アメリカ下院が29日、金融安定化法案を否決した。誰もが成立するものと安堵していたところに、いきなり激震が走り、パニックになったマーケットは投売り一色となった。その衝撃波は米国のみならず、欧州、アジアへと、一気に世界中のマーケットを危機の淵に追い込んだ。

この法案自体がすでに実効性を疑われるほど制約の多いものとなっている。しかし、$7,000億の巨額の税金投入が、選挙を前にした政治家たちをためらわせたようである。

金融は経済の根幹を担う重要な産業である。理由はどうあれ、危機に陥っている状況で手をこまねいていては、経済全体に波及して取り返しの付かない事態となりうる。おそらくそのあたりは経済に疎い政治家であってもわかっているはずであろう。

今回否決に回ったのは共和党議員が中心である。政府の介入を極度に嫌い、自由放任を信条としている議員が多いことは確かである。しかし、信条だけで危機は乗り越えられない。ましてや、選挙民の歓心を買うことを狙って反対したとしたならば、衆愚政治以外の何物でもない。

危機に対しては、早めの政府の介入が効果的であり、何もしなければ長期間にわたり危機が継続し、最後は取り返しのならない事態と莫大なコストが国民に降りかかることとなる。これは日本のバブル崩壊後の政策で証明済みである。10年以上経済は落ち込み、数多くの銀行、証券、保険会社を破綻に追いやり、最終的にはほとんどの大手行に税金を投入する羽目になった。

グリーンスパン前FRB議長は当初、「日本と違い、アメリカは損失を隠さず迅速に処理しているため、長期のリセッションには陥らないだろう・・・」との認識を示し、私もそれを信じていた。

ところが、違ったのは時間軸だけで、後はほとんど忠実に日本と同じ過ちを踏襲しているとしか思えない。日本は不良債権を隠していたが、アメリカでは痛んだ資産の損失がいくらなのか誰もわからないという、隠すよりももっとひどい状況である。資金が取れなくなって金融機関がバタバタと潰れるのも同じ。政治に翻弄されて、公的資金の投入ができないのも同じ。RCCのようなものを作ったが、実際にはあまり利用できないような作りなのも同じ。

これだけ正確に踏襲されると、神の意図なのかと考えてしまう。

今後の展開としては、より実用的な産業再生機構のようなものができて、本格的に資産の買取を税金で行うようになる。その間にも、吸収側の大手金融機関も耐え切れずに潰れて、それを契機に公的資金の投入。大手のほとんどが国営となって、やっと徐々に回復しだす・・・

どうやら、まだまだ時間がかかりそうである。
金融安定化法案が成立する見通しとなった。これでとりあえずのセーフティーネットは準備された。今後は投入される$7,000億がどう活用されるかに焦点が移ることとなる。

土壇場での共和党の横槍により、金融機関にとっては利用する際、高いハードルとなったようである。私の懸念としては、そのハードルによって実際に不良資産が持ち込まれないことにでもなれば、ただの問題の先送りにしかならないのでは、ということである。

日本の場合はRCCを作ったものの抜本的な不良債権の処理にはならず、その後7年間も問題は深刻化し、結局2003年、産業再生機構の設立で半ば強制的に不良債券の買い上げを行ったことと、りそなへの2兆3000億の公的資金の投入によって、やっと市場は落ち着きを取り戻したのである。サブプライムショックは時間軸こそアメリカのほうが数倍も早く進行しているが、事態の推移は驚くほど過去の日本に似ている。

体力をなくした金融機関は、すでに不良資産を切り離したくともできない状況に追い込まれてしまっている。これ以上の損失は自己資本の毀損につながり、もしくは債務超過の恐れすら多分にある。不信の連鎖はまだまだ止まりそうにない。

今回の危機の大本の不動産市況は未だに下げ止まる気配がない。すでに問題はサブプライムに留まらず、より信用度の高いオルトAやプライムの延滞率も上昇している。プライムでは4%にもなっているようである。不動産価格の反転にはまだ1,2年は要する可能性がある。したがって、体力の劣る中小の金融機関は、これからもバタバタと倒産していくであろう。そして最終的には合併や買収で生き残った大手でさえ潰れるところまで追い込まれることが予想される。りそなのように。

アメリカも結局は、銀行の資本に公的資金の投入を行うことで反転のきっかけをつかむことになると予想しているが、果たして行き着くところまで行ってしまうのであろうか。
金融安定化法案の調整が佳境に入っている。今週末までに結論が出るかどうか、どうやら微妙なところとなっているようである。

皮肉なことに修正を求めているのはブッシュ政権与党の共和党である。もともと市場原理主義の人間が多い共和党である。政府の介入を極力避けようとする傾向が強い。事実、ブッシュ大統領もポールソン財務長官に説得されるまでは、税金の投入に常に消極的であった。

これが普通の危機であれば、民間の事件は民間で処理し、潰れるべき企業は潰れてしかるべきであろう。しかし、今回のクラッシュは投資銀行をすべて消滅させ、世界最大の保険会社を国営にし、これから後、数百行に上る銀行の破綻が見込まれる大恐慌以来の壊滅的な危機である。29年の「フーバーになりたくなければ公的支援しかない」と説得したポールソン財務長官の主張は正しい。これで何もしなければ、世界中の金融機能が損なわれ、世界経済が麻痺状態となることは目に見えている。とにかく、パニックを落ち着かせることが、まず何よりも重要である。

目に見えないものほど、人間にとって恐怖を感じるものはない。

現在の世界中の投資家たちは、アメリカの金融機関が持つ不良資産の価値が底なし沼にはまったように、どこまで落ちていくのかが全くわからないためパニックに陥っている。一度価格が付き、できればそれも高めの価格で目測することができれば、連鎖的に取引が再開され、マーケットの機能が取り戻される。これは日本の整理回収機構(RCC)の実績からもある程度推測される。もっとも日本の場合は、買い取り価格が低すぎて、効果が中途半端に留まり、結局銀行に公的資金を投入してやっと収束させたというのが実情であるが・・・

