チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる -7ページ目

チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる

この世に生まれて間もなく、人は「ものがたり」と出会い、そこで広い世界とのつながりを作ります。このblogでは、「ものがたり」と共にある人の可能性を探求していきます。

 

ここ10年くらいの間に方々で

『英雄の旅』(ヒーローズ・ジャーニー)の

注目度が上がってきていると感じています。

 

『英雄の旅』は

神話研究から抽出された物語展開のパターンで、

 

「スターウオーズ」、「タイタニック」、「指輪物語」等、

世界的に大ヒットしたハリウッド映画の多くが、

このパターンに沿って作られていることからも

注目を集めてきました。

 

神話学者のジョセフ・キャンベルは、

世界中にある膨大な量の神話を研究し、

 

“世界の神話の展開パターンは無数にあるけれど、

どの地域にも見られる英雄の物語には

共通の型(パターン)が見られる“ことを発見しました。

 

それはこんな展開です。

 

未来の英雄となる主人公が、

 

狩りに行った先で道に迷ってしまう、とか

人質にされたお姫様を取り戻さなければならない、等、

 

何らかの事情で安住の地を離れなければならなくなり、

未知の世界へと旅に出ます。

 

その旅先で様々な試練と出会い、しばしば命を

落としかねないほどの窮地に立たされますが、

 

都度、賢者の導き、仲間達の力、神様からのお告げ、等に

助けられ、

自らの能力を高めながら窮地をくぐり抜け、

人間的な成長を遂げていきます。

 

そして決定的な場面=物語の最大のヤマ場を迎えます。

 

それはこの主人公が「英雄」となれるか否か、

あるいは、

本物の「英雄」に相応しい人物であるかどうか、が

試される大きな“決戦の場”です。

 

この“決戦”に勝利し、勝利で得た戦利品を携えて

元の地へと凱旋する。

 

以上が『英雄の旅』パターンの標準形です。

 

ヘラクレス(ギリシャ神話)の物語、アーサー王(英国)、

スサノオがヤマタノオロチを退治する話(日本)など、

 

細部での差異はあるものの、いずれも

キャンベルが示したパターンで展開しているのは、

やはり驚くべきことです。

 

多くの地域で“神話”は、文字の無い時代から

いわゆる口伝えで継承されてきているものです。

 

文字数にして数万字にも及ぶ物語を人々が

記憶を頼りに伝え続けて来れたのは

 

部族のアイデンティー(誇り)を強化したり、

共同体の秩序を守る意味があったのは間違いないですが、

 

やはり、

共同体の未来を担う、

自立した大人を育成するための知恵を引き継ぐ意味が、

非常に大きかったのではないかと考えられます。

 

この点は、我々現代社会の課題にダイレクトに繋がる

注目すべきポイントであり、

『英雄の旅』に宿る知恵=人類の共通財産と言うべき

極めて意義深い部分だと私は思っています。

 

『英雄の旅』は、主人公が様々な試練をくぐりながら

知恵をつけ、スキルを高め、仲間を増やしていく話ですが、

 

その途中に起きる“意識の転換“がとりわけ重要です。

 

村を荒らす鬼を退治したい、

生贄にされそうな仲間を救出したい、

奪われたお姫様を取り戻したい、等、

多くのケースでこうした“願望”が、主人公の旅立つ動機ですが、

 

これが旅のどこかで“意志”や“使命”へと変化していく。

 

そしてその“意志”や“使命”を持って“決戦”に勝利し、

成長した姿で凱旋して名実ともに『英雄』となっていく…。

 

この“願望”→“意志”、そしてその意志を持って勝利していく力。

この変化こそが本当の意味での“自立”であり、

『英雄の旅』に宿る数々の知恵は、その変化を起こしていく

ブラックボックス部分だと解釈できる訳です。

 

では、そのブラックボックスの中身とは何なのか?

 

そこのところは、次回以降で書きます。

 

 

 

前回、前々回では、

組織でしばしば耳にする

「科学・実証モード」のメッセージを

「物語モード」に言い替えていく方法を

お伝えしました。

 

無機的・機械的な元のメッセージを

人間の生き方や価値観につながる

話に変換するのは、相応の創造性、

そして工夫と熱意が求められます。

 

この工夫や創造性を喚起させる補助線として、

ここで3つポイントをあげて

説明を加えておきたいと思います。

 

ポイントの一つ目は、

聞き手の価値観や理想像に迫ることです。

 

聞き手が大事にしたいこと、

守りたいだろうこと、

実現できればきっと

嬉しくなれるであろうこと、を捉えて、

ストーリーが、

そこを目指す様に方向付けていきます。

 

その為には、

聞き手に関しての情報収集が不可欠です。

普段から本人の行動特性、言動、反応を観察し、

イメージを持っておくことが大切になります。

 

