八重ヤマブキとシロヤマブキと…
七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞかなしき
兼明親王(かねあきらしんのう)」
八重山吹(ヤエヤマブキ)
太田道灌の故事で有名ですよね。授業でも習った覚えがあります。江戸城を築城し、歌人としても有名な太田道灌が、現在の埼玉県越生町(おごせまち)付近で雨に遭い、農家で蓑を借りようと頼んだところ、農家の若い娘がこのヤエヤマブキ(八重山吹)の枝を一輪差し出しました。
貸す「蓑」すらないその農家の女性は、八重山吹を差し出してこの短歌を詠んだのです。八重山吹は実をつけないことから、みのひとつだになきをかけているんですね。しかし、この時に道灌は訳が分からずに憮然として帰ったのですが、帰って家臣にその話をしたところ、「家が貧しいため蓑の一つもありません(美しい花を咲かせる山吹だけど 実の(蓑)一つも無い八重山吹は 実をつける事はないのです)」と言うことを、それとなく伝えたのだと知らされたのです。
「後拾遺和歌集(ごしゅういわかしゅう)」に上記の和歌が有る事を知り、自分の無知を恥じた道灌がその後、歌道に励んだと言うお話し。
この逸話を伝える「山吹の里歴史公園」は「東武越生線・JR八高線越生駅」から徒歩8分。但し…古いお話なので、他にも神奈川県横浜市金沢区六浦、東京都荒川区町屋などがあり、『江戸名所図会』という書物に依れば、『山吹の里』は「高田馬場」の北、「亮朝院」の南と言うことになっています。現在の豊島区高田1丁目の面影橋詰で、神田川の対岸には新宿区山吹町(やまぶきちょう)の地名も残っていますし、新宿6丁目の大聖院にはその農家の娘、紅皿(べにざら)の碑なども残っています。
4月20日 の誕生花です。 他にも3月28日の誕生花になっています。
花言葉は「気品」「待ちかねる」「金運」
もうひとつ、万葉集に収められている八重山吹の歌
「花咲きて 実は成らずとも 長き日(け)に 思ほゆるかも 山吹の花/作者: 不明」
原文: 花咲而 實者不成登裳 長氣 所念鴨 山振之花
意味: 花が咲いても、実はならないけれども、長い間待ち望んだ山吹の花です。
「ヤエヤマブキ」は「山吹」より少し咲き始めが遅いです。
またこの歌に詠まれているように、「山吹」は花後に実がなりますが八重山吹には実がなりません。
川越市(埼玉県) 、常陸太田市(茨城県)、 島本町(大阪府)の花に指定されています。
普通の山吹はコチラですね。
山吹 ヤマブキ 開花時期は4月から5月ですが、戻り咲きも多いですね。
樹形は株立ち状になり、樹高は1、2メートル。北海道から九州にかけて分布し、丘陵地や山地の林の中などに生える落葉低木です。
花径2、3センチの黄色い花を枝先に1つずつつけます。花弁は5枚。
葉は卵形で、互生。葉の先は尾状に尖って、縁には重鋸歯があります。葉の表面は緑色で、裏面は淡い緑色。葉の質は薄く、全体に毛が生えています。
◇科名:バラ科 ◇属名:ヤマブキ属(Kerria=スコットランドの園芸家「ウィリアム・カー/William Kerr」~1814没)の ◇学名:Kerria japonicajaponica は「日本の」
花の後にできる実は楕円形のそう果で、暗い褐色に熟します。
万葉集では山振(やまぶり)とされていますね。枝垂れた枝が風になびく風情を表したもので、山吹(ヤマブキ)はこれが転訛したものと考えられています。
それではその一つを…
山吹の 立ちよそひたる 山清水 汲みに行かめど 道の知らなく/高市皇子(たけちのみこ)」
原文>山振之 立儀足 山清水 酌尓雖行 道之白鳴
意味>山吹(やまぶき)の花が咲いている山の清水を汲みに行こうと思っても、道がわからないのです。
*この歌は、十市皇女(とをちのひめみこ)が亡くなったのを悲しんだ歌です。山吹(やまぶき)の黄色と清水とで、黄泉(よみ)のイメージを描いているようです。
それではコチラも「万葉集」から…
「山吹の、花の盛りに、かくのごと、君を見まくは、千年(ちとせ)にもがも/大伴家持」
原文▽ 夜麻夫伎乃 花能左香利尓 可久乃其等 伎美乎見麻久波 知登世尓母我母
意味>> 山吹の花の盛りに、このようにあなた様にお会いすることが、いつまでも続いて欲しいものです。
これは天平勝宝(てんぴょうしょうほう)6年3月25日、橘諸兄(たちばなのもろえ)が山田比売島(やまだのひめしま)の邸宅で宴会をしたときの歌です。この歌の注には、「少納言(しょうなごん)大伴宿祢家持(おおとものすくねやかもち)」が、時に咲いている花を見て作ったが、大臣が宴が終わらぬうちに退席されたので詠み上げなかった」と、あります。枕詞にも使われており「にほふ」にかかります。
俳句はこれが有名です。
「ほろほろと 山吹散るか 滝の音 /松尾芭蕉」
花言葉は「崇高」。
白山吹(シロヤマブキ)
◇科名:薔薇科 ◇属名:シロヤマブキ属(Rhodotypos=ギリシャ語の「rhodon=バラ」+「typos=形」から。一輪咲きのバラに似ているということから名づけられたもの ◇学名:Rhodotypos scandens(scandens=よじ登る性質の)
1種1属の植物です。山吹(ヤマブキ)のように見えるところからつけられた名前なのですが、山吹が5弁花であるのに対してこの白山吹(シロヤマブキ)は4弁花ですね。
樹高は1メートルから2メートルで、葉は楕円形で、バラ科にはめずらしく、向かい合って生える対生につきます。開花時期は4月から5月。
大陸と日本がほぼ陸続きであった氷河時代に日本にも分布した植物の1つと考えられています。よく見かけると思っていましたが…環境省のレッドリスト(2007)には、「IA類ほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が高い種」である絶滅危惧IB類(EN)に登録されているようです。
枝先に3、4センチの白い花を1輪ずつつける。
秋に楕円形の小さな黒いそう果(熟しても裂開せず、種子は1つで全体が種子のように見えるもの)が4つなる。
花言葉は「気品」「薄情」
ヤマブキは木本で、花弁は5枚ですが、ヤマブキソウは草本で花弁は4枚です。
◇科名:罌粟(芥子:けし)科 ◇属名:クサノオウ属 (Chelidonium=ケリドニウムはギリシャ語の「chelidon=ツバメ」が語源です。母ツバメがこの植物の汁で雛鳥の眼を洗って視力を強めるといわれていることから。 ◇学名:Chelidonium japonicum
ヤマブキソウには、こんなのもあるよ。
セリバヤマブキソウ(芹葉山吹草)
ヤマブキソウ(山吹草)と同じですが、小葉が芹葉のように羽状に深裂した品種。
◇科名:ケシ科 ◇属名:クサノオウ属 ◇学名:Hylomecon japonicum var. dissectum(dissectus=多裂した,全裂した)
クサノオウ属なので、全草や種子に毒性分を含み、嘔吐、手足のしびれ、呼吸麻痺などを起こします。
クサノオウは今の時期アチコチで顔を出していますね。コレが『クサノオウ』