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古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.102

Paolo Scavino-Barolo 1984 その4

 

Scavinoの締めくくりです。

 

現在リリース中のグランクリュのマルチミックス“CAROBRIC”(先回書いた通りCAROBRICはCa=Cannubi, Ro=Rocche di Castiglione, Bric=Bric del Fiasc)が注目を浴びていますが、今回TreBicchieriを受賞した1984は、いわゆる『グランクリュの混醸マルチミックス』だったのです。ご存知の通り1984は天候不順年、Scavinoもその不運からは逃れられませんでしたが、当時のノーマルBarolo用のブドウ(多種多数、複数クリュ)に単一クリュ用のブドウ(Rocche dell’Annunziata&Bric del Fiasc、ひょっとすると購入したばかりのCannubiも)をぶち込んで造った84は確かにノーマルBaroloとは思えぬほど恐ろしく美味しかったのです。マルチクリュで味が複雑の極み。Vini d’Italia1989の評価では同時期にリリースされたBric del Fiasc1983がDueBicchieriでBaroloノーマル1984がTreBicchieriであり、いわゆる逆転現象もさも在りなんと思わせる出来でした。84Scavinoの旨さにはこんな理由もあったのです。更にハーフボトルの生産。このVini d’Italia 1989にも書いてありますが、当時のScavinoはハーフボトルの販売にも力を入れていました。昔も今もハーフボトルの種類が少ない伊ワイン。当時は非常に助かりました。

 

昔のスタイルに比べ、現在はすっかり様変わりしました。スタイルはモダンからクラシックへの大変換。今の私は、当然イタリア時代からは確実に歳を取っている訳で、現行Scavinoスタイル(RF中止、新樽率ひとケタ、新しいクリュを開墾・買収・改植し、クリュ種類を増やす、BIOも導入する、味は更に複雑、ニュアンス勝負、余白が増える、手がかりや引っ掛かりが現れる)が良い塩梅になっていると書いておきます。

 

当時のScavinoの想い出を一つ。例の如くテンションの高いマルケージ土曜夜営業の真っただ中、Bric del Fiasc89の注文を取った私は、それを取りに地下セラーへ急ぎました。セラーに通じる下り階段を軽く飛び降りたつもりが上にジャンプし過ぎ、低くなった天井部分で頭を痛打。空中でバランスを崩したままコンクリートの階段に仰向けに倒れ、階段の縁で後頭部をしたたか強打し、少しの間気絶します。その瞬間、客席とキッチンには『ガイン』という鈍い音と振動が響いたそうで。気付くと後頭部からの流血でびちゃびちゃ、シャツも何もかも朱に染まった状態。周りにはスタッフだかりが出来ており、方々から大丈夫かとの声がするのですが、次第にその声が『おい、1番テーブルの赤は何だ?』『2番テーブルの次のペアリングワインは何だ?』等々の詰問(若干怒号)に変わる。終いには『ご常連のカプラさんが是非お前と相談してワインを決めたいと言っているが、客席に出られるか?』などの極悪非道な声が多い事多い事。こちらはブッチャーかキラー・トーア・カマタか大仁田かという程の流血具合。Bric del Fiasc89(当時で80,000~100,000リラ、安くて美味い)のオーダーと諸々を伝え残し、緊急病院Pronto soccorsoへ。7針位縫われ、頭用ネット包帯を被った後にマルケージへ戻りますが、脳震盪と痛みで立っていないので、プロンジュ前の椅子に腰かけワイン関連の指示を続けるはめに。マルケージからは『大変だったな、明日も頼むな』との有難い声もいただきました。ええ、明日は日曜でコンプレですから、当然働きますとも。

 

今でもScavinoを見ると、はっと身構え、Bric del Fiascの金色を見ると後頭部をさすります。

 

この項 了。
Paolo Scavino Bric del Fiasc バローロ ブリック デル フィアスク パオロ スカヴィーノ

Paolo Scavino Bric del Fiasc バローロ ブリック デル フィアスク パオロ スカヴィーノ 1989

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.101

Paolo Scavino-Barolo 1984 その3

 

前回の続きです。

 

ロータリーファーメンター(RF)はScavinoがチョコレート用の機械をブドウ用に転用導入したとされていますが、それは事実です。Scavinoがフランスの農業見本市を見学時に、厳密に言えばカカオ用の水平式RFを見出し、それをワイン用に転用する事を思いつき、1993年に導入した事が最初です。

