では、中身に入っていきましょう。
理解しやすくするために、ここでは営業担当者に
向けた上司の以下メッセージ、
「第一四半期の売り上げは計画比3割未達。
このままだと、来期は担当から外れてもらうことに
なるかもしれない。もう後がないぞ、
背水の陣で売ってこい!」
という「科学・実証モード」かつ、ちょっと
圧力系のメッセージを例に上げて、これを
“物語型”へ仕上げる仕方をご紹介したいと思います。
以下、順に問いに答えていきます。
1.メッセージを発信したBefore/Afterで、
聞き手に起こしたい変化は、どんな変化か?
メッセージを捉えた聞き手の意識や行動に、
どういう変化を起こしたいかを
具体的にイメージします。
ここに挙げた例では“営業”とは何をする存在か、
という視点で、変化の中身を考えています。
→ノルマのプレッシャーから“買って買って”とお客に
迫るアプローチから
顧客から信用され頼ってもらう為に自分に出来る
ことは何か、そこに焦点を当てて考え行動を起こ
せる存在へ
2.聞き手の心を揺さぶるテーマや対象とは、
どの様なものか?
ここで“聞き手”に焦点が当たります。「物語モード」で
重要なのは、聞き手が生きている世界、
聞き手に見えている世界を起点とする発想です。
なので、普段から聞き手を観察し、聞き手に関わる情報
を集めておくことが重要になってきます。
→他者とは異なる独自の流儀を確立し、
“一流の営業マン”と認められる実力を身に着けること。
3.聞き手に驚きや感動を引き起こす“対概念”は?
“対概念”とは善と悪、歓喜と悲嘆、高揚と落胆、
勇敢と臆病の様な言葉の対のことで、メッセージの意味を
捉えやすくする為のキーワードです。
Before/Afterの転換イメージを鮮明にする機能があります。
→ 商品の特徴を並べて“買って買って”と迫る営業 と、
顧客にとって“有難い人”として認知される存在
4.聞き手に行動のスイッチを押してもらう際のハードルは
何か? ハードルを越える為に必要なものは何か?
聞き手の意思決定に障害となるものが何か? この
洞察が重要です。ここをしっかり見極めて表現することで
メッセージに力が生まれます。
→“数字を上げなければいけない”という観念に縛られて、
発想にも行動にも制約がかかってしまっている状況を
抜けられるかどうか。
この制約から逃れるためには“数字“の軛から一旦
抜けさせることが必要だ。
5.メッセージを伝える為に利用できる物語は何か?
1-4の内容を伝えていく基盤となる先行物語を捜します。
語り手の経験談、伝説的セールスマンの学習体験談、
歴史上の人物の物語、等。会社組織などでは、○○
営業所の□□さん、の様に具体的な人物のストーリー
はインパクトがあります。
→語り手(上司)の若い頃の体験談。
以上の回答から、こんなメッセージが出来上がりました。
「会社が数字数字と言うのは当然だよ。だが顧客に“買って
買って”と言っても、結果が出るわけがないだろう。顧客が
求めているのは、信頼できる情報源であり相談相手。
そう認められない相手から購入する方が不思議じゃないか。
と、かく言う僕も、営業マンとして中々芽が出ず、入社3年
目の時、結果が出なければ会社を辞めようとまで思った。
どうせ辞めるなら、やれることをやってから辞めようと
腹を括り、とにかく顧客に役立つ情報を集めることに
徹してみた。本を読んで勉強し、工夫してお客に喜んで
もらえる資料を作ったりもした。ウチに不利になる情報を
見せてしまってまずかったかな、と悩んだりもしたが、
逆にそこから信頼を得て贔屓にして頂いたこともあった。
劇的に数字が上がった訳では無かったけれど、この経験
を通して自分流の信頼構築術が形成されたんだと思う。
これは誰かに教えてもらえるものじゃない。結局自分の
スタイルは、自分で作っていくしかないんだと思う。
君もそろそろ、自分らしさを発揮することで顧客から“有難
がられる”存在となる自分流儀を作っていく時期だろう。
正直、数字が出ないなら、担当を外されることもありうる
けれど、顧客と信頼関係を作っていくための自分らしい方法
を磨く機会と割り切ってみたらどうだ。若いからと許される
今だからこそ、残りの9か月、徹底してみたらどうだろう。」
如何でしょうか?
このメッセージのBefore/Afterで変化が起こせたなら成功
です。無論必ず成功する保証はないですが、元のメッセージ
より効果が見込めるのは、間違いないと思います。
落ち込んだり、自信を無くしたり、がある一方で
歓喜したり、勇気を得たり、もある。
そんな人生のリズムが入ることで、
人の心も動き出すと考えられるからです。
