昨日休日だったので、ようやく45周年コンサートのBlu-rayを観ることができた。ずっと画面に釘付けだった訳だが、すでに情報として知っていたにも関わらず、ゲストとしてヨシリンが登場して「にがい涙」のイントロが流れると、涙が出た。

 

 岩崎良美。このブログを読んでくださる方には無用の説明だが、宏美さんの実妹である。姉の後を追うように1980年歌手デビュー。「涼風」「ごめんねDarling」「タッチ」などが代表曲。女優としても活躍、近年はシャンソン、フレンチ・ポップスなども歌うライブを行なっている。良美ファンの皆さん、足りない所はフォローお願いしますね!😉

 

 

 デビューしたての頃は、お互いヒロリン・ヨシリンと呼び合っていた気がするが、最近はタイトルの通り「ひろちゃん」「ヨシリン」。2003年から、カバー・アルバム『Dear Friends』シリーズで通算6曲、お2人でレコーディングしている。そのうちの4曲をまとめて披露された動画をご紹介しておこう。

 

 

 さて今日は、よく話題になるお2人の幼い頃の思い出や現在の関係性などの話は取り上げない。「声がそっくり」と言われるお2人だが、われわれファンなら込み入ったハーモニー部分だと迷うことはあるが、ソロ部分ではまず間違いなく聴き分けられる。では逆に、お2人の声や歌い方の相違点はどこにあるのか?ということにスポットを当ててみたい。

 

 

①ビブラート

 先日「卒業写真」のブログで、コメント欄でヨシリンとの類似・相違が話題になった。その時傍目八目さんが指摘された通り、ビブラートの違いが一番ハッキリしているかも知れない。宏美さんは大きく、良美さんの方が細かい。以前宏美さんは、キャット・グレイに「ビブラートが大き過ぎる」と指摘され、細かいビブラートで歌う練習をした、と仰っている。

 

 『cinéma』に入っている「Chapter Ⅱ」の「♪ 一度はあきらめた〜心が」の「めた〜」の部分の声の出し方と短く細かいビブラートがヨシリンに似ていると思うのだが、如何だろうか。

 

 ヨシリンの夜ヒット初登場の際のオープニング・メドレー「センチメンタル」が、お二人のビブラートの違いがよく判るので貼っておこう。

 

 

②ノービブラート、ブレス

 宏美さんは『飛行船』『ウィズ・ベスト・フレンズ』の時期に大きなビブラートが顕著だが、『パンドラの小箱』辺りからノービブラートと使い分けるようになって来る。「夏物語」「ONE DAY IN YOUR LIFE」などを思い出していただくとわかるように、宏美さんは長い音符をノービブラートで引っ張る歌い方も得意技の一つである。

 

 ヨシリンは、私は知らない曲も多いのでハッキリとは言えないが、あまりこのような歌い方はされないように思う。

 

 その歌い方の差がハッキリ出ているのが、「卒業写真」のスタジオ録音だ。ヨシリン担当のAメロ前半の「♪ 卒業V写真のあの人は やさしいV目をしてる」の部分は、Vマークのところで短いビブラートをかけてブレスをしている。だが、宏美さん担当のAメロ後半「♪ 卒業ー写真の面影が そのままーだったから」は、「ー」の伸ばしの部分はノービブに近く、そのままひと息に歌われているのが大きな違いだ。

 

③声そのもの

 芥川也寸志先生の『音楽の基礎』(岩波新書、1971)に興味深い記述があるので、引用したい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 われわれがいろいろな楽器の音色を識別しているのは、じつはその楽器の鳴りはじめの部分と、音高がかわるときの変り目の特徴に負うところが多い、ということである。いくつかの楽器のある一定の高さでの長い音を録音し、その音の鳴りはじめの部分と鳴りおわりの部分とを切り落し、それをつなげて聞いてみると、切り落す前は一聴して簡単に楽器の種類が識別できたのに対して、驚くほど識別が困難になってしまう。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ヨシリンの声が可愛らしく甘く聞こえたり、宏美さんの声に説得力や声の伸びやかさを感じたりするのは、もしかすると声の出し始め、音高の変わり際、そして音の始末の仕方等に、より大きく依存しているのかも知れない。お2人の声質がよく似ているとか、よく溶け合うとか言われる。上述のような方法でお2人の声を録音して、最初と最後を切り落としたら、誰も聴き分けることができないのではないか。私はそのような気がするのだ。

