ここ10年くらいの間に方々で
『英雄の旅』(ヒーローズ・ジャーニー)の
注目度が上がってきていると感じています。
『英雄の旅』は
神話研究から抽出された物語展開のパターンで、
「スターウオーズ」、「タイタニック」、「指輪物語」等、
世界的に大ヒットしたハリウッド映画の多くが、
このパターンに沿って作られていることからも
注目を集めてきました。
神話学者のジョセフ・キャンベルは、
世界中にある膨大な量の神話を研究し、
“世界の神話の展開パターンは無数にあるけれど、
どの地域にも見られる英雄の物語には
共通の型(パターン)が見られる“ことを発見しました。
それはこんな展開です。
未来の英雄となる主人公が、
狩りに行った先で道に迷ってしまう、とか
人質にされたお姫様を取り戻さなければならない、等、
何らかの事情で安住の地を離れなければならなくなり、
未知の世界へと旅に出ます。
その旅先で様々な試練と出会い、しばしば命を
落としかねないほどの窮地に立たされますが、
都度、賢者の導き、仲間達の力、神様からのお告げ、等に
助けられ、
自らの能力を高めながら窮地をくぐり抜け、
人間的な成長を遂げていきます。
そして決定的な場面=物語の最大のヤマ場を迎えます。
それはこの主人公が「英雄」となれるか否か、
あるいは、
本物の「英雄」に相応しい人物であるかどうか、が
試される大きな“決戦の場”です。
この“決戦”に勝利し、勝利で得た戦利品を携えて
元の地へと凱旋する。
以上が『英雄の旅』パターンの標準形です。
ヘラクレス(ギリシャ神話)の物語、アーサー王(英国)、
スサノオがヤマタノオロチを退治する話(日本)など、
細部での差異はあるものの、いずれも
キャンベルが示したパターンで展開しているのは、
やはり驚くべきことです。
多くの地域で“神話”は、文字の無い時代から
いわゆる口伝えで継承されてきているものです。
文字数にして数万字にも及ぶ物語を人々が
記憶を頼りに伝え続けて来れたのは
部族のアイデンティー(誇り)を強化したり、
共同体の秩序を守る意味があったのは間違いないですが、
やはり、
共同体の未来を担う、
自立した大人を育成するための知恵を引き継ぐ意味が、
非常に大きかったのではないかと考えられます。
この点は、我々現代社会の課題にダイレクトに繋がる
注目すべきポイントであり、
『英雄の旅』に宿る知恵=人類の共通財産と言うべき
極めて意義深い部分だと私は思っています。
『英雄の旅』は、主人公が様々な試練をくぐりながら
知恵をつけ、スキルを高め、仲間を増やしていく話ですが、
その途中に起きる“意識の転換“がとりわけ重要です。
村を荒らす鬼を退治したい、
生贄にされそうな仲間を救出したい、
奪われたお姫様を取り戻したい、等、
多くのケースでこうした“願望”が、主人公の旅立つ動機ですが、
これが旅のどこかで“意志”や“使命”へと変化していく。
そしてその“意志”や“使命”を持って“決戦”に勝利し、
成長した姿で凱旋して名実ともに『英雄』となっていく…。
この“願望”→“意志”、そしてその意志を持って勝利していく力。
この変化こそが本当の意味での“自立”であり、
『英雄の旅』に宿る数々の知恵は、その変化を起こしていく
ブラックボックス部分だと解釈できる訳です。
では、そのブラックボックスの中身とは何なのか?
そこのところは、次回以降で書きます。