 

但し、現在ScavinoではBarolo用にRFを使用しておりません。長年の研究の結果、RFを用いるとNebの成分が過抽出になるとの事。ピエモンテの生産者の中には高額で購入したRFを売り払い、コンクリート・セメント・ホーロー、更には古典バローロの象徴としていたティーニの使用に鞍替えする者もあらわれました。実はScavinoはRF導入と伝導の先駆者であり、且つRF懐疑派の先鋒にもなったのでした。

 

更にScavinoにおける新樽率の減少率も顕著です。フランスのワイナリーがイタリアを見下していた主たる原因である『伊は何でも新樽に詰めたがる』をきっぱりと停止します。

AltareやClerico等が持ち込んだバリックはピエモンテに大きな影響を与えましたが、数多くの生産者が一斉にバリックをフランスの生産者に注文した結果、オークの需要・供給バランスが一気に崩れ、フランスの樽メーカーはフランス国内では嫌われて使用しない、きつい樽香の出るオークをイタリア向けに生産し、輸出する様になります。その頃のイタリアでは樽香が非常に好まれていたので、仏伊両者には正に好都合だったのですが、徐々にPiemonteの生産者もその不自然さに気付き、更にフランスの生産者見学時に仏用樽と伊用樽の差に気付き、新樽率を激減させます。Scavinoも新樽率100%からひとケタまで減少させました。

 

Scavino。絶え間ない研究と、より良いワイン生産の為の向上心には尊敬の念に堪えませんが、毎年リリースされる度にスタイルが少しずつ違う。新車の発表会、或いはハイブランドのスフィラータ=ミラノ・コレクションの様ですね。こう書いている今でも、スタイルは変化しているかも知れません。

Baroloを伝統派と現代派の両者に分けて論ずる事は、もはやナンセンスなのでしょう。しかし、敢えてその言い方をするのであれば、私がイタリアにいた頃、現代派の筆頭はScavinoでした。グリーンハーヴェスト、マサルセレクション、収量制限、細かいクリュ仕込み、ロータリーファーメンター(RF)、短いマセ日数、新樽率100%、バリック。

伝統派に反するありとあらゆる手法を駆使し、非常にソフトで肉感的・蠱惑的なBaroloを産しており、少なからず私も夢中になったものです。勿論Bric del Fiascも。

 

次回で総括します。

Barolo Paolo Scavino バローロ 全てのシリーズ パオロ・スカヴィーノ

Paolo Scavino  パオロ・スカヴィーノ セラー内

ロータリーファーメンター RF

Vini d'Italia 20周年記念号 Paolo Scavino 解説

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.100

Paolo Scavino-Barolo 1984 その2

 

前回はクリュの紹介。今回は製法等を書きますが、製法内容は1995年当時の私のメモとなり、現行品とはかなり様相が違います。

 

Az.Agr.Paolo Scavino

設立年:1921、

オーナー:Lorenzo Scavino(初代)→Paolo Scavino(二代目)→Enrico Scavino(三代目)なお、実娘のEnrica&Elisaも家業を継ぐ為に就労済。

 

Barolo

生産初年度:不明(1921年の会社設立前後から生産されていたと思われる)、

年間生産本数:約4000本(1995)

使用ブドウ品種:Ne100%、自社畑からのブドウのみ、

畑名:前回書いた畑の複数混醸。

1984は天候不順の為、単一クリュBaroloを生産せず、全ての収穫ブドウをノーマルBaroloに使用した、

収穫方法:手摘み、

ファーマ容器:INOX・ロータリーファーメンター(RF)、

ファーマ温度;32~34℃、冷媒使用コイル式熱交換システム、

ファーマ&マセ日数:12~15日間、一日に10~15回RF使用、

マロ:実施しない、

熟成容器:スロヴェニアンオーク1700~7000l(樽齢:7~18年)、

フレンチオーク350~500l(樽齢:2~7年)、

熟成期間:24ヵ月間樽熟、6ヵ月間INOX、

 

※醸造&熟成に関して様々な方法を研究中で、生産年によって刻々と変化している(1995年の情報)

