一昨日の『ミュージックフェア』を見ていて、もう一つ忘れられない名場面について語りたくなった。妹の岩崎良美さんとの「共演」である。華やかな他のアーティストとのコラボは、「競演」という漢字を使いたくなる。しかし、ヨシリンとは、何となく「共演」がしっくりくるのだ。テレビで流れたのは、「ベンのテーマ」だった。他にこの回は「聖母たちのララバイ」そしてこの「やさしい妹へ」も2人で歌っている。

 

 

 「やさしい妹へ」が収録されている『Love Letter』というアルバムは、全曲作詞が宏美さん本人(作曲も一部)。キャッチコピーが「どこを切っても宏美ちゃん」という通り、レコードレーベルのイラストから、歌詞カードまで、全て宏美さんの手書きという、もうファンにとってはこたえられないアルバムであった。「深川その1」「深川その2「I LIKE SEIJO」「ワン・碗」など、彼女の生い立ちから私生活そのものを表現した身の丈サイズの歌詞に、作家陣も時におどけたようなアレンジを提供している。

 

 それらの曲の延長線上のプライベートな世界に、この「やさしい妹へ」もある。しかし、ふだんそばにいても照れくさくて言えない妹への想いを託したこの詩には、デビュー以来宏美さんのサウンドを支えてきた萩田光雄先生が、スケールの大きな曲をプレゼントしてくれたのだ。ピアノ一本で始まり、徐々にストリングスが加わってクライマックスを迎え、また最後はピアノだけに戻って静かに終わる。宏美さんの声を知り尽くした萩田先生が、サビで宏美さんの声が一番よく鳴る音域を上手く使っている。涙なくしては聴けない名曲である。

 

 レコードやコンサートでは、もちろん宏美さんがひとりで歌っている。ではこのミュージックフェアでは、ありがちなハモリをつけたり、交代々々に歌ったりしたのかというと、違う。そうではなく、この7分近くに及ぶ大曲のほとんどを、良美さんは時折り宏美さんと笑みを交わしたり、俯いたりしながらずっと歌っている姉にただ寄り添っていたのだ。そして、曲のラストの

 

♪ my sweet(すばらしい人生を)わたしの大切なあなただから

 my sweet(あなたの生き方で)幸せで 幸せでありますように・・・

 

というところのカッコ内の部分だけを、良美さんは歌ったのである。もちろん(あなたの生き方で)というところを(わたしの生き方で)と歌詞を変えて。それがまた素晴らしく、宏美さんの涙を流しながらの絶唱に応えるものとなった。ミュージックフェア史上に残る姉妹の共演となったことは間違いない。

 

 この回のミュージックフェアが、宏美ファンにとって忘れ難い理由がもう一つある。この放送日は1984年10月14日。そう、宏美さんが事務所から独立し、『夜のヒットスタジオ』その他多くのテレビ番組には出演できなかった時期なのである。宏美ファンがこの貴重なテレビ出演を目に焼き付けようと、食い入るようにブラウン管を見つめる中、この歴史的な名唱は誕生したのである。

 

 私は、自分の姉の結婚披露宴に、本人から依頼されて「今日嫁ぐ姉に」というオリジナル曲をピアノで弾き語りした。次第に参列者から漏れるすすり泣きに、内心「大成功!」とほくそ笑んでいた。だが、私が地方の大学に行っている4年間、ずっと宏美さんの出演番組を録画してくれ、宏美さんの曲に精通していた弟に、披露宴後こう言われた。「詩・曲ともに『やさしい妹へ』から多大な影響を受けてるね」と😅💦

 

 

(1982.11.5 アルバム『Love letter』収録)