宏美さんの51stシングル「BELIEVIN’」と両A面扱いだった「笑顔をみせて」。現在でも入手できる『ゴールデン☆ベスト デラックス 岩崎宏美 ザ・コンプリート・シングルス・イン・ビクター・イヤーズ』では、「銀河伝説愛の生命」「決心夢狩人」「風の童話集ラスト・クルーズ」と同様に“両A面曲”とクレジットされている。だが、当ブログではシングルのカウントの仕方等は、『岩崎宏美オフィシャル・サイト』に従うことにしている。オフィシャルでは、他の3枚と違いこの「笑顔をみせて」はカップリング曲扱いとなっているので、それに準ずることとしよう。

 

 

 作詞は宏美さんご本人。作曲が塩谷哲さん、編曲は13CATSの3人だ。歌詞の内容は、ご本人も明言されている通り、離れて暮らす二人の息子さんに宛てたメッセージソングである。詞だけを見る限りとても切なくて、しっとり語るようなバラードをイメージしがちだが、ここはSALTと13CATSの見事な連携プレイで、ライトな洋楽っぽい仕上がりだ。ウェットになりがちな歌詞なのだが、 16ビートのバウンス系(ハーフタイム・シャッフル)で、沼澤さんのドライなスネアの音が曲全体をカラッとしたものにしている。キャット・グレイらしいコーラスワークも秀逸である。

 初めて聴いた時、その歌詞とサウンドのあまりのギャップに「これはどうなの?」と言うのが率直な感想だった。だが、そこを上手く繋いでいるのがSALTのメロディーメイクだ。メジャーでハネたリズム、宏美さんも努めてサラッと歌われているのだが、メロディーラインがその歌詞とサウンドの橋渡しと言おうか、和風の情緒と言おうか、耳に馴染んでくる不思議な魅力があるのだ。

 「♪ Ah Ah- 」が耳に残るリフレインだが、2番の最後「♪ Ah- 抱きしめてあげる」の最後の「る」は跳躍して何と上のFまで跳ね上がる。歌詞を改めて読み直すと、確かにここが最も感情の昂るところだろう。そこに滅多に使うことのないハイトーンを持ってきているのだが、そこが曲調のなせる業で、アッサリ聞こえるのが見事である。

 その後、曲は複雑に転調し、8分の3拍子を経由して元のAメジャーから半音上のB♭メジャーでリフレインを繰り返しながらフェイドアウトしてゆく。『半音上がって盛り上がる宏美さんの歌ベスト20❣️』でも取り上げた通り、間奏が込み入り過ぎていて、ウッカリすると半音上がったことに気がつかない。

 当時宏美さんは、テレビやライブでも「BELIEVIN’」ではなく、こちらの「笑顔をみせて」を好んで歌われていた。そしてそれを聴くたびに、どんどんこの歌を好きになっていく自分がいた。デビュー25周年のコンサート『Reversion』の映像でどうぞ。

 

 

 この歌は、私が初めて担任した1年生の可愛い子どもたちとの思い出とも繋がっている。現在は、パソコンもしくはスマホ等でも、簡単に画像や動画、文字や音楽を編集した思い出動画のようなものが簡単に作成できる時代だ。当時はもちろん、アナログテープからアナログテープへコピーしながら編集するのだ。一台でできる編集機のようなものは民生機としては存在せず、カラーコレクター、タイトラー、フィルムスキャナーそしてBGMなど副音声を入れるPCMトラックのあるHi8のビデオデッキ等を所狭しと接続し、編集作業をしたものだ。

 当時は個人情報等についてもあまりうるさくなく、完成したマスターテープをクラスの40人分、ダビングして配っていた。一本2時間弱のビデオテープのダビングには当然リアルタイムの時間がかかる。夜寝ている時にやるしかない。当時のデッキはテープの最後まで進むと、自動的に巻き戻しが始まる。するとその微かな物音で目が覚めるので、次のテープのダビングをセットするのだ。そんなことを懐かしく思い出す。

 さて、前段が長くなってしまった。私はその1年生の子どもたちを2年生に持ち上がることなくインドネシアへ赴任することが決まっていた。もちろん、人事に関することはオープンにできない。なので、その想いをこの「笑顔をみせて」の歌に託し、その1年間の思い出ビデオのエンディングシーンに用いたのである。

♪ 今すぐに
 君の元へ
 駆け寄れないけど
 いつか ずっと
 そばにいられる
 そんな日が来るから


 今でもこの歌を聴くと、もう30歳を過ぎたはずのあの子たちの可愛かった1年生の頃の思い出が次々に甦る。

 この「笑顔をみせて」には、VIDEO CLIP が存在する。『30TH ANNIVERSARY BOX』に収録されていて、現在でも視聴できることが嬉しい。私は当ブログで、宏美さんのルックスに言及することはあまりないのだが、このビデオだけは別である。あまりお金をかけたとは思えない(失礼)ただの室内映像で、衣装はシンプルな黒と白の2着。だが、宏美さんのアップのカットが多く、とにかくそれがドキドキするくらいお綺麗なのである。プライベートではお一人になられ、辛い時期でいらしたに違いない。それを「お綺麗」などと書くのもやや不謹慎に感じるが、どうぞご容赦願いたい。YouTubeにそれがアップされていず、ご紹介できないのが残念だ。

 またこの曲は、2011年になって『LIVE BEST SELECTION 2006-2010』のボーナストラックに、唯一のスタジオ録音曲としてニューバージョンが収録されている。「笑顔をみせて〜for tomorrow〜」とリタイトルされ、編曲は坂本昌之さんである。15年の時を経て、ご長男・元気クンのリクエストで復活したと言う。「当時は寂しい気持が一杯でしたが、今回は暖かな気持で歌うことができた」というこの新録音。オリジナルのようにリズムは前面に出ず、ストリングスの流麗さが際立つ美しいバラードである。

 

 

 この曲の復活は宏美さんにとっても、ひじょうに喜ばしいことだったのであろう。翌2012年には、シングル「いのちの理由」のカップリング曲としても収録された。それにとどまらず、ツアータイトルとしても『笑顔をみせて』が採用されたのである。そのコンサートでは、ヒットメドレーの冒頭をこの「笑顔をみせて」が飾ったのだった。🥰

 

(1996.11.21 シングル「BELIEVIN’」カップリング曲)