※※現行Baroloは7つのクリュの収穫ブドウから生産されるが、どのクリュが主となるか不明。クリュ毎にファーマ&マセ。容器はINOX、温度調整、天然酵母、マセ60日間、マロはオーク樽内にて。酒石酸の安定化は、低温状態で冬季に自然発生。クリュ毎に熟成。フレンチオークで10ヵ月熟成、更に3000~5000l樽で12ヵ月熟成。その後にクリュを混ぜ合わせINOXで12ヵ月、瓶詰後10カ月の瓶熟。新樽率5~10%、

 

Scavinoは本当に研究熱心です。昔も今もクリュの分析と製法の工夫に余念がありません。クリュの研究の結果、Piemonteでも屈指の多種クリュの所有者となり、二大看板Barolo”Rocche di Castiglione” “Bric del Fiasc”の他にも単一クリュBaroloを産し、予てから複雑な味構成で人気を博したBaroloノーマルは元より、Barolo“Carobric”(Ca=Cannubi, Ro=Rocche di Castiglione, Bric=Bric del Fiasc)でも成功します。

 

次回はScavinoが導入したと言われているロータリーファーメンター(RF)とバリックを少し解説します。
Barolo CAROBRIC, Bric del Fiasc   バローロ カロブリック ブリック デル フィアスク

Gambero Rosso Vini d'Italia1989  ガンベロロッソ ヴィーニィディイタリア1989 解説


Paolo Scavino パオロ・スカヴィーノ ポートフォリオ

Barolo 現行バローロ テクニカルシート 

Paolo Scavino  パオロ・スカヴィーノ カンティーナ場所

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.99

Paolo Scavino-Barolo 1984 その1

 

初登場。非常に研究熱心なScavinoは、数多くのクリュ解説が必須です。

長くなりますが、今回はクリュ解説から書いてみましょう。

 

MONVIGLIERO(Verduno)

購入年:不明、生産年:2000~、クリュ生産・販売年:2007~、※2000~2006はBaroloのベースワインとして使用、2007から単一クリュとしてリリース、海抜:310m、面積:0,8340h、方角:南~東だれ、植樹(改植)年:1968, 2005、密植度:3700本/h、土壌:主に石灰岩、チョーク土壌と混ざっている、栽培品種:Neb

 

BRICCO AMBROGIO(Roddi)

購入年:2001、クリュ生産・販売年:2002~、海抜:275m、面積:5,2288h、方角:南~南東だれ、植樹(改植)年:1947, 1949, 1950, 1969, 1971, 1972, 1977, 1980, 1999, 2001, 2002, 2003, 2004, 2008、密植度:4500本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、石灰岩、栽培品種:Neb, Bar, Dol, Me

 

ANNUNZIATA(La Morra)

購入年:不明、海抜:350m、面積:0,8321h、方角:北~西だれ、植樹(改植)年:1997、密植度:4700本、土壌:ディアノ・ダルバ砂岩、黄灰色の砂岩と砂粘土の混じった地層、栽培品種:Neb

 

ROCCHE DELL’ANNUNZIATA (La Morra)

購入年:1990、購入当時からBarolo Riservaとして生産する、海抜:385m、面積:1,5997h、方角:南~南東だれ、植樹(改植)年: 2000, 2010, 2013、密植度:4600本/h、土壌:石灰岩中心の下層、上に非常に硬い砂岩と白っぽい淡黄色の砂が混じる石灰質、栽培品種:Neb

 

BRICCO MANESCOTTO (La Morra)

購入年:不明、畑上部をNeb、中間をBarbera、下部をCh、SBで占める、海抜:265m、面積:1,7677h、方角:東~南東だれ、植樹(改植)年:1960, 1968, 1992, 1997、密植度:4500本/h、土壌:黄灰色の砂岩と石灰岩の交互の地層、栽培品種:Neb, Bar, Ch, SB

 

CERRETTA (Serralunga d’Alba)

購入年:不明(2010前後)、海抜:395m、面積:0,2300h、方角:南~南東だれ、植樹年:2010、密植度:5000本/h、土壌:ディアノ・ダルバ砂岩、黄灰色の砂岩と砂粘土の交互の地層、栽培品種:Neb

 

PRAPÒ (Serralunga d’Alba)

購入年:不明(2010前後)、休耕後にマサルセレクションを実施。海抜:370m、面積:0,7850h、方角:南~南東だれ、植樹年:2010、密植度:5000本/h、土壌:レキオ地層&黄赤色の砂質とシルト&灰色マール地層、栽培品種:Neb

 

SAN BERNARDO (Serralunga d’Alba)