 

④音域

 デビュー当時のシングル等で比較してみよう。地声の音域は宏美さんが概ね下のG〜上のD、良美さんが下のG〜上のE(「I THINK SO」のリフレインの最後のフェイクのような部分が上のE)とほとんど変わらないと考えられる。だが、近年の録音を聴くと、宏美さんの地声の音域が明らかに下がってきているのに対し、良美さんはほとんど変わっていないように聞こえる。

 

 これは、宏美さんが声を酷使して何度も声帯にポリープを作ったこととも関係があるかも知れないし、個人差が大きいというホルモンの作用の違いによる部分が大きいのかも知れない。

 

⑤母音の発音

 宏美さんの母音の発音には定評がある。特に「ア」は本当に美しくて、聴き惚れてしまう。最近YouTubeでも、そのことに言及している動画を見かけた。あと、私がこれまでも再三言ってきた、地声の高音域での歌い上げで出現する、英語の発音記号の[æ]に近い母音は特徴的である。

 

 良美さんは、「オ」に特徴があるように思う。宏美さんよりやや少し口の前の方で発音されるのだろうか。「白い色は恋人の色」の「♪ 恋人のいろ〜」の「ろ〜」の発音など、大好きである。

 

⑥小節(こぶし)

 宏美さんは小節は一切回さない、と言うか回らない(?)。昔、宏美さんが「私は小節は回せない」と発言されたのを聞いた記憶がある。ヨシリンは回すことがある。「にがい涙」で言えば、「♪ しめつけらる 人を愛る〜」のヨシリンのパートで、太字にした「れ」「す」の音で、バロック音楽のプラルトリラー(下記リンク参照)のように小節を回している。この差を知っているとお2人の声を聞き間違えることはない。

 

 

⑦音楽性

 良美さんのデビュー当時、お2人が『夜のヒットスタジオ』に出演された際、お2人の子どもの頃の音楽の先生、森先生(だったと思う)がおいでになった。今はビデオが見られなくなってしまったので、うろ覚えの部分があるがお許しいただきたい。

 

 お2人の子どもの頃のことを訊かれて、以下のようなやり取りがあったと記憶している。

 

森先生:とにかく良美ちゃんは、可愛くて可愛くて。

井上順:でも、宏美ちゃんは歌がうまかった…。

森:いや、声自体はどちらかと言うと良美ちゃんの方が良かったんです。

井上:じゃ、宏美ちゃんはいったい何がよかったんですか?(一同爆笑)

森:宏美ちゃんは、音楽そのものに対する理解が素晴らしかったんです。どんな伴奏をしても、1回でピシッと歌えたんです。

 

 ライブのBlu-ray『Piano Songs Special』の副音声「岩崎宏美と国府弘子のぶっちゃけトーク」で、「赤と黒」のハモりについて、宏美さんは「今まで何度か彼女と二重唱をしたが、彼女がハモりのパートをやったのは初めて」と言っている。弘子姐さんも「はじめピアノでエスコートしようとしたが、(ヨシリンも)すぐ歌えた」とフォローしている。もちろん姉のプライド等もあるかも知れないが、それまでずっとヨシリンがメロディーで宏美さんがハーモニーを受け持って来た、というのは彼女の音楽性が優れていることの一つの証左かも知れない。歌詞の世界、メロディーやサウンドの特徴を本能的に捉えて表現することに長けた宏美さん。その辺りが宏美さんの歌の説得力の源だろうか。

 

 

 

 

 宏美さんメインのブログなので、若干宏美贔屓になっているところもあるかも知れない。😅💦どうぞご容赦いただきたい。

 

 このブログを書く間、BGV的に『Piano Songs Special』や『Precious Night』を流していた。「恋は水色」をヨシリンが歌っていて、途中から宏美さんが登場して歌うことは忘れていたのだが、宏美さんの声が聞こえた途端、身体が反応してピョンと座り直してしまった。私が40年以上に亘って聴き続け、愛して止まない宏美さんのお声である。どこがどう、という理屈ではなく、私にとって、いやファンの皆様にとって、唯一無二のお声であることだけは確かであろう。

 

 宏美さんが良美さんのために詞を書いた「やさしい妹へ」の、『ミュージックフェア』に於ける歴史的名唱を聴きながら今日はお別れしたい。