人の歌も。また、フランク・ハッチソンのように白人なのに黒っぽくブルースを歌いギターを弾く者もいた。当時のアメリカ南部音楽では、白人と黒人の音楽の現場が非常に近かったらしい。その近さが白人・黒人音楽の共通項を多く作り出したようだ。そのような コモンストック(共有財産)の上にジェフ&マリアのブルースやジャズがあったのであり、彼等のブルースにたいして白人インテリ臭いとか言っちゃう(かつての俺)ヤツは、判っちゃいないヤツなんだ。
 さて、このジェフ&マリアのアルバムで第三の男を演じるのはギターのエイモス・ギャレットだ。全編にエイモスの素晴らしいプレイがちりばめられている。マリア・マルダーのソロ・アルバムとこの2枚のアルバムにおけるギター・プレイにより、エイモス・ギャレットは俺のギター・ヒーローとなったわけだ。