購入年:不明、海抜:385m、面積:0,9053h、方角:南~東だれ、植樹(改植)年:1946, 1964, 1968, 2009, 2010

密植度:5000本/h、土壌:レキオ地層&黄赤色の砂質とシルト&灰色マール地層、栽培品種:Neb

 

PERNANNO (Castiglione Falletto)

購入年:不明、海抜:300m、面積:1,5266h、方角:東~南東だれ、植樹(改植)年:1976, 2001、密植度:4800本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、石灰岩、栽培品種:Neb

 

SOLANOTTO (Castiglione Falletto)

購入年:不明、海抜:250m、面積:0,1500h、方角:西だれ、植樹年:1972、密植度:5300本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、石灰岩、栽培品種:Me

 

VIGNOLO (Castiglione Falletto)

栽培開始年:1927、海抜:250m、面積:0, 6580h、方角:南~西だれ、改植年:1960, 1968、密植度:4800本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、石灰岩、栽培品種:Neb, Dol

 

ALTENASSO (Castiglione Falletto)

栽培開始年:1921、海抜:240m、面積:0,2286h、方角:西だれ、植樹(改植)年:1964, 1965、密植度:4300本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、石灰岩、栽培品種:Neb, Dol

 

BRIC DËL FIASC (Castiglione Falletto)、CAROBRICに使用される一つ

購入年:不明、クリュ生産・販売年:1978~、海抜:260m、面積:2,1742h、方角:南~西だれ、植樹(改植)年:1979, 1984, 2009, 2012, 2013、密植度:4900本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、石灰岩、バローロ中央部において最も複雑な土壌・トルトニアンとヘルヴェティアン土壌が混じる、白灰色石灰岩&黄灰色砂岩、栽培品種:Neb、

 

ROCCHE MORIONDINO (Castiglione Falletto)

購入(改植)年:2000、海抜:350m、面積:2,1005h、方角:西だれ、植樹(改植)年:2000、密植度:4500本/h、土壌:ディアノ・ダルバ砂岩、黄灰色の砂岩と砂粘土の混じった地層、栽培品種:Neb

 

ROCCHE DI CASTIGLIONE (Castiglione Falletto)、CAROBRICに使用される一つ

購入年:不明、海抜:350m、面積:0,2419h、方角:南~東だれ、植樹(改植)年:1970, 1999、密植度:4300本/h、土壌:ディアノ・ダルバ砂岩、黄灰色の砂岩と砂粘土の混じった地層、栽培品種:Neb

 

ALBARELLA (Barolo)

購入年:不明(1999以前)、海抜:280m、面積:0,5065h、方角:西だれ、植樹(改植)年:1999、密植度:4600本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、石灰岩、栽培品種:Neb

 

CANNUBI (Barolo)、CAROBRICに使用される一つ

購入年:不明、クリュ生産・販売年:1985~、海抜:290m、面積:0,5508h、方角:南~南東だれ、植樹(改植)年:1946、密植度:4900本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、石灰岩、栽培品種:Neb(ミケ)

 

VIGNANE (Barolo)

購入年:不明(1994以前)、海抜:290m、面積:1,3003h、方角:西だれ、植樹(改植)年:1994, 1998、密植度:4900本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、石灰岩、栽培品種:Neb

 

TERLO (Barolo)

購入年:不明、海抜:400m、面積:0,8606h、方角:東だれ、植樹(改植)年:1947, 1960, 1971、密植度:4100本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、石灰岩、栽培品種:Neb

 

RAVERA (Novello)

購入年:2015、海抜:430m、面積:2,6923h、方角:東だれ、植樹(改植)年:1999, 2000, 2002, 2004, 2005, 2010, 2012、密植度:4000本/h、土壌:サンタガタ・フォッシリ・マール、栽培品種:Neb

まずはこの辺で。以下次号へ。

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.98

Distillati&Liquori di Gualtiero Marchesi

特別編;知られざる逸品 Barone Ricasoli-Torricella 1982 その2

 

Castello di Brolioから南下、San Feliceの西にTorricellaという集落とその名を付けた畑があります。元来はここにTrebbianoとMalvasiaが植えてありました。現在となっては過去の畑情報も写真も何も無いので、自分の昔の記憶を辿って見つけた次第。運よく現Barone Ricasoliの畑看板も見つかったので、この場所で間違いありません。

なお畑情報取得にはGoogleの他、OpenStreetMapも使います。一度お試し下さい。

 

