”環境”からのメッセージを捉える | チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる

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この世に生まれて間もなく、人は「ものがたり」と出会い、そこで広い世界とのつながりを作ります。このblogでは、「ものがたり」と共にある人の可能性を探求していきます。

 

『英雄』になるための5つ(①~⑤)のステップ

(→「英雄と英雄以外とはどこで別れるのか」参照)を

登っていくために、

環境から送られるメッセージを正しく捉えることが大事、

と前(→「英雄は英雄になるためにどんなことをしているのか」)に書きました。

 

ここでメッセージを捉えるために、

注意を向けなければならないものが”アーキタイプ”です。

 

“アーキタイプ”というのはちょっと聞き慣れない言葉ですが、

ドラマや演劇に現れる“役”の様なイメージで

とりあえず捉えて頂くといいと思います。

 

心理学ではいろいろな種類のアーキタイプが語られるのですが、

自分に起きた出来事の意味を読み解く上で重要なものとして

i)使者 ii)師・賢者 iii)戸口の番人 iv)敵=影 v)仲間 

vi)トリックスター の6つをここでは挙げておきます。※

 

アーキタイプは必ずしも人間に限らず、

たまたま見ていた映画とか読んでいた本、

あるいは夢に現れた存在がその役を果たすこともあります。 

 

また“役”も必ずしも固定されているわけではなく、

初めは「戸口の番人」として主人公の行く手を阻んでいた存在が、

どこかから「仲間」となって、一転サポート側に回る、

といったこともあり得ます。  

 

個別に見ていきましょう。

 

・「使者」

文字通り重要な知らせを運んでくる存在で、

これから起こる大きな変化への自覚や心の準備を迫ります。

ある集団のメンバーに入るとか、災害で移動を余儀なくされる、

といった出来事も「使者」の訪れと捉えることができます。

 

・「師・賢者」

未来の英雄たる主人公の進むべき方向を指し示したり、

知や技を伝授したり、不思議なパワーを与えたりする存在です。

シンデレラの魔法使い、スターウォーズのオビ=ワン・ケノーピは、

師・賢者のアーキタイプです。

 

・「戸口の番人」

主人公の前進を阻む存在で、いわば主人公に

試練を与える存在です。 

なので敵対する役回りで現れてくるわけですが、

主人公が様々な壁を超えながら成長していくという

『英雄の旅』には絶対に欠かせない存在です。

 

・「敵=影」

敵は英雄が打ち倒さなければならない相手であり、

負ければ命を奪われかねない恐ろしい存在でもあります。

ここで見ておくべきは「敵=影」としている部分で、

すなわち最大の敵とは、自分の内側にある恐れや

利己的な発想、等であることが示唆されている点です。

 

・「仲間」

文字通り主人公を支えたり、共に敵と戦ってくれる存在です。

神話などでは、さりげなくコラボが成立しているので

見落としがちですが、

現実問題としては高い自己理解が求められ、同時に

仲間の真の力を見極めてコラボを構築する能力が試されます。

 

英雄とはいいコラボのできる仲間を獲得できた存在であり、

“試練”のプロセスを通じて

「仲間」の発掘と共にコラボ力の向上が問われてくる訳です。

 

・「トリックスター」

敵だか味方だか分からない、その存在がどのような意味を

持っているものか測りかねる存在がトリックスターです。

そんな存在が、逆堺を意外な方向に好転させてくれたり、

主人公に重要な気付きをもたらしてくれたりする、という

不思議な存在です。

 

一見面倒くさそうな存在を受け入れる懐の深さとか、

そうした存在の動きから重要な情報を受け取れる観察力が

試されるところです。

 

2002年のノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんは

“変なデータが出てきた。よく見たら試薬を間違えていた”

というきっかけを、

“「使者」からのメッセージ”として見逃さず、

なぜ、そんなデータが出てきたかを追求した、と

捉えることが出来ます。

 

その時は何か確信があって調べてみた訳ではなかったと

どこかで述懐していましたが、

多分何か引っかかるものがあって探求を行い、

そうしたら“大発見になっちゃった”の様な感じだったのでしょう。

 

探求を行うか行わないか。

この差は本当に微妙ですが、そこが分かれ目な訳です。

 

“アーキタイプ”に意識を向けることは、

時間やノルマに追われる現代人の思考パターンに

「物語性」を導入する、あるいは

 

人間の力を超えた大きな存在と自分の行動とを

連結する手段であると、私は解釈しています。

 

そしてその物語的フレームを導入することで、

“田中さん的感性”とでもいうべき

人類が本来持っていた感覚の活性化を

図ることができるのではないか、という点が、

この稿でお伝えしたかった私の仮説でした。

 

 

*  *  *  *  *  * 

 

ここまで、神話学者ジョセフ・キャンベルが提唱した

『英雄の旅』を、

現代に生かしていく方法について考えてきました。

 

私たちはおしなべて、

不確実で不安が一杯のVUCAの時代に生きており、

自らの足で世界に踏み出した途端、

試練に満ちた”英雄の旅”を

歩んでいかなければならない存在なのだと思います。

 

自立した存在として、自尊心をもって生きていくためには、

未知の領域に一歩を踏み出す①のレベルから始めて、

英雄に近づくステップを一歩一歩、登っていくことが

一層求められてきているのだと思います。

 

そのステップを登っていける英雄の条件は、

自らよく動き、謙虚に学び、

かつ自己犠牲的な精神を持っていること、

 

そしてその上で、

環境が発する重要なメッセージを高い感度で捉えられる、

ということらしいと、一連の考察から見えてきた様に思います。

 

私たちの多くは英雄にはなりえないし、

ノーベル賞を取る確率も限りなくゼロに近いわけですが、

ここまで取り上げてきた

英雄が英雄たるための条件を意識して生きることで、

 

人間らしく生きていくために大事なものを、

失わずにいることができるのではないか。

 

そして人間の歴史は、

後世に英雄として語られるような存在のみで創られるのではなく、

英雄を目指したものの英雄になれなかった

莫大な数の人々によって築かれてきたことも、

覚えておく意味はあるのだと思います。

 

 

※ここでのアーキタイプはC.ボグラー『面白い物語の法則』上巻・下巻を参考にしています。