阿久・筒美両先生のコンビによるシングル第7弾「ドリーム」のB面曲。このひとつ前のシングル「霧のめぐり逢い」のB面曲「感傷時代」と同様、岩崎宏美初のベスト・ヒット・アルバムに収められただけで、オリジナル・アルバムには収録されず、その後の周年企画等のベストにもセレクトされたことがない。だが、ファンの間では名曲の誉れ高い人気曲である。

 

 中古レコード屋のネット広告で、この「ドリーム/スイート・スポット」のイカした宣伝文句を見つけたので、転載したい(転載元はこちら→)。

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岩崎宏美の’76年作「ドリーム」7吋盤。A面もちろん超名曲ですが、B面「スイート・スポット」のガーリィ・ポップン・ソウルっぷりも当店長らく激推し中ってことでひとつ!京平先生らしいグルーヴ、うねるベース!

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 同じ中古レコードを買うなら、こういう「解ってる」お店から買いたくなる。曲の魅力を短く紹介する語彙やセンスに脱帽だ。

 

 さて、スイート・スポット(sweet spot)の本来の意味は、説明無用であろう。ゴルフクラブやテニスラケットなどで、ボールを打つのに最も適した場所、最適打球点のことである。転じてこの曲では、「♪ ねらいうち 胸に響いたのよ/さりげない ふりしてたのに/知ってたのね/この私 弱くなるところを」と歌われ、主人公の女の子のツボや急所、と言ったニュアンスでスイート・スポットという言葉が使われている。

 

 Fメジャーの曲だが、Aメロ歌い出し間もなく、「♪ さりげない ふりしてたのに/知ってたのね」の「知っ」でいきなり最高音の上のDが、切れ味鋭くスパッと歌われる。いきなりの萌えポイントだ。

 

 Bメロの「♪ 昼と夜が 入れかわる頃〜」でレラティブ・キー(平行調)のDマイナーに転調する。まさにこの黄昏時の時間帯が彼女のスイート・スポットなのだが、「♪ 私はいつもの メランコリー」という言葉使いはやや大仰な気がする。「おセンチになる」くらいのニュアンスが近いのではないか。私の推測は、この曲も「二重唱」「ロマンス」同様に曲先で、音数の関係で一番美味しいところに「メランコリー」という言葉を使っただけで、憂鬱や抑鬱というほどの深刻な意味はないと思っている。

 

 そしてこの部分の歌い方が、またまた私の「スイート・スポット」なのだ!「♪ わたっしー、いつっもー」の赤太字にした語尾の短いのにビブラートをかける得意技。「♪ メラーンーリーーー」の「ンー」でこの曲の最高音、2度目の上のDをさりげなく出し、「コ」の前に一瞬早くAに降りる。そして、元のFメジャーのドッペルドミナント7th→ドミナント7th sus4→ドミナント7thというお約束のコード進行で動き、「リーーー」を1小節余分に引っ張る。しかもノービブラートで、この伸びる上のC音のお声の何と美しいことよ。

 

 さらにさらに、その後の「♪ そーのーとーきー やさしくしてくーれたー/あーなーたーがー やさしくしてくーれたー」の赤丸を付けた部分で、一瞬泣くような声を挿入するテクニックにもうメロメロになってしまう。そしてこの部分、クロマティックな件のベースにシンセの音が被って動くのもいいね。A面の「ドリーム」と共に、サウンドも京平先生の超名曲なら、若き日の宏美さんの超人的な歌声とテクニックが合わさった、貴重なテイクであると言えよう。

 

 

 京平先生は、1980年にマナ(MANNA)という歌手に書いた「赤い靴の女の子」という曲で、何故かこの「スイート・スポット」のイントロを引用している。十代の宏美さんへのオマージュだったのだろうか。

 

 

(1976.11.5 シングル「ドリーム」B面)

 

 昨日、作曲家・小林亜星さんの訃報が流れた。謹んでご冥福をお祈りしたい。亜星さんの作品は好きな歌がたくさんあるが、宏美さんへの提供楽曲は「恋待草」「その先もつないで」の2曲である。「恋待草」を聴いて追悼としたい。合掌。