二つ目は、適切な対義語を見出すことです。

聞き手が今いる(変わり映えの無い)

“そっち”の世界から

こうなったらいいなあー、素敵だなあー、

と思う、

つまり、よりよい未来へとつながる

“こっち”の世界へ。

 

この“そっち”から“こっち”への変化の

イメージが湧いてくる対義語が見つかると、

“こっち”へおいでよ、という

語りかけのインパクトが生まれてきます。

 

三つ目は、

“類推”を引き出す先行ストーリーの発掘、

そして活用です。

 

先行ストーリーは、

聞き手が直面する課題状況と

状況的に“同様”と感じられる

文脈と筋を持っている必要があります。

 

その話を聞いた聞き手が、現在の自分を

登場するキャラクターに重ねて

共感が引き起こされることが肝要です。

 

語り手の体験談、社長の成功譚、歴史上の有名人等。

その人物のイメージが具体的に浮かぶ存在であるほど、

話のインパクトは高まります。

 

5つの問いへの回答と

上の3点を頭に置いて聞き手の顔を浮かべ、

彼(女)に語りかける状況をイメージすることで、

メッセージの形は徐々に出来てくると思います。

 

当たり前ではありますが、

聞き手に刺さるメッセージにするには、

“中身”が重要です。

 

中身の精度を上げる為には、

聞き手に関しての情報収集が不可欠であり、

いい情報を得る為の、

普段のコミュニケーションの質が

問われることになります。

 

先行ストーリーも、

良質なものを豊富にストック出来ているほど、

多様な場面での発信が可能になります。

 

となれば普段から、

周囲の人の体験談等を聞く聞き方も、

これまでと違ったものに

なるのではないでしょうか。

 

関係の質に変化が起きてくる訳です。

 

このように考えていくと、

「物語モード」での発信とは、

働き方、他者との関わり方、関係の結び方から

変えていくことを迫る自己変革プロセスだと、

言うことも出来るのだと思います。

 

では、中身に入っていきましょう。

 

理解しやすくするために、ここでは営業担当者に

向けた上司の以下メッセージ、

 

「第一四半期の売り上げは計画比3割未達。

このままだと、来期は担当から外れてもらうことに

なるかもしれない。もう後がないぞ、

背水の陣で売ってこい!」

 

という「科学・実証モード」かつ、ちょっと

圧力系のメッセージを例に上げて、これを

“物語型”へ仕上げる仕方をご紹介したいと思います。

 

以下、順に問いに答えていきます。

 

1.メッセージを発信したBefore/Afterで、

聞き手に起こしたい変化は、どんな変化か?

 

メッセージを捉えた聞き手の意識や行動に、

どういう変化を起こしたいかを

具体的にイメージします。

ここに挙げた例では“営業”とは何をする存在か、

という視点で、変化の中身を考えています。

 

→ノルマのプレッシャーから“買って買って”とお客に

 迫るアプローチから

 顧客から信用され頼ってもらう為に自分に出来る

ことは何か、そこに焦点を当てて考え行動を起こ

せる存在へ

 

2.聞き手の心を揺さぶるテーマや対象とは、

どの様なものか?

 

ここで“聞き手”に焦点が当たります。「物語モード」で

重要なのは、聞き手が生きている世界、

聞き手に見えている世界を起点とする発想です。

なので、普段から聞き手を観察し、聞き手に関わる情報

を集めておくことが重要になってきます。

 

→他者とは異なる独自の流儀を確立し、

“一流の営業マン”と認められる実力を身に着けること。

 

3.聞き手に驚きや感動を引き起こす“対概念”は?

 

“対概念”とは善と悪、歓喜と悲嘆、高揚と落胆、

勇敢と臆病の様な言葉の対のことで、メッセージの意味を

捉えやすくする為のキーワードです。

Before/Afterの転換イメージを鮮明にする機能があります。

 

→ 商品の特徴を並べて“買って買って”と迫る営業 と、

  顧客にとって“有難い人”として認知される存在

 

4.聞き手に行動のスイッチを押してもらう際のハードルは

何か? ハードルを越える為に必要なものは何か?

 

聞き手の意思決定に障害となるものが何か? この

洞察が重要です。ここをしっかり見極めて表現することで

メッセージに力が生まれます。

 

→“数字を上げなければいけない”という観念に縛られて、

発想にも行動にも制約がかかってしまっている状況を

抜けられるかどうか。 

この制約から逃れるためには“数字“の軛から一旦

抜けさせることが必要だ。

 

5.メッセージを伝える為に利用できる物語は何か?

