チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる -6ページ目

チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる

この世に生まれて間もなく、人は「ものがたり」と出会い、そこで広い世界とのつながりを作ります。このblogでは、「ものがたり」と共にある人の可能性を探求していきます。

 

”人生立て直しストーリー”のインタビューを始めました。

その一回目を先月末に行ったので、

本日その一本目をアップします。

 

対象となる方は、企画の趣旨に賛同頂き、

自分のこと「話してもいいよ」と言ってくださる方。

ご自身の”人生立て直し経験”を、私に話してみたい、

と思ってくださる方です。

 

実は私、インタビューが好きです。

2005年の夏、

社会人大学院生として在中日系企業の

コミュニケーション調査を行い、

日本人、中国人合わせて20人程にインタビューしました。

 

聞き取りを通して色々実態が見えてくる面白さも

さることながら、そういう形で人の話を聞くこと自体が

とても楽しいと気づき、魅力にとり憑かれました。

 

以来、自分が行う企業研修のケース作成や、

ワークショップの効果を見る目的など含めて、

60名以上の方々にインタビューさせて頂いています。

 

テーマを思いついては、

色々な方にお声をかけて話を伺っており、

今回“人生立て直し”というテーマで、

始めてみようと思い立ったところです。

 

数年前ですが、

ある所で

私自身の“もがき苦しんだ時期”のことを語ったところ、

場にいた40代くらいの男性から“とても勇気が湧いた”と

えらく感謝されたことがありました。

 

こんな話でもそんな風に思ってもらえるのか、と

これは驚きでしたが、だったら似たような話を集めていけば、

今この瞬間に“人生立て直し中”の方々への、

ちょっとしたエールになるのでは、と

思ったところが企画の発端です。

 

ですので、お名前等の開示を含め伺った内容は、

本人了解の範囲で、この場に公開していきます。

目標としては、月一本を目途にインタビューを採って、

内容をUPできればと考えています。

 

“人生立て直しストーリー”は、

おそらく多くの人にとって無縁ではないでしょう。

 

そして“立て直し”は多分一度では済まない。

何度も立て直しながら生きていくのが当たり前の時代に、

私たちは今まさに入りつつあるのではないか。

そんな気がしています。

 

だからこそ、互いの“立て直し体験”を交換したり、

次世代の方々に向けて自分の“立て直しストーリー”を開示する。

また、過去の“立て直し体験”を語ることから

自己省察するような機会が、必要になってきていると感じます。

 

とりあえず、この個人ブログで公開をしていきますが、

内容によっては(勿論ご本人の了解が前提となりますが)

 

こうした内容を必要としているより多くの方々に、

見てもらえる場にも出していければ、とも

思っているところです。

 

『英雄』になるための5つ(①~⑤)のステップ

(→「英雄と英雄以外とはどこで別れるのか」参照)を

登っていくために、

環境から送られるメッセージを正しく捉えることが大事、

と前(→「英雄は英雄になるためにどんなことをしているのか」)に書きました。

 

ここでメッセージを捉えるために、

注意を向けなければならないものが”アーキタイプ”です。

 

“アーキタイプ”というのはちょっと聞き慣れない言葉ですが、

ドラマや演劇に現れる“役”の様なイメージで

とりあえず捉えて頂くといいと思います。

 

心理学ではいろいろな種類のアーキタイプが語られるのですが、

自分に起きた出来事の意味を読み解く上で重要なものとして

i)使者 ii)師・賢者 iii)戸口の番人 iv)敵=影 v)仲間 

vi)トリックスター の6つをここでは挙げておきます。※

 

アーキタイプは必ずしも人間に限らず、

たまたま見ていた映画とか読んでいた本、

あるいは夢に現れた存在がその役を果たすこともあります。 

 

また“役”も必ずしも固定されているわけではなく、

初めは「戸口の番人」として主人公の行く手を阻んでいた存在が、

どこかから「仲間」となって、一転サポート側に回る、

といったこともあり得ます。  

 

個別に見ていきましょう。

 

・「使者」

文字通り重要な知らせを運んでくる存在で、

これから起こる大きな変化への自覚や心の準備を迫ります。

ある集団のメンバーに入るとか、災害で移動を余儀なくされる、

といった出来事も「使者」の訪れと捉えることができます。

 

・「師・賢者」

未来の英雄たる主人公の進むべき方向を指し示したり、

知や技を伝授したり、不思議なパワーを与えたりする存在です。

シンデレラの魔法使い、スターウォーズのオビ=ワン・ケノーピは、

師・賢者のアーキタイプです。

 

