Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.102
Paolo Scavino-Barolo 1984 その4
Scavinoの締めくくりです。
現在リリース中のグランクリュのマルチミックス“CAROBRIC”(先回書いた通りCAROBRICはCa=Cannubi, Ro=Rocche di Castiglione, Bric=Bric del Fiasc)が注目を浴びていますが、今回TreBicchieriを受賞した1984は、いわゆる『グランクリュの混醸マルチミックス』だったのです。ご存知の通り1984は天候不順年、Scavinoもその不運からは逃れられませんでしたが、当時のノーマルBarolo用のブドウ(多種多数、複数クリュ)に単一クリュ用のブドウ(Rocche dell’Annunziata&Bric del Fiasc、ひょっとすると購入したばかりのCannubiも)をぶち込んで造った84は確かにノーマルBaroloとは思えぬほど恐ろしく美味しかったのです。マルチクリュで味が複雑の極み。Vini d’Italia1989の評価では同時期にリリースされたBric del Fiasc1983がDueBicchieriでBaroloノーマル1984がTreBicchieriであり、いわゆる逆転現象もさも在りなんと思わせる出来でした。84Scavinoの旨さにはこんな理由もあったのです。更にハーフボトルの生産。このVini d’Italia 1989にも書いてありますが、当時のScavinoはハーフボトルの販売にも力を入れていました。昔も今もハーフボトルの種類が少ない伊ワイン。当時は非常に助かりました。
昔のスタイルに比べ、現在はすっかり様変わりしました。スタイルはモダンからクラシックへの大変換。今の私は、当然イタリア時代からは確実に歳を取っている訳で、現行Scavinoスタイル(RF中止、新樽率ひとケタ、新しいクリュを開墾・買収・改植し、クリュ種類を増やす、BIOも導入する、味は更に複雑、ニュアンス勝負、余白が増える、手がかりや引っ掛かりが現れる)が良い塩梅になっていると書いておきます。
当時のScavinoの想い出を一つ。例の如くテンションの高いマルケージ土曜夜営業の真っただ中、Bric del Fiasc89の注文を取った私は、それを取りに地下セラーへ急ぎました。セラーに通じる下り階段を軽く飛び降りたつもりが上にジャンプし過ぎ、低くなった天井部分で頭を痛打。空中でバランスを崩したままコンクリートの階段に仰向けに倒れ、階段の縁で後頭部をしたたか強打し、少しの間気絶します。その瞬間、客席とキッチンには『ガイン』という鈍い音と振動が響いたそうで。気付くと後頭部からの流血でびちゃびちゃ、シャツも何もかも朱に染まった状態。周りにはスタッフだかりが出来ており、方々から大丈夫かとの声がするのですが、次第にその声が『おい、1番テーブルの赤は何だ?』『2番テーブルの次のペアリングワインは何だ?』等々の詰問(若干怒号)に変わる。終いには『ご常連のカプラさんが是非お前と相談してワインを決めたいと言っているが、客席に出られるか?』などの極悪非道な声が多い事多い事。こちらはブッチャーかキラー・トーア・カマタか大仁田かという程の流血具合。Bric del Fiasc89(当時で80,000~100,000リラ、安くて美味い)のオーダーと諸々を伝え残し、緊急病院Pronto soccorsoへ。7針位縫われ、頭用ネット包帯を被った後にマルケージへ戻りますが、脳震盪と痛みで立っていないので、プロンジュ前の椅子に腰かけワイン関連の指示を続けるはめに。マルケージからは『大変だったな、明日も頼むな』との有難い声もいただきました。ええ、明日は日曜でコンプレですから、当然働きますとも。
今でもScavinoを見ると、はっと身構え、Bric del Fiascの金色を見ると後頭部をさすります。
この項 了。
Paolo Scavino Bric del Fiasc バローロ ブリック デル フィアスク パオロ スカヴィーノ
Paolo Scavino Bric del Fiasc バローロ ブリック デル フィアスク パオロ スカヴィーノ 1989