平時には政府は介入しないには賛成である。しかし、非常時は何としても介入して出血を止めなければならない。選挙期間中の税金投入は確かに不人気な政策ではあるが、大恐慌の再来を防ぐためにはどうしても必要である。

願わくば、今週末には合意の上、成立させてほしいものである。
ワシントン・ミューチュアルがとうとう破綻した。23日のムーディーズによる格付け引き下げにより、株価も$1台にまで暴落、資金繰りが危なくなるとは思っていたが、予想以上に事態が早く推移した。今までの破綻処理を鑑みるに、だいたい週末に処理をして、月曜日からは新しい業務形態での営業再開というのが通例であった。しかし、今回は平日の木曜、なおかつJPモルガンが買収後、金曜日に即再開という状況である。資金繰りが週末まで持たなかったということは、今回の金融危機の進行スピードと衝撃は、だれも予想することのできない領域に入ったことを意味する。

総資産$3,070億のワシントン・ミューチュアルに対しJPモルガンの買値はわずかに$19億である。不良資産による資本の毀損は、相当程度にひどいものと考えられる。銀行の破綻としては過去最大。これによって、FDICのファンドも大幅に減少することが確定となり、現在審議中の金融安定化法案の進捗にも大きな影響を与えるものと思われる。

FDICのファンドは、インディマック・バンコープの破綻により$524億から$452億にまで目減りをしている。ワシントン・ミューチュアルの処理でどの程度目減りをするかは不明だが、資金の枯渇の懸念は避けられないであろう。いずれにしても、$7,000億の公的資金の1日も早い活用が望まれる。

超党派による金融安定化法案の審議は、当初早急に進むものと予想されていたが、一部は合意したものの、最終的にはペンディングとなってしまった。不良資産の売却金融機関の役員に対する報酬制限をかけるかけないでもめているらしいが、客観的に見れば、どうでもいい問題であろう。税金の投入に対するアレルギーを和らげる意味と、選挙対策のためであろうが、重要なのはスピードである。ワシントン・ミューチュアルの次の破綻予備軍もまだまだたくさんあり、破綻は法案成立を待ってはくれない。買取価格決定の詳細も煮詰まってはおらず、利用には厳しい制限が加わるとなれば、一体誰が好き好んでこの制度を利用するのであろう?実効性を持たせるためには、ポールソン財務長官の言う「使い勝手を良くするためには、制約をかけることは好ましくない」は正しい。不良資産の売却に躊躇し、破綻銀行が増えることのほうが、税金による負担が大きくなる。

とにかく、今は一刻も早く法案を成立させ、7,000億の投入を実施し、できる限り高く不良資産を買い取り、CDOやMBSなどの証券に値付けをすべきである。マーケットは底値を確認でき、価格が決まって流通するようになれば、パニック的な売りも納まり、結果として危機から脱出することが可能となる。

危機に対する有効な打開策は、スピードとインパクトである。$7,000億は規模としては十分であろう。実施が決まって、マーケットが落ち着けば、おそらく実際に使われる資金はその1/10にも満たない可能性がある。ワシントン・ミューチュアルの破綻により、誰もが猶予はないと認識するため、合意にも拍車がかかるであろう。

それにしても、JPモルガンは焼け太りである。ベアーを$14億で買収し、今回は$19億での全米最大規模の地銀買収である。23の州にまたがる5,400もの支店を手に入れ、JPのウィークポイントであるリテールマーケットに対し、一気に武器を入手したこととなる。

少なくとも生き残った金融機関にとって、今回の金融危機は千載一遇の飛躍のためのチャンスとなろう。
やはりというか、いよいよ大物の登場である。ウォーレン・バフェット率いるバクシャー・ハザウェーが、ゴールドマン・サックスに$50億の優先株による出資と$25億の公募増資を引き受け、なおかつ$50億のワラントまでも引き受けた。総額$125億の資本増強で、どうやら一気に危機を乗り越えそうな気配である。

この1ヶ月間、バフェットの電話が鳴り止むことはおそらくはなかったであろう。リーマン・ブラザーズ、メリルリンチ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスと、誰もがバクシャーに救済を求めていた。最終的にはゴールドマンに決めたわけであるが、支援金額も桁違いに大きく、「バーゲンセールでの投資は一気に」をまさに地で行く決断であったと言えよう。

ゴールドマンの株価は1年前までは、$236までの高値をつけていたため、ピーク時のだいたい半値での投資ということになろう。しかも、ワラントについては$115で交換する権利を持っている。この金融危機を乗り切れば大儲けは間違いない。

よりリスキーな下位の要請は蹴って、トップのみに慎重に狙いを定め、タイミングをはずさずもっとも安値と思われる時期に、一気に多額の投資を行い、オーナーとなるやり方は、まさにアメックスで実践した方法と同じであり、バフェット投資法の教科書通りと言える。感服する以外にない、見事な投資である。

ただ、1つの気がかりは、GSが投資銀行から商業銀行へ衣替えしたことによる影響が、将来的な収益に対しどう出るかということであろう。資金調達手段は多様になるが、低い自己資本で高いレバレッジをかけ、高収益を上げるという今までのビジネスモデルを、確実にFEDは規制をかけてくる。高収益を上げることができなければ、1年前の水準に到達することは難しい。とはいえ、おそらくこれ以上株価が下落することはないと思われるので、長期的に見ればバクシャーのポートフォリオに貢献することであろう。

バフェット恐るべし。