・「戸口の番人」

主人公の前進を阻む存在で、いわば主人公に

試練を与える存在です。 

なので敵対する役回りで現れてくるわけですが、

主人公が様々な壁を超えながら成長していくという

『英雄の旅』には絶対に欠かせない存在です。

 

・「敵=影」

敵は英雄が打ち倒さなければならない相手であり、

負ければ命を奪われかねない恐ろしい存在でもあります。

ここで見ておくべきは「敵=影」としている部分で、

すなわち最大の敵とは、自分の内側にある恐れや

利己的な発想、等であることが示唆されている点です。

 

・「仲間」

文字通り主人公を支えたり、共に敵と戦ってくれる存在です。

神話などでは、さりげなくコラボが成立しているので

見落としがちですが、

現実問題としては高い自己理解が求められ、同時に

仲間の真の力を見極めてコラボを構築する能力が試されます。

 

英雄とはいいコラボのできる仲間を獲得できた存在であり、

“試練”のプロセスを通じて

「仲間」の発掘と共にコラボ力の向上が問われてくる訳です。

 

・「トリックスター」

敵だか味方だか分からない、その存在がどのような意味を

持っているものか測りかねる存在がトリックスターです。

そんな存在が、逆堺を意外な方向に好転させてくれたり、

主人公に重要な気付きをもたらしてくれたりする、という

不思議な存在です。

 

一見面倒くさそうな存在を受け入れる懐の深さとか、

そうした存在の動きから重要な情報を受け取れる観察力が

試されるところです。

 

2002年のノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんは

“変なデータが出てきた。よく見たら試薬を間違えていた”

というきっかけを、

“「使者」からのメッセージ”として見逃さず、

なぜ、そんなデータが出てきたかを追求した、と

捉えることが出来ます。

 

その時は何か確信があって調べてみた訳ではなかったと

どこかで述懐していましたが、

多分何か引っかかるものがあって探求を行い、

そうしたら“大発見になっちゃった”の様な感じだったのでしょう。

 

探求を行うか行わないか。

この差は本当に微妙ですが、そこが分かれ目な訳です。

 

“アーキタイプ”に意識を向けることは、

時間やノルマに追われる現代人の思考パターンに

「物語性」を導入する、あるいは

 

人間の力を超えた大きな存在と自分の行動とを

連結する手段であると、私は解釈しています。

 

そしてその物語的フレームを導入することで、

“田中さん的感性”とでもいうべき

人類が本来持っていた感覚の活性化を

図ることができるのではないか、という点が、

この稿でお伝えしたかった私の仮説でした。

 

 

*  *  *  *  *  * 

 

ここまで、神話学者ジョセフ・キャンベルが提唱した

『英雄の旅』を、

現代に生かしていく方法について考えてきました。

 

私たちはおしなべて、

不確実で不安が一杯のVUCAの時代に生きており、

自らの足で世界に踏み出した途端、

試練に満ちた”英雄の旅”を

歩んでいかなければならない存在なのだと思います。

 

自立した存在として、自尊心をもって生きていくためには、

未知の領域に一歩を踏み出す①のレベルから始めて、

英雄に近づくステップを一歩一歩、登っていくことが

一層求められてきているのだと思います。

 

そのステップを登っていける英雄の条件は、

自らよく動き、謙虚に学び、

かつ自己犠牲的な精神を持っていること、

 

そしてその上で、

環境が発する重要なメッセージを高い感度で捉えられる、

ということらしいと、一連の考察から見えてきた様に思います。

 

私たちの多くは英雄にはなりえないし、

ノーベル賞を取る確率も限りなくゼロに近いわけですが、

ここまで取り上げてきた

英雄が英雄たるための条件を意識して生きることで、

 

人間らしく生きていくために大事なものを、

失わずにいることができるのではないか。

 

そして人間の歴史は、

後世に英雄として語られるような存在のみで創られるのではなく、

英雄を目指したものの英雄になれなかった

莫大な数の人々によって築かれてきたことも、

覚えておく意味はあるのだと思います。

 

 

※ここでのアーキタイプはC.ボグラー『面白い物語の法則』上巻・下巻を参考にしています。

 

困難な研究を成功裏に進められた、とか、

絶体絶命のピンチに陥った事業をうまく立て直せた、

といった経験を検証してみると、

 