一時期のRicasoliは、Ricasoli家から企業へとワイン事業が譲渡され、利益優先で大量のワインの生産を余儀なくされます。

その時代に荒廃していたBarone Ricasoliを、現当主であるFrancescoが買い戻し、昔の名声を取り戻そうと努力を始めた時、彼は全ての畑を植え替え、Chiantiを造り変えます。白のTorricellaも復活させますが、オリジナルのTorricella復興は断念し、ブルゴーニュ瓶のCh100%バリック、後にCh75%&SB25%と全くの別スタイルに仕立てた白ワインの生産を行っています。畑の場所はTorricella集落に存在するので、ワイン名にも同名を付けていますが、添付した畑写真の場所は昔と今では植えられているブドウ樹が別種類という事です。残念ながら今後オリジナルTorricellaの復活は無いでしょうね。当主のFrancesco曰く、旧Torricellaは1981が最後の生産年だと思うとの事ですが、私が最高の一本と推すのが1982、更にその後の1983も生産された事が確認されています。恐らくは1983が生産最終年となるでしょう。前回には1981と1982のエティケッタを掲載しました。

 

辛口のVin Santoといった味わいですか。イタリアには極端な辛口白が所々で生産されており、以前ご紹介したMarsalaやVernaccia di Oristano等と同カテゴリーとなりますが、こちらはフロールも使用せず、酒精強化でもありません。但しバックラベルに書かれている様に長い瓶熟が可能で、私がイタリアで働いていた90年代でも市場に出回っているのは70~80年初頭のヴィンテージでした。長期熟成が織りなす液体は、分厚く、とろりとした粘性があるにも関わらず辛口という不思議な感覚。当然ランシオ香なども混じり、紹興酒やヴァンジョーヌと同じ世界感での味わいですが、アルコール度数が低く、アタックがきつくないので、料理・特に複雑な味構成の一皿を併せるにはもってこいの白でした。ニュアンスがあり、薫り・味の構成要素の中には、様々な料理との共通項があり、Torricellaと料理との相乗効果は毎回興味深い世界感を作り上げ、我々も驚嘆していたものです。よって伊・仏・中・和とジャンルを問わず人気の一本でした。日本では、やはりヴィーニ・ディ・アライの荒井さんが旧マニン時代に本でご紹介しています。

 

歴史的に忘れられた一本と思っていましたが、2017年6月7日、現Barone Ricasoliの主催でオールドTorricella1927から現行Torricella2015までの垂直試飲会が行われ、2017年9月号の「vitae(イタリアソムリエ協会の機関誌)」に寄稿文が掲載されました。残念ながらその時の資料が入手できず、現ソムリエの感想などを垣間見る事が出来ませんが、生産されなくなってから既に35年を経過してもなお、こうして脚光を浴びる事が出来たこの一本。遠い日本のファンから、忘れていないよ、とエールを送りたいと思います。

 

この項 了。

Torricella 1945 Barone Ricasoli トリチェッラ バローネ・リカソーリ

Torricella 1949 Barone Ricasoli トリチェッラ バローネ・リカソーリ

Torricella  Barone Ricasoli トリチェッラ バローネ・リカソーリ テイスティング資料

Vigneto Torricella Barone Ricasoli トリチェッラ バローネ・リカソーリ 畑場所

Barone Ricasoli Castello di Brolio バローネ・リカソーリ カステッロ・ディ・ブローリオ 場所

 

 

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.97

Distillati&Liquori di Gualtiero Marchesi

特別編;知られざる逸品 Barone Ricasoli-Torricella 1982 その1

 

今は幻となったイタリアワインの逸品をご紹介します。伝説・幻のToscanaの白、Torricella。

同名の白ワインを現在のBarone Ricasoliが生産していますが、これは全くの別物です。

 

Torricella

生産初年度:1800年代(文書無し)、

使用ブドウ:Malvasia、Trebbiano Toscano、

畑名:Vigna Torricella (località Torricella, Nebbiano, San Felice, Gaiole in Chianti, Siena,Toscana)、

畑展開方角:南西~南~南東だれ、

畑海抜:320~360m、

収穫方法:手摘み、完熟まで収穫しない、収穫後は日陰にて弱めのアパッシメント、

圧搾:非常に弱め、

ファーマ容器:INOX、温度調整、

ファーマ温度:18~19℃、スローファーマテーション、残糖させず完全発酵させる、

熟成容器:オーク大樽2500l、

熟成期間:30か月、その後6か月瓶熟、

アルコール度数:13.15%、

総酸度:5.2%、

エクストラクト:26.8g/l、

瓶熟可能期間:10年以上、

生産本数:6000本(1982)

