デズモンド・モリス「アニマルウォッチング」 河出書房新社 1991 | 日々是本日

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bookudakoji の本ブログ

 ここのところ若い頃に集めた資料の整理をしている関係で、前回の記事は動物行動関連ファイルの最初にあった藤原英司「動物の行動から何を学ぶか」を取り上げた。

 

 今回は、本文コピーが一番ボリュームを占めていたこの本にする。

 

アニマル・ウォッチング―動物の行動観察ガイドブック

 

 デズモンド・モリスさんはイギリスの動物学の大家で、日本では「裸のサル」の著者としてご存知の方も多いことだろう。

 

 単行本は動物図鑑のような写真多数の大型本で、出版元の河出書房新社のサイトでは定価6,194円(品切・重版未定)である。

 

 1991年という出版年からすればやむを得ないか……

 

 残念ながら廉価版も出版されていない。

 

 昔は高くて買えなかったが、今では Amazon でコンディションの良さそうな古書が2,000円前後で販売されていた。

 

 この機会に購入したが、案外美品が届いたので嬉しかった。

 

 さて、そろそろ中身の話に入ろう。

 

 この本は、自分がイギリスの田舎で暮らしていた子ども時代から動物を観察するのが好きだったという話から始まる。

 

 そして、「裸のサル」を書いて「マン・ウォッチング」を書いた後で、「マン・ウォッチング」の前編として「マン・ウォッチング」の動物版にあたる本があるかと思ってたのに調べてみたらなかったから、自分で書いたのだそうである。

 

 第一章は「シマウマにはなぜ縞があるか」というタイトルである。

 

 うまいなぁ。

 

 親子で動物園にいった時の定番ネタじゃないですか。

 

 みんな一度は思うけど、なぜだかわからないネタの中で最初にこれを持ってくるモリスさんのセンスが光っている。

 

 この話は9つの説が紹介され、まだ結論は出てないという結末で終わる。

 

 これについては、いずれ研究の現状を確認したいと思っている。

 

 前回の記事、藤原英司「動物の行動から何を学ぶか」(講談社現代新書1974)では、 動物行動や人間行動について切り取られた現実を解釈しようとする時には注意が必要であると指摘されていた訳であるが、1991年出版のこの本の記述は実に丁寧な配慮ある語り口であった。

 

 動物の生き方や暮らし方は、今の我々に通じるものを思い起こさせ、人間の多様性とその原理について雄弁に語っている。

 

 写真ともども、今、読み直しても良い本だった。 

 

 全体の章立ては以下の通りである。

【目次】
はじめに●動物を観察する楽しみ
1 シマウマにはなぜ稿があるか●動物に関する「なぜ」の意味
2 群れる●動物の社会的組織
3 逃げる●捕食者から逃れるテクニック
4 防御の鎧●何を身にまとうか
5 カムフラージュ●存在をいかにして隠すか
6 警告の信号●この恐ろしいおれにさわるな
7 化学兵器●毒を使って身を守る
8 はぐらかし●偽の目玉で敵をあざむく
9 驚かす●こけおどしの効用
10 死に真似●死んだふりして死を免れる
11 捨て身の防衛●小を捨てて大をとれ
12 おとり行動●子を守る親の危険な賭け
13 モッピング●動物の世界のギャングたち-
14 食物発見法●何をどう食べるか
15 おびき寄せ ●甘い餌で獲物を釣る
16 料理行動●動物たちの食物調理法-
17 食物の貯蔵●どのように隠し、貯えるか
18 助け合い●もちつもたれつ
19 水を飲む●水を手に入れる努力
20 共食い●なぜ仲間を食べるのか
21 道具を使う●道具を使うのは人間だけではない
22 葛藤行動●行動に表れる動物たちの悩み
23 行動の「典型的強度」●動物の行動のデジタル性
24 表情●表情の行動学
25 闘争●何を守るための争いか
26 降参●服従となだめの効果
27 求愛●口説くとはどういうことか
28 レックとアリーナ●集団求婚の冷たい掟
29 受精と配偶●体外受精から交尾まで
30 巣作り●家作りの技術。
31 子育て●育児法さまざま、
32 遊び●その重要な役割
33 身づくろい●お化粧でもエチケットでもなく
34 眠る●もっとも神秘的な動物行動

 

 さて、私の専門は心理学であるので、今回も心理学の観点でもう一歩踏み込んで記事を終わりたいと思う。

 

 飼育下のチンパンジーたちは、多少応援してやれば、非常に洗練されたやり方で道具を使えるようになる。彼らは鍵を差しこみ、錠を外してドアを開けることも、餌を得るためのスロットマシンにコインを投じることもできる。

(p140 より引用)

 

 動物園あるいは飼育下で観察された行動を、その動物に広くあてはまるものとして一般化するのは危険である。

 

 しかし、「餌を得るためのスロットマシンにコインを投じる」ことができるかどうかという潜在力があるかどうかを判断するためには、自然の中の観察ではわからない。

 

 そして我々は、動物と人間を区別する正当な理由をどこまで持ち続けられるだろうか。

 

 高度に調教された闘犬どうしの闘いなどは、大けがをしたり体力を消耗しきるまで2時間半もつづく。けれどもこのことは、動物の攻撃性の真の姿についてよりも、人間について多くのことを教えてくれている。ここにでてくるイヌは手のこんだ厳しい訓練過程を経て、相手に対する攻撃が最大限つづくように設定された状況にいる。もはや正常なイヌではなく、先祖と考えられている野蛮なオオカミよりもはるかに攻撃的になっているのである。特殊な状況下では、正常な攻撃性がどれほど拡大されうるかということを、このことから強く思わずにはいられない。人間という種にとっては有益な教訓である。

(p181 より引用)

 

※デズモンド・モリスの書誌情報のサイトとしては下記が充実していたので、こちらも参照されたい。(英語版のカバー写真もあり)