たまたま読んだ本にいいヒントが載っていた、とか

会議で隣に座った人がキーパーソンの親友だった、等、

“たまたま”、“偶然に”が起きていたという話が、

結構な確率で出て来ます。

 

これらの事柄を単なる偶然と捉えるのでなく、

環境が発している“メッセージ”を無意識がキャッチし、

 

その情報が“ヒント満載の本”に手を伸ばさせたり、

キーパーソンの隣の席に自分を導いてくれたりする、

 

つまり環境から届けられているメッセージに沿った

行動を導いてくれる、と、

そんな解釈ができるのだと思います。

 

いわゆるセレンディピティ―とか

シンクロニシティーと言われる様な現象ですが、

こういう話は神話や物語の世界では頻繁に出てくる、

というか、

それ抜きでは話が成り立たなくなる様なものです。

 

『英雄の旅』を

自律や成長のツールとして活用しようとする際に、

こうした環境から届けられているメッセージを捉え

その意味を解釈することがとても重要です。

 

何らかのメッセージが届いた際に、

その意味が俄かには分からないものであっても、

素通りすることなく受け止め、

メッセージされている事柄の

意味を探求しなければなりません。

 

事態の展開、人との出会い、新たな課題の発生、

トラブル、失敗、経験者の助言、等

こうした出来事すべてがメッセージです。

 

それらの出来事が、

先のブログでお伝えした①~⑤を展開させていく中で、

どの様な意味を持っているのか、

その探求が大事なわけです。

 

ある研究のための実験をやっていたら、

おかしなデータが出て来た。

 

変だな、と思ってよくよく見ると、

間違った試薬を使っているではないか。

何という事! ああ大失敗!! と落ちこんだ。

 

ただこの研究者はおかしなデータを素通りせず、

何故そんなデータが出て来たのかを調べていった。

調べた結果、世界がビックリの大発見に繋がった。

 

2002年にノーベル化学賞を受賞した

田中耕一さんの話です。

 

全ての出来事には意味がある。

何故ならば、

環境が必ずメッセージを送ってくれているから。

だから出来事の意味を考えなければいけない。

 

それが、ここで採っている世界観です。

 

送られたメッセージの意味を捉えられるかどうかで

差異が生まれてくる、という考え方です。

 

そうは言っても、意味を捉えるなど雲をつかむ様な話で

何をどう捉えて、意味に繋げていけばいいのか、

このままではちょっと見当もつきません。

 

次回はこの、意味を捉える方法について書きます。

 

 

『英雄の旅』の標準プロセスは、

 

主人公が安住の地を離れて未知の領域に入り、

そこで様々な試練と出会い、

そのプロセスの中で人間的な成長を遂げ、

 

やがて大きな戦いに勝利し、

宝を携えて、安住の地に帰還する、

 

というものでした。

 

同じような試練と出会っても、英雄になれる人もいれば、

そうなれない大勢の人がいます。

 

その違いはどこから生まれるのか、

J.キャンベルの著書等を参考に

旅のプロセスを段階ごとに見ながら、

「英雄」になっていく為の条件を考えてみます。

 

①    安住の地を離れ旅に出る段階

「英雄の旅」にこのステージは必ず出て来ます。

人間としてある程度の常識等は身に着けているものの、

かなり不安な状態で未知の領域に入っていく段階です。

 

無理やり旅に出されてしまうケースもありますが、

安住の地を離れられず、最初の一歩を踏み出せない人も

少なくありません。

この一歩が無ければ、絶対に英雄になれません。

 

②    様々な試練に出会い、それらを乗り越えていく段階

目の前の課題を認識し、自己の内にある諸能力と

外部の諸資源(識者の知、道具、仲間の力など)を

マッチングさせて解決を導いていく段階です。

 

このプロセスを経る中で、多様な課題に対する

自分なりの解決法が構築されていきます。

このプロセスを突破できる人は

一定程度以上に動き回り(行動)、

貪欲に学ぶ(学習)という特性を現します。

 

③    自信がついてくる一方で限界が自覚されてくる段階

いくつかの試練を乗り越えていく中で、

自分なりの流儀に自信が生まれてくる一方、

他者の助けや運もなければ

目標を達成することが出来ないことに気づく段階です。

 

英雄になれる人は、この段階辺りまでに

“利他的・自己犠牲的な特性“を示す様になります。

 

④    犠牲を覚悟して決断を下す段階

失敗した際の損失が大きい様な、

リスクの高い決断が求められる局面とは、

英雄が英雄たるに相応しいか否かが試されるところです。

 