 

懐かしいボルドー瓶の黄エティケッタ。現存資料はほとんど無く、32代目の現当主Francesco Ricasoliでさえもあまり知らないという古のカルト白ワインです。ChiantiのオリジンともいえるCastello di Brolioですが、一度は没落し他企業に買われ、量産品を生産・販売するカンティーナとなっていました。そのポートフォリオの中で唯一輝いていたワインは、実は赤でなくこの白だったのです。この白、実は当初は全く勘違いして認識していました。つまり、Castello di BrolioがChiantiに使用しなかった白の余剰ブドウを使い、Chianti熟成用の樽で造った1960年代頃からのワインと思い込んでいましたが、さにあらず。実は1800年代から造られていた白ワインとの事。但し、歴史的な背景はこれ以上分からず。醸造法なども上記情報しか把握していません。

 

次回でこの幻の白をまとめます。

Torricella   Barone Ricasoli トリチェッラ バローネ・リカソーリ

Torricella   Barone Ricasoli トリチェッラ バローネ・リカソーリ 1950 

Torricella   Barone Ricasoli トリチェッラ バローネ・リカソーリ 1955


Torricella   Barone Ricasoli トリチェッラ バローネ・リカソーリ 1981

Torricella   Barone Ricasoli トリチェッラ バローネ・リカソーリ 1982

Torricella   Barone Ricasoli トリチェッラ バローネ・リカソーリ 1983

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol. 96

Vinnaioli Jermann-Vintage Tunina 1987 その3

 

Vintage Tuninaをまとめましょう。

つくづくワインのキャラクターは生産者に似ると感じていますが、Jermannは特にその通りだと思います。その中でも特にVintage Tuninaの性格はSilvio Jermannの趣向全てが反映されていると。前回も書きましたが、ヴィンテージ毎の味わいのバラつきは当然の事、収穫年毎の味わいの差は天候以外の要因の方が大きいのでは。まずSilvio自らによる各ワインのスタイル決定が大きく影響しています。この作業は彼自ら『ブラックボックス』と称していると語っています。このスタイル決定は全く彼の独断によります。

更に、フィールドブレンドでの混醸率は非公表です。初回に書いた各品種の%は耕地面積に因るものであり、実際の比率は分かりません。

出来たワインはSBの青っぽさ、Chの中庸、RGとMIの華やかさ、更にパイナップル等の熟れた果実や蜂蜜が入り乱れ、リリース当初から単純に親しみやすく、2~3年はSBとChの味覚が強いのですが、5年目位からSBの青さが落ち着き、Chのキャラが消え、RGとPicolitのキャラが前に出て、樽熟をしているかの様なふくよかさが支配します。リリース直後と熟成後の劇的な味変の理由がこれですね。年毎によるスタイルの違いと経年変化による味変が、私を混乱に陥れます。

 

他にも多々の要素が変更されます。まず『スクリューキャップ』の導入は2000年から。コルクが好まれる日本市場では一部コルク瓶も輸入されていますが、本国ではほぼ全ての白でスクリューキャップです。スクリュー部分の成分に起因するのか、密閉度が増す為に起因する還元香なのか、開けたては強い金属っぽい味がしますね。更に樽。80年代はJermann自身、Vintage Tuninaの樽熟成を否定或いは非導入と明言し続けていましたが、2002年からは部分的に大樽熟成を導入し、更にスタイルが変わりました。

 

但し不思議とそれらの要素が嫌味にならない。むしろそれこそがJermannの強烈な個性として容認されます。FVGの生産者は個性的な強者揃いです。その中でGravner,Radikon,Miani,Kanteの様に極端なタイプと、Puiatti(現Villa Parens),Schiopetto,Felluga, Vie di Romansの様に十分品質に拘りながらも飲み手を選ばないタイプにはっきりと分かれますが、SivioはMario Schiopetto(2018年12月28日ご紹介済み)の弟子の一人であり、彼のワインスタイルを模範としています。Silvio自身は天才肌ですが、ワインのスタイルは過度にならない中庸さを持ち、彼の様々な拘りを我らが心地良いと受け止められる要因となっているのでしょう。

 

