「水爆弾頭化」誇示=ICBM開発で北朝鮮-電磁パルス攻撃に初言及
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北朝鮮国営の朝鮮中央通信は3日、金正恩朝鮮労働党委員長が新たに製造された大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭部に装着する水爆を視察したと報じた。同通信は開発した核弾頭について、電子機器をまひさせる電磁パルス(EMP)攻撃も可能な多機能弾頭と伝えた。北朝鮮がEMP爆弾を開発している可能性は指摘されていたが、当局が公式に認めたのは初めて。
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春先くらいから高々度核爆発によるEMP(電磁パルス)攻撃に関する記事が多くなっていましたが、このタイミングで北朝鮮の水爆実験のニュースは、もしかしたらレッドラインを超えたのではないか?と、嫌な感じがします。
図出典:「電磁パルス攻撃」の脅威 上空の核爆発で日本全土が機能不全に
高々度核爆発(High Altitude Nuclear Explosion, HANE) によるEMP(電磁パルス)攻撃(HEMP)は、高度40㎞から数百㎞の高層大気圏における核爆発による、強力な電磁パルス(EMP)を攻撃手段として利用し、広範囲での電力インフラや通信、情報機器などの機能停止を狙うものです。
漫画や小説の題材にもなっており、フィクションの世界ではその威力が誇張されていますが、実際にどのように見られるものかは NIDS防衛研究所 の防衛研究所紀要 第18巻 第2号(2016年2月)の ブラックアウト事態に至る電磁パルス(EMP)脅威の諸相とその展望 に書かれています。
防衛研究所
ブラックアウト事態に至る電磁パルス(EMP)脅威の諸相とその展望
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■高々度核爆発による電磁パルス(以下HEMPと略す)歴史的経緯
スターフィッシュ・プライム核実験:Operation Starfish Prim
スターフィッシュ・プライム核実験(英文Wikipedia) は ドミニク作戦(Operation Dominic) の名称で実施された36の一連の核実験群の一つですが、1960年代初頭、EMPはミサイル防衛の手段としても注目されていました。
このスターフィッシュ・プライム核実験 の背景としてHANEに伴うヴァン・アレン帯での自由電子の大量放出により、敵国から飛来する核弾頭を直接、 上空で破壊することが可能か否か技術的に検討されていました。
スターフィッシュ・プライム核実験(Operation Starfish Prim)はソーミサイルにMark-49核弾頭を搭載し1.45メガトンという、米国が実施した大気圏内核実験としては非常に大きな規模の爆発威力を、ハワイから1,400km離れた太平洋上、ジョンストン島の上空約400kmで発生させました。
このときの核爆発で生じたHEMPによって、そこから1,400km離れたハワイ諸島の電子システムに影響が及び、これらの島々では街灯が消え、建物のサーキットブレーカーが切れ、家々の侵入警報装置は誤作動して警報を鳴り響かせたほか、電話交換施設にも被害が出ました 。
スターフィッシュ・プライム核実験に象徴される1962年の一連の米国による大気圏内核実験では、高度約1,040kmにおいて水爆が使用されたケースもあり、このとき、約3,360km(2,100mile)北西の都市エリアでブラックアウト事態が生じ、これが結果的にHEMPの脅威を封じ込めるべく、米ソ間での1963年のPTBT締結(大気圏内外水中核実験停止条約/部分的核実験停止条約/PTBT)を後押ししたとする見方もあります。
■HEMP発生の原理について
HEMPの発生原理は、先行研究においても概ね以下のメカニズムで説明される。はじめに、 HANEで生じたγ線及び中性子が「コンプトン効果」として知られる空気中の水分子及び原子と相互作用することにより、核爆発地点周辺にイオン化したエリアが作り出される。
このとき、負電荷を帯びた電子は重い正電荷を持つイオンから素早く分離し、結果的に10のマイナス8乗秒ほどの間に電界を発生させる。
この電界強度はごく短時間のうちに低下するが、そのパルスの持続時間が短い一方で、大電力のエネルギーが発生する。これは核弾頭の爆発規模にも依るが、エネルギーはあらゆる電磁波と同様に、光の速度で爆発点から放射され、離れた距離にある金属やその他の電気導体に集まることになる。
放射されたエネルギーは極めて強い電流と高電圧となり、金属や電気導体と繋がっている電子機器に深刻な被害を与える。 なお、米 国EMP委員会(EMP Commission)が2004年に発表した報告書によれば安全保障上も最も重大な関心が寄せられているHEMP は、地上40kmから400kmの上空で、高高度における核弾頭の爆発の結果として発生し、このEMPは、それぞれE1 、 E2 、 E3 という 3 つの構成要素から成り立つ。
E1:10億分の1から数10億分の1秒の間と、ごくごく短い時間に測定される自由エネルギーパルス。
電磁衝撃として、電子基板を用いた制御システム、各種センサー、通信機器、防護機器、コンピュータなどの機器の機能を一時的に断絶させ、若しくはダメージを及ぼす。
地理的にも広範囲
E2:E1と同じ地理的範囲で稲妻のように作用するもので、E1と比べるとより地理的に広がるものの、その振幅は弱い。
通常、稲妻による被害を想定して作られた枢要なインフラシステムにおいてE2の及ぼす影響が問題になることはないが、EMPの第1構成要素であるE1とE2が相乗効果を発揮すると、防護システムや制御システムに損害を与え、破壊してしまうリスクが生じる。これは、E1が与えたダメージに続いて、E2がシステムに入り込み障害を与えるためである。
E3:ゆっくりと生起し、長期にわたって持続するパルスとして、長大な送電線に破壊的な電流を流し込み、接続された電力供給・分電システムにダメージを及ぼす。
これらE1、E2、E3からなる一連のシークエンスは、それぞれが個別に被害をもたらすのみならず、後に与えられる被害は、その前の段階で与えられた被害によって一層増大されるという点で重要な意味合いを持っている 。
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詳しくはブラックアウト事態に至る電磁パルス(EMP)脅威の諸相とその展望をお読みください。
HEMPの威力は核爆発の規模によりますが、1.45メガトンのMark-49核弾頭で1400㎞離れたハワイで上述のように深刻な影響が出たことを考えると、今回の水爆(推定70キロトン?120キロトン?と約1/20~1/10だが、距離と電磁パルスの強さの関係は 逆二乗 となると思います)はかなり深刻な高高度核爆発(High Altitude Nuclear Explosion, HANE) によるEMP(電磁パルス)攻撃となりうる可能性があり、アメリカのレッドラインを超えてしまったのではないかという気がします。