この決断を下せるためには、

強い意志や大きな使命感が必要なため、元々抱いていた

願望(Wish)が意志(Will)へと変化していなければいけません。

 

⑤    大きな戦いに勝利して宝と共に帰還する段階

戦いに勝つためには、運も含めた総合力が必要です。

犠牲を払って戦ったけれど、破れてしまう可能性もあります。 

 

とはいえ、人の成長に焦点を当てる限り、

ここで負けても相当レベルの成長は果たせており、

元の姿からははるかに自立した大人となっている状態です。

 

英雄になるチャンスはその後も巡ってくるので

悲観的になる必要はありません。

 

以上の如く、「英雄」になるためには

いくつもの関門を突破する必要があります。

 

①    をクリアしなければ②の段階には行けず、

②    をクリアできなければ③の段階にも行けません。

そして運よく⑤の段階に行けても、

戦いに敗れてしまうかもしれません。

 

その狭き門をパス出来るからこそ英雄となれる訳で、

これは当然といえば、当然の話なわけです。

 

英雄と英雄以外とを振り分ける基本的な構造は以上です。

 

ではどのように、この階段を上がっていけばいいのか。

特に②の行動と学習を、どう進めればいいのか。

その進め方のヒントも『英雄の旅』の中には、

しっかり示されています。

 

次回はその内容を、お伝えします。

 

 

“1965年ころを境に

人々がキツネにだまされた、という

話が聞かれなくなった“と、

哲学者の内山節氏が述べています。

(『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』)

 

キツネに限らず多くの動物は、

古くから人の知が届かない“あっち側”の世界に

繋がっている存在と捉えられていて、

 

人をだますこともあれば、

時に神様の知恵を届けてくれる存在として、

有難がられることもありました。

 

1965年ころ以前の人の心の中には、

この世ならぬ“あっち側”の世界が、

かなり身近に意識されていたのだろうと想像されます。

 

科学の知識が普及し、

神様に祈るよりも薬を飲む方が、

病気を治すのに断然有効だと分かってくると、

“あっち側”の世界はどんどん“あやしい領域”へと

押しやられていきました。

 

動物の生態が明らかにされ、

地球が太陽の周りを回っていることを

小学生でも当然に知っている時代になると、

 

人がキツネにだまされることはなくなり、

人間が直面する大部分の問題を、

科学の力が解決してくれるだろうと、

私たちの多くが信じるようになってきました。

 

身近にあった“あっち側”の世界がどんどん遠ざかり、

かつて人々と世界とを感覚的・身体的につなげていた

心のウチ側の“宇宙的秩序”は

段々とその姿を失っていきました。

 

そしてそのことが、

現代人の心の中に空白を作ってしまったと、

多くの心理学者(主にユング系の)が唱えています。

 

大好きだったおばあちゃんが死んでしまった。

死んだおばあちゃんは、どこに行ってしまったのか?

 

かつての日本人なら、優しかったおばあちゃんだから、

きっと天国で待ってくれていると、

家族皆が心から信じることが出来たのかもしれません。

 

であれば、自分も行儀よく生きて神様に認めてもらい、

やがて死を迎えたら、

天国でおばあちゃんと再会しよう、と。

 

科学では絶対に捉えられない、死後の世界や霊魂の存在は、

亡くなったおばあちゃんも含めた

心の中の“宇宙的秩序”が重要な意味を担っていたのですが、

 

現代人は、

そんな想像力を一気に貧弱なものにしてしまいました。

 

人知を超えた、

現実には“分かりようのない世界“までを

包含する心の中の宇宙に、

 

自分なりの秩序や規範を与えていく

“精神のオペレーションシステム”を、

弱く頼りないものにしてしまった。

 

そしてそのことが、常にぼんやりした不安に包まれ、

いつまでも人生の目標が定めきれずに漂う、

現代人の状況を生み出していると感じます。

 

神話が、とりわけ『英雄の旅』のモデルが私たちに

提供してくれる知恵は、

現代に生きる私たちが長らく視界の外側に置いてきた

“あっち側”との関わり方を再生させてくれるものです。

 

科学と実証の重視で“こっち側”に偏り過ぎた現代人に、

人知を超えて“あっち側”の大きな力とつながる

そして、その大きな力とつながって、

人間に自信と安定を取り戻させてくれる、

 

そんな“神話の知恵”が、

いま求められてきているのだと思います。

 

次回以降『英雄の旅』の話を続けます。