1970年代、かのLuigi Veronelli ルイジ・ヴェロネッリはJermannとVintage Tuninaの事を『イタリアワイン界のPietro Mennea ピエトロ・メンネアだ』と称えました。1970~80年代に大活躍した伊短距離界の英雄で、非アフリカ系陸上選手として突如現れたこの希代のスピードスターと、フリウリに突如現れたワイン界の異端児とを重ねあわせたのです。発展途上であり、伸びしろは天井知らず、革新的な存在で、未だ変化の途中だが、既に英雄だとの事。まったくもってその通り。

 

70年代に出来上がったこの白が未だにイタリア白ワインの手本とされ、フィールドブレンドの成功例として世界的に知られ、にも関わらず、未だに性格が良く解らないとは、なんと痛快な事か。だからこそイタリアワインの世界が好きなんです。

 

未確認ではありますが、Vintage Tunina生産開始40周年にあたる2015年ヴィンテージで、Vintage Tunina の瓶内二次発酵ワイン=スパークリングワインをセメントタンク使用で4000本造ったとの情報が入りました。

 

ますます、良く解らない。

この項 了。

Vintage Tunina  Silvio Jermann    ヴィンテージ・トゥニーナ  シルヴィオ・イエルマン

Pietro Mennea   ピエトロ・メンネア

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol. 95

Vinnaioli Jermann-Vintage Tunina 1987 その2

 

前回の続き、①から④を解説します。

 

Tuninaとは旧所有者女性の名前であり、イタリアきってのプレイボーイと言われたCasanovaの恋人の中の一人の名前Antoniaの綽名{Antonia→Tonia→Tonina(可愛いToniaの意味)→Tunina。恋人の中では一番貧しかったとされている}であり、彼女に捧げられている(Web上で、TuninaとはCasanovaの最愛の妻の名前との記述を多く見るが、伝説のプレイボーイCasanovaが結婚していた事実は無いので、妻というのは間違い)。

 

公式文書では使用ブドウ品種中のPicolitに関しては『その地方特有の甘口ワイン品種』とされており、Picolitと特定されていない。各使用率はフィールドブレンド%から割り出された数値であり、詳細は不明である。『ワイン構成にはSilvio Jermannによる秘密のテイスティング結果が反映され、彼独特の“ブラックボックス”が存在する』と発表されている(特にDreamsの97%シャルドネ、残り3%はSilvioのみ知るとされている)。

 

元来はVillanova di Farra地区に本拠地と主要畑を構えていたが、2007年7月7日に新しい本拠地をRuttarsに建て、醸造などの主な業務は新本拠地へ移行する。Ruttars内にそれぞれの上級ワイン専用の醸造施設を設け、別々のラインで醸造される(醸造設備は共用しない)。

 

2002年からスロヴェニアンオークの大樽8000lも併用する。1/4樽熟、3/4INOX熟成。

 

長い付き合いになりますが、理解できたと思った事がありません。なにせ、毎年の印象が異なるのです。

それはSilvio Jermann自らによる各ワインのスタイル決定によって決められるからです。実はその作業、ブラックボックスと称されています。

 

次回にまとめます。

 

Vintage Tunina ヴィンテージトゥニーナ

Jermann Cantina イエルマン カンティーナ内

Jermann Gambero Rosso Vini d'Italia1989  ガンベロロッソ ヴィーニィディイタリア1989 解説文

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol. 94

Vinnaioli Jermann-Vintage Tunina 1987 その1

 

Vini d’Italia1988ではVintage Tunina1986をさらっとご紹介しました。今回は1987を詳しく書いてみましょう。

 

Vinnaioli Jermann

設立年:1881、

設立者:Anton Jermann、

現オーナー:Silvio Jermann、

年間生産量:約280,000本、

畑面積:200h(内160hワイン畑)、

使用ブドウ:自社栽培のみ

 

Vintage Tunina ① 

生産初年度:1975(1973にPino Biancoとして販売されたが、後の調査によりChardonnayだったと判明、現行スタイルでの販売開始は1975)、

生産本数:約28,000本、

使用ブドウ品種:Chardonnay25%, Sauvignon Blanc25%, Ribolla Gialla23%, Malvasia Istriana22%, Picolit5%、フィールドブレンド ②

