1984年9月、宏美さんは10年間所属した芸映プロダクションから独立、スリー・ジーを設立した。大きなコンサートは開催できず、『夜のヒットスタジオ』等のテレビ番組の出演も途絶えた。しばらく雌伏の時期に入る。だが水面化では、時間をたっぷりとかけ、独立後の「新しい岩崎宏美」のビジョンの確立に向け着々と準備が進行していたのである。

 

 

 年が明け85年、われわれファンをビックリさせ、そして大いに喜ばせてくれることが起こる。カメリアダイヤモンドのCFソングに、宏美さんの「夢狩人」が起用されたのである。画面に登場したのは堀越学園同期の池上季実子さん。コマーシャルで流れたフレーズは「♪ 誘われても 抱かれても 夢狩人/ただ一度のめぐり逢い 揺られたくて」の部分。それまでの宏美さんの楽曲のイメージとはかけ離れていて、強烈な印象を残した。

 

(3分17秒あたりから)

 

 当時何かのラジオ番組で、宏美さんがこの「夢狩人」について、「CMだから短い時間で見ている人に印象付けなければならないので、言葉の使い方やアレンジを極端にしている」と仰っていたが、それが見事功を奏した形になったと言えよう。

 

 この「夢狩人」は作詞が松井五郎さん、作編曲が奥慶一さん。独立後の「新しい岩崎宏美」のイメージを決定づけたお二人と言って良いだろう。独立後初のアルバムとなる『戯夜曼』は、「決心」(作詞:山川啓介)以外の楽曲の作詞は全て松井さんが手がけている。その先行シングルという形になった「決心/夢狩人*」から、「夢狩人」が部分的にではあってもファンの耳に先に届いた意味は大きいと思っている。「今度の曲は、今までの岩崎宏美と違うぞ」という大きなインパクトを与えたに違いないからである。

 

 テニスボールを打つ音のように聞こえる電子パーカッションの使用、3連符を多用したブラスのフレーズと、イントロからリスナーを惹き付ける。トランペットメインのブラスの音は、この曲全般で効果的に用いられている。CFでも用いられたリフレインのフレーズは、宏美さんのセルフコーラスも伴い極めてインプレッシブだ。

 

 

 『戯夜曼』再発の時のライナーノーツで、宏美さんはこの「夢狩人」についてこう述べている。「『夢狩人』の方は、とても艶っぽく聞こえるかもしれませんが、自然に歌えましたよ。サウンドも面白かったし、大好きですね。カメリアダイヤモンドのCM曲で、最初に流れていたのがこちらで、その後『決心』に変わったんですね」そして皆様ご案内の通り、この「決心」のバージョンのCMでは宏美さんご自身が出演されたのである。

 

 この曲は「決心」と両A面扱いで、当時コンサートやライブなどでよく取り上げられた。だが、残念ながらテレビ番組で歌われたのは見たことがない。86年のエジプト公演のビデオには収められているが、砂漠で撮影したイメージビデオのような部分がメインで、収録されている歌唱シーンは限られている。もちろん、宏美さんの妖艶な歌唱とマッチした貴重な映像であることは間違いないが。

 

 宏美さんの曲に限らず歌謡ポップスでは、スタジオ録音のオリジナル音源は、曲終わりがフェイドアウトの形で収録されているものがよくある。元々フェイドアウトの曲を生演奏する際、取って付けたようなエンディングであることが多く、場合によっては興醒めでさえある。宏美さんの初期のシングル曲にはフェイドアウトが多く、その傾向は否めない。

 

 ところが、この「夢狩人」は元来フェイドアウトの曲でありながら、激光旋律団によるエンディングのアレンジは、原アレンジの雰囲気を生かした違和感のない終わり方になっている。特に、イントロ最後に現れる上昇型の決めリズムのモチーフを、アウトロ最後にその同じモチーフの下降型に変えて使用し、統一感を持たせている(※譜例参照、赤枠)。

 

 

 

(19分40秒あたりから)

 

 この曲は宏美さんもお気に入り、ファンの間でも人気の高い曲でありながら、ライブではしばらくご無沙汰である。私が最後に聴いたのは2007年のツアー『Life+』だったかな?宏美さん、そろそろまた「夢狩人」、歌ってくださいね!

 

(1985.4.5 シングル「決心」両A面)

 

*アルバム『戯夜曼』では(Version Ⅱ)として、大村雅朗編曲のものを収録している。また違う風情の好アレンジであるが、奥さんの強烈なアレンジを聴いた後ではやや印象が霞む。特に、リフレインが半音上がるところが原アレンジの美味しい部分である。