 

1-4の内容を伝えていく基盤となる先行物語を捜します。

  語り手の経験談、伝説的セールスマンの学習体験談、

  歴史上の人物の物語、等。会社組織などでは、○○

  営業所の□□さん、の様に具体的な人物のストーリー

はインパクトがあります。

  

  →語り手(上司)の若い頃の体験談。

 

以上の回答から、こんなメッセージが出来上がりました。

 

「会社が数字数字と言うのは当然だよ。だが顧客に“買って

買って”と言っても、結果が出るわけがないだろう。顧客が

求めているのは、信頼できる情報源であり相談相手。

そう認められない相手から購入する方が不思議じゃないか。

 

と、かく言う僕も、営業マンとして中々芽が出ず、入社3年

目の時、結果が出なければ会社を辞めようとまで思った。

どうせ辞めるなら、やれることをやってから辞めようと

腹を括り、とにかく顧客に役立つ情報を集めることに

徹してみた。本を読んで勉強し、工夫してお客に喜んで

もらえる資料を作ったりもした。ウチに不利になる情報を

見せてしまってまずかったかな、と悩んだりもしたが、

逆にそこから信頼を得て贔屓にして頂いたこともあった。

 

劇的に数字が上がった訳では無かったけれど、この経験

を通して自分流の信頼構築術が形成されたんだと思う。

これは誰かに教えてもらえるものじゃない。結局自分の

スタイルは、自分で作っていくしかないんだと思う。

 

君もそろそろ、自分らしさを発揮することで顧客から“有難

がられる”存在となる自分流儀を作っていく時期だろう。

正直、数字が出ないなら、担当を外されることもありうる

けれど、顧客と信頼関係を作っていくための自分らしい方法

を磨く機会と割り切ってみたらどうだ。若いからと許される

今だからこそ、残りの9か月、徹底してみたらどうだろう。」

 

如何でしょうか? 

 

このメッセージのBefore/Afterで変化が起こせたなら成功

です。無論必ず成功する保証はないですが、元のメッセージ

より効果が見込めるのは、間違いないと思います。

 

落ち込んだり、自信を無くしたり、がある一方で

歓喜したり、勇気を得たり、もある。

 

そんな人生のリズムが入ることで、

人の心も動き出すと考えられるからです。

 

日本のビジネスマンは

「物語モード」の語りに長じていくべきだ、

と前回書きました。

 

空調機器の売り込みに当たっても、

機能とか効率の話に終始するのでなく、

R社の様なストーリーを語っていくべきだ、

という話です。

 

しかしこのように書くと、違和感を

感じる方もいるかも知れません。

 

R社のケースは、

たまたま「バリアフリー」というテーマで

双方の目指す方向が一致しており、そこで

ご縁を感じてもらえたかもしれないけれど、

 

そんな風にいつもいつも、

都合よくストーリーで語れるとは、

限らないからです。

 

それはその通りで、

いつもそんな風に物語にのせて

伝えたいメッセージを伝えられるかと言えば、

必ずしもそうではないでしょう。

 

とはいえ、これからご説明する如く、

工夫と熱意があれば、殆どのメッセージは

人の持つ想いや理想、奮起と努力、学びや成長の

ストーリーと結びつけて語ることが可能です。

 

この方法に習熟することで、

機能だの耐久性だの、効率だの

の話に明け暮れるパターンから離れ、

 

一段異なる次元に立って、聞き手を惹きつける

パワフルプレゼンテーションに仕立てて行ける

可能性が出て来ます。

 

というそんなノリで、

今回もまた、

私が企業向けに行っている

研修ネタの一部を、

この場でお伝えしたいと思います。

 

まずは特定の状況で特定の聞き手に向けて、

伝えたいメッセージを一つ、考えて下さい。

 

そのメッセージを“物語型”へと変換していく

方法をお伝えしていきます。

 

元のメッセージは、

“もっと頑張って売り上げを増やせ”

でもいいし、

 

“チーム一丸となって難局を乗り越えろ”

でも構いません。

 

具体的な場面、相手の顔、克服したい課題が明確で

あることが、ここでの必要条件です。

 

そこまで整ったら、その状況を頭に浮かべて

以下の5つの問いに答えていきます。

 

1.メッセージを発信したBefore/Afterで、

  聞き手に起こしたい変化はどんな変化か?

 

2.聞き手の心を揺さぶるテーマや対象とは、

  どの様なものか?

 

3.聞き手に驚きや感動を引き起こす“対概念”は?

 

4.聞き手に行動のスイッチを押してもらう

  際のハードルは何か? ハードルを

  越える為に必要なものは何か?

 

5.メッセージを伝える為に利用できる

  物語は何か?