畑名:Villanova di Farra地区 ③、Vigneto Monte Fortino(Ronco del Fortino)、

畑土壌:イソンツォ川の影響を受けた沖積鉱床、ポンカ部分も含む、

畑面積:16h、

畑海抜:100~120m、

畑展開方角:北~東だれ、南~西だれ、

栽培方法:Guyot cappuccina、

密植度:6000~7000株/h、

resa:40~60qli、1.4㎏/1株、30hl/h、

樹齢:25~40年、

収穫方法:手摘み、

ファーマ容器:INOX、

ファーマ温度:16~18℃、

ファーマ日数:70~80日間、

マロ:実施しない、

熟成容器:INOX ④、

熟成期間:11ヵ月、後出荷前に瓶熟6か月、

清澄:実施、無菌ろ過、

 

次回は注釈をつけた①②③④を解説しましょう。

Vintage Tunina  Jermann  ヴィンテージ・トゥニーナ イエルマン 

Jermann  Vintage Tunina 1987  イエルマン ヴィンテージ・トゥニーナ 1987

ヴィンテージ・トゥニーナ 生産場所 Villanova di Farraカンティーナ

Villanova di Farra 畑

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.93

Aldo Conterno-Barolo Riserva Granbussia 1982 その3

 

大人気のGranbussia。二回に渡ってお書きしました。

そんな人気だからでしょうか、Aldo Conternoはフェイクワインが非常に多い。特にオールドヴィンテージの身元が疑わしいワインが絶えません。

2019年10月31日から11月3日の4回に渡って書いたAldo Conterno、12月18日から20日の3回に渡って紹介したGiacomo Conternoで書いた通り、1969年にAldo Conternoが旧カンティーナFavotを購入し、会社が設立された事は間違いありません。よって、Aldo Conterno自らが醸したワインは早くとも1969年ヴィンテージからとなります。

但し、彼がFavotを購入した時に旧所有者が仕込んだワインがカンティーナに残っており、そのワインをAldo Conternoが瓶詰して販売、設立時の運営資金に充てたかもという可能性はあり、事実その様な事をしたというインタビュー記事が残っています。但しその場合は当然、中身はAldoが仕込んだ物では無く、Favot時代のワインをAldo Conternoのラベルを付けて販売した物であり、厳密な意味でのAldo Conternoの手から成るワインではありませんね。

よって1930年代のAldo Conternoとは、いったいどういう事でしょうか。Aldo Conternoは1931年生まれです。Granbussiaの概念は3クリュからのセレクション。なので3クリュのセレクションが出来ないFavot時代にはGranbussiaの造り様が無く、1971以前のGranbussiaは存在しないはずです。

 

次に液色。バローロというとその味わいやイメージから濃い色合いを連想しがちですが、実際には長い醸しの割には液色が薄いのです。ネッビオーロとピエモンテの特性上、RFを行ったとしても色素は果てしなくどす黒く抽出される訳では無く、ある程度まで行くとそれ以上の色合いにはなりません。更に一旦抽出されたアントシアニンや色素成分が、バローロやGranbussiaの規定による長期の樽熟や瓶熟により退色するからです。

よって、光線を通さないどす黒いバローロとは何でしょうか?Granbussiaのみならずオールド物には、そういう疑わしいワインが市場に溢れています。

 

様々な意味でAldo Conternoが仕込んだワインを味わいたいのであれば、危ない物に手を出さず、どうぞ1971年以降をお楽しみ下さい。

 

Granbussia。

とにかく圧倒的だなあ。北の湖?鶴田?ヒョードル?いや、ローラン・ボック?ゴッチ?ルー・テーズ?

私より先輩の方なら『ゴーディエンコ』とおっしゃるかな?

 

すいませんね、格闘技好きなもので。でも、こんな事解る人、いるのかしらん。

 

この項 了。

Barolo Riserva Granbussia 1985  1989  1990 
バローロ・
リゼルヴァ グランブッシア 1985 1989 1990

疑わしきAldo Conterno 1931 1961

Barolo Riserva Granbussia 1971 グランブッシア 1971 本物

Barolo Riserva Vigna Romirasco ヴィーニャ・ロミラスコは昨今まで商品化されませんでしたが、

カヴァリエ―リ・ダルバ寄進用にはこのラベルで生産されていました

この様に剥がれやすいラベル。ヴィンテージは別ラベルです

バローロ・ブッシア・ソプラーナ 1974

コロンネッロ 1978 この時代はバローロ・ブリッコ・ブッシア ヴィーニャ・コロンネッロというラベルです