 

5つの問いそれぞれの詳しい解説は、次回に

書きたいと思います。

 

これら問いのポイントは、思考のモードを

「物語モード」へと転換させることです。

 

すなわち、

聞き手の感情を聞き手が納得する形で、

ある方向に方向づけるテーマを

発掘する作業を行っていくのです。

 

次回に続けます。

 

ジェローム・ブルーナーという

心理学者によれば、人の現実認識には

2通りの仕方があるのだそうです。

 

一つは科学や法則、実証性やロジックに

焦点をあてて現実を捉える見方。

観察とか論理性を重視します。

 

もう一つは、

人間の意図や想い、感情の変化、

人の生き方や在り方に関わる義や徳、

価値観などに焦点を当てる見方。

 

現実をストーリー的に捉える見方

とも言えます。

 

例えば、目の前にあるコップを見て、

 

色やデザイン、

素材やその加工の方法、仕上がりの具合、

購入価格などから、

コップの価値を判断しようとするか。

 

コップを手に入れた経緯や、

その後の使用の歴史に現れる想い出、

そこと繋がる人との関係などから、

コップの価値を見ようとするか。

 

前回紹介した

空調機器の購入を考えているX社の

ケースでは、

 

機能や使い勝手、材質や耐久性、

価格などに焦点をあてて、

自社製品の売り込みを行った

A社、B社、などが、前者の視点。

 

目指す未来と、X社の取り組みに

リンクを張って、

価値観や働く人間の想いを浮き上がらせた

R社のアプローチが、後者の視点。

 

こちらはストーリー的な面を

焦点化することで、

“その他大勢”と異なるポジションを

獲得できており、プレゼン的には

成功と言っていいのだと思います。

 

前者の視点を「科学・実証モード」、

後者を「物語モード」と呼んで整理すると、

 

1.普段あまり意識していないけれど、

私たちはものごとを

「科学・実証モード」と「物語モード」

の二つの見方で見ている。

 

2.企業とか役所等の場では、殆ど自動的に

「科学・実証モード」が優先されており

「物語モード」は、あまり重要でない、

検討に値しない事として

軽視される傾向が強い。

 

と言うことは、出来ると思います。

 

仕事の場で「科学・実証モード」が重視される

のは当然で、

これに代えて「物語モード」を優先せよ、

という気は毛頭ありません。

 

とはいえ、「物語モード」は、

ビジネスの場などでもっと重視され

活用されてもよいと、私は思います。

 

R社のアプローチは「科学・実証モード」に

基盤を置いて、

その上に「物語モード」を押し出して

ユニークなポジションを得ている事例です。

 

こんな風に

「物語モード」には交渉を優位に進める

手段的意義が認められますが、

私はむしろ以下2つの理由から、

日本のビジネスマンはもっと「物語モード」の

語りに長じていくべきだと考えています。

 

一つ目は、人間の顔が感じられることです。

「科学・実証モード」は

客観的なデータや実証に基づく為、

信頼性と言う意味では圧倒的です。が、

残念ながら人間の顔が殆ど見えてきません。

 

そもそも、

人間の顔を出さないようにすることで、

科学性や実証性を担保しようとする発想なので、

これは当然の話ではあります。

 

ですが「科学・実証モード」の優勢が

仕事の中の人間的な繋がりを

どんどん希薄にしていく

根本原因であることは、

意識しておくべき重大事だと思います。

 

そして一方の「物語モード」が、

岐阜工場に働く人々の

笑顔や息吹をどこかに意識させる

魔力を秘めていることは

覚えておくべきでしょう。

 

二つ目は、純粋に面白いことです。

 

そもそも私たちは

物語的世界に生きている動物です。

過去の出来事に因縁を感じ、出来事、出会い、

偶然から未来に向けて展開する人生こそが、

ワクワクドキドキして

面白いことを、

誰もが経験的に知っています。

 

「物語モード」には、

必ず人間や出来事との出会いがあります。

語られる内容を通じて聞き手と人間や出来事には

何らかの「関係」が生まれ、その関係が、

それからどう展開していくかは、聞き手の

判断や行動と無縁でなくなる性格を持っています。

 

仕事でも日常生活でも、

こうした展開の要素がどれだけあるかは、

人生の質に影響すると言ってもいいかもしれません。

 

上に「科学・実証モード」の信頼性は圧倒的、と

書きましたが、

空調機器の例の如く、

そこでの比較が決定打にならないケースは

現実に多くあります。

 

また“実証”と言っても、

全てのデータが揃って判断するようなケースは

現実世界ではむしろ稀であり、

「科学・実証モード」は思ったほどには

使えていない、という実態も

改めて意識しておくべき点だと思います。

 

職場の中で“非公式”な領域に押し込まれてきた

物語モードの活用範囲は、

VUCAと言われる今の時代に、

もっともっと

領域を拡大